ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(139)
ジブリの新境地をサウンドから語る! 『思い出のマーニー』サントラが発売!

 うだるような暑さが続き、寝苦しい夜も多い季節だ。さらに私事ではあるが自宅のクーラーが故障したため、毎日ひどい寝汗をかいている。そんな中、先日劇場にて暑さを忘れるような清涼感のある作品に触れることができた。スタジオジブリの新作『思い出のマーニー』である。北海道を舞台に、水辺のロケーションで描かれる幻想的な物語と、ジブリ初のダブルヒロイン制による2人の少女の交流は、暑さにしおれた心に水を与えてくれるような内容だった。僕は普段あまりパンフレットを買わないほうだが、今回は終映後すぐにパンフレットとサントラを買いに走ったほど。
 監督の米林宏昌はアニメーター出身で、可愛い女の子を描かせるととても上手い。そのせいか、過去のジブリ作品と比べても、女の子の可愛さではかなり上位にランクされるように思う。ヒロインである杏奈とマーニーのほのかな百合風味もいい味を出しており、『アナと雪の女王』がヒットする時代の空気とも合っている。このあたり、『アナ雪』がヒットするよりもずっと前に原作を選んだ、鈴木敏夫プロデューサーの先見の明はさすがの一言だ。
 そんな『思い出のマーニー』のサントラは7月16日にリリースされている。2枚組の内容で、1枚目がイメージアルバム、2枚目がサントラという構成。全71分と2枚組にしては収録時間は控え目である(この理由は後述する)。ジブリ作品の音楽と言えば、先行してイメージアルバムを発表し、後にサントラを発売するという方式がお馴染み。しかし今回は、ひとつのパッケージでイメージアルバムとサントラの両方を楽しめるわけだ。
 『思い出のマーニー』は、宮崎駿がいかなる役職でも制作に加わらなかったということで、世代交代の象徴的作品となるかもしれない。音楽担当も宮崎作品でお馴染みの久石譲ではなく、村松崇継が起用されている。学生時代から作曲家として活躍している早熟の36歳で、NHK連続テレビ小説「天花」「だんだん」の音楽や、実写劇場作品「狗神」「夕凪の街 桜の国」「クライマーズ・ハイ」など、若くしてすでに中堅のキャリアがある。
 過去の宮崎駿・久石譲作品の場合、イメージアルバムからサントラまでの間にアレンジ変更やカッティングが行われ、中には『もののけ姫』のように主題歌の歌い手が変わったケースもある。しかしながら、作品の核となる主要な楽曲については、それほど大きな変更を加えずに本編でも使用されたケースが多かった。
 ところが今回の『思い出のマーニー』では、イメージアルバムとサントラの音楽はずいぶんと趣きが異なる。まず楽曲そのものがかなりの割合で変更されている上、イメージアルバムにはあったバスドラムやシンバルなどの打楽器が削られた。さらに演奏がオーケストラ編成からストリングス編成になった結果、よりピュアで小規模のサウンドとなった。この変更は『思い出のマーニー』の作品性を考える上で、とても重要であると思う。米林監督は、大音響によるスペクタクルの要素を、作品からできるだけ排除したかったのではないか。
 そしてサントラの楽曲内容だが、まず各曲がかなり短めで断片的であるのが特徴だ。全28曲のうち、1分未満の小曲が8曲を占め、2分台が5曲、3分台は3曲しかない。このためにCDのトータル録音時間も短めだ。『思い出のマーニー』は、無音状態が長く続くような作品ではないのだが、音楽のつけ方からして各シーンの盛り上げ方が比較的「あっさり目」であることが読み取れる。シーンと絡めながら、いくつか収録曲を紹介したい。もちろんイメージアルバムではなく、実際に本編で用いられたサントラについての紹介だ。
 1曲目「普通の顔」は冒頭に流れた音楽。ピアノ、木管、ストリングスによる編成に、少ない音数で幻想的なサウンド。本作の雰囲気を決定づける1曲と言えそうだ。劇場内にこの曲が流れた時点で、観客に「ああ、宮崎駿・久石譲の作品とは違うのだな」という印象を与えたのではないだろうか。
 2曲目「杏奈の旅立ち」はヒロイン・杏奈が療養のため、物語の舞台となる海辺の村に旅立つシーンの楽曲だ。本作のシグネチャーサウンドとも言うべき、ハープが主旋律を奏でている。ハープという楽器は、オーケストラの中で効果音的に使われることも多いのだが、『思い出のマーニー』では堂々たる主役を務めている。村松崇継は、ハープの純粋で繊細な音色に、杏奈というキャラクターの内面を仮託していたのかもしれない。
 3曲目「はがきを出しに」は、村松崇継自身によるピアノ、朝川朋之のハープ、そしてミロシュのギターという、本盤の主役たちが勢揃いした楽曲だ。ミロシュはモンテネグロ出身のクラシック・ギタリストで、数々のコンクールで優勝した腕前もさることながら、そのハンサムぶりでも知られるミュージシャンだ。
 4曲目「しめっち屋敷」は僕のお気に入りの1曲。タイトルどおり、本作の主な舞台となる洋館を描写した音楽だ。フルートとハープの分散和音がラヴェルやドビュッシーの作風を思わせ、洋館描写におけるジブリらしい西洋趣味を存分に引き立てている。2分を超える楽曲で、途中からマリンバやストリングスも加わってカラフルな展開を楽しめる楽曲だ。
 6曲目「青い窓の中の少女」は1分にも満たない小品で、洋館の窓辺にたたずむマーニーを描写した音楽。ラストのハープによるドリア旋法のメロディが印象的で、マーニーの神秘的な美しさを音でうまく表現している。ドリア旋法と言えば、「グリーンスリーブス」「スカボロー・フェア」などイギリスの伝統的なバラードによく見られるもの。『思い出のマーニー』の原作もイギリスの作家、ジョーン・G・ロビンソンの児童文学だから、相性のよさは当然というべきか。
 後半では、杏奈とマーニー、杏奈と彩香、杏奈と久子など、会話が中心の話運びになっていくため、音楽のつけ方もやや控えめ。村松崇継のピアノを中心とした、薄目の音楽でしっとりと物語を盛り上げていく。象徴的なものが25曲目「久子の話①」で、3分以上にわたってピアノを中心に淡いアンサンブルが綴られており、音楽が杏奈と久子の会話を包み込む脇役に徹している。

 『思い出のマーニー』の音楽は、全体的にピアノ、ハープ、クラシックギター、ストリングスを中心としたアンサンブルだ。普遍的に各国で用いられる楽器だけが選ばれており、特定の地域や民族性を強く感じさせないように、という監督・スタッフの配慮が感じられる。また打楽器による派手な音響効果や、鋭角的なシンセ音なども皆無で、生楽器を中心とした温かみのあるアコースティックサウンドに徹している。
 音楽がよく示しているように、『思い出のマーニー』はスペクタクルやド派手なアクションはない作品だ。杏奈のやや鬱屈した性格など、思春期前の児童には理解しにくい部分もあるため、従来のジブリ作品に比べて子供受けという点では後退した印象もある。しかしその一方で、「大人のためのおとぎ話」として、国や民族、時代を超えて愛されていく普遍性を備えているのではないか。それこそが米林監督の持ち味であり、村松崇継の楽曲の美点でもあると思うのだ。

思い出のマーニー サントラ音楽集(音楽:村松崇継)

TKCA-74120/3,024円/徳間ジャパンコミュニケーションズ
発売中
Amazon

 また同じく7月16日に宮崎駿作品のサントラBOXもリリースされている。『風の谷のナウシカ』から『風立ちぬ』まで、久石譲によるサントラ全10作と、『天空の城ラピュタ』サントラUSAバージョン、三鷹の森ジブリ美術館で公開された『パン種とタマゴ姫』のサントラ、さらに特典CDとして『魔女の宅急便』ミニ・ドラマが付属した13枚組BOXだ。『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『魔女の宅急便』は、発売当時のLPジャケットを縮刷した紙ジャケット仕様となっているほか、全ディスクがHQCD仕様で高音質化されている。(和田穣)

スタジオジブリ「宮崎駿&久石譲」サントラBOX(音楽:久石譲)

TKCA-74104/21,600円/徳間ジャパンコミュニケーションズ
発売中
Amazon