ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(164)
特集 全日本アニソングランプリを振り返る

 8月19日に『FAIRY TAIL』7月~9月期のオープニング主題歌で、小林竜之・鈴木このみのデュエット曲「NEVER-END TALE」が発売された。パワフルなロック調の楽曲で、余計な装飾の少ないサウンド作りは2人のボーカルに焦点を当てるためか。男女のデュエット曲の場合、1オクターブ開けてユニゾンしたり、3度や6度のハーモニーを作るケースが多いのだが、この曲では多くのパートが男女ユニゾンというのが面白い。つまり小林竜之のハイトーンを存分に聴かせるための作風となっているわけだ。

TVアニメ『FAIRY TAIL』オープニング主題歌「NEVER-END TALE」/小林竜之・鈴木このみ

EYCA-10540/1,944円/エイベックス・ピクチャーズ
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 小林竜之・鈴木このみと言えばご存知のとおり、全日本アニソングランプリの優勝者である。2007年から2013年まで毎年開催され、数多くのアニソン歌手を送り出してきた大会だ。昨年6月には、過去の優勝者7名によるユニットAG7名義での楽曲もリリースされた。しかし2014年の開催は見送られ、2015年についても音沙汰がない。このまま終了してしまうのか、あるいは数年に一度の大会として復活するのか、先行きが見えない情勢だ。今回は、過去の優勝者たちの最新シングルを紹介しつつ、大会の意義についても考えてみたい。

第1回大会(2007年) グランプリ 喜多修平

 記念すべき第1回大会のグランプリは喜多修平。数少ない男性の優勝者であり、これまで比較的順調に歌手活動を展開している。過去シングル10枚、アルバム2枚をリリースしており、コンスタントにタイアップも得ている。頻繁に各種イベントに参加しているほか、2013年には東名阪のライブツアーも経験ずみだ。歌えるだけではなく、作詞作曲も手がけており、イベントやラジオでは闊達な喋りもみせる。この多才ぶりが仕事につながっているのだろう。
 そんな喜多修平の最新作は、今年5月にリリースされた「RISE OF SOULS」で、『バトルスピリッツ 烈火魂』のオープニング主題歌となっている。アップテンポでストレートなロックソングであり、作詞も喜多本人によるものだ。

TVアニメ『バトルスピリッツ 烈火魂』オープニング主題歌「RISE OF SOULS」/喜多修平

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第2回大会(2008) グランプリ HIMEKA

 異色のカナダ人シンガーHIMEKAがグランプリを獲得したことは、アニメソングの国際化を象徴する出来事と言える。その話題性から、優勝直後は多くのメディアに取り上げられた。しかしながら歌手活動は苦労の連続で、シングル3枚、アルバム1枚を出したところでSony Music Japan Internationalとの契約が切れ、2012年に5pb.に移籍するもシングル2枚のリリースのみで2014年には契約が切れてしまう。フリーになったことでビザの更新ができず、昨年6月にはカナダに帰国してしまった。
 現時点での最新作は、2013年にリリースされた「カギリアルユメ」で、PS3/PS Vitaソフト「ローゼンメイデン ヴェヘゼルン ジー ヴェルト アップ」の主題歌となっている。この曲の歌唱では日本人歌手に劣らぬほど言葉を繊細に操っていただけに、いつか彼女がまた日本で歌う姿を見せてくれるといいのだが。「カギリアルユメ」という曲名があまりにも切ない。

PS3/PS Vitaソフト「ローゼンメイデン ヴェヘゼルン
ジー ヴェルト アップ」主題歌「カギリアルユメ」/HIMEKA

FVCG-1271/1,296円/メディアファクトリー
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第3回大会(2009) グランプリ 佐咲紗花

 佐咲紗花は、歴代優勝者の中でも順調にキャリアを積み重ねている1人だろう。これまでに毎年必ず1枚以上のシングルを出し、合計で10枚をリリース。オリジナルアルバム2枚、カバーアルバム1枚を世に送り出している。アニメソング以外にも、PCゲームやコンシューマーゲームの主題歌も数多く歌ってきている歌手だ。特筆すべきはライブ・イベント出演数の多さで、現在も海外を含めた各地のアニメイベントを飛び回っている。
 最新作は今年5月にリリースされた「DREAMLESS DIVER」で、喜多修平と同じく『バトルスピリッツ 烈火魂』のエンディング主題歌となっている。曲調は力強くアグレッシブなデジタルロックだ。

TVアニメ『バトルスピリッツ 烈火魂』
エンディング主題歌「DREAMLESS DIVER」/佐咲紗花

LACM-14345/1,296円/ランティス
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第4回大会(2010) グランプリ 河野マリナ

 第4回大会からは応募者数も1万組を超え、日本最大級のオーディション大会となった。激戦を勝ち抜いた河野マリナは、その後「〈物語〉シリーズ」セカンドシーズンのタイアップを3曲も得ており、ファーストアルバム「First Touch」は作詞こだまさおり、作曲神前暁という人気コンビからの楽曲提供で制作されるなど、恵まれた待遇を受けていると言っていいだろう。これまでにシングル3枚、アルバム1枚をリリースしているが、昨年・今年とシングルのリリースがないのが気になるところだ。ANIMAX MUSIXをはじめ、アニソンイベントには数多く参加している。
 最新シングルは2013年10月の「その声を覚えている」で、「〈物語〉シリーズ」セカンドシーズンのエンディング主題歌だ。神前暁の作曲、高田龍一のストリングアレンジということで、「THE IDOLM@STER」関連楽曲を思わせる華やかな仕上がりとなっている。

TVアニメ『〈物語〉シリーズ セカンドシーズン』
エンディング主題歌「その声を覚えてる」/河野マリナ

SVWC-7956/1,296円/アニプレックス
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第5回大会(2011) グランプリ 鈴木このみ

 大会当時15歳という最年少のグランプリに輝いた鈴木このみは、今後のアニメソング業界を背負って立つ可能性を秘めた逸材だろう。現在もまだ18歳という若さだが、その歌唱力は奥井雅美などプロ歌手も絶賛するレベルにある。本人の屈託のないキャラクターや、ステージで見せるダンス能力などもあってスター性は十分。すでにシングル8枚、アルバム2枚をリリースしており、先月には公式ファンクラブを開設、今秋には東名阪のソロライブツアーを控えるなど、着実にファン層を開拓しており活動は順風満帆だ。
 今年2月にリリースされた最新作「Absolute Soul」は、速いテンポ、休みなく歌い続ける楽曲構成、縦横無尽に動き回るメロディなど難易度の高い楽曲だが、ファルセットやビブラートを駆使しつつ歌いこなす歌唱技術は圧巻。この楽曲は、『アブソリュート・デュオ』のオープニング主題歌となっており、カップリングには奥井雅美とのデュエットバージョンも収録されている。

TVアニメ『アブソリュート・デュオ』オープニング主題歌
「Absolute Soul」/鈴木このみ

SVWC-7956/1,296円/メディアファクトリー
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第6回大会(2012) グランプリ 岡本菜摘

 岡本菜摘も大会当時18歳の若さであり、前年に続いて10代での優勝者となった。翌2013年7月に『幻影ヲ駆ケル太陽』エンディング主題歌「-Mirage-」でデビューを果たすが、いまのところリリースされたCDはこの1枚のみ。公式サイトも2014年以降はほとんど更新がなく、開店休業状態のようにも見える。本人のFacebookによると現住所は北海道となっているので、東京でコンスタントな活動は行っていないようだ。

TVアニメ『幻影ヲ駆ケル太陽』
エンディング主題歌「-Mirage-」/岡本菜摘

SVWC-7947/1,296円/アニプレックス
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第7回大会(2013) グランプリ 小林竜之

 過去最高の10320組の出場者の中から選ばれたのは、第1回以来となる男性シンガー。エイベックス所属となったのもアニソングランプリ優勝者としては初めてのケースだ。翌2014年7月に『最強銀河 究極ゼロ バトルスピリッツ』オープニング主題歌「ZERO」でデビュー。カップリング曲は前述の大会優勝者によるユニットAG7の楽曲「Endless NOVA」となっている。その後1年以上CDリリースはなかったが、今月になって鈴木このみとのデュエット曲「NEVER-END TALE」が発売されるという流れになるわけだ。

TVアニメ『最強銀河 究極ゼロ バトルスピリッツ』
オープニング主題歌「ZERO」/小林竜之

AVCA-74457/1,944円/エイベックス・ピクチャーズ
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 このように過去の優勝者を振り返って思うのは、アニソン歌手はタイアップを得ないとアニソン歌手たりえないこと。そして現在ではタイアップを勝ち取るのが大変である、という状況だ。歌えて踊れてルックスもいい若手声優が珍しくない中で、歌手専業のスタイルでこれに対抗していくのは難しい。たとえば、ヒロイン役の声優がヒロインの視点から書かれた楽曲を歌った時に生まれる説得力を、歌手が歌唱力だけで越えていくのは並大抵のことではない。そういった事情からか、第3回大会ファイナリストの愛美や、第5回大会ファイナリストの駒形友梨が声優と歌手の兼業という道に進んだのは、ごく自然な流れとも言える。
 そしてアマチュアからの発掘という大会のスタンスから、歌唱力の面で即戦力の人材は出てきても、固有のファン層を持った者がいない点も指摘しておくべきだろう。タイアップやイベントでの露出により浮動票を獲得しつつ、その中の一定数をコアなファン層に育てなければならない。このプロセスにはどうしても時間がかかるので、その期間を待ちきれないレーベルがあっても不思議ではない。
 そう考えると、アマチュアからの発掘スキームが、いわゆるボーカロイド界隈や「歌ってみた」出身者のように、すでに固有のファン層を掴んでいる者にタイアップを与えて、より売り上げを伸ばすという方向にシフトしていくのは必然と言えるだろう。つまり現状としては、全日本アニソングランプリの歴史的意義は終わりつつあるのかもしれない。しかしながら、鈴木このみという才能を10代のうちから世に出せたのは大会のお陰だろうし、これまでの開催に意義がなかったとは言えないだろう。「アニメソングを歌いたい」と願う若者の芽を摘まないでほしいものだが、若者の側も、歌唱以外にも様々なスキルが求められる時代になったことを認識しておくべきかと思う。(和田穣)