COLUMN

第1回 永遠のマスターピース ~『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』~

 腹巻猫です。アニメのサウンドトラックCDの構成や解説を書く仕事をしています。この連載では、筆者の愛してやまないサウンドトラック(=映像音楽)の魅力をさまざまな切り口で紹介したいと思います。よろしくお願いします。


 先週末(1月12日)から全国12館で『宇宙戦艦ヤマト2199 第四章 銀河辺境の攻防』が公開されている。これにちなんで、第1回は元祖『宇宙戦艦ヤマト』のアルバム『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』を取り上げたい。筆者にとっても思い出深いアルバムであり、アニメ音楽アルバムの古典的名盤と呼べる1枚である。

 『宇宙戦艦ヤマト』は1974年10月から1975年3月にかけて全26話が放映されたTVアニメ作品だ。音楽を担当したのは歌謡曲畑の作曲・編曲家として売れっ子だった宮川泰(ひろし)。アニメ音楽の経験は少なく、『ヤマト』は『ワンサくん』(1973)に次ぐ2作目だった。
 宮川泰が生み出した『ヤマト』の音楽は放映当時からアニメ劇伴の枠を超えたものとして注目を集めていた。熱心なファンは音楽集の発売を望んで署名活動まで行っていたという。が、当時はまだアニメの音楽集を商品として発売するという文化がなく、ファンの願いはかなえられなかった。ところが、再放送の人気や雑誌の特集記事をきっかけに『ヤマト』再評価の機運が高まり、1977年8月、TVシリーズを再編集した劇場作品『宇宙戦艦ヤマト』が公開され、大ヒットする。これを機に制作・発売されたのが「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」である。発売日は1977年12月25日のクリスマス。『ヤマト』のBGMを宮川泰自身がオーケストラ編成の組曲に編曲して録音した画期的なアルバムだった。
 このアルバムはヤマトブームに乗って大ヒットした。筆者も発売前から予約して手に入れ、繰り返し繰り返し聴いた。発売に先駆けてニッポン放送で放送された『宇宙戦艦ヤマト』のラジオドラマでは、本アルバムの曲がBGMとして使用されている。その印象も強烈だった。今でも「序曲」を聴くと「天国にいるお父さんお母さん……」と語りかける富山敬の声(ラジオドラマ冒頭の古代進の台詞)が聞こえてくるくらいだ。しかし、そんな個人的想い出を抜きにしても、このアルバムはすばらしい。

 アニメ音楽アルバムの名盤と呼ばれるためには、いくつかの条件があると思う。
 まずなんといっても音楽のよさ。「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」の楽曲は、ポップス界のヒットメーカーであり、名アレンジャーでもある宮川泰が存分に腕をふるって料理した名曲ぞろい。原曲の魅力を生かしつつ、アレンジの巧みさ、オーケストラの響きの豊かさを味わえる作品になっている。
 たとえば1曲目の「序曲」を聴いてみよう。まず流れてくるのは原曲では「サスペンスA」と題された曲。本編ではガミラスの基地が映るシーンなどで多用された音楽だ。続いて、『ヤマト』を象徴する曲ともいえる美しい女声スキャットが聞こえてくる。原曲では「無限に広がる大宇宙」と題された曲である。この流れがいい。前半は原曲に近いアレンジで宇宙の神秘となにかが起こりそうな予感を表現し、いったん曲が途切れて無音になったところに女声スキャットがそっと忍び寄ってくる。ここで、霧が晴れて視界が広がったような解放感と「『ヤマト』の音楽が始まる」というわくわく感がこみあげてくる。そのあとの弦と管楽器によるダイナミックな変奏からコーダまで一気呵成に聴かせる展開は、宮川アレンジのマジックというほかない。
 アルバムの構成——選曲と曲順もよく考えられている。「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」の曲目は、『ヤマト』全26話のストーリーを俯瞰するような流れで構成されている。しかし、本編の曲順をそのまま再現しているわけではなく、音楽的な流れを考えて、曲順を入れ替えたり、複数の曲をひとつにまとめたりと工夫している。この「音楽的な流れ」というのがアルバムではとても大切で、ただストーリーに沿って曲を並べただけでは単調になったり、聴きづらいものになってしまうことがある。その点、本アルバムの構成は見事だ。レコードのA面(CDだと6曲目まで)をヤマト発進までのストーリーにあてて『ヤマト』の世界をふくらませ、B面(7曲目以降)では雰囲気を変えて、オリジナルBGMにはない新曲(「明日への希望」「スターシャ」)や原曲を大胆にアレンジした「真赤なスカーフ」のラテン・ヴァージョンなどを配して、聴くものを驚かせる。もちろん、物語のクライマックスであるガミラスとの最終決戦〜イスカンダルへの到着〜ヤマトの帰還も音楽で表現されている。「アルバムを買ってくれた人に期待以上のおもてなしを」と言わんばかりの、意外性とサービス精神に富んだ構成なのである。
 そして、ジャケットとライナーノーツ(解説書)。本アルバムのジャケットは松本零士による描き下ろし。CDサイズではその魅力が十分に伝わらないが、松本美女の麗しさを堪能できるジャケットイラストはもはや一幅の絵画、芸術と呼びたくなるような幻想的な美しさに満ちている。解説書は宮川泰自身がプロデューサーとの対談形式で1曲ずつ自作の解説をするという趣向。完璧である。
 音楽、構成、ジャケット、ライナーノーツと、どれも満足できる1枚、それが「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」だ。完成度が高いだけでなく、このアルバムには宮川音楽の真髄=親しみやすさ、わかりやすさ、音楽の楽しさがあふれている。アルバムを聴き返すたびに、宮川先生が人懐こい笑顔で「どうだ? いいだろう?」と語りかけてくるよう気分になる。古典的名盤と呼ぶにふさわしいアルバムだと思う。

 本アルバムは過去に2度CD化されているが、現在は『宇宙戦艦ヤマト』の音楽を体系的にリリースしていくプロジェクト「YAMATO SOUND ALMANAC」の1枚として、Blu-spec CD版がリリースされている。昔、愛聴した方も、まだ聴いたことがない方も、ぜひ、高音質で宮川ヤマトのすばらしい世界を体験していただきたい。

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原曲を聴きたい人はこちらも!

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