第278回 音楽は魔法 〜悪魔くん(2023)〜

 腹巻猫です。2023年11月からNetflixで配信されている新作アニメ『悪魔くん』のサウンドトラックCDが発売されました。サントラ出ないのかな? と思っていたので、これはうれしい! しかも、1989年放映のTVアニメ『悪魔くん』のサウンドトラックCDも同時発売! 1989年版のBGMが商品化されるのは初めてで、長年の夢がかないました。今回は2023年版『悪魔くん』の音楽を取り上げます。


 『悪魔くん』は水木しげるの同名マンガを原作にしたアニメ作品。“悪魔くん”とはこの世に千年王国をもたらすとされる1万人に1人の天才少年のことだ。原作にもさまざまなバージョンがあり、少しずつ設定は異なるが、特異な才能を持った少年“悪魔くん”が主人公である点は共通している。
 1989年に放映されたTVアニメ『悪魔くん』は、オカルトに詳しいゆえに“悪魔くん”と呼ばれる小学5年生・埋れ木真吾が主人公。真吾はファウスト博士から救世主“悪魔くん”と認められ、メフィスト2世と十二使徒とともに邪悪な悪魔と戦う。子ども向けにアレンジされているものの、多彩なキャラクターが活躍する魅力的な作品になっていた。
 2023年版のアニメ『悪魔くん』は1989年版のストレートな続編。物語の中でも30年近い年月が経っているようである。
 主人公は“悪魔くん”と呼ばれる埋れ木一郎。彼はある事情から幼い頃に前作の悪魔くん・埋れ木真吾に引き取られて育てられた。今は「千年王国研究所」に住んで悪魔や魔法の研究をしている。一郎の相棒として登場するのがメフィスト3世。1989年版に登場したメフィスト2世と真吾の妹・エツ子とのあいだに生まれた息子、つまり人間と悪魔の混血である。一郎とメフィスト3世は千年王国研究所に持ち込まれる奇怪な事件を調査し、背後にうごめく悪魔のたくらみを暴いていく。
 本編には埋れ木真吾やメフィスト2世、エツ子、こうもり猫といった旧作キャラクターも登場する。それを旧作と同じ声優が演じているのもうれしいところ。1989年版でシリーズディレクターを務めた佐藤順一が2023年版でも総監督を務めている。だから、旧作とのつながりが自然で、「キャラが変わった」と思わせるような違和感がないのもいい。
 しかし、作品の雰囲気はだいぶ変化している。
 2023年版はNetflixでの配信ということもあってか、大人向け、青年向けのテイストになっている。ホラー描写が多いし、絵柄もぐっとスタイリッシュになった。物語はダークファンタジー+探偵ものの味わいである。
 音楽は1989年版の青木望に代わって井筒昭雄が担当。井筒昭雄はTVドラマ「怪物くん」「猿飛三世」「妖怪シェアハウス」「トクサツガガガ」などの音楽を手がけた作曲家で、アニメ作品には当コラムで取り上げた『ファイ・ブレイン 神のパズル』がある。ユニークな作品にユニークな音楽を書く作家という印象だ。もっとアニメをやってほしいなと思っていたので、新作『悪魔くん』の音楽を担当すると聞いて期待に胸がふくらんだ。

 本作の音楽の特徴は、世界各地の民族楽器の音が取り入れられていること。ケーナ、オカリナ、ショーム、チャランゴ、バラフォン、カリンバ、カズーなどの民族楽器と、ギター、ピアノ、フルート、クラリネット、サックスなどの西洋楽器の音が混ざり合い、悪魔と人間が共存する不思議な世界観を表現する。メロディも一風変わっている。毎回のオープニングに流れるメインテーマからして、東洋風とも西洋風ともつかない、エキゾティック(異国的)な旋律である。
 サウンドトラック・アルバムのブックレットに掲載されたコメントで、井筒昭雄は「1989年版のスタッフの方も関わられるという事で責任感と冒険心を持って挑みました」と語っている。「責任感と冒険心」、いい言葉だ。井筒はさらにこう続ける。
 「日常に潜む悪魔たちの質感や人間の持つ欲や憎しみ、嫉妬、狂気…そんな心情を音に乗せて、西洋だけでなく世界中の悪魔たちも意識しつつ、全編を通して『悪魔くん』のサウンドだと感じられる音作りを心がけました」
 民族楽器の音やエキゾティックな旋律が「世界中の悪魔たち」を意識したサウンドなのだろう。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「悪魔くん オリジナル・サウンドトラック〜2023〜」のタイトルで、日本コロムビアから3月20日に発売された。収録曲は以下のとおり。

  1. 悪魔くん -Main Theme-
  2. 凶夢 Red Dreams
  3. 天邪鬼 No Thanks
  4. 魔法陣 Summoning
  5. 鎮魂歌 Sanctus
  6. 相棒 Dance
  7. 偶像 Tea time
  8. 異世界 Link
  9. 外套 Eloim, Essaim
  10. 発生 Gong
  11. 妖 Visitor
  12. 獰猛 Attack
  13. 偏愛 Aberration
  14. 囁き Doll
  15. 契約 Error
  16. 闊歩 Underground
  17. 陰陽 Desire
  18. 耽溺 Phantasmagoria
  19. 拉麺 With
  20. 巨石 Ancient
  21. 厄災 Origin
  22. 捻転 Library
  23. 逢魔時 Purple
  24. 団欒 Kitchen
  25. 烏合衆 Prattle
  26. 怪奇呱々 Bubble Up
  27. 咆哮 Devil
  28. 心 Pancakes
  29. 家賃 Old Theater
  30. 迷宮 Dark Cloud
  31. 猛追 Limit
  32. 商店街 Humming
  33. 羽根 Vicious
  34. AKUMA KUN -召喚 Mix-
  35. 共鳴 Solomon
  36. ふたり(歌:吉河順央)

 構成(選曲・曲タイトル)は井筒昭雄のチームが担当したそうだ。曲タイトルは日本語と英語が併記されているが、対訳になっているわけではない。それぞれに意味があり、表と裏の二重性を表しているようでもある。さまざまな解釈ができる面白い趣向だ。
 1曲目の「悪魔くん -Main Theme-」が本作のメインテーマ。オープニングとエンディングにも使用されている。ゆったり始まるイントロから摩訶不思議なサウンド。アップテンポのリズムになり、即興演奏のようにさまざまな楽器が咆哮する。メインテーマのメロディーを奏でる楽器は……サックスなど何本かの管楽器が一緒に吹いているようだが、よくわからない。そのわからない感じがいかにも『悪魔くん』だ。バッキングにも民族楽器の音が散りばめられている。妖しくダークで不思議だけれど、カッコいい。トラック34の「AKUMA KUN -召喚 Mix-」は同じ曲のミックス違いで、実際にエンディングに使用されているのはこちらのバージョンだ。
 2曲目の「凶夢 Red Dreams」はメインテーマのバリエーション。奇妙な事件の発端や、一郎が事件の謎解きをする場面などに使われた。フルートやオカリナなどの木管(笛)の響きと民族打楽器の共演が幻想的な雰囲気をかもし出す。
 次の「天邪鬼 No Thanks」は、おそらく一郎のテーマだろう。一郎は複雑な生い立ちのために人間らしい感情を知らない(理解できない)という設定。傍から見ると、世間知らずで協調性がない人間に見える。そんな一郎を奇妙でユーモラスなサウンドで描写する曲である。
 劇中によく流れていたのが、怪奇な事件のバックに流れるサスペンス曲。本アルバムにもたくさん収録されている。「妖 Visitor」(トラック11)、「契約 Error」(トラック15)、「陰陽 Desire」(トラック17)、「厄災 Origin」(トラック21)、「捻転 Library」(トラック22)、「逢魔時 Purple」(トラック23)、「怪奇呱々 Bubble Up」(トラック26)など。どれも妖しく不気味で、ちょっと恐かったり、コミカルだったりする。民族楽器がふんだんに使われ、呪文のようにも聞こえるボーカルが重ねられた曲もある。井筒昭雄の「冒険心」が発揮されたユニークなサウンドが楽しめる。2023年『悪魔くん』の雰囲気を決定づけているのが、こういう楽曲である。
 井筒昭雄は「ブラッディ・マンデイ」「ジウ 警視庁特殊犯捜査係」といったクライムサスペンスドラマの音楽をいくつか手がけている。その系統にホラー色を加えたのが、こうした怪奇サスペンス曲ではないかと思う。
 もうひとつの聴きどころは、一郎とメフィスト3世の活躍を描写する曲。ダークでノイジーでエキゾティックなロックである。これをロックと呼んでよいのかわからないが(ジャンル分け不可能なので)、気分的にはロックがぴったりくる。
 「魔法陣 Summoning」(トラック4)は軽快なリズムに謎めいたボーカルがからむ曲。第3話で一郎が悪魔を召喚する場面に流れた。トラック6「相棒 Dance」はメインテーマの旋律をフィーチャーした曲で、バンジョーとギターのリズムが心躍らせる。第9話や第11話の悪魔との対決シーンを盛り上げた。トラック18「耽溺 Phantasmagoria」はタイトルの印象とは異なるアップテンポのアクション曲。第11話でメフィスト2世と3世が真吾を助けに向かう場面などに使われている。トラック27「咆哮 Devil」は一郎とメフィスト3世が悪魔と対決する場面にたびたび流れた忘れられない曲。悪魔の脅威を描写する曲とも思えるが、高速でうねる弦楽器と切迫感を呼ぶリズムが激しい戦いをイメージさせる。トラック31「猛追 Limit」はメインテーマのメロディをくずした追跡曲。第8話でピンチに陥った一郎とメフィスト3世をメフィスト2世が救う場面の使用がカッコよかった。
 一郎たちの日常を描写する曲も作られている。
 一郎とメフィスト3世がラーメンを食べる場面によく流れたのが、ずばり「拉麺 With」(トラック19)という曲。第10話で真吾とメフィスト2世夫婦が食事するシーンに流れた「団欒 Kitchen」(トラック24)、ホットケーキを食べる一郎が思い出される「家賃 Old Theater」(トラック29)、ほのぼのした場面を彩る「商店街 Humming」(トラック32)など、バンジョーやアコースティックギターの親しみやすい音色がほっとひと息つかせてくれる。
 数は少ないが、哀感ただよう心情曲も印象に残る。第2話で流れたトラック5「鎮魂歌 Sanctus」はこのエピソードのために書かれたのでは? と思われる曲。妖しくも哀しい女声ボーカルが、依頼人の女子大生・ヒナの運命に寄り添うように響く。トラック13の「偏愛 Aberration」はピアノと弦、女声ボーカルなどが切ないメロディを奏でる曲。第2話で事件の真相が明らかになる場面(薄めのアレンジ)や第4話で依頼人の映画監督・江井の真意が明かされる場面などに流れて、苦い後味の事件を締めくくった。トラック28の「心 Pancakes」はピアノとバンジョーのイントロから弦のしっとりしたメロディに展開する曲。第4話のエツ子の回想シーンや第10話のメフィスト2世と真吾のかたらいの場面、第11話で一郎が真吾の焼いたホットケーキを食べる場面など、心なごむシーンに使用されている。実はほかにも抒情的な曲がいくつか使われているのだが、アルバムには未収録なのが惜しいところ。
 思わず「来た!」と心の中で叫んでしまったのが、トラック9の「外套 Eloim, Essaim」。1989年版のオープニング主題歌のメロディ(つのごうじ作曲)をアレンジした曲である。第1話のラストに真吾が登場する場面で流れたときは(わずか数秒だけど)身を乗り出した。その後も真吾の活躍シーンや回想シーンなどに使用されている。1989年版と2023年版をつなぐ曲だ。
 トラック35の「共鳴 Solomon」も1989年版からの引用曲。真吾が吹いていた「ソロモンの笛」のメロディ(青木望作曲)である。1989年版を観ていた人なら覚えているに違いない旋律で、これも涙ものだ。最終話(第12話)の重要な場面でこの曲が流れる。
 アルバムの終盤に置かれた「羽根 Vicious」(トラック33)は、第5話で一郎の前に姿を現す「天使」ストロファイアのテーマ。荘厳さと邪悪さをまとった、悪魔くんの最大のライバルの曲である。
 そして、アルバムを締めくくる「ふたり」は最終話のエンディングに使われた挿入歌。佐藤順一作詞、井筒昭雄作曲による、フォークソング風のいい曲だ。この曲、実は第1話の冒頭ですでに流れている。全編を観終わって聴くと、「ふたり」とは誰と誰のことなのか、しみじみと考えてしまう。

 2023年版『悪魔くん』の音楽は1989年版とはまったくテイストが異なる。が、ダークで妖しくてロックな曲調は、水木しげるが描く怪奇マンガの空気に近いのではないか。2023年版『悪魔くん』らしい音楽である。その中に1989年版のメロディが挿入されると、少し温度が変わる。けれど、時代も雰囲気も異なるふたつの作品世界がすんなりとつながってしまうのがすごい。音楽の記憶はあなどれない。月並みな言い方だが、「音楽は魔法」だと思うのだ。

悪魔くん オリジナル・サウンドトラック〜2023〜
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第221回アニメスタイルイベント
60歳になったアニメ様が色んな話をするイベント

 5月3日(金・祝)に開催するのは、アニメスタイル編集長小黒祐一郎(アニメ様は彼のニックネームです)のトークイベントです。5月1日(水)に誕生日を迎えて60歳になった小黒が、アニメについて色々と話をします。どんな話をするのかについてはイベントまでにある程度はお伝えできるはずです。

 トークの聞き手は、アニメプロデューサーで元アニメ雑誌編集者であった高橋望さんにお願いします。チケットは4月1日(月)18時から発売。購入方法については阿佐ヶ谷ロフトAのサイトをご覧になってください。
※2024年5月2日追記:脚本家の大河内一楼さんにも出演していただけることになりました。

 イベントは「メインパート」のみを配信します。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。

■関連リンク
LOFT(告知)  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/280601
LivePocket(会場チケット) https://t.livepocket.jp/e/o10hv
ツイキャス(配信チケット)  https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/301123

アニメスタイルチャンネル  https://ch.nicovideo.jp/animestyle

第221回アニメスタイルイベント
60歳になったアニメ様が色んな話をするイベント

開催日

2024年5月3日(金・祝)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

小黒祐一郎、高橋望、大河内一楼

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第846回 画描きからお話作り

画を描いたり、お話を作ったり!

 現在『沖ツラ』制作中なだけでなく、同時に色々やってます。次の作品では脚本書きをしました。さらに次もシリーズ構成・脚本。そして、小さいモノからでもとオリジナル作品の準備も進めています。脚本書いたり、イメージボードを描いたり。でも正直言ってこれ、「オリジナルがやりたい」からではなく、会社の将来を考えて「オリジナル考えなきゃ!」なのです。
 元々自分は“オリジナルアニメ至上主義”ではありません。何年も前にもこの連載で語ったと思いますが、アニメに於いて

“原作・脚本・監督”で個性的なアニメを作るより、どんな原作をアニメ化しても個性溢れる自分フィルムにしてしまう出﨑統監督の方が優れたアニメ作家だ!

と思っていましたし、現状でも思っています。
 よって、3年掛けてのオリジナル1本より、“3年あったら原作モノ3本監督”をモットーにやってきたのが俺。
 しかし板垣個人単位ではなく、スタジオ(会社)の将来を考えると、これからは頂いた企画のアニメーション制作をしているだけでは駄目。できることから地道に準備を——と。
 ただ、漫画家目指して漫画描く練習をしていた小中高校生の頃は、“お話を考える脳”を頻繁に使っていたのですが、アニメ業界に入ってからは、何作かお話作りから考える演出・監督仕事をやってきた程度。頻繁に使わなかった脳を復活させるのに、画・イメージボードなどを描きながら、周りの人に相談しつつ四苦八苦(汗)。

ま、画を描きながらあれこれ色々考えるのは面白いことなので、楽しませてもらいます!

 まだまだ勉強しなきゃならないことは沢山ありますね、いくつになっても。

アニメ様の『タイトル未定』
435 アニメ様日記 2023年9月24日(日)

2023年9月24日(日)
イベント2本立ての翌日。寝不足で頭がぼんやりしていたけど、昼寝をすると、夜に寝る時間が遅くなりそうだったので頭を使わないでできる作業だけをやった。Apple pencilの代替品を使ってみる。電源の入れ方の説明が解説書になくて、ネット検索で調べる。使えるようになったけれど、使いやすくはない。やっぱり純正品を買い直したほうがよいか。使っているiPad Proが第1世代なので選択肢が少ない。
『名探偵コナン』の萩原千速役は田中敦子さんだった。声と芝居がかなり大物っぽい感じ(大物っぽいのはセリフがゆっくり目なせいもあるか)。大塚明夫さんが演じている横溝重悟警部は千速に片想いしているんだよね。これも『名探偵コナン』お馴染みの声優ネタなんだろうか。二人とも警察所属だし。
就寝前にKindleで山崎ナオコーラさんの「お父さん大好き」を読み進める。先日観た映画「手」の原作も読んだ。映画もよかったけど、小説もよかった。だけど、おじさん的には痛いところも。
サブスクで配信が始まった「DIGITAL TRIP うる星やつら」を聴いてみた。なるほど、こんな感じか。一連の「DIGITAL TRIP」は当時は存在は知っていたけど、ほとんど聴いたことがない。サブスクのお陰で聴くことができた。『マクロス』『ガンダム』も少し聴いた。「JAM TRIP」も試してみよう。

2023年9月25日(月)
朝の散歩で聴いたのが「DIGITAL TRIP」の「Battle of SF Animation」。アニメブーム期のSFアニメの総集編のようなアルバムで楽しかった。
『無職転生II 異世界行ったら本気だす』最終回を観る。これは原作がどうなっているのか気になる。
トークのまとめに着手。作業が楽しい。原恵一監督に電話を入れたら留守。折り返し電話をいただく。20時半に帰宅。

2023年9月26日(火)
ずっとテキスト作業をしていた日。
朝の散歩では1980年の『地球へ…』サントラ(CD音源)と2007年の『地球へ…』サントラ(サブスク)を聴いて、さらにダ・カーポの「宇宙船地球号 『地球へ・・・』によせて」(サブスク)も少し聴いた。「宇宙船地球号 『地球へ・・・』によせて」はサブスクをウロウロしていて見つけたアルバムだ。
WOWOWで録画した映画「BU・SU」を流し観。記憶にある映画と全く違う。何と勘違いしていたんだろうか。これが初見かな。フレーム内の人物のサイズはTVドラマっぽいんだけど、それとは関係なく、とても映画っぽい。映画館で観る機会があったら観直したい。
kindleで「人のセックスを笑うな」を読み始める。予想していた内容とまるで違っていて、こちらもびっくり。

2023年9月27日(水)
早朝にワイフと出かけて「巾着田曼珠沙華まつり」開催中の巾着田曼珠沙華公園に。巾着田に着いたのが午前7時半くらい。この時間でも客は少なくない。公園を一回りして休憩所でお茶。高麗駅まで歩いて、西武秩父線各停で西武秩父駅に。高麗駅と西武秩父駅の間はのんびりしていて、この日で一番旅行っぽい感じだった。西武秩父駅の周りをあてもなく歩いた後、駅で缶ビールと弁当、事務所スタッフへの土産を買う。行きも帰りも特急ラビューを使った。昼の12時40分くらいに池袋駅に到着。13時からの定例Zoom打ち合わせに間に合った。午後は主に原稿作業。
TOKYO MXの『マジンガーZ』は49話「発狂ロボット大奮戦」。サブタイトルが凄い。まあ、それはおいておくとして。かなりヤンチャな画があった。作監が森利夫さん。原画は森利夫、兼森義則さん。原画がヤンチャなのか、動画が乱暴なのかわからないカットもあるけれど、とにかくヤンチャ。原画マンのカラーだとしたら、兼森さんの仕事かなあ。クレジットされていない原画マンが描いている可能性もあり。
『すずめの戸締まり』絵コンテ本に目を通す。分厚い本だ。1000ページ近い。

2023年9月28日(木)
新文芸坐で「せかいのおきく」(2023/90分)を鑑賞。ずっと「せかいのきおく(世界の記憶)」だと思っていたのだけど、チケットを買う直前に「きおく」ではなく「おきく」だと知った。「おきく」はヒロインの名前である。主な登場人物は中次(寛一郎)、その兄貴分の矢亮(池松壮亮)。そして、ヒロインの松村きく(黒木華)。中次と矢亮は下肥買いの仕事をしており、おきくは武家の娘(厳密には元武家)。おきくは映画序盤から中次のことが好きである。下肥買い仕事が丁寧に描写されており、かなりインパクトがある。だが、それが物語のメインになるのは中盤くらいまで。最終的には3人の青春ものとして物語がまとまる。90分の映画にしては盛り沢山で、それも悪くはないのだけれど、自分としてはひとつのことをじっくり描いた映画として観たかった。画面はスタンダードサイズでモノクロ。と思っていたら、各章のラストカットに色が付く(映画がいくつかの章に分かれている)。最初に色がついた時には、色が付いた意味もあって、息を飲んだ。構図がいいカットが沢山あった。タイトルの「せかいのおきく」について劇中で説明しそうで説明しないところが面白かった。
『すずめの戸締まり』4K Ultra HD Blu-rayを観た。 かなり見応えがあった。

2023年9月29日(金)
新文芸坐で「こちらあみ子」(2022/104分)を鑑賞。予告編や公式サイトで書かれた内容とは随分と違っていた。気持ちの準備ができていなかったのでちょっとダメージをくらった。
『すずめの戸締まり』Blu-rayコレクターズ・エディションの映像特典を観た。続けて、ビジュアルコメンタリーを全部観て、ビデオコンテを観はじめる。

2023年9月30日(土)
「『ルパン三世 PART2』上映+トークセッション」を観覧。出演は友永和秀さん、酒向大輔さん。上映エピソードは「カリブ海の大冒険」「マダムと泥棒四重奏」「マイアミ銀行襲撃記念日」「神様のくれた札束」「さらば愛しきルパンよ」の5本。友永さんが参加したエピソードだったら「ベネチア超特急」をやるかと思ったけど、そちらの上映はなかった。2021年のイベントでも感じたけれど、TVシリーズの『ルパン三世』をスクリーンで観るのは楽しい。それから、こんなマニアックな企画が商業イベントとして成立しているのが凄い。

アニメ様の『タイトル未定』
434 アニメ様日記 2023年9月17日(日)

2023年9月17日(日)
早朝の新文芸坐に行って、オールナイト「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 165】今 敏の奇想と混沌 ーー 妄想代理人」の終幕を見届ける。その後はデスクワークと昼寝。仕事で必要があってDVDソフトで『鋼鉄天使くるみ零』を観る。吉松さん、ワイフと大塚の幸龍軒で昼呑み。疲れが溜まっていたためか、ご飯ものまで到達できなかった。酒量も少なめ。
以下は小説「推し、燃ゆ」の感想。読了したのは9月16日(土)。推し生活に関する描写の説得力が凄い。そして、小説に匹敵するくらい後書きがインパクトがあった。作者の若さと自意識の強さが眩しい。

2023年9月18日(月)
この日の仕事は連休の間にできなかった作業、火曜以降の作業の準備等。仕事の合間に新文芸坐で「氷の微笑」4Kレストア版(1992・米/128分/R18+)を鑑賞。タイトルは知っていたけれど、これが初見。いやあ、面白かった。最近観た映画で一番面白かった。話もよかったし、ヒロインもいい。そして、音響がかなりよかった。こんないいものを1100円(アプリ会員料金)で観ちゃっていいのかと思うくらいだった。
WOWOWで録画した「手」を観た。こぢんまりとした感じで終わってしまったけれど、好きなタイプの映画だった。平熱感覚で誇張の少ないエロスも新鮮だった。日活ロマンポルノ50周年記念プロジェクトの1本として作られた映画だそうだ。

2023年9月19日(火)
この日は他の映画を観るつもりだったのだけど、大きなスクリーンでやっているうちに『映画プリキュアオールスターズF』を観ておいたほうがいいと気づいて、グランドシネマサンシャインで『オールスターズF』を観る。以下、思いっきりネタバレあり。映画前半は異世界でバラバラになったプリキュア達が集結するまでの珍道中。中盤ですでに全てのプリキュアが戦いに敗れており、今までの世界は消去されていることが判明。舞台になっている異世界は今までの世界をベースにして再創造されたものであり、この映画に登場するプリキュア達は「実験」のために再生されたものだった。ただし、劇中では「全てのプリキュアが死んだ」とか「プリキュアの家族を含む全ての人間が消滅した」とはっきり言うことは避けてはいる(再生した世界にプリキュアの家族や友人がいないことは言及されている)。物語の大筋は目が眩むほどにハード。敵は世界を消滅させ、再創造するほどの力を持っている。「サイボーグ009」で喩えると、今までプリキュアが戦ってきた相手は「黒い幽霊団」で、今度の敵は「神」。さあ、プリキュアはどう戦うのか。プリキュア達が自分達はコピーであって、オリジナルではないのだということに悩まないのが現代風。そのあたりは『Sonny Boy』『グリッドマン ユニバース』に通じるものがあると思った。映画の結末についてはもう少しロジックが欲しかった。演出には熱があるし、プリキュア愛も感じられた。作画に関しては担当アニメーターの画風が、いい意味でモロ出しになっているところがあり、それも好印象。

2023年9月20日(水)
ワイフと新文芸坐で「TAR/ター」を鑑賞。この映画はすでに観ていたのだけれど、新文芸坐のポストを読んで観る気になった。確かに音が凄かった。演奏シーンもいいのだけれど、通常シーンの音もよかった。二度目の鑑賞でも充分に楽しめた。初見時の別劇場での鑑賞では、家の中で物音がする箇所で20~30メートル後ろで音がした感じの不思議な現象があったのだけど、今回はそれはなかった。
TOKYO MXの『マジンガーZ』48話「ボスロボット戦闘開始!!」を録画で視聴。ボスロボット(ボスロボット)の誕生と初出動。ボスがカメラ目線で「全国の良い子の諸君、頑張るぜ。今度一緒に乗っけてやるからよ」と視聴者の子どもに話しかけるし、ボスが『マジンガーZ』の主題歌の替え歌を歌うし。しかも、替え歌はちゃんとカラオケとコーラスがついている。スタッフの力の入れ方が凄い。ちなみに演出は芹川有吾さん。ボスが乗っているロボットの名前はサブタイトルだとボスロボットで、劇中のセリフではボスボロット。劇中で出るテロップでもボスボロット。ボスロボットが正式名称で、ニックネームがボスボロットだと認識しているんだけど、ひょっとしてボスボロットは大竹宏さんのアドリブでそれを取り入れたのか。あるいは芹川さんが絵コンテ段階でボロットにしたのか。
横槍メンゴさんのXのポストに「花澤香菜さんになりたい系女子」という言葉が出てきた。記憶に留めておきたいフレーズだ。花澤香菜さんに少しでも近づくためにする活動を「花活」と呼ぶのだそうだ。

2023年9月21日(木)
『アリスとテレスのまぼろし工場』の小説を読了。映画を観て「これはどうなっているんだろう?」と思った疑問のほとんどが解消された。「あのセリフにはこんな意味があったのか」と思ったところもあった。タイトルの「アリスとテレス」の意味も分かった。夜は平松禎史さん達と呑む。平松さんと呑んだのは2020年7月以来かな。
『カードファイト!! ヴァンガード will+Dress Season3』の10話「重なり合う音色(ユニゾン)」が熱かった(脚本/大西雄仁、絵コンテ/洋平、鈴木龍太郎、演出/小松和真、総作画監督/永作友克、PARK Gayoung)。女の子二人がバトルをする話で迸るものがあった。テンションが高く、トリップ感があった。

2023年9月22日(金)
MacBook AirでZoomとLINEが使えるようにした。今までMac miniにカメラとヘッドセットの組み合わせてZoomをやっていたが、MacBook Air単体のほうが相手がこちらの音声が聞きやすいらしい。池袋ロフトの『好きな子がめがねを忘れた』ロフトPOPUPに行って、展示を見て原画集を買った。土曜のトークの予習で『機動警察パトレイバー(アーリーデイズ)』1話から6話を観た。
Kindleで「悠木碧のつくりかた」を読了。文章から読み取れる人柄や仕事に対する取り組み方がよかった。「悠木碧式ルーティン」の話、ロックオン・ストラトスの話、マイティ・ソーの話が印象的。

2023年9月23日(土)
この日は、昼に新文芸坐で「映画館で出逢うアニメの傑作 劇場版『機動警察パトレイバー』1&2」を、夜に阿佐ヶ谷ロフトAで「『磯光雄 ANIMATION WORKS preproduction』刊行記念トーク」を開催した。
朝はワイフが『らんま1/2』のグッズを探すのに付き合って、池袋のファミマを巡った。グッズの発売日が前日だったので、人気商品は売り切れていた。その後は『パトレイバー』のトークの準備。地下の床屋に行って頭を刈ってもらう。『パトレイバー』のトークのゲストは石川光久さんと黄瀬和哉さん。お客さんは劇場版『機動警察パトレイバー』1&2を初めて観る人が3割くらい。この日は『パトレイバー』の前に劇場版『伝説巨神イデオン』の上映があったのだが、『イデオン』から続けて観ている人が4割くらい。トークはインタビューっぽい感じになってしまったけど、盛り沢山なものになった。『機動警察パトレイバー[劇場版]』の上映を10分くらい観てからマンションに戻って少し横になる。横になったまま磯さんのトークの予習をする。その後、阿佐ヶ谷に。世間話などを経て、予定通りに19時からトーク。当初の予定から30分オーバーして22時半にトークが終了。長く続いた「磯光雄 ANIMATION WORKS preproduction」の作業がこのイベントで一段落したような気がした。

第845回 定例ですから!

毎週各作品ごとの定例会議をやっています!

 現在制作中の『沖ツラ』だけでなく、次の作品も、そしてさらに次の作品も。俺からの提案でした。
 ウチ(ミルパンセ)は『いせれべ』以降、各話制作進行制を止めました。故に「スケジュール管理は皆でやるべき!」と、演出・作画監督含めメインスタッフは出席必須。毎週1~2回、朝11時から。全員社員採用、毎朝皆タイムカードを押す。だからこそ可能な会議と言えます。
 じゃあ何を話し合うのかと言うと、まず、

現状のアベレージから割り出されるスケジュールの確認!

 制作期間中、現状は常に動き続けています。コンテ・演出・作画の遅れが美術・仕上げ・撮影まで“玉突き”で遅れ遅れ、延いては納品を溢す羽目に。TVシリーズあるあるです。以前までは制作進行とデスク・制作Pが各話数毎に管理していましたが、あらゆるセクションがほぼデジタル作業メインになったなら、“モノの運び屋”は不要と考え、進行管理は各セクション1日分の生産量からメインスタッフ同士で一斉に管理する時間を持ったほうが効率的ですから。次に、

設定・演出指示・その他決まり事の確認!

をする。例えば話数を跨ぐシチュエーションなどで「こっち(の話数)は“夕陽”光源」にしてるから、そちら(次話数)も合わせて~」とか、直接伝達できる場になります。従来どおりの“制作進行を介する又聞き確認”より、演出陣が決めたことを直接、作画・仕上げ・撮影陣に伝達したほうが早いし、正確ですから。そのことからも、ウチはフリーの演出陣をローテーションに入れる場合、「毎日定時の労働」と「週2回の朝定例に出席」が必須になります。が、今はむしろそれらを拒むフリーの演出さん・アニメーターさんに頼らなくて済むシステムを組むことのほうに従事しています。あと、

臨機応変なスタッフ配置の調整!

も定例で話し合います。何気にこれが一番大事かも……。
 いや、何を勘違いしたのか分からないですが、以前まだ各話で制作進行を置いていた時、「自分担当の話数以外は知らん!」とばかりに勝手に社内作画スタッフを束ねて自分チームを作って、ピンチ話数にスタッフを回さないとかいう制作進行君がいて、非常に困ったんです。当然の話ですが、作画の難易度は話数によってバラつきが出ます。そのバラつき故に難航しているところにリソースを割くのは当たり前でしょう? なのに進行君、仲良し自分チームだけ「俺のモノ」と抱えて、「○○話に手の空いた作画スタッフを回して」との要請に対し「いや、俺のスタッフで手の空いてる人はいません」と、自分話数さえ良ければ作品全体のクオリティーは我関せず……。そんな進行ならハッキリ言っていない方が良いと思い、制作進行を使わない体制を考えよう! となっていった訳です。あ、それまでいた制作進行らは、タイムカードを置き、働き方改革に則った朝から8時間勤務を実践し始めた時点で、窮屈がって各々自ら去って行きました。所詮“夕方出勤~朝までダラダラ勤務でOKでしょ”と舐めてアニメ業界に入ってきた人たちは、そもそも規則・管理が苦手なんですよね。そして、そのタイミングで制作進行の募集も止めるようにしたのです。
 すみません、また話逸れました(汗)。つまり、そういった作品全体をスタッフ皆で管理できるように始めたのが“定例会議”なのです。
 で、偶に遅刻する人はいますが、我が社では今のところ、巧くいっているやり方。これからも続けて行こうと思います。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 173】
映画監督 原恵一『河童のクゥ」『戦国大合戦』

 原恵一監督が手がけた劇場アニメーションを、原監督のトーク付きで上映するプログラムの第三弾を2024年3月30日(土)に開催します。ブログラムのタイトルは「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 173】映画監督 原恵一『河童のクゥ」『戦国大合戦』」。上映作品は『河童のクゥと夏休み』『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』の2本です。

 『河童のクゥと夏休み』は原監督が映像を希望し、長い年月をかけて実現させた渾身の作品。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』は劇場版『クレヨンしんちゃん』の第10作で、本格的な時代劇の醍醐味としっかりと構築されたドラマが魅力です。

 プログラム「映画監督 原恵一」は今年はこれが最後となる予定。チケットは3月23日(土)から発売します。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 173】
映画監督 原恵一『河童のクゥ」『戦国大合戦』

開催日

2024年3月30日(土)16時50分~21時05分

会場

新文芸坐

料金

一般 2800円、各種割引 2400円

トーク出演

原恵一(監督)、小黒祐一郎(聞き手)

上映タイトル

『河童のクゥと夏休み(2007/138分/35mm)』
『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』(2002/95分/35mm)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第277回 楽器が歌うミュージカル 〜映画ドラえもん のび太の地球交響楽〜

 腹巻猫です。3月9日に放映された「題名のない音楽会」(テレビ朝日系)の特集は「みんなで奏でる!ドラえもん交響楽の音楽会」。劇場版ドラえもんシリーズの最新作『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』とのコラボレーション企画で、アニメ『ドラえもん』関連の楽曲が演奏されました。TVアニメ版から菊池俊輔作曲の主題歌「ドラえもんのうた」と星野源作詞・作曲による主題歌「ドラえもん」の2曲が沢田完の編曲・指揮で演奏され、最新作の楽曲も服部隆之の指揮で演奏されるという、サントラファンにとってもたまらない番組でした。今回はこの作品の音楽を取り上げます。


 『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』は「藤子・F・不二雄生誕90周年記念作品」として2024年3月に公開された劇場版ドラえもんシリーズ第43作。「地球交響楽」は「ちきゅうシンフォニー」と読む。
 ふだんは『ドラえもん』をあまり観ていない筆者だが、今回は音楽がテーマ、しかも音楽担当は服部隆之ということで、これは観なければと劇場に駆けつけた。
 河原でリコーダーの練習をしていたのび太たちは、美しい歌声を持つふしぎな少女ミッカと出会う。その夜、のび太たちは宇宙空間に浮かぶ「ファーレの殿堂」へと招待された。のび太たちを出迎えたミッカは、音楽の力でファーレの殿堂を目ざめさせてほしいと言うのだ。楽器を手にして音楽を奏で、ファーレの殿堂を少しずつ目ざめさせていくのび太たち。その頃、かつてミッカの故郷が滅びる原因となった不気味な宇宙生命体ノイズが地球に接近していた。
 タイトル通り、音楽にあふれた作品である。
 のび太たちはそれぞれに楽器を手にして演奏を始める。のび太はリコーダー、ジャイアンはチューバ、スネ夫がバイオリン、しずかがボンゴ(とパーカッション全般)。最初はたどたどしかった演奏がしだいにうまくなり、息のあったセッションに発展する。楽器を手にするわくわく感や仲間といっしょに演奏する楽しさが伝わる描写である。
 ファーレの殿堂には地球の音楽家を思わせるロボットがいて、作曲や演奏を行っている。マエストロヴェントー(ベートーベン)、ワークナー(ワーグナー)、モーツェル(モーツァルト)、バッチ(バッハ)、タキレン(滝廉太郎)たちだ。彼らが奏でる音楽はモデルになった作曲家の作品によく似ている。また、のび太たちが楽器を奏でるとファーレの殿堂で眠っていた施設やロボットが反応し、本来の姿を取り戻す。こうした設定は、アニメ『クラシカロイド』やNHK Eテレで放映されている音楽教育番組「ムジカ・ピッコリーノ」を思わせて面白い。
 クライマックスはのび太たちとミッカ、ファーレの殿堂の住人たちが集まっての大合奏になる。その場面に流れる音楽は本作のタイトルと同じ「地球交響楽」と名づけられている。軽快なポップスから大編成のオーケストラ音楽まで書ける服部隆之の持ち味が生かされた作品である。

 ここで劇場版ドラえもんシリーズの音楽をふりかえってみよう。
 1980年公開の第1作『映画ドラえもん のび太の恐竜』から1997年公開の第18作『のび太のねじ巻き都市』まではTVシリーズの音楽を担当していた菊池俊輔が手がけた。
 1996年に藤子・F・不二雄が亡くなり、没後に制作が開始された第19作『のび太の南海大冒険』(1998)の音楽は大江千里が担当。劇場版ドラえもんでは初めて単独のサウンドトラック・アルバムがリリースされた(バンダイ・ミュージック発売)。次作『のび太の宇宙漂流記』(1999)は大江千里と堀井勝美の共同となり、第21作『のび太の太陽王伝説』(2000)から第25作『のび太のワンニャン時空伝』(2004)までを堀井勝美が単独で担当している。
 2005年にTVアニメ版『ドラえもん』のキャストが総入れ替えになる大きなリニューアルがあった。TVアニメの音楽担当も菊池俊輔から沢田完に交代。劇場版も第26作『のび太の恐竜2006』(2006)から第37作『のび太の南極カチコチ大冒険』(2017)まで沢田完が担当している。この間、単独のサウンドトラック・アルバムは発売されず、「ドラえもん サウンドトラックヒストリー」のタイトルで劇場版BGMをオムニバス形式で収録した商品がリリースされた(日本コロムビア発売)。
 そして、2018年公開の第38作『のび太の宝島』から音楽を担当しているのが服部隆之である。2020年に行われた今井一暁監督と服部隆之へのインタビューによれば、今井監督が初めて長編を監督するにあたり、好きな作曲家として服部隆之の名を挙げたことから、服部の参加が実現したのだという。服部はこのとき、「子どもとか大人とかは関係なく、僕はいい音楽をきっちりと作ることに専念することにしました。『ドラえもん』でも子ども目線などは意識せず、僕が反応したままの音楽を忖度せずに書いています」と語っている。
 特筆すべきは、この『のび太の宝島』で、『のび太の南海大冒険』以来20年ぶりに単独サウンドトラック・アルバムが発売されたこと。以降の作品もすべて単独サウンドトラック・アルバムが発売されている。それまで発売がなかったのが不思議なくらいなので、これはうれしい変化だった。

 『のび太の地球交響楽』のパンフレットに掲載されたコメントで、監督の今井一暁は3年以上かけて服部隆之とやり取りを重ね、音楽と密接につながったストーリーと演奏場面を作り上げていったと語っている。
 同じくパンフレットに掲載された服部隆之の言葉によれば、本作では映像よりも音楽を先行させる部分が多く、音楽と絵がうまく重なるよう監督と何度もキャッチボールをしながら作曲を進めたという。
 本作は楽器を演奏するシーンが多い。演奏する音楽は、練習曲もあれば即興的な曲もあり、クラシック音楽のアレンジもある。ソロ演奏もあればバンドスタイルの演奏もあり、大編成のオーケストラ音楽もある。音楽を作るのも映像を作るのもなかなか大変である。しかし、音楽好きにとっては見どころ、聴きどころの多い作品だ。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「映画ドラえもん のび太の地球交響楽 オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで2024年2月28日にエイベックス・ミュージック・クリエイティブから発売された。
 収録曲は下記商品ページを参照。

https://avex.jp/classics/catalogue/detail.php?cd=HATTA&id=1020173

 1曲目の「プロローグ〜黎明」は謎の来訪者との出会いを描写するミステリアスな音楽。続いて流れるタイトルバックの曲「オープニング〜音楽の旅路」(トラック2)が面白い。古代から現代までの音楽の変遷をさまざまなスタイルの音楽で表現しているのだ。メソポタミア(?)、エジプト、アジア、ギリシャ、近代ヨーロッパ、と音楽の歴史の旅が描かれる。本作のテーマに沿った凝ったタイトル曲である。
 本アルバムの収録曲は全55トラック。劇場版ドラえもんシリーズのサウンドトラック・アルバムの中でも際立って多い。その理由は、劇伴だけでなく、劇中で登場人物が奏でたり聴いたりする音楽、いわゆる現実音楽(英語ではソース・ミュージックと呼ぶ)も収録されているからだ。
 トラック12「ミッカの歌」はゲストキャラクターのミッカがソロで歌う曲。歌詞のないボーカリーズである。歌うのは、「題名のない音楽会」にも出演し「天使の歌声」と紹介されたミッカ役の平野莉亜菜。ミッカが歌うメロディが本作のメインテーマとなっている。
 次の「おもちゃdeセッション!」はミッカの歌とのび太たちのリコーダーがセッションする曲。ばらばらだった音がしだいにまとまり、おもちゃたちの演奏が加わり、にぎやかな合奏に発展していく。音楽を演奏する楽しさが描かれた序盤の名シーンである。ちなみにリコーダーの演奏を担当しているのは栗コーダーカルテットだ。
 トラック19「ミッカの歌〜スネ夫のヴァイオリン伴奏」はタイトルどおりの現実音楽。演奏時間28秒と短い曲だ。
 トラック21「雨の森の音楽会〜「ド!」」は、のび太たちがファーレの殿堂の森で、ロボットのタキレンのために奏でる曲。気持ちの沈んでいるタキレンは楽しい曲を聴いても気分が晴れない。のび太たちは寂しげな「雨の森の音楽会〜「シ!?」」(トラック22)を演奏する。曲の終盤には滝廉太郎風のメロディが現れる。悲しいときは寂しい曲を聴いたほうが癒されるという音楽の不思議さが描かれた印象的なシーンだ。
 ほかにも現実音楽として「鍵盤の街のサンバ」(トラック25)、「ジャイスネふんじゃった」(トラック27)、「ジャイアンのチューバソロ」「スネ夫のヴァイオリンソロ」「ジャイスネでこぼこアンサンブル」(トラック29〜31)、「ドラえもんを救え〜ケンカする音楽」「ドラえもんを救え〜4人のハーモニー」(トラック42〜43)など多彩な曲が登場する。さらに、テレビから流れる「愛の墜落メインテーマ」(トラック4)、街で流れる「これが私のピュアハート」(トラック7)、「歌姫ミーナ来日公演決定」「ヒップホップ勝負」(トラック34〜35)などがあるし、ファーレの殿堂のロボットたちが奏でるベートーベン、モーツァルト、バッハの作品をアレンジした曲もある(トラック45〜48)。
 本アルバムの収録曲のほぼ半数が現実音楽である。いわゆる劇伴音楽も作られているが、現実音楽のほうに重きが置かれている印象がある。のび太やロボットたちが演奏する音楽は、現実音楽であると同時に、キャラクターの心情を表現し、ドラマを推進する劇伴の役割も果たしている。
 その効果がもっとも発揮されたのがクライマックスに流れる楽曲群だ。「祝祭のファーレ」「チューニング〜いざ運命の演奏会」(トラック49〜50)を経て、トラック51から続く「地球交響楽〜1楽章」「地球交響楽〜2楽章」「地球交響楽〜3楽章」の3曲で、本編もアルバムも最大の盛り上がりを迎える。のび太たちの演奏とミッカの歌声、ファーレの殿堂のロボットたちの演奏が一体となった音楽が奏でられる。
 1楽章はクラシック的なオーケストラの演奏にミッカのボーカルとのび太たちの演奏が参加する曲。2楽章はピアノやパーカッションのリズムを背景に弦楽器、管楽器、ミッカのボーカル、のび太のリコーダーがかけ合う躍動的な曲。3楽章は掃除機の音や包丁がまな板を叩く現実音から始まり、パーカッション、ハンドクラップ、管弦楽が加わってアンサンブルへと発展する実験的な、しかし楽しさにあふれた曲。「交響楽」というタイトルながら、古典的なクラシック音楽のスタイルにこだわらない、遊び心たっぷりの音楽になっているのがすばらしい。

 個人的な感想を言えば、作品としては少し不満が残った。ファーレの殿堂で流れる音楽が近代西洋音楽に偏りすぎではないか(民族音楽や古楽などがあってもよかった)と思うし、ミッカと妹のドラマももう少しふくらませてほしかった。
 しかし、音楽をテーマにしたアニメが、バンドもの、オーケストラものなど、いろいろある中で、本作は子どもたちが楽器を手にする楽しさを感じられる作品になっているのがとてもいい。楽器演奏を中心にした、一種のミュージカルとして楽しみたい。
 本作のプロモーションの一環として、子どもたちが参加する「ドラドラ♪シンフォニー楽団」が結成され、イベントなどで演奏が披露されている。冒頭に紹介した「題名のない音楽会」の中でもオーケストラと一緒に演奏する姿が見られた。劇場で作品を観ながら楽器を演奏できる参加型上映が実現すれば楽しそうだ。観たり聴いたりするだけでなく、参加して楽しめる。そんな可能性を感じる作品である。

映画ドラえもん のび太の地球交響楽 オリジナル・サウンドトラック
Amazon

第844回 世界のトリヤマ

本当に突然……、鳥山明先生、まだまだ若過ぎですよ!

 自分が鳥山先生の影響を受けたのは小学生の頃、『Dr.スランプ』でした。藤子不二雄先生(※コンビ解消前)の話は10年以上前(!)にここで語りましたが、鳥山先生については話題にしていないと思います。
 改めて、俺がいちばん好きな鳥山作品は断然『Dr.スランプ』で、その次は『鳥山明のHETAPPI(ヘタッピ)マンガ研究所』(「フレッシュジャンプ」連載・さくまあきら先生との共著)! これは当時漫画家志望だった俺のバイブルで、いまだに名古屋の実家に保管されています。ヘタッピ君に鳥山先生が漫画の描き方指導をする形式がメインの構成で、読者からの投稿漫画に対しての批評コーナーもあり、そこでのアドバイスが大変面白かったのです。例えば出来の悪い画を指して「この扉、乾燥芋かと思ったぞ!」とか笑えるふうに突っ込んでたり、逆に巧い作品に対しては「ここは“ヘタッピ”が送って来る所、こんなに巧いなら早くどっかの賞に応募しなさい!」と促したり。他、読み切り短編は全般好きで『鳥山明○作劇場』の単行本1・2巻は『Dr.スランプ』全18巻と合わせて、一時は正に“愛読書”でした。
 何しろ“画力”が当時の漫画家の中で群を抜いていて、この鳥山明先生と『ストップ!! ひばりくん!』の江口寿史先生は80年代前半、まだ小学校低学年だった自分でさえ「このマンガ巧い!」と感嘆した作家さんでした。当時、たつや君という5つ年上の近所のお兄ちゃんと『Dr.スランプ』新刊が出る度、一緒になって夢中で読んだし、“んちゃバン”や“ピンポン号”“キャラメルマン1号”“リブギゴ”などのプラモデル(分かる人いるかな?)も買って作って一緒に遊びました。さらにアラレちゃんをそらで描けるくらい練習したし、鳥山先生のサインまで真似て書けました(アラレちゃんは今でもそらで描けると思います)。それくらい好きだったし、夢中になりました。
 そして、実は『ドラゴンボール』読んでたのは前半まで。いや、3分の1? 中学生になると興味の中心が出﨑アニメになり、そこから漫画自体あまり読まなくなったから。高校に入ると、『ドラゴンボール』は明確な“連載引き伸ばし状態”が見てとれた故、興味が薄れて……。多分単行本20巻までも買ってなかったと思います。『鳥山明○作劇場』の単行本も3巻だけは買わずじまいで、本当に申し訳ありません。
 ただ、アニメ業界に入ってから「『ドラゴンボール』、神!」な後輩に何人も出会いました! それだけ、子供の頃から何年も読み続けた人にとっては引き伸ばしとか関係なく「心底楽しめた!」という証拠で、それも鳥山先生による“優れた漫画力”の賜物でしょう。
 でも、『ドラゴンボール』を半分で終わらせて、もう一本別の長い連載が見たかった! というのが、本当に板垣の本音でした。

鳥山明先生、心よりご冥福をお祈り申し上げます

アニメ様の『タイトル未定』
433 アニメ様日記 2023年9月10日(日)

2023年9月10日(日)
TOHOシネマズ池袋で「バービー」を鑑賞。メッセージ性が強くて、なおかつ面白い。劇中のことで「それはどうなのよ」と思ったことのほとんどが劇中で解決した。人形としてのバービーについてほとんど知らないので、ネタの大半が分からなかったのだけど、色々なバービーがいることは分かった。バービーを製造販売しているマテル社が劇中に登場し、風刺の対象になっているのも面白い。本当に上層部が男性ばかりなのかは分からないけど(後日追記。実際のマテル社には上層部に女性がいるそうだ)。「自分の未来を自分で決定することに価値がある」という結論は世間の多くの人が納得するところだとは思うけれど、色々な未来の中から選びとるかたちだともっとよかったと思う。

2023年9月11日(月)
『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』をTOHOシネマズ新宿で鑑賞。劇中のBGMを聴いて「このBGMの曲名は『モッコリなんとか』か『なんとかモッコリ』に違いない」と思い、サブスクでサントラの曲名を見たら大当たり。「Mokkori」「Mokkori reprize」という曲があった。 この時間なら行列がないかもしもしれないと期待して、とんかつ丸七 池袋店に。予想通りに並ばずに入店できた。焼きかつ丼のビジュアルが凄い。ただし、これは通常のカツ丼を食べたい時に食べてはいかんやつだ。
レンタルDVDで『ToHeart』1話~5話を視聴。千羽由利子さんの作画は今観てもいい。小林プロダクションの美術に失われたものの大きさを感じる。すっかり忘れていたけど『ToHeart』のソフトは巻末に映像特典として新作短編が入っていた。2巻についた最初の映像特典「いつもの朝」を最初に観た時に「これは和田さんの原画だな」と思ったのを思い出した(実際には絵コンテ、原画、演出を和田高明さんが担当)。

2023年9月12日(火)
『ToHeart』6話~13話を観た。面白かった。リリース時は物語が弱いと思っていたはずだが、今の目で観ると充分にお話が面白い。マルチの話も当時はそんなにいいと思わなかったけど、かなりよかった。時の流れが作品の印象を変えた。映像特典の短編は最初の数話だけ和田さんの一人原画で、途中から他の方も原画で入ると記憶していたのだが、それは間違いで、全話の絵コンテ、演出、原画を和田さんが担当していた。4巻映像特典の「題字 千羽由利子」も忘れてた。
録画で東映チャンネルの『アンデルセン童話 にんぎょ姫』4Kリマスター版を視聴。
進行中のプロジェクトの数が多いため、いくら作業をやっても終わらない。自分の原稿に手をつけられない。

2023年9月13日(水)
引き続きやることが山盛り。イベント(5タイトルくらい)のあれこれと書籍(5タイトルくらい)関連とそれ以外。自分の原稿に手がつけられない。
『好きな子がめがねを忘れた』をずっと観返していた。やっぱり地デジより配信のほうが綺麗だ。1話がとにかく素晴らしい。大型モニターで観てもらうことを意識して画作りをしている。この密度で90分くらいの作品を作ってもらいたい。Blu-ray1巻のカスタマーレビューが散々だ(この日での段階では)。神作画とか言われないのか。2話で「『ギャラクシーエンジェル』のコンタクトレンズ問題」が発生していた。そして、今回もコンタクトレンズをつけるカットは無し。以下は別の話。原作未読なので勘違いしたことを書くかもしれないけど、1話の三重さんは小村君が好きで、自分が好きであることを自覚しているように見える。だが、その後の話数で、自分の恋心に気づいていないらしい描写があった。これはアニメオリジナルの描写だと思うけど、1話冒頭で小村君が教室に向かっているところで、後ろから走ってきた三重さんが小村くんを追い越す時にチラリと彼の顔を見る。廊下を走るところが三重さんらしくないけれど、まあそれはおいておいて、その時の三重さんは眼鏡をかけていて、小村くんの顔を見たくて走って追い越したように思える。
配信で『五等分の花嫁∽』を視聴。前編が好印象。TVシリーズと比較してみる。U-NEXTをうろうろしていて『ご近所物語』を見つけて、1話を視聴。マスターはSD画質のはず。このくらい画面が荒れているとそれはそれでオリジナルとは別の味わいがある。だけど、リマスターしたら、かなり見映えがよくなるのではないか。
「宇宙海賊キャプテンハーロック Blu-ray BOX 豪華版」が届いた。とにかく、りんたろうさんの絵コンテが嬉しい。これと別に絵コンテ豪華本を出して欲しいくらいだ。

一般社団法人日本雑誌協会のサイトを見ると、アニメージュの2023年4月~2023年6月の発行部数が25,950。これはきびしい。電子書籍が入っていない数字だと思うけど。
https://www.j-magazine.or.jp/user/printed2/index

X(旧Twitter)で #わたしが石油王になったら作る映画 のハッシュタグで以下の投稿をした。冗談ではなく、しっかりしたプロデュースで作ったらかなり面白いものになると思う。ここの作品の設定は少しずつ変えたほうがいいはず。
⋯⋯⋯⋯
「スーパーロボット大戦」ですね。マジンガー(グレート、グレンダイザー含む)、ゲッター、ガンダム(ファースト、Z、逆シャア、V)、コンV、ボルテス、ダンバイン、Gガン辺りが参戦するやつ。個々の作品世界とキャラの設定はオリジナルから変わっても可。
⋯⋯⋯⋯
https://x.com/animesama/status/1701514622325731440?s=20

2023年9月14日(木)
12時半に事務所出て病院Bに。この日は採尿、採血、CT検査。その後は旧芝離宮恩賜庭園の中を歩く。久しぶりに都立9庭園共通年間パスポートを使った。前から入ってみたかった秋田屋で吞む。料理はどれも美味しかった。

X(旧Twitter)で海外の方が、僕がトークで話した「『アルプスの少女ハイジ』のレイアウトの歴史的な意味」について完璧に理解してくれたのを知る。嬉しい。
https://twitter.com/animesama/status/1702099391191064692

同じく、Xで劇場版『コブラ』で宮崎さんが作画を担当したパートが判明した。1988年2月号の特集「宮崎駿完全作品リスト」で編集とライティングを担当してから、ずっと謎だった。
https://x.com/animesama/status/1702100715928539227?s=20

2023年9月15日(金)
ワイフとグランドシネマサンシャインに。『アリスとテレスのまぼろし工場』をBESTIA enhancedで鑑賞。試写会よりも音響の印象がよかった。映画館を出ると強い雨。西口の新珍味で食べて吞む。ワイフはグランドシネマサンシャインで「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊」のタイトルを聞いて『名探偵コナン』の映画だと勘違いして「あれ、まだ来年の映画のタイトルって発表になってなかったよね」と言っていた。『名探偵コナン ベネチアの亡霊』って、ちょっと前ならありそうだなあと思ったら、第6作目が『ベイカー街の亡霊』だった。『ベイカー街の亡霊』では「亡霊」を「ぼうれい」と読ませていたけど、今だと捻った読み方になるはず。
午前中に『火の鳥 エデンの宙』を配信で観る。確認したいことがあって、夕方に1話をまた観る。タイトルまで違うので原作と違うと言ってもしかたがないが「原作のここはどうなっていたっけ」と気になるところがあって、ネットで検索。原作を買い直したほうがよさそうだ。『火の鳥 エデンの宙』の配信と劇場公開の関係は『四畳半タイムマシンブルース』と同じなのかな。宮沢りえさんはよかった。
この日はイベントの告知、イベント関係の連絡と調整が仕事の大半だった。イベントの数が多いとそれだけでも忙しい。

2023年9月16日(土)
午前中は浜離宮恩賜庭園に。今回も都立9庭園共通年間パスポートを使った。庭園の中を歩いた後、新橋に。気になっていた洋食屋は行列。お気に入りのうどん屋も行列。しかたないので、新時代で吞む。事務所に戻って11月19日(日)イベントのレジュメを書く。これは書いていて楽しかった。16時にマンションに戻って少し休む。夜はオールナイト「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 165】今 敏の奇想と混沌 ーー 妄想代理人」を開催。当日になってチケット完売。トークのゲストは安藤雅司さん、井上俊之さん。トークは『妄想代理人』にご自身が関わった経緯から、実際の仕事内容について。話題が豊富で楽しいトークになったと思う。トピックスとしては8話で井上さんが自分で原画マンに声をかけた話と、最終回でエフェクト作監のお手伝いに声をかけた話。お客さんは若い人が多い。このオールナイトで『妄想代理人』を初めて観る人が6割か7割くらい。映画好きの人が多かった模様(『SHIROBAKO』を観たことがある人よりも「ツイン・ピークス」を観ている人のほうが多かった)。トークの後、少し楽屋で話してから解散。上映を少しだけ観た。Blu-ray上映ではあるけれど、画面がモアっとした感じ。これはこれで映画っぽいくていいかもしれない。トークを見ていたワイフと新文芸坐を出る。ワイフが眠れそうもないというので、大塚まで歩く。午前0前後の大塚駅前はぶらぶらしている若者が大勢いた。大塚だとガールズバーの客引きの女の子に普段着みたいな格好の子が多いのが面白い。普段着というよりも部屋着かなあ。ちなみに池袋の客引きはコスプレイヤーのような女の子が多い。

第220回アニメスタイルイベント
ANIMATOR TALK 本田雄

 「ANIMATOR TALK」はアニメーターの方達に話をうかがうトークイベントシリーズです。今回のゲストは『君たちはどう生きるか』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』『千年女優』で知られる本田雄さん。本田さんにリスペクトするアニメーター、作品についてお話をしていただく予定です。
 もう1人のゲストとして井上俊之さんも出演。井上さんのお話も沢山うかがえるはずです。

 開催は4月21日(日)昼。会場は阿佐ヶ谷ロフトAです。チケットは3月16日(土)昼12時から発売。購入方法については阿佐ヶ谷ロフトAのサイトをご覧になってください。


 イベントは「メインパート」のみを配信します。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。
 なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。

■関連リンク
LOFT  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/278970
LivePocket(会場)  https://t.livepocket.jp/e/nw2x3
ツイキャス(配信)  https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/297220

アニメスタイルチャンネル  https://ch.nicovideo.jp/animestyle

第220回アニメスタイルイベント
ANIMATOR TALK 本田雄

開催日

2024年4月21日(日)
開場12時/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

本田雄、井上俊之、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第843回 スケジュールは皆のモノ

 先程この原稿に着手する前、制作定例(全体会議)で、

スケジュールを“自分だけのモノ”と勘違いしないように!

という話をしました。
 例えば社内のアニメーター、「僕(私)はこうこうこれだけバッチリ下描きを敷かないと描けないんです」と。それはもちろん技術レベルには個人差がある故、あくまで“徐々に慣れて~”としか言えませんが、

基本、“原画”とは丸チョンでレイアウトと動き(タイミング含む)を決めたら、後は“一発描き”!

なんです。当然カット(シーン)の難易度にもよりますが、“巧い人ほど下描き(ラフ)が少ない”のは現実問題としてあります。つまり、巧い人が数(物量)を上げられるのは“答えを出すまでの速度”が早い。それに対して、力量が追い付かないアニメーターが「私はこうでないと描けない」とか「俺はこう描きたい」とかの主義をいつまでも通し、幾度となく下描きを重ねれば各々のスケジュールだけではなく、ひいては全体スケジュールをも食い潰していきます。
 現状まだアニメ業界に蔓延っている“フリー(業務委託)8割で作るテレビシリーズ”の問題点はここにあります。“下手なのにフリー”ってのが多過ぎるんです、この業界。いや、“下手だから”か? 他の業界に比べて多い気がします、下手フリー。巧いか下手か? 且つ何本掛け持ちしているかも分からないフリーにばら撒いて、上がってくるのが約束した原画UP日ではなく、“納品”の寸前。そりゃあ当然、作監修(作画監督の修正)の手が追い付かずに放映されて崩壊は当たり前。
 ウチ(ミルパンセ)は今、フリーに撒かないようにし、さらに脚本・コンテ段階からカット内容のカロリーコントロールをして、できる限り社内で作る! にしています。社内のアニメーターであればこそ、作打ち(作画打ち合わせ)後でも、停滞しているパートを「ごめん、これ俺持っていくー」と引き上げて、「次の話数進めて~」と別スケジュールに乗せ換えることができますから。

早い話、各アニメーターが貰っているスケジュールは、各自のモノでありつつも“スタッフ皆のモノ”——全体スケジュールでもある!

訳です。例えば原画マンたちに、

各自、1日の作業量を1カット……いや、半カットでもいいから多く上げる工夫をして!

と鼓舞すると、全員合計して1日数カットずつ上りが増えます。
 こういう時、土台無理な数——「各自1日10カットずつ多く上げること!」とか言うと、アニメーターは拗ねます、「どーせ無理……」と。半カット、「いつもの作業量にラフまででもいいから追加・前進することを目指して~」だと、頑張ってくれたりするもんです。

「各々半カット増」を1ヶ月(実労働20日)続ければ、結構生産量増えると思いません?

昨今限られた人員で作品を作らざるを得ない、我々みたいな中小アニメ企業こそ、「スタジオの総合力」で安定を図るべきかと。 勝ち名乗りを上げている業界人員獲得合戦の勝ち組大手プロダクションさんらには、健闘を祈ります! ファンの御期待に応えて、業界を盛り上げてください。

アニメ様の『タイトル未定』
432 アニメ様日記 2023年9月3日(日)

2023年9月3日(日)
事務所でデスクワーク。ToDoを次々に片づけているのに、ToDoが増えていく。
WOWOWでやっていた「秘密」を流し観。広末涼子さんが出演している映画だ。初見だと思ったけれど、話は知っているなあ。公開時には生理的に乗れない映画だったのだけど、この年齢になると広末さんに中年男の奥さんをやらせたい作り手の気持ちが分かる。だけど、ラストはやっぱり乗れないなあ。若い頃に観たら、ラストの直子(広末涼子)に感情移入したかも。
「ラウリ·クースクを探して」をkindleで読了。物語としてはあっさりしているんだけど、小説としては面白かった。

2023年9月4日(月)
ワイフは昨年から体調が思わしくなく、自宅にいることが多い。僕がWOWOWの映画『クレヨンしんちゃん』一挙放映の話をしたのがきっかけなのか、先週から配信で『クレヨンしんちゃん』を観るようになった。無料配信中のものは全て観て、サブスクにある映画も大半を観てしまい、ついに「クレヨンしんちゃん月額見放題パック」を購入した。むさえとシロが好きらしくて、むさえとシロが出てくる話を優先的に観ているようだ。
ワイフが久しぶりに映画館に行きたいというので『アステロイド・シティ』をWHITE CINE QUINTOで鑑賞。ワイフにとっては久しぶりの外出だった。そして、映画館で「『クレヨンしんちゃん』成分が足りない……」と一言。観たかった映画を観る直前になって『クレヨンしんちゃん』のことを言い出したことに、本人も驚いていた。それ以外も映画が始まる前に、映画館の売店でビスケットを買ったら、映画『クレヨンしんちゃん』でビスケットが出てくる作品を思い出したそうだ。
『アステロイド・シティ』は4時間以上ある映画を2時間にまとめたような作品だと思った。映像はよかった。話はよく分からないところもあったが、飽きる間もない感じだった。

2023年9月5日(火)
Apple Musicに『おジャ魔女どれみ』関係のアルバムがどっさり入っていることに気づいて、朝の散歩で「おジャ魔女どれみ Sound Select」を聴いた。
引き続き、原稿以外でやることが多い。夕方から新文芸坐で「狂い咲きサンダーロード オリジナルネガ・リマスター版」を観るつもりだったけど、諦める。ネットで注文したMacBook Airが届いたので、セッティングも進める。これから作る書籍についてのZoom打ち合わせ。なるべく自分が作業を抱え込まない方向に持っていきたい。
Amazon prime videoのスターチャンネルEXで配信が始まった第1シリーズ『宇宙戦艦ヤマト』の1話から10話までをながら観。Blu-ray BOXを買い逃したので、ハイビジョンで第1シリーズを視聴するのはおそらくこれが初めて。主に背景の美しさや凝った撮影を楽しんだ。記憶モードで書くと、今までのビデオマスターよりセルの汚れやホコリが目立っているはず。ではあるけれど、僕は第1シリーズ『ヤマト』に関して、セルの汚れやホコリはあまり気にならない。何よりも『ヤマト』が配信で観られるようになったのが嬉しい。

2023年9月6日(水)
印刷会社の新しい担当さんと顔あわせ。15時からあるアニメーターさんとZoom打ち合わせ。Zoomとはいえ、お目にかかるのは10数年ぶり。お元気そうでよかった。TOKYO MXの『マジンガーZ』46話でこしゃくな原画があると思ったら、友永さんだった。

2023年9月7日(木)
グランドシネマサンシャインで『劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇』をBESTIA enhancedで鑑賞。リマスターの力か、BESTIA enhancedの力か、久しぶりに観たのがよかったのか、今までに観た『紅蓮篇』の中で一番楽しめた。最近は穏やかなアニメを観ることが多いので『グレンラガン』の乱暴さが心地よかったのかもしれない。分かっていたことかもしれないけれど、やっぱりシモンとニアって距離があるなあ。シモンがニアを愛していないということではない。愛してはいるんだけど、距離がある。だとすれば、最終回がああなるのも、筋が通っているはず。それは作品にとって大事なことなのだろう。

『文豪ストレイドッグス』の公式サイトで「アニメージュ」10月号について「事実や作品の公式見解とは異なる内容が掲載」されると告知された。そこで書かれていることが本当なら、修正不可能なタイミングで監修依頼を出したアニメージュがよくないはずだけど、どうしてそんな状況になったのかがなんとなく分かるだけに辛い。

2023年9月8日(金)
10年前にはどこのレンタルショップにもDVDが置いてあった某TVアニメ。最近はずっと配信サイトにあったので安心していたのだけど、用事があって観ようとしたらどの配信サイトでも配信が終了している。Amazonで確認したら中古DVDの1巻は激安だけど、ちょっとお高い巻もあるぞ。今回はネットレンタルでDVDを借りるにしたけれど、今後はこういうことが増えるのだろうなあ。
台風の影響で弊社出勤組3人のうち2人は自宅作業となった。昼飯はゴーゴーカレー。ゴーゴーカレーを食べると、福田淳さんを思い出す。

2023年9月9日(土)
「第210回アニメスタイルイベント アニメマニアが語るアニメ60年史」を開催した日。イベント前に話すことを年ごとに書き出したら、大変な量になってしまい、このままだと伝えたいことが伝わらない。そこでイベントの最初に「60年の大きな流れ」を話すことにした。その結果、最初の90分で60年を語ることができた。以下はレジュメからの抜粋だ。
…………
プロローグ アニメ60年の全体像

1963年~1977年 アニメ黎明期
1978年~1984年 アニメブーム
1985年~1987年 TVアニメ冬の時代
1988年~2000年 作品とファンの再構築
2001年~2023年 増大と一般化の時代
…………
「60年の大きな流れ」に関しては「アニメブーム」の後に「冬の時代」と「再構築」の時期があるのが、今回のトークのポイントだ。それから、重要なキーワードが「コンテンツ化」。イベント中でもアニメブームを1977年からにするか、1978年からにするかで悩んだと言ったけれど、トークに参加してくれた高橋望さんの意見を取り入れて、次回は1977年から始まったことにするかもしれない。

第276回 音楽の海を渡る 〜舟を編む〜

 腹巻猫です。2月18日からNHKで放映が始まったTVドラマ「舟を編む 〜私、辞書つくります〜」が気になります。本屋大賞を受賞した三浦しをんの同名小説が原作。実写劇場作品とTVアニメにもなりました。過去の映像化作品と比較すると今回のドラマがいちばん大胆なアレンジがなされてます。なにせ、原作では後半から登場する岸辺みどりが主人公なのですから。しかし、池田エライザを主演に辞書作りを描くならこういうアレンジにするほかないか……などと思いながら、興味深く観ています。


 今回は、2016年10月から12月まで放映されたTVアニメ版『舟を編む』の音楽を取り上げよう。
 玄武書房の営業部員・馬締(まじめ)光也は、名前どおりの真面目な性格だが、口下手で空気が読めない不器用な人物。しかし言葉への感性とこだわりは人一倍強い。その馬締が辞書編集部にスカウトされ、異動してくるところから物語は始まる。玄武書房では新たな中型辞書「大渡海」の編集が進められていた。責任者の荒木は定年を間近に控え、後継者として馬締に目をつけたのだ。馬締を中心に、辞書作りに情熱を傾ける人々の姿を描く人間ドラマである。
 辞書作りの作業は地味で細かい作業が中心。アニメ向きとは言いがたい題材だが、本作は丁寧な描写を重ねて登場人物の繊細な心情を表現し、映像的な面白さと人間ドラマを両立させていた。フジテレビ「ノイタミナ」枠ならではの意欲作である。

 音楽は池頼広が担当。アニメでは『BLOOD THE LAST VAMPIRE』『TIGER & BUNNY』『神撃のバハムート GENESIS』など、SFアクション系の作品の印象が強い。
 しかし、いっぽうで池頼広は、TVドラマ「相棒」シリーズや「女王の教室」「家政婦のミタ」など、人間ドラマ中心のシリアスな実写作品をたくさん手がけている。アニメよりもドラマ向けと言える本作の音楽にうってつけの作曲家だった。
 ドラマ的な作品であるから、音楽もドラマ的だ(ドラマチックという意味ではなく、実写のドラマに流れるような音楽という意味)。
 本作には、わかりやすく喜怒哀楽を表現するような曲がない。たとえばストリングスが奏でる「憂愁」という曲があるが、悲しみや憂いを表現しているかというと、そうとも言いきれない。心配や思いやりや切なさなど、いろいろな感情を想起させる。実際、さまざまなシーンに使われている。
 また、キャラクターテーマに該当する曲もない。シチュエーションを描写する曲はあるが、特定のキャラクターに結びついた曲は用意されていない(あったとしても、そういう使い方はされていない)。本作の登場人物は、辞書作りをしながら成長し、年齢も重ねていく。そういうキャラクターをひとつの曲では表現しきれないからだろう。
 過去に当コラムで池頼広が手がけたTVアニメ『かみちゅ!』を取り上げたときに、中間色のふわっとした感じの音楽、という表現をした。うれしいけれど、どこか悲しい。悲しいけれど、希望もある。そんな多面的な音楽のことだ。本作の音楽も同じ系統である。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2016年12月21日に「舟を編む オリジナルサウンドトラック」のタイトルでアニプレックスから発売された。

  1. 言葉の海
  2. 茫洋
  3. 編纂
  4. 出発
  5. 浮標
  6. 不器用
  7. 早雲
  8. 彷徨い
  9. 安寧
  10. 憂愁
  11. 歓迎
  12. 継続
  13. 邂逅
  14. 高揚
  15. 定義
  16. 団欒
  17. 逢着
  18. 悲哀
  19. 報復
  20. 用例
  21. 訥弁
  22. 策戦
  23. 場違い
  24. 腐れ縁
  25. 休日
  26. 恋文
  27. 不安
  28. 返事
  29. 完成
  30. 和気藹々
  31. 活気
  32. 舟を編む

 劇伴のみ32曲を収録。曲順は劇中使用順にこだわらず、イメージアルバム的に構成したようだ。曲名も劇中の使用場面とは必ずしも一致していない。
 1曲目は「言葉の海」。ピアノ、ギター、パーカッションなどによるバンド編成のセッション曲である。ピアノがコード進行に沿ってパラパラとフレーズを弾いているが、メロディラインはつかみづらい。「言葉の海」というタイトルどおり、無数の言葉が漂う広大な海のようなイメージの曲だ。
 メロディアスではないけれど、この曲、実にいい。何度もリピートして聴きたくなる。
 トラック3の「編纂」は「言葉の海」のバリエーション、もしくは同系統の曲である。ピアノとギターとパーカッションを中心にしたサウンドは共通しているが、こちらはピアノのメロディがよりくっきりと聞こえる。茫漠とした「言葉の海」にメロディという「舟」を渡すイメージだろうか、と筆者は考えた。この曲は第11話で馬締たちが刷り上がったばかりの「大渡海」の紙面を見る場面に流れている。
 同じメロディを使った曲にトラック12の「継続」がある。ピアノとストリングスと木管を中心に奏でられる前進感のある曲で、「大渡海」の編集作業が進行する場面にたびたび使用されていた。
 トラック31の「活気」は「編纂」をアップテンポにした雰囲気の曲。活気に満ちた編集部の情景が目に浮かぶ。これら一連の曲をまとめて、「辞書作りのテーマ」と呼べそうだ。
 トラック2「茫洋」は、アコースティックギターによるほのぼのした雰囲気の曲。辞書編集部の日常を描写する曲としてよく使われている。このメロディはアルバムの最後(トラック32)に収録された曲「舟を編む」と共通している。おそらくは「舟を編む」がフルバージョンなのだろう。同じメロディをアレンジした曲がほかにも作られている。
 たとえば、トラック5の「浮標」はピアノとアコースティックギターをメインにしたおだやかなアレンジ。第9話で馬締が新たに辞書編集部に配属された岸辺みどりに「辞書は人と人がふれあう助けになるもの」と語る場面に流れている。
 「安寧」(トラック9)はピアノソロによる変奏曲。第1話で馬締と西岡正志が公園で話す場面など、ふと心が動くような場面に使われた。
 「憂愁」(トラック10)はストリングスによる変奏曲。第2話で、馬締と林香具矢の出会いのシーンに使用され、その後もふたりの初デートや馬締の告白シーンなどに使われていたのが印象深い。しかし、ふたりのテーマというわけではなく、第8話では岸辺みどりの登場シーンに、第11話、12話では、馬締たちと松本先生のシーンに使用されている。
 「言葉の海」とそのバリエーションが「辞書作りのテーマ」だとすれば、「舟を編む」とそのバリエーションは「辞書作りに挑む人々のテーマ」と呼べそうだ。
 キラキラしたイントロからホルンなどによる大らかなメロディに展開する「邂逅」(トラック13)も重要な曲だ。第1話で荒木が馬締を「発見」する場面、第2話で馬締が辞書編集にやりがいを見出す場面、第9話でみどりが松本先生から「あなたも言葉を愛している人なんですね」と言われる場面、最終話(第11話)の本編ラストで馬締が西岡から「松本先生に似てきた」と言われる場面など、心にぐっとくる名場面に流れていた。
 ギターがブルージーなメロディを奏でる「悲哀」(トラック10)は本作には珍しいタイプの、心情をストレートに表現したような曲。劇中では1度しか使われていない。第10話で、収録語に抜けがないか確認するために馬締たちが校正刷りのチェックを始める場面である。やはりこういう曲は使える場面があまりなかったのかなと思う。
 ほかに耳に残る曲といえば、馬締がらみでよく使われたユーモラスな「不器用」(トラック6)がある。弦のピチカートを使ったサウンドが共通する「報復」(トラック19)、「場違い」(トラック23)も同じカテゴリに入れられる。
 アルバムの終盤に「恋文」「不安」「返事」(トラック26〜28)の3曲が並んでいるのが面白い。本作の中でもとりわけ印象に残る、馬締の恋文のエピソードをイメージした構成だろう。実際には劇中のその場面ではこれらの曲は使われていないのだが、作曲の段階では(音楽メニューでは)使用が想定されていたのかもしれない。ここは、劇中の使用場面にこだわらず、自由にイメージをふくらませながら聴いてみたい。それもサントラの楽しみ方のひとつだ。

 派手さはないが、すごくいいアルバムだと思う。落ち着いた曲調の、耳に心地よい楽曲が多い。放映当時、池頼広はSNSで本作の音楽を「癒し系の曲です」と表現していた。サロンミュージックのようなリラックスして聴ける音楽である。
 『舟を編む』を観て、サウンドトラック・アルバムを聴きながら、辞書作りとサウンドトラック・アルバムの構成は似ているのかもしれない、と少し考えた。あまたある楽曲の中から曲を選び、並べたものがサウンドトラック・アルバムである。サウンドトラックはときには作品の入口になり、ときには作品を読み解くヒントになる。なによりサウンドトラックという形の舟がなければ、音楽を聴く手がかりがなくなる。音楽の海を渡る人の助けになればと思いながら、筆者はアルバムという舟を編んでいる。

舟を編む オリジナルサウンドトラック
Amazon

第842回 アニメ人生、時間が足りない(汗)!

あ、2024年はうるう年なんですね! 1日得した感!

 本当にもう、圧倒的に時間が足りません。このまま行くとあっという間に生涯を終えてしまうじゃないですか!
 今現在いただいている仕事を全部(数本有り)こなすと2027~28年? 53~4歳!? アニメは怖い! 一本一本にそれなりの制作期間が掛かる故、2~3本作ってる間にポンポン歳を取って、10本作り終わる頃にはもう“し”が目の前です!
 だからと言って、一時期のどなたかみたいに年間3本4本5本やってヒットメーカーを気取っていた監督がいいかと言うと、板垣個人的にそれは目指していません。やりたい人はやればいいでしょうが、個人的にはそんな掛け持ち大王になっても、どうせ各作品の自前コンテ本数が減って、自分の目指したい画面の完成度が複数の作品に分散されるだけ、且つ終いには音響にすら行けなくなった例も俺は聞いたことがあります。漫画・ラノベの人気原作を何本も数打って(監督して)、その内たまたま当たった1本を基に周りが持て囃して「ヒット監督」とでっち上げ、その監督自身も図に乗って「売れっ子監督」を名乗り始めて闊歩する時代は大分終わりを告げつつあるようです。新作アニメ情報を見ても最近は、一人の監督があっちもこっちも顔を出してることが少なくなりましたよね。むしろ、時代は各スタジオ(会社)のお座付き? に近い立場の演出家の、我々より1~2世代若い人たちが監督されてることが多くなった気がします(気のせい?)。特に最近はスタッフ不足により品質管理が非常に厳しく、監督2人制も増えたみたい……。
 これはプロデューサー的にもスタジオ的にも良い傾向だと個人的には思います。前々からここ(この連載)で語っているように、作品が売れる売れないは“スタジオ力”もしくは“チームの力”の賜物であって、監督個人の力では絶対にありません!(こちらは断言! え? まだ勘違いしているプロデューサーさんっていらっしゃるんですか?)

 いいですか?

天才も凡人も1日分の持ち時間は24時間で互角なんですよ!

複数本掛け持ちしてイイ気になって自分だけボロ儲けしている自称天才監督様の陰で、リテイクやら指示待ちやらで振り回されて泣いているスタッフは数知れず、だったんです! それを「この監督じゃなきゃ売れないんだから!」とスタジオ側に無理強いしたプロデューサーさんや、特定アニメ監督との癒着で原作を消化するライツ事業部さんらが、10年程前までは多かったように思いますが、今はだいぶ落ち着いた気がします。
 例えば板垣の場合、自ら監督する作品ならコンテは最低半分以上切り(描き)たいし、悪い作画は自ら手を下してでも時間の許す限り修正したいし、音響現場でもできるだけ落ち着いて口を出したいです(現場に来れないなんて論外)。逆にそれくらいやってから初めて監督を名乗るべきでしょう。てとこまでは、何年も前に語ってましたよね? すみません(汗)、話が逸れたので、戻します。

 そんな訳で、50代はもっとやれることを増やそうと考えています。現場の制作体制のさらなる効率化を実現して、その脇で色々自分の勉強やらラクガキやらができる時間を作り、新しい創作に取り組むつもりです。現状の自分に許された枠内での“発信”もしなければ、と。
 発信と言っても、世間に対して身の程知らずに挑む言論活動のことではありません。自分にとって“時間”はお金より大切なので、大して影響力のない舌戦を発信などしている時間ありませんから。まずは集めた人たち(スタッフ)とちゃんと給料を払えるように作品を作ること。これだけは外せません。その責任を全うしつつ、少しだけでも許された時間を大切に使って、短いオリジナルのMVみたいなものを作ろうと思います。内容はなんでもいいか……というより、とにかく現場の人手&力不足を補う原画陣フォローではなく、“自分の作画”仕事をしたいので、「何かメッセージを伝える話」より先に久し振りに純正な作画のをみっちりやりたくて、短いフィルムをまずやりたい! 脚本や物語優先で出来る作品ではなく。

 創作的にもう一息アグレッシブな50代にしたいと思……いや、します!

残りの人生(時間)を丁寧に消化していかなければ、生んでくれた両親に申し訳ないので!

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 172】
今こそ観よう、今こそ語ろう『老人Z』

 2024年3月16日(土)に新文芸坐で『老人Z』を上映します。監督が北久保弘之、原作・脚本・メカニックデザインが大友克洋、キャラクター原案が江口寿史。さらにもう一人のメカニックデザインとして磯光雄が、美術設定として今 敏が参加するなど、豪華スタッフによる作品で、老人介護とロボットをモチーフにしたアクションアニメというコンセプトも秀逸。1991年に劇場公開されました。
 上映後に北久保弘之監督によるトークを予定しています。聞き手はアニメスタイル編集長の小黒が務めます。

 チケットは3月9日(土)から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 172】
今こそ観よう、今こそ語ろう『老人Z』

開催日

2024年3月16日(土)18時~  

会場

新文芸坐

料金

一般 1900円、各種割引 1500円

トーク出演

北久保弘之(監督)、小黒祐一郎(聞き手)

上映タイトル

『老人Z』(1991/80分/35mm)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

アニメ様の『タイトル未定』
431 アニメ様日記 2023年8月27日(日)

2023年8月27日(日)
「第208回アニメスタイルイベント 沓名健一の作画語り 2023年夏」を開催。出演は沓名健一さん、ちなさん、そして、僕。関係席のメンバーがやたらと豪華。ちなさんが作ってきてくれた年表がとてもよかった。充実したイベントになったと思う。

2023年8月28日(月)
仕事の合間に、蔵元居酒屋 清龍 南池袋店で一人吞み。自分以外の客は常連らしきお爺さんが一人いるだけだった。昼間の居酒屋で、店長とお爺さんがのんびりと話をしていて、いい雰囲気だった。取材の予習で『うる星やつら いつだってマイ・ダーリン』を観た。取材と関係ないけど、Disney+で『シンデレラ』 4K UHDを少し観た。映像は落ち着いた感じ。いわゆる4Kのイメージではないけれど、これはこれでよいのではないかと。

2023年8月29日(火)
以下はTwitterに書いた話。
…………
先週の話になりますが、Netflixの『範馬刃牙』を最終回まで視聴しました。観る前はどうかな? と思っていた「地上最強の親子喧嘩編」もよかった。小黒としては原作よりもずっと楽しむことができました(連載で読んだ時との比較です)。アニメ『範馬刃牙』では原作の単行本38巻分を全39話で映像化しているはず。つまり、だいたい1話で単行本1冊の内容を消化しているわけです。この圧縮具合が面白さに繋がっているのだと思います。勿論、面白いのは圧縮しているからだけではないですが。第2部「バキ」も原作を圧縮している感じがいいと思いましたが、今回のほうが圧縮率が上がっていますね。第2部「バキ」は原作31巻分を38話かけて映像化しているはずです。
…………
WOWOWでやっていた「最新作公開記念!「映画クレヨンしんちゃん」28作品一挙放送だゾ!」の『嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦』『嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス』『バカうまっ! B級グルメサバイバル!!』を流し観。『クレヨンしんちゃん』の映画って、劇場で観ると「今回は傑作だ」とか「脚本が甘い」とか、一本の映画としてどうかという目線で観てしまうんだけど、こうやって観ていると『クレヨンしんちゃん』なんだからユルくてもいいじゃん、という気がしてくる。それはそれとして、もっとシッチャカメッチャカな『クレヨンしんちゃん』も観てみたい。

2023年8月30日(水)
この日は高橋久美子さんの取材だった(後日追記。「高橋久美子アニメーションワークス」のための取材だった)。僕にとっては17年前にできなかった取材が、かたちを変えて実現したかたちとなる。当時取材が実現したとしても、この日の取材ほど、輪郭がはっきりした内容にはならなかったはず。取材で使ったのが、珈琲西武 本店の個室。店が移転するので、ここの個室を使うのもこれが最後だ。取材のついでに店の名物らしいカレーかオムライスを食べようかと思っていたのだけれど、時間的にも気持ち的にもそんな余裕はなかった。
取材の前に『桜蘭高校ホスト部』の頃のアニメディアの記事をチェックした。アニメーターを取り上げる連載で高橋久美子さんが取り上げられていたのだ。たった2ページに作品歴から高橋さんの机の上にあるものまで、情報がギッチリ詰まっているのに感心する。編集者(とライターかな?)の作品愛も感じられた。
取材の予習で『CITY HUNTER 2』を視聴した。本放映時にはそれをおかしいとは思わなかったけど、美女達のセリフで「もっこり」という言葉が連発されていて、それだけで可笑しい。
以下は取材と関係ない話。「機動戦士ガンダム サンダーボルト 22 アニメ原画BOOK付き限定版」を購入した。原画集はページ数は少ないけれど、本のサイズも大きいし、セレクトもよかった。

2023年8月31日(木)
グランドシネマサンシャインで『マイ・エレメント』【吹替版】を鑑賞。予告編の印象がいまひとつで、観る気はなかったのだけれど、SNSで好意的な感想をいくつか目にして観ることにした。平日昼間の回で小さなスクリーンではあったけれど、6割~7割は埋まっていた。作品の感想としては「とにかく練ってある」。お話も練っているし、小ネタ(火の能力を使って水漏れしているパイプを溶かして直すとか)の質も量も凄い。物語の大筋についても小ネタにしても、アイデアを沢山出して上手に取捨選択したのだろう。お説教くさくなっても仕方がないモチーフだけれど、お説教くささよりも面白さが勝っている。アニメーションとしてもよかった。映像的な見どころも多い。キャラクターとしては主人公の女の子(エンバー)の蓮っ葉な感じと、素直さが共存しているのがいい。キスシーンがよかった。設定ゆえだけど、ちゃんとドキドキするキスシーンになっていた。水害が起きた理由とか、最後に彼氏(ウェイド)が生き返った理由についてはもうちょっと説明があってもよかったのではないかなあ。
夕方から、ライターの小林治さんと打ち合わせを兼ねて吞む。

2023年9月1日(金)
午前2時半くらいにドイツにいる沓名さんとLINEでやりとり、午前8時過ぎにスイスに向かっている(?)吉松さんからLINEでメッセージが届く。14時にスタジオジブリに。ジブリ作品に関連した仕事をやっているわけではなくて、ジブリとは関係ない仕事で用事があったのだ。世間話も有意義だった。夕方は事務所スタッフと営業を再開した築地食堂源ちゃん 東池袋店で食事。お店のスタッフは全員が入れ替わっていて、10数年いたはずの板前さんもいなくなっていた。それは残念だけど、再開してくれたのはありがたい。
Netflixの実写『ONE PIECE』の視聴を開始。まだ1話の途中だけれど「『ONE PIECE』を観ているぞ」という感じが強い。それが凄い。

2023年9月2日(土)
「第209回アニメスタイルイベント ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』2 【「枕草子」には本当は何が書かれているのか? 裏にあった事態をその文章から読み解く 編】」を開催。制作中のパイロットフィルムの一部というかたちで、本編の映像を観ることができた。今までのイベントで、ずっと作品についての話を聞いてきたわけだけど、映像を観ることができて、ちょっと安心した。

第841回 コンテチェック終了

ハイ、本日最終話のカッティング(編集)終了しました!

 当然、その前にコンテも全話チェック終了しました。今作は前作『いせれべ(異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する)』同様、社内の監督&各話演出にコンテを全部振って、こちらで全面的にチェック・修正・所々描き直しして、総監督・板垣のほうでコンテ決定稿を作っています。社内のコンテ・演出が育つまで頑張るしかありません。
 何年か前にも話題にしたと思いますが、経年数や現状の会社などを鑑みて改めて説明をすると、監督にとって

コンテとは、自分がゼロから切る(描く)コンテと、他人のコンテを修正して使う、の2種類!

があります。
 前者の自前コンテは脚本と設定に従っている限り、比較的好きに描けます(出﨑統監督はコレが楽しいのでしょう)。それに対し後者の場合、つまり他者のコンテを直す場合は、素で7~8割使える上りであれば間違いなく“振った甲斐”があるし、心底有難いモンです! ところがその逆、“7~8割描き直し必須”な素上りを目にした時、監督の目は血走ります! それくらい“他者コンテの使える箇所を探して1本に繋げる”作業は本当に苦痛です。ハッキリ楽しくはありません!

これこそ正直「結局ゼロから描いた方が早かった!」と思わされるコンテも屡々!

 監督にもよると思います。「基本的に他人に振ったからにはそのまま使う!」という監督もいらっしゃいます(ここ近年は減ったかも?)。
 それに対し板垣は他の監督より比較的手を入れて使うほうかも知れない、と最近自覚しました。大体「たくさんコンテ描きたくて監督になった」ような人間ですから、本音を言うとその“楽しいコンテ”を人に任せること自体が嫌なんですよね。ただ、作画・美術・撮影などをより良いモノにしようとすると、他者のコンテを認めざるを得ない、という物理的な問題もあるのです。
 それと、たとえ監督自ら毎週1本ずつコンテを上げ続けることができても、各話演出を制御しきれないというのが実感です。なぜなら、監督自前のコンテを他者(この場合各話演出)に渡す際、その“話の根幹”“各キャラの心情”“各シーンの場面設定”などを一気に説明して理解してもらう必要があるからで、この説明・解説が本当に苦労します。苦労した割に作画や処理の指示・リテイクがおざなりになりがちです(己のコンテじゃないフィルムなんて、当然流し作業になりやすい……)。
 ところが、各話演出に“コンテから振る”と、前後の脚本を読みキャラやシーンの繋ぎも探った上で、その話数に取り掛かってくれる(ハズ。でないとそもそもコンテ切れないから)ので、たとえ監督のほうで“コンテ全修”することになろうとも、その後各話演出に理解を促しやすいです。一旦は、コンテで一とおり演出作業をしていますし、話自体が変わることはそーそーありませんから。
 よって、まだまだ未熟で手が掛かったとしても、できるだけ板垣は“コンテ・演出”で受けてくれるウチの社内の若手にのみコンテを振りたい訳です。