いま世間を騒がせているSMAPの独立問題にはさほど関心のない僕だが、渦中の木村拓哉が撮影中だという実写劇場作品「無限の住人」については気になる。原作マンガは沙村広明の処女作にして代表作であり、沙村作品ならば無条件ですべて購入する僕としては、この劇場作品の成功によって沙村広明の名が高まることを期待してしまうのだ。木村は撮影で靭帯を負傷しながらも、痛み止めの注射を打って100人斬りの殺陣に挑んだというから、その本気ぶりも伝わってくる。監督は三池崇史で、公開は2017年の予定だ。
さて、2016年最初の記事は『学戦都市アスタリスク』のサントラを紹介しよう。ラスマス・フェイバーが初めてアニメの劇伴を担当した作品ということで、個人的に大いに注目していた1枚だ。そもそも日本のアニメで外国人の音楽家が劇伴を担当することは珍しく、過去には『幻魔大戦』におけるキース・エマーソンの例などもあるが、かなりのレアケースである。
ラスマス・フェイバーはスウェーデン出身の36歳。ジャズピアニストを起点とするその活動は多岐に渡るが、日本におけるインパクトで考えると、まず2003年の「Ever After」を中心とする一連のソロ楽曲が支持されたことを挙げたい。ボサノバやジャズの要素を取り込んだお洒落なハウスミュージックは、一時期都内のカフェやファッションビルにおけるBGMの定番だった。「Ever After」は特にこの日本で受け入れられ、同曲を収録した日本企画の配信盤「So Far」がリリースされたほどだ。
それから、2009年から始まった「プラチナ・ジャズ」シリーズにより、アニソンの名曲をビッグバンドジャズに編曲する試みで一躍アニメファンにもその名を知られる存在となった。アニソンのインストアレンジは古くから様々な企画盤がリリースされているが、「プラチナ・ジャズ」はラスマスと親交のあるミュージシャンを多数起用し、洗練された編曲と高度な演奏技術で話題となった。
そして2012年には『輪廻のラグランジェ』のオープニング主題歌「TRY UNITE!」「マーブル」を中島愛に提供し、アニソン作家としても知られるようになった。彼は以前から日本のアニメ音楽(特に菅野よう子)からの影響を公言していたので、現在のような日本重視、アニメ重視の活動を当初から想定していたのだろう。本盤のブックレットに寄せた本人のコメントには「やっと夢が叶った!」「ずっと前から日本のアニメの劇伴を手掛けたいと強く思っていた」とあり、ラスマスにとって劇伴は待望の仕事だったことが分かる。
CDは昨年12月23日にリリースされており、全25曲で51分と最近のアニメサントラにしてはコンパクトな内容。坂本真綾が歌うエンディング主題歌「Waiting for the rain」のTVサイズも収録されている。
本盤の全般的な楽曲傾向は、劇伴としてとてもオーソドックスなものだ。1曲目に番組全体のテーマソング「Asterisk War Main Theme」を配して第1話から要所に用い、このメロディの変奏である24曲目「Determination of Ayato」は主人公・綾斗のテーマソングとなっている。また各ヒロインにはライトモチーフ的にテーマが作られており、ユリスには22曲目「Julis’ Theme(piano version)」、クローディアには14曲目「Claudia’s Melancholy」、綺凛には7曲目「Bravery of Kirin」といった楽曲が当てがわれている。特に「Julis’ Theme(piano version)」は最終話前半の長いモノローグシーンで効果的に使用されていた。
特筆すべきはアレンジバリエーションの豊かさで、綾斗が剣を振るうシーンなどに用いられた2曲目「Ready Your Blade」は華々しい金管のコラールからシンセと打ち込みのビートが加わって力強く展開していくし、4曲目「Stinger Blitz」はストリングスのトレモロで緊迫感のある雰囲気を出しながらも、途中から開放的なコード進行でガラッと異なる雰囲気に、13曲目「Rise of the Phoenix」はまるでラベル「ボレロ」のクライマックスのような盛り上がりを見せてくれる。豊富な素材が1曲の中に詰め込まれていて、どんどん展開していくため聴いていて飽きることがない。
もっとも本盤の制作にはラスマス本人の他に、「プラチナ・ジャズ」でピアノを担当しているマーティン・ランストロムなど3名の作曲者が名を連ねており、編曲にも3名のミュージシャンが関わっている。バリエーションの豊富さはラスマスの才能だけではなく、これら多くのミュージシャンのサポートがあったから、と考えるべきだろう。またクレジットを見る限り、参加ミュージシャンのほとんどはスウェーデン人で占められており、その点でもとても珍しいサントラだ。金管はトランペットのみ、木管はクラリネットのみ、ストリングスは4名のみという少人数による録音だが、恐らくは多重録音を駆使したのだろう。抑揚のあるダイナミックなサウンドに仕上がっている。(和田穣)
学戦都市アスタリスク オリジナルサウンドトラック (音楽:ラスマス・フェイバー)
VTCL-60416/3,132円/フライングドッグ
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