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アニメ音楽丸かじり(173)
遂に登場! 『〈物語〉シリーズ』主題歌コンピレーション盤は現在ヒット中!

 ここ2週間ほど風邪をこじらせて体調が悪いのだが、そんな中さらに気持ちが沈むニュースが飛び込んできた。1月24日の「リスアニ!LIVE 2016 SUNDAY STAGE」で発表された、川田まみの年内での歌手活動引退である。5月21日にファイナルライブが開催されることも発表になったのだが、その会場が東京ドームシティホールというのもやや切ない。キャパシティ3000程度の会場であり、数々のヒット曲を持つ川田まみのファイナルともなれば、もっと大々的にやってほしいと思ってしまうのだ(チケットも取りにくいし)。しかもKOTOKO、fripSide、黒崎真音という豪華ゲストを迎えてのことだから、なおさらである。
 島みやえい子、KOTOKO、詩月カオリがI’veを去り、MELLが活動休止した現在、川田まみはI’veの最古参シンガーであり、筆頭歌手と言っていいだろう。その彼女が引退するとなると、I’veの活動も変質を迫られてくるはずだ。たとえばsupercellのようにゲストボーカルを迎える体制になる可能性や、あるいは作家集団として作編曲のみに特化していく可能性もあるだろう。今後のI’veに注目していきたい。

 さて今回は、1月6日にリリースされた「歌物語 ―〈物語〉シリーズ主題歌集―」を紹介していきたい。1月18日付のオリコンチャート週間ランキングで、6.6万枚を売り上げ1位にランクインしたヒット作品だ。アニメのコンピレーション盤が週間ランキングで1位を獲得したのは、2010年の「ONE PIECE MEMORIAL BEST」以来だというから人気のほどがうかがえる。
『〈物語〉シリーズ』の関連楽曲といえば、エンディング主題歌は大半がシングルカットされてきているが、オープニング主題歌はこれまでBlu-ray/DVDの特典扱いとなってきた経緯がある。2011年12月に「化物語音楽全集 Songs&Soundtracks」がリリースされ、『化物語』の主題歌は網羅されているのだが、その他のシリーズの楽曲は入っていない。また主題歌のみで構成されたCDはこれまでリリースされておらず、今回のコンピレーション盤は待望の商品化と言えそうだ。
 パッケージは完全生産限定盤(BD)、完全生産限定盤(DVD)、通常盤の3種類が用意されている。通常盤は2枚組、完全生産限定盤は3枚組の構成で、ノンクレジットOP・EDを収録したディスクが同梱されている。また完全生産限定盤には作詞・作曲を担当したmeg rock、神前暁、ミトによる楽曲解説が入っている。解説の文章は短いものの、初出の情報もあってファンには興味深い内容だろう。ちなみに僕が購入したのは完全生産限定盤(BD)だ。
 商品の外観は原色を多用したポップなもので、ブックレット、CD盤面、リアジャケットがそれぞれ異なる色使い。シャフト作品らしさ、『〈物語〉シリーズ』らしさがよく表現されている。購入を検討している方は、「歌物語」の公式サイトで外観もチェックしておくといいだろう。
 CD構成は、『化物語』『偽物語』『猫物語(黒)』『〈物語〉シリーズ セカンドシーズン』という4作品の主題歌をまとめたもの。ファンならご存知のとおり、『セカンドシーズン』は『猫物語(白)』『傾物語』『囮物語』『鬼物語』『恋物語』という5つの物語から構成されている。それ以降のシリーズである『憑物語』『暦物語』『終物語』などで制作された新曲は収録されていないので、注意が必要だ。つまりは残念ながらコンプリート盤ではないのだが、今後もシリーズが続いていくことを考えると、第2集のリリースも十分にあり得るだろう。また、本盤にはシリーズ全体の中でも知名度の高い「恋愛サーキュレーション」「君の知らない物語」「白金ディスコ」といった人気曲が含まれているのもポイントだ。もちろん、全曲フルサイズでの収録となっている。

 それでは収録曲を見ていこう。まずはディスク1の1曲目から5曲目まで、アニメ第1作である『化物語』のオープニング主題歌が並ぶ。作曲はすべて神前暁によるものだが、作風はそれぞれまったく異なるのが面白い。アコースティックギターが爽やかな「staple stable」(戦場ヶ原ひたぎ)、いわゆる電波ソング的な「帰り道」(八九寺真宵)、ストレートなパンクロック調の「ambivalent world」(神原駿河)、可愛らしいラップをフィーチャーした「恋愛サーキュレーション」(千石撫子)、ドラマティックに転調を繰り返す「sugar sweet nightmare」(羽川翼)など、各キャラクターの特徴を活かしつつもキャッチーな仕上がりだ。
 ゴールドディスクに認定されたsupercellのヒット曲「君の知らない物語」を挟み、7曲目からは「二言目」(戦場ヶ原ひたぎ)、「marshmallow justice」(阿良々木火憐)、「白金ディスコ」(阿良々木月火)と『偽物語』の楽曲が並ぶ。「二言目」は「staple stable」の、「marshmallow justice」は「ambivalent world」の、それぞれアンサーソングとして作られており、火憐が神原をリスペクトしていることが楽曲面からも表現されている。ハイライトは9曲目の「白金ディスコ」で、祭り囃子のような和風のサウンドに、ミトのファンキーなベースが絡む賑やかな楽曲だ。11曲目「perfect slumbers」は『猫物語(黒)』のオープニング主題歌。作曲者の神前暁いわく「大変気に入っている曲」で、「フォークとブリティッシュをミックスしたような趣味全開のバラード」だそうだ。メジャーとマイナーを行き来するコード進行が特徴的で、slumber(まどろみ)というタイトルどおりの幻想的な仕上がりになっている。
 ディスク2は主に『〈物語〉シリーズ セカンドシーズン』の楽曲で構成されている。技巧を凝らした転調を楽しめる「chocolate insomnia」(羽川翼)、モータウン風の明るい曲調が逆にストーリーの切なさを際立たせる「happy bite」(八九寺真宵)、ミトが作曲で参加したロック調の「the last day of my adolescence」(神原駿河)、ボサノバ風のリズムと花澤香菜の声のマッチングが心地いい「もうそう♡えくすぷれす」(千石撫子)など、こちらもバリエーション豊かな仕上がりで飽きさせない。
 『セカンドシーズン』では異色の試みがふたつ行われている。まずは『鬼物語』のオープニング主題歌「white lies」が、シリーズ初のインスト曲となっていること。ストリングスに合唱まで加えた分厚いサウンドに、5拍子の変則リズムによるサビがスリリングだ。それから「fast love」(戦場ヶ原ひたぎ)、「木枯らしセンティメント」(戦場ヶ原ひたぎ、貝木泥舟)の2曲が同じメロディであること。特に後者では、わたせせいぞう感に溢れた映像とも相まって、なんとも1980年代テイストのオープニングに仕上がっていた。
 以上のように、本盤ではキャラクターに応じた作風の使い分けと、キャッチーなメロディを両立させた神前暁のセンスが光る内容となっており、「神前暁ヒット曲集」としても楽しめる構成だ。近作である『憑物語』や『終物語』の主題歌は主にミトが担当しているため、今後コンピレーション盤の第2集がリリースされたとしても、そちらは神前暁の楽曲中心にはならないだろう。そういった意味では、本盤は神前暁と『〈物語〉シリーズ』が共にノリに乗っていた時期の、「どんな曲調でもやってやる!」という冒険心と熱量を封じ込めたパッケージとなっている。極上の無国籍料理とも言うべき、クオリティの高さとバラエティの豊かさの両立を楽しめるはずだ。一方で、あまりにも多彩な楽曲が詰まっているため、音量や聞こえ方の面でアルバムとしての統一感はない。その点はあらかじめご注意いただきたい。(和田穣)

歌物語 ―〈物語〉シリーズ主題歌集―

完全生産限定盤(BD) SVWC-70125~70127/4,298円/アニプレックス
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完全生産限定盤(DVD) SVWC-70128~70130/3,758円/アニプレックス
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通常盤 SVWC-70131~70132/3,218円/アニプレックス
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