SPECIAL

佐藤順一の昔から今まで(26) 「親子のないしょ」と「のんちゃんのないしょ」

小黒 もう1作品だけ聞いて今日の取材を終わりにしたいんです。

佐藤 はい。

小黒 『おジャ魔女どれみナ・イ・ショ』(OVA・2004年)です。2本やられていて、両方とも絵コンテだけですよね。

佐藤 はい。

小黒 7話「タイヤキダイスキ! ~親子のないしょ~」は、多分、ニコニコしながら絵コンテを描いたのではないかと想像するんですけれども。

佐藤 そうですね。

小黒 深刻なところがないですし、ノリノリでやられたんじゃないかと思います。

佐藤 割と楽しくやらせてもらったエピソードだよね。

小黒 で、問題は12話「7人目の魔女見習い~のんちゃんのないしょ~」ですね。

佐藤 うん。

小黒 これを観た時に『魔法使いサリー』の「ポニーの花園」だな、と思ったわけですよ。

佐藤 (笑)。「ポニーの花園」よりも、もっとハードだものね。これは、関プロデューサーの子供の頃の実体験が元になっているんですよ。

小黒 関さんのお友達が亡くなったんですか。

佐藤 そうなんです。子供の頃にあったことがベースになっていて、さすがにTVシリーズではできなかったんだけど、OVAでこれをやりたいと思ったのは関さんだと思う。

小黒 なるほど。

佐藤 難しいネタだからね。

小黒 これは以前にちょっとうかがったんですけど、シナリオだと、のんちゃんのお母さんとどれみが雪合戦やるとこで終わっているんですよね。

佐藤 そう。そこで「のんちゃん、ありがとう」と言う感じで終わってる話だったよね。

小黒 その後に、もう1人の入院していた子供がMAHO堂を訪れる展開を絵コンテで足した。

佐藤 そこはコンテで足した部分だね。

小黒 最後に、のんちゃんの声が聞こえるかどうかは、絵コンテ段階では保留だったんですね。

佐藤 保留。亡くなった人の声が聞こえる描写を、視聴者がどう受け止めるかが分からなかった。リアルに考えたら、亡くなった人は一言も喋らないのが当たり前なんだけど、記憶に残ってる子の声が聞こえることはあるかもしれない。それで、関さんに任せますと。

小黒 そうか、佐藤さんはこの話の演出処理をしていないから、判断を委ねたんですね。

佐藤 そう。アフレコも行っていないんですよね。

小黒 そして、関さんが「残す」というジャッジをされたわけですね。プロデューサーなら、そう判断すると思います。

佐藤 そうね。「やっぱりセリフがあったほうが全然いいわよ」と。自分の感覚だと、声が聞こえないほうがしっくりきてはいたんだけどね。結構リアルなことをやっているのに、最後をそうするとドラマ的な「作り」を残すことになる。落とし方としては綺麗なんだけど、そんなドラマ的なパーツを残しちゃっていいんだろうかと。

小黒 死に至るまでのカットの積み重ねは相当気を遣ってやられているわけですね。

佐藤 そうですね。シナリオではもっと長くて、1回やってみたら映えないところが多くて、大分切ったんだけど。

小黒 使われなかったエピソードやシーンがあったわけですね。

佐藤 中山しおりちゃんのエピソードがもうちょっとあったんだと思うな。しおりちゃんが病院に入ったところとか、院内学級の描写もあったかもしれない。結構バサバサと切っていかないと入りきらないぐらいの物量のシナリオだったので。

小黒 脚本も力作であったと。

佐藤 「思い入れが凄い!」っていう感じで。

小黒 (笑)。

佐藤 多分、色々リサーチもしてシナリオを書いてるんだけど、リサーチしてるうちにどんどん入り込んでいっちゃって、逃げ場をなくしちゃうんだよね。逃げ場がないっていうのは変だけど、「これも書かなきゃ。あれも入れなきゃ」と、膨大なシナリオになっていったんだろうと思います。

小黒 とはいえ、絵コンテでぎゅうぎゅうに詰め込むのも違うわけですよね。ある程度、ゆったりしたテンポが必要な話ですから。

佐藤 そう、情感も必要だから間尺もちゃんとないと。この話の絵コンテは一度、(中村)隆太郎さんに振ってみたんだけど、色々難しかったので、「俺がやります」ということになったんだよね。

小黒 佐藤さんの『おジャ魔女どれみ』はこれで終わるはずだったんですね。

佐藤 そうですね。小説(「おジャ魔女どれみ16」シリーズ)をやってることも知らなかったからね。

小黒 TVシリーズとしてきちんと終わってる上に、OVAで『ナ・イ・ショ』を作って、さらにもう1回どれみちゃんの主役で作るのも難しいですよね。

佐藤 『魔女見習いをさがして』の時は、誰に対してどう作って、どう面白がってもらえるかが、なかなか掴めなかったんですよ。「何を観たいの、みんな?」と思っていて(笑)。

小黒 『ナ・イ・ショ』だと、佐藤さんは「監修」でクレジットが出ているようですが、これはどういうお仕事だったんですか。

佐藤 シナリオ打ち合わせには、全話じゃないけど結構出てるんだよね。おんぷちゃんの話(4話「ノンスタンダード~おんぷのないしょ~」)は、ホン読みに立ち会ってた気がするんだよな。ただ、監督ではなかったから、自分の話数以外に、がっつりと入り込んでいたわけではない。

小黒 誰にどの話を振るか、みたいなことには関わってない。

佐藤 それは関わってないよね。関プロデューサーがやるにあたって、「監督目線でチェックする人が必要だから、見てよ」という感じでした。だから、シナリオが送られてきて、何か意見を出したこともあったかもしれない。シナリオ打ち合わせ全部には立ち会っていない記憶があるから。


●佐藤順一の昔から今まで(27) 『カレイドスター』の すごい 思い出・1 に続く


●イントロダクション&目次