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アニメ音楽丸かじり(145)
アニメソング・声優ソングはレアグルーヴになり得るか?

 最近はスマートウォッチの発売が相次ぎ、自転車乗りとしては大いに興味がそそられる。特に10月30日にアメリカで発売されたMicrosoft Bandは、よくある歩数計測だけではなく、GPSや心拍計も搭載しているところがポイント。自分がどれだけの距離を走ったのか、どんなコースを辿ったのか、どのくらいハードだったのか、といったログを記録しておくことは、継続的に運動するためのモチベーションとなる。Windows Phoneのみならず、iPhoneやAndroid端末とも同期できるところも好印象だ。国内未発売のため、まだ日本人による製品レビューがほとんどない。実際に使用しての感想を早く読みたいものだ。

 11月19日に日本コロムビアから「堀江美都子 レア・グルーヴ・トラックス」が、12月10日にはユニバーサルミュージックより「声優レアグルーヴ Vol.1」がリリースされる。アニメ関連で「レアグルーヴ」をタイトルにしたCDが相次いで発売されるわけで、CDの内容を紹介しつつ、この機会にアニメソングや声優ソングがレアグルーヴになり得るのか? ということを考えてみたい。
 まずレアグルーヴとは何ぞや? ということだが、元々は1980年代後半のアメリカで起きたムーブメントで、1970年代以前のソウル、ファンク、R&B、ディスコなどの黒人音楽を再評価する動きのことだ。1980年代に主流だったヘアメタルやPWLサウンドに飽き足らなかった音楽マニアたちが、当時は時代遅れとされていた音楽に飛びついたわけだ。
 アメリカはその広い国土から、特定の都市や地域だけを基盤とするローカル系レーベルやアーティストが多数存在する。そういった「レア」な音源がラジオ局で取り上げられたり、DJたちがサンプリングしたことで認知度を高めていった。共通する特徴としては、ノリがよくてクラブで流せること。つまり「踊れるサウンド」かつ「レア」であることが条件になる。
 本来はアメリカでのムーブメントのため、日本の音楽史とは関わりのないものだが、2000年代あたりから日本のDJや音楽評論家がレアグルーヴの考え方を輸入し、日本の1970年代以前の音楽を再評価する流れも生まれている。和田アキ子の「古い日記」や、井上陽水の「氷の世界」といった1970年代の名曲を、歌謡曲ではなくソウル・ミュージックの文脈から再評価するのは、その例と言えるだろう。
 さて、前置きが長くなったが「堀江美都子 レア・グルーヴ・トラックス」の内容を紹介していこう。76分に全24曲を収録しており、1970年代のTVアニメ主題歌・挿入歌、実写ドラマ主題歌などで構成されている。
 1曲目「野球狂の詩」は同名TVアニメの主題歌。本盤の中ではアニメファンによく知られた楽曲だろう。歌詞はなく、スキャットの歌唱であるところが特徴。全編にわたってクラビネットがフィーチャーされたソウルミュージック風のアレンジで、企画の趣旨にもぴったりだ。この曲があったからこそ「堀江美都子 レア・グルーヴ・トラックス」という企画が成立したのかもしれない。
 2曲目「美しきチャレンジャー」は1971年に放映された同名TVドラマの主題歌だが、実際に番組で使用されたのは主演の新藤恵美が歌ったもの。堀江盤は競作でリリースされた中のひとつである。動きまくるベースラインの素晴らしさに注目してほしい。
 6曲目「クムクムのうた」は1975年のTVアニメ『わんぱく大昔クムクム』のオープニング主題歌。ギターのカッティングから始まる前奏がファンキーで印象深いナンバーだ。全体的には耳ざわりのいいオーケストラも入り、当時のアニメソングらしい作りなのだが、サウンドの端々から作り手の「黒人音楽がやりたいんだよ!」という主張が見えるようで面白い。作曲はすぎやまこういちが担当している。
 他の曲もリズムが鮮烈であったり、アレンジがソウル的であったりとひと癖ある楽曲が入っており、いわゆる「堀江美都子ヒット曲集」的な選曲とは一線を画す。全曲とまでは言わないが「美しきチャレンジャー」のように踊れる曲も入っており、CDタイトルに偽りなしとは言えるだろう。また特筆すべきはジャケットのデザインで、モノクロの写真にビビッドな色合いの大きなフォントは、まるで往年のジャズレコードのよう。ステレオ表記やレコード会社表記の強調など、ブルーノートレコードのデザインを意識したものだろう。

堀江美都子 レア・グルーヴ・トラックス

COCX-38855/2,700円/日本コロムビア
11月19日発売予定
Amazon

 続いて「声優レアグルーヴ Vol.1」の紹介だ。こちらはまだ収録曲のすべてが確定しておらず、全18から20曲程度のボリュームになる予定とのこと。収録予定曲として本稿執筆時点で12曲が発表されており、子安武人、堀川亮(当時)、佐々木望、大森玲子、池澤春菜、緒方恵美、ハミングバード、小西寛子、桑島法子といった面々の楽曲がリストアップされている。
 大森玲子「夢のマント」は、久保田利伸や林田健司がやりそうな和製R&B風のバックトラックに、大森玲子の舌足らずな歌が乗るという珍品。アニメ『ニャニがニャンだー ニャンダーかめん』主題歌で、作詞は原作者の故やなせたかしが担当したというのも味わい深い。同作がDVD化されていないということもあり、マニアには嬉しい一品と言えるのではないか。
 「TIMEシャワーに射たれて」「春よ、来い」は、平野綾が在籍していたことで知られるアイドルグループSpringsの楽曲。言うまでもなく、久保田利伸と松任谷由実の楽曲のカバーである。特に「TIMEシャワーに射たれて」は面白く、当時中学生の平野綾が精一杯のラップに挑戦しているのが微笑ましい。2曲ともにSprings唯一のアルバム「Springs Super Best」に含まれているが、現在では中古市場でそれなりの値がついているようだ。
 「少女よ、大志を抱け!」は、ご存じ『マジックナイト レイアース』のイメージソングで、主演声優の椎名へきる・吉田古奈美・笠原弘子が歌唱を担当。コーラス以外は各キャラクターのラップ、というよりも語りであり、ファンキーな伴奏に乗せてアニメそのままの口調で台詞が入ってくるあたりはなかなかにシュール。オリジナルは1995年リリースだが、似た曲調の『輪廻のラグランジェ』ED「ジャージ部魂!」を17年前に先取りしていた、と言えなくもない。作詞:森由里子、作曲:財津和夫、編曲:湯川トーベンという豪華作家陣によるナンバーだ。

 以上のように、レアグルーヴの名を冠する2作品をとりあげてみたのだが、その選曲方針はずいぶんと異なっている。「堀江美都子 レア・グルーヴ・トラックス」の方は、堀江美都子が歌ってきた膨大なレパートリーの中から、編曲に黒人音楽からの影響が強いものを選び出している。一方で「声優レアグルーヴ Vol.1」は、すでに日本のポピュラー音楽に黒人音楽からの影響が根づいた1990年代以降の楽曲ということもあり、同時代のアニメソングや声優ソングと比べて、格段に黒っぽさが強いわけではない。そのかわりに、現在では入手困難となった楽曲を多数揃えているのが特徴だ。
 つまり前者はレアグルーヴの「グルーヴ」の側面にスポットを当て、後者は「レア」の側面にスポットを当てたものであると言える。レアグルーヴという言葉は定義が曖昧で、使う人によって意味合いが違っている場合が多いのだが、そういった混乱をそのまま反映した2枚のCDであると言えよう。ただ本国アメリカでもレアグルーヴの対象範囲はだいぶ拡大しているし、日本においては輸入された概念ということもあって、論者によって使われ方もずいぶんと違う。一概に「レアグルーヴとはこうだ」と決めつけることは難しいのが現状だ。ただ、レアグルーヴを好むDJや音楽評論家の一部にとってアニメソングは定番であり、その中でもコアな層に1990年代の声優ソングが注目され始めているという状況は間違いなくある。興味のある方は、渋谷のクラブOTOで不定期開催されている「声優レアグルーヴ」特集や、同様のテーマのUSTREAMをチェックしてみてほしい。(和田穣)

声優レアグルーヴ Vol.1

UICZ-8157/2,484円/ユニバーサル ミュージック
12月10日発売予定
Amazon