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アニメ音楽丸かじり(165)
1972年の音がいま蘇る! 初出音源たっぷりの『海のトリトン』サントラが登場!

 10月から放映開始となるTVアニメ『学戦都市アスタリスク』に注目している。というのも、あのラスマス・フェイバーが初めて劇伴を担当することが決まっているからだ。「プラチナ・ジャズ」シリーズや、中島愛の「TRY UNITE!」「マーブル」など『輪廻のラグランジェ』関連曲、坂本真綾のコンセプトアルバム「Driving in the silence」など印象的な仕事をこなしてきた人物。本人名義のアルバムも何枚か持っているが、基本的にはハウスとジャズの作家だと思っていたので、どのような劇伴を作るのかまったく想像がつかず、それゆえに楽しみでもある。坂本真綾が歌うエンディング主題歌「Waiting for the rain」も作詞・作曲の両方を担当するとのことなので、そちらも注目したいところだ。

 さて今回は、発売から少し時間が経ってしまったが、7月29日にリリースされた『海のトリトン』オリジナル・サウンドトラックを購入したので、これについて書いてみたい。このCDはColumbia Sound Treasure Seriesと題されており、日本コロムビアが過去の名作の中から、未商品化・未CD化の音源を発掘していくシリーズの一環となっている。2枚組に63曲を収録した103分の内容で、CDとハイレゾ音源配信のほか、なんと完全生産限定盤として2枚組アナログレコード(LP)も発売されている。LPは今後入手できるチャンスが少ないと思われるので、マニア諸氏は買えるうちに買っておくべきだろう。
 CDの構成を説明すると、まずディスク1は1979年8月にリリースされたLPレコード「海のトリトン テーマ音楽集」の復刻リマスター盤となっている。このLPは同年の劇場版公開に併せてリリースされたものだが、TVシリーズが放映された1972年から7年も経過しての劇場版公開は、『海のトリトン』のプロデューサーを務めていた西崎義展が後に『宇宙戦艦ヤマト』を大ヒットさせて名声を高めたことが大きい。実際にこの劇場版は、『宇宙戦艦ヤマト』『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』の再上映企画「宇宙戦艦ヤマト・フェスティバル」にて両作と同時上映されたものだ。ちなみに『海のトリトン』劇場版はTVシリーズを再編集したものなので、BGMもTVシリーズと共通のものが使われている。
 ディスク1の収録曲は、2曲目にオープニング主題歌でヒデ夕樹が歌う「海のトリトン (GO!GO!トリトン)」のTVサイズ、3曲目に第1話冒頭に流れた「進め!トリトン」を配し、4曲目が第2話ラストに使用された「遥かなる海の彼方に」、5曲目が第1話に流れた「追憶」と、物語序盤の主要な楽曲が並んでいる。「進め!トリトン」の勇ましいトランペットや、「遥かなる海の彼方に」のたおやかなオーボエとハープのグリッサンド、「追憶」におけるエレピの使用など、海洋冒険ものアニメにおけるBGM作法の先駆的な一例と言えるだろう。これら生楽器のアンサンブルによって、容易に海をイメージできるような楽曲を揃えているのが『トリトン』サウンドの特徴だ。13曲目「海に眠るアトランティス」や16曲目「海」、30曲目「穏やかな海」、31曲目「北の海」と海をテーマにした曲の豊富さと、そのバリエーションの豊かさも聴きもの。ディスク1は、最終話クライマックスに使用された33曲目「そしてまた少年は旅立つ」の、勇壮なマーチの響きによって締めくくられている。
 そしてディスク2は「海のトリトン テーマ音楽集II」と題されており、本盤のセールスポイントである初商品化の音源がたっぷりと収録されている。内訳は未発表BGMが14曲、場面のつなぎに使用されたブリッジ集が4曲20トラック、主題歌「海のトリトン (GO!GO!トリトン)」のTVサイズバージョン違い(冒頭のSEが入っていないもの)が1曲だ。さらに21曲目にはボーナストラックとして、トリトンが吹くホラ貝などの効果音も収録。22曲目には「M/E Tracks」と題して、マスターテープの所在が不明なBGMのうち、M/Eテープから復元可能な3曲を収録してある。M/Eテープとは、アフレコ音声の収録されていない、音楽と効果音だけの状態のテープだ。
 これで終わりではない。ディスク2には「海のトリトン ソング・コレクション」と題して歌もの一式まで収録されている。オープニング主題歌「海のトリトン (GO!GO!トリトン)」と、当時リリースされた同曲シングル盤のB面「ピピのうた」、そして第6話までオープニンング主題歌として、以降はエンディング主題歌として使用された「海のトリトン」と、同曲のシングル盤B面「海のファンタジー」を収録。この4曲のフルサイズに加えて、それぞれのカラオケバージョンまで網羅されている。特に須藤リカとかぐや姫の歌唱による「海のトリトン」は、1979年のサントラLPにも収録されていなかったもの。勇壮で男らしい「海のトリトン (GO!GO!トリトン)」に比べて、こちらはフォークソング色の強いメロディアスな曲調となっている。かぐや姫メンバーの伊勢正三が作詞、南こうせつ作曲という豪華な布陣だ。
 なお注意点として、本盤では「海のトリトン ソング・コレクション」のみがステレオ録音であり、BGMはすべてモノラル録音となっている。個人的には聴取上特に問題を感じなかったが、モノラルが苦手な方は配信サイト等で事前に試聴しておくべきだろう。

 最後に全20ページのブックレットについても触れておこう。ディスク2の楽曲構成と、全楽曲解説は音響監督の吉田知弘が担当している。近年の『宇宙戦艦ヤマト』関連のサントラでは構成・解説としてお馴染みであり、かのYAMATO SOUND ALMANACシリーズを生み出した中心人物の1人だ。それだけに楽曲解説は使用場面に触れた丁寧なもので、4ページにわたって詳細に書かれている。さらにBGMの録音記録も掲載されていて、『海のトリトン』の音楽は1972年の3月に、3回に分けて録音されていたことが分かる。このうち第2回の録音が、マスターテープの一部が行方不明となったものだ。さらに演奏者のクレジットも、LP盤で漏れていたサックス・フルート奏者である村岡建の名前を、関係者と本人に確認をとった上で追加するという、実に丁寧な仕事ぶりである。
 以上のように、音源は現状で集められる限りのものを網羅した上でリマスターを施しており、ブックレットの記述も充実している。1972年の作品で、よくぞここまでのサントラを作り上げたものだと、制作に関わったスタッフには拍手を送りたい。本作においてもそうだったように、1970年代以前のアニメBGMについては、すでにマスターテープの散逸が始まっている。デジタル化しようにも、できなくなる日がいつか来てしまうことだろう。それまでになんとか、レコード会社各社はこれらの音源の意義について認識を新たにし、商品化に結びつけていただきたいものだ。(和田穣)

TVアニメ『海のトリトン』オリジナル・サウンドトラック(音楽:鈴木宏昌)

COCX-39174~5/3,780円/日本コロムビア
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