ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(140)
『宇宙戦艦ヤマト』の音楽はこんなに凄かった! ハイレゾ版で蘇る不朽の名作の価値

 7月18日に発売された冨田ラボこと冨田恵一の著書「ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法」を読んだ。我が国のミュージシャンの間にも信奉者の多い、ドナルド・フェイゲンの代表作「ナイトフライ」についての解説本だ。現役のトップミュージシャンが特定のアルバム、それも自分以外のアーティストについて丸々1冊の本を書き下ろすというのは珍しい。それも対象とするアルバムが、ポップス史上最高の名盤に挙げられることも多い「ナイトフライ」である。冨田と言えば初期キリンジのプロデュースでも知られ、キリンジは日本におけるスティーリー・ダン(フェイゲンのバンド)フォロワーと目されることも多い。つまり人選的にもぴったりであるわけで、当然ながら期待値は高かった。
 この本では全曲について録音に至るまでの背景から、予想される実際の制作過程までを解説している。特にドラム・トラックに関して、ほとんどが打ち込みであることを喝破し、具体的にどこが生ドラムでどこが打ち込みなのかまで詳細に書き記したのは特筆すべきだろう。プロデュース経験が豊富で、自らも打ち込みの技術を持つ冨田にしかなしえない分析と言える。一方でフェイゲン最大の特徴とも言える複雑なコード進行に関しては、筆者のポリシーとして文中に譜面を入れて読書の流れを寸断することを嫌うため、あまり触れられていないのが残念なところだ。
 全体的に分析力・筆力ともにハイレベルであり、こういった本が日本から出たのは喜ばしいことだ。特に音楽制作を志す人にとっては、間違いなく有益になる1冊。可能ならば、他のアルバムについての著書も期待したいところだ。

ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法/冨田恵一

978-4907583095/2,160円/DU BOOKS
発売中
Amazon

 お盆休み前後ということもあり、先週から今週にかけてはサントラCDの発売点数も少なめ。そこで今回は、8月6日からmoraで、8月13日からはe-onkyo、ototoy、VICTOR STUDIO HD-Music.にてハイレゾ配信を開始した『宇宙戦艦ヤマト』関連の諸作について紹介したい。いずれの配信サイトでも、各曲ダウンロードは400円、アルバム全体のダウンロードは3200円の価格設定となっている。
 『ヤマト』のBGMと言えば、日本コロムビアが2012年7月から2014年3月にかけて順次発売したYAMATO SOUND ALMANACシリーズが記憶に新しいところだ。新マスターとBlu-spec CD仕様により、かなりの音質アップが果たされたことは、2012年9月の当記事でもお伝えした。
 今回のハイレゾ配信は、そのYAMATO SOUND ALMANACシリーズ制作時に、オリジナルのアナログマスターからデジタル化されていたデータを用いたもの。当時から将来の配信時代に備えて24bit / 96kHzでデータ化していたとのことで、そこからハイレゾ用に新規のマスタリングを行ったそうだ。moraオフィシャルブログに、音響監督の吉田知弘とマスタリングエンジニアの山下由美子による対談が掲載されているので、技術的な詳細についてはそちらを参照してほしい。
 また『ヤマト』音楽の素晴らしさや、そのアニメ史における意義などについては、当サイトのコラム「サントラ千夜一夜」第1回にて腹巻猫さんが存分に語っておられるので、ぜひそちらをご一読いただきたい。あえて屋上屋を架す必要もないだろうから、この記事ではYAMATO SOUND ALMANAC版と比較しながら、音質の観点から書いてみたい。
 8月に第1弾としてリリースされるのは、「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」「さらば宇宙戦艦ヤマト 音楽集」「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち 音楽集」の3作品だ。この中から代表として、名盤との誉れ高い「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」のハイレゾ版を紹介しよう。オリジナル版は1977年のリリースで、その後のアニメ音楽に与えた影響は計り知れない重要作だ。
 1曲目「OVERTURE―序曲」はBGM「無限に広がる大宇宙」でお馴染み川島かず子のスキャットで知られるが、音質面での聴きどころは木管楽器とハープからなる冒頭部分にある。倍音を豊富に含んだ木管の密集和音は、オーディオ的になかなかの難物だが、さすがハイレゾ版は倍音が飽和せずにすっきりと聞こえる。ハープのつま弾きの精細度やリアリティでもハイレゾ版が上。そしてストリングスの絹のような滑らかさに至っては、歴然とした差を感じる。
 4曲目「TRIAL―試練」は、弦楽器のトレモロがフィーチャーされた楽曲。『ヤマト』のBGMではトレモロが多用されており、劇中でも緊迫感のある場面でよくこういった音楽が流されるのが特徴だ。トレモロ奏法は弓を素早く動かして、同じ音を細かく連続して演奏する。このため音が重なりあって団子状態になりやすいのだが、ハイレゾ版では全ての音が粒立ちよく聞こえてくるため、楽曲の持つ緊張感がぐっと増して聞こえる。まるで奏者の息づかいまで聞こえてくるようだ。
 7曲目「SCARLET SCARF―真赤なスカーフ」は、ご存じED主題歌をストリングス用に編曲したものだが、僕がもっともハイレゾ版のアドバンテージを感じた楽曲。ストリングスの響きの中に含まれる、高帯域の倍音が伸び伸びと広がってゆくさまはどうだ。このハイレゾ版を聴いてしまうと、YAMATO SOUND ALMANAC版の音は1枚余計なベールをかけたように思えてしまう。「真赤なスカーフ」の和声の艶っぽさは、ハイレゾ版で味わってこそ、その真価を存分に味わえるというものだ。
 総評として、ハイレゾ版とYAMATO SOUND ALMANAC版の差異はストリングスにもっとも強く出ている。次いで木管、金管の順に違いが分かりやすい。ドラムスやギターなどポピュラー編成の楽器については、それほど大きな音質の差を感じなかった。これは他のハイレゾ配信のタイトルとも同傾向で、クラシックに近い音楽ほど音の精細度の違いをより強く感じやすい。クラシック志向の強い『ヤマト』の音楽は、ハイレゾ化にぴったりの題材であったと言えるのではないか。
 僕はYAMATO SOUND ALMANACが発売されたときに、「もうこれで音質は十分に向上した」と思っていたのだが、今回ハイレゾ版を聴いてその認識を改めざるをえなくなった。 「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」のオリジナル版は1977年のリリースだが、ハイレゾ版を聴くとその音楽はいまだに瑞々しくも若々しい。僕はリアルタイムの『ヤマト』世代ではないが、当時宮川泰の作り出した音楽がいかにすごかったのか、ハイレゾ版によって追体験することができ、改めてその楽曲の素晴らしさに感動を覚えた。『宇宙戦艦ヤマト2199』でこのシリーズを知った若い世代のファンにも、この機会に原典の素晴らしさに触れてほしいと願うばかりだ。(和田穣)

交響組曲 宇宙戦艦ヤマト【24bit/96kHz】(音楽:宮川泰)

COKM-32741/3200円/日本コロムビア
発売中
[mora]
[e-onkyo]
[ototoy]
[VICTOR STUDIO HD-Music.]

さらば宇宙戦艦ヤマト 音楽集【24bit/96kHz】(音楽:宮川泰)

COKM-32742/3200円/日本コロムビア
発売中
[mora]
[e-onkyo]
[ototoy]
[VICTOR STUDIO HD-Music.]

宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち 音楽集【24bit/96kHz】(音楽:宮川泰)

COKM-32743/3200円/日本コロムビア
発売中
[mora]
[e-onkyo]
[ototoy]
[VICTOR STUDIO HD-Music.]