COLUMN

『タイガーマスク』を語る
第3回 第5クール~第8クール

第5クール(第53話~第65話)
 第56話から第58話がブラックV関連のエピソードで、この3本はアレンジを加えているが、原作に沿ったものだ(原作ではタイガーの弟分として大谷鉄平が登場するが、アニメではその存在はない)。第5クールで原作を使ったのはこの3話だけで、他は全てオリジナルのエピソードである。
 第53話でオリジナルキャラのザ・ミラクルズが登場。彼等は虎の穴の一員であり、第6クール途中までサブレギュラーキャラとして登場する。第61話がオリジナルの敵であるブラックパンサー登場の布石となるエピソードで、第62話でタイガーがブラックパンサーの存在を知り、第65話でブラックパンサーと戦う。
 強敵との戦いのエピソードの合間に第55話「煤煙の中の太陽」、第60話「虎とへんくつ医者」、第61話「王将の道」、第63話「めりけんジョー」、第64話「幸せの鐘が鳴るまで」といった「直人と市井の人々とのドラマ」を描いた大人びたタッチの傑作が連続して生み出される。強敵との戦いと「直人と市井の人々とのドラマ」が組み合わされているのが、第5クールのカラーだ。
 前回も触れたように第4クールの第52話「此の子等へも愛を」は被爆者家族が登場するエピソードであり、第55話「煤煙の中の太陽」では四日市の公害を、第64話「幸せの鐘が鳴るまで」では交通遺児をモチーフにしている。直人と市井の人々の関係を描いたエピソードではないが、第54話「新しい仲間」は過保護がモチーフだ。この第52話、第54話、第55話、第64話に関しては社会的な問題を取り入れていることが興味深いが、むしろ、この4本のエピソードを通じて「伊達直人の無力」を描き、さらに「一人の人間が恵まれない人達に対してできることは何なのか」というテーマに辿り着いていることが『タイガーマスク』という作品にとって重要だ。第64話が「人間・伊達直人」のドラマのクライマックスである。それについては、このコラムの次回以降で語る予定だ。

第6クール(第66話~第78話)
 第6クールは、ここまでのアニメ『タイガーマスク』の集大成として作られたと思われるシリーズだ。全てのエピソードがアニメオリジナルで、原作を使った話は1本も無い。
 第6クールでは第14話で登場し、その後、直人を陰で支え続けてきた大門が覆面レスラーのミスター不動としてリングに立ち、第28話で登場してタイガーに対して敵意を抱いてきた高岡拳太郎がイエローデビルとしてタイガーに挑む。虎の穴の三人の支配者がブラックタイガー、ビッグタイガー、キングタイガーのビッグ3であることが判明し、タイガー&ミスター不動はビッグ3と死闘を繰り広げる。ミスター不動も、イエローデビルも、ビッグ3もアニメオリジナルのキャラクターだ。
 話数毎に振り返ってみよう。第66話は総集編的な内容で、直人の回想の中でビッグ3の存在が明らかになる。第67話で高岡拳太郎がイエローデビルとしてアメリカで活動を始め、その一方で、タイガーは虎の穴の若きレスラーであるナチス・ユンケル、キングジャガーと、それぞれ第69話、第71話で戦う。第71話ではセコンドに付いていたザ・ミラクルズが試合に乱入し、止めに入った馬場、猪木、他のレスラー達をなぎ倒すという大乱戦の中、観客として試合を見ていた大門が(何と背広姿で)リングに上がり、タイガーと共にザ・ミラクルズを倒す(第71話はシリーズ屈指の痛快エピソードだ)。それをきっかけに第72話から大門はミスター不動として活躍するようになる。
 第73話でイエローデビルがタイガーによって倒され、第74話で拳太郎は自分が虎の穴に騙されていたことを知る。そして、拳太郎も虎の穴を裏切り、正統派レスラーのケン・高岡としてリングに立つことになる。孤独な戦いを続けてきた直人だが、ここで大門、拳太郎という仲間を得たのだ。
 第75話終盤でビッグ3がタイガーに挑戦状を叩きつける。第77話がタイガー&ミスター不動と、ビッグタイガー&ブラックタイガーのタッグマッチだ。この試合でミスター不動は自らの命を投げ出して、ビッグタイガーとブラックタイガーを葬る。第78話はタイガーマスクとキングタイガーのシングルマッチで、タイガーは激闘の末にキングタイガーを倒すが、その頃、大門は病院で息を引き取っていた。
 第75話でビッグ3が物語の全面に出てから第77話までの緊張感、ドラマの盛り上がりは素晴らしいものだ。この数話のために、ここまで物語を積み上げてきたのだろう。第5クールにあれほどあった「直人と市井の人々とのドラマ」が、第6クールでは一切無くなっている点にも注目したい。

第7・8クール(第79話~第105話)
 新たに「虎の穴のボス=ミラクル3=タイガー・ザ・グレート」という強敵が設定され、彼との対決に向けて改めて物語が積み上げられていく。虎の穴のボスも、タイガー・ザ・グレートもアニメオリジナルの存在だ。第6クールでは原作を使ったエピソードが一切無かったが、第7・8クールでは原作に登場する敵レスラーや試合をアレンジして使っている。第1クールにあった「虎の穴が差し向けた殺し屋がリングの外で直人を狙うエピソード」が復活するのも第7・8クールの特徴だ。話数としては第85話、第88話、第103話である(3本とも辻真先が脚本を担当)。
 それまで謎めいた存在であった虎の穴のボスが、第79話で初めてミスターX達に顔を見せ、タイガーマスク打倒のために直接指揮を取るようになる(なお、それまでにボスが登場したのは第28話、第75話、第78話だ)。ボスは第91話で来日し、覆面レスラーのミラクル3として人々の前に姿を現し、第92話から自分の強さを直人と観客にアピールしていく。そして、第101話で名と姿を変え、タイガー・ザ・グレートとしてリングに立つ。そして、タイガーの弟分として活躍していたケン・高岡を倒すのだった。
 ミラクル3は原作に登場する同名レスラーをアレンジしたキャラクターだ。原作のミラクル3も、力と技と反則を兼ね備えたレスラーとしてタイガーの前に立ち塞がるが、実は技に優れたレスラー、怪力のレスラー、反則魔のレスラーが、三人で一人のレスラーを演じていたことが判明。とんだインチキレスラーであった。それに対して、アニメのミラクル3は本当に力と技と反則を兼ね備えたレスラーなのである(ただし、反則の使い手としての実力を見せるのは、タイガー・ザ・グレートとなってからだ)。
 第102話で直人は自分がタイガーマスクであることをルリ子に明かし、第103話で直人の宿敵であったミスターXが命を落とす。第104話と第105話(最終回)がタイガーマスクとタイガー・ザ・グレートの決戦だ。流血に次ぐ流血の激闘の中、タイガーはその素顔を人々に曝すことになり、テレビで中継を観ていた健太達も、直人がタイガーであったことを知ってしまう。タイガーは反則の限りを尽くし、タイガー・ザ・グレートを倒す。遂に伊達直人の長い戦いに決着が着いたのだ。しかし、反則を犯してリングを血に染めたのは許されることではない。直人はルリ子や健太達に別れを告げることもせず、日本を去るのだった。
 最終回でタイガーマスクの正体が明らかになることの布石が、かなり前から打たれている点にも触れておこう。健太がタイガーの正体を知りたがるのが第80話。第81話と第82話では敵レスラーが、リングでタイガーのマスクを剥がそうとする。再び健太がタイガーの素顔を知りたがるのが第96話で、その時は直人がタイガーと同じ場所に包帯を巻いていることに気づいてしまう。以上を踏まえて第102話、第105話の展開となるわけだ。
 ボスがタイガーのウルトラ・タイガー・ブリーカー攻略は容易いと断言したのが第79話、実際に彼がウルトラ・タイガー・ブリーカーを破るのが第104話だ。これも布石を打ってから、実現までに時間をかけた『タイガーマスク』ならではのシリーズ構成だ(余談だが、すでに第73話でイエローデビルがウルトラ・タイガー・ブリーカーを破っている。キングタイガーもその直後に自滅しているとはいえ、第78話でウルトラ・タイガー・ブリーカーを破っており、ボスが初めて破ったわけではない)。
 虎の穴のボスの登場からタイガー・ザ・グレートと決戦までが、ヒーローである「伊達直人=タイガーマスク」の活躍を描いた第7・8クールの本筋である。そして、それと並行して、ちびっ子ハウスの個々の子供にスポットが当てられて「みなしごがいかに生きるべきか」が語られる。これが第7・8クールの重要なポイントだ。具体的にはミクロの親戚が見つかり、彼女がハウスを去る第83話。ヨシ坊が裕福な夫婦に引き取られる第89話。クラスメートにみなしごは勉強ができても出世はできないと言われた健太が、そのことを直人に問う第93話。第89話でヨシ坊はハウスに戻っているのだが、第100話では彼の本当の両親が現れる(第20話でも、ヨシ坊の母親が現れているが、その時は人違いであることが分かった。ヨシ坊がハウスを去るかどうかが描かれた話が三度もあるのだ)。第100話のラストにおける直人のモノローグで語られたことが「みなしごがいかに生きるべきか」についての結論であり、それはアニメ『タイガーマスク』における「人間はどのように生きるべきか」についての結論にもなっているはずだ。

 『タイガーマスク』は第6クールで完結する予定で制作が進められており、しかし、更なる放映延長が決まって第7、第8クールが作られたのだろう。スタッフ達が第6クールで完結寸前まで進んだ物語を、第7クールで再スタートさせ、次のクライマックスである第8クール終盤に向けて物語を積んでゆき、傑作と評される最終回に辿り着いたことは賞賛に値する。しかし、アニメ『タイガーマスク』の物語が本当の意味で充実しているのは第5クールから第6クールにかけてである。そのことは強く、主張しておきたい。

●『タイガーマスク』を語る 第4回 第50話「此の子等へも愛を」 に続く

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