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アニメ音楽丸かじり(144)
秋の夜長を弦楽四重奏の響きで飾る『グラスリップ』サントラが登場!

 10月も半ばが過ぎ、いよいよ新番組も出揃ってきた時期である。僕が今期音楽面で注目しているのは、ズバリ『PSYCHO-PASS|2』だ。前期シリーズではBGMが要所で効果的に使われていたし、シンセの分散和音を使ったテーマ曲にはインパクトがあった。今年はNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」も手がけ、劇伴作家としてノリにのっている菅野祐悟の手腕に注目したい。
 『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』も外せないだろう。今回のTVシリーズで音楽を担当するのは、TYPE-MOONのPCゲーム「魔法使いの夜」を手がけた深澤秀行。原作ゲームの音楽担当であるKATE、2010年の劇場版『UNLIMITED BLADE WORKS』を担当した川井憲次との作風の違いを味わうのが楽しみだ。基本的には同じストーリーラインを踏襲するだろうから、同一シーンに3人の音楽家がどのように音楽をつけたのか比較できるはず。映像音楽研究の観点から見ても興味深い事例になるだろう。

 さて、今回取り上げるのは9月24日にランティスからリリースされた『グラスリップ』のサントラだ。他のCDとの兼ね合いもあり、紹介が遅くなってしまったことをお詫びしたい。CDはBGM30曲にOP「夏の日と君の声」、ED「透明な世界」、挿入歌「ルーセントアイズ」のTVサイズを加えた全33曲で73分の内容である。
 なぜこのサントラを取り上げるのかと言えば、それは全編にわたって弦楽四重奏がフィーチャーされているからだ。小編成なので劇的な効果には乏しく、そのわりに力量が問われるこのジャンルは、純音楽の作家にとっても難しいとされる。そして弦楽四重奏の楽曲は、ちょっと手を加えると弦楽合奏やオーケストラ編成に編曲が可能であるため、映像音楽においてはより音響効果の高いこれらの大編成が好まれるのだ。たとえば、映画「プラトーン」でも使用されたサミュエル・バーバーの代表曲「弦楽のためのアダージョ」は、彼の弦楽四重奏曲第1番を弦楽合奏用に編曲したものだったりする。
 そのようなわけで 『グラスリップ』サントラは、映像音楽で用いられることが希な弦楽四重奏という編成を堪能できる1枚なのだ。BGM30曲のうちバイオリン2、ビオラ1、チェロ1という完全なカルテットの編成は7曲あり、他にもカルテットにピアノ、フルート、オーボエ、クラリネットなどを加えた室内楽調の楽曲が盤の大半を占める。温かみのある生楽器で紡がれたサウンドは、秋の夜長をしっとりと包み込んでくれるだろう。
 それではいくつかの楽曲を紹介しよう。サントラ1曲目「カケラを探して」から4曲目「瞬き一つが精一杯」までの4曲は、それぞれ「Theme of glasslip 弦楽四重奏」と題された弦楽四重奏曲の第1楽章~第4楽章に位置づけられている。いずれも室内楽のコンサートで披露されても違和感がないような、格調高く古典美あふれる力作に仕上がっている。それぞれの楽章は4分半ほどの尺があるため、たっぷりと『グラスリップ』の音楽世界に浸ることができるのだ。
 7曲目「君しか見えない輝く未来」は第1話アバンタイトルに流れた楽曲。物語の舞台となった日乃出浜(福井県坂井市三国町がモデル)の、花火大会に沸き立つ情景を描いたものだ。6曲目「短い夏、眩しい日々」は第1話OP後の花火のシーンを彩ったもの。この2曲のいずれもカルテット編成となっている。
 音楽面でのハイライトは第12話のBパートだろう。ここで使用されたのが29曲目「唐突な当たり前の孤独」で、なんと9分53秒もの尺がある。第12話では主役カップルである深水透子と沖倉駆の立場が入れ替わるという大胆な仕掛けがあったが、ここで透子が駆の「転校を繰り返してきたが故の孤独感」を追体験するのがポイント。この疎外感が作品全体を通底するテーマのひとつと言えるだろう。楽曲もエリック・サティ風のピアノ導入部からストリングスが加わり、中間部ではピアノコンチェルト風に展開していく華やかさ。しかし曲の終盤では透子の気持ちに寄り添うように、沈鬱な短調に転調して重苦しく終わる。Bパートの全編に渡ってこの曲が使われており、音楽劇のように楽曲を主軸に据えた演出が印象深い。
 ストリングスやオーケストラには、すでに映像音楽の世界で主要楽器群として認識されてきた歴史がある。現代劇であろうと時代ものであろうと、舞台が西洋であろうと東洋であろうと、ストリングスの音楽が入るのは当たり前のこととして理解されているはずだ。それに比べると弦楽四重奏などの室内楽は、チェンバー・ミュージック(宮廷音楽)という英語名が示すとおり、どうしても西洋の王宮のイメージがつきまとう。現代日本を舞台とする『グラスリップ』のようなアニメに導入するのには勇気が要ったはずだ。だが全編をしっかりと見ていくと、この作品の純文学的な作風には、過剰な音響効果が排除された室内楽の響きがよく合っていたように感じられる。三国町をモデルにした日本らしい港町の風景に、室内楽のサウンドを重ね合わせたことで本作はその幻想性をより確かなものとしたのではないだろうか。

グラスリップ オリジナルサウンドトラック 音楽の欠片(音楽:松田彬人)

LACA-15455/3,240円/ランティス
発売中
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 最後にもうひとつCD情報を記しておこう。『グラスリップ』では、駆の母親がピアニストであるという設定もあり、クラシックの楽曲が多数使用されていた。特に「華麗なる円舞曲」「ノクターン第2番」などショパンのピアノ曲が目立つ。11月26日に、これらの劇中使用曲をまとめたクラシックアルバムが発売される予定だ。この記事の執筆時点ではアニメ公式サイト、ランティス公式サイトのいずれも収録曲のリストを公開していないが、恐らくはショパンのピアノ曲中心の選曲になるはず。劇中のピアノ曲に興味を持った方は、こちらもチェックしてみるといいだろう。(和田穣)

グラスリップ クラシックアルバム Glasslip Classics

LACA-15466/2,160円/ランティス
11月26日発売予定
Amazon