夏期新番組のOPの中で、特に印象的だったのが『ヤマノススメ セカンドシーズン』だ。主題歌「夏色プレゼント」のマーチ風のリズムとゴージャスな編曲は、登山をテーマにした作品性にピッタリで耳に心地いいものだし、なにより石浜真史による映像が素晴らしい。『かみちゅ!』OPにおける作画と一体化したクレジット、『NHKにようこそ!』のポップな色使い、『Aチャンネル』の多彩なフォント使い、『べるぜバブ』EDの影のないキャラクター作画、『東京レイヴンズ』OPのキャラクターのシルエットの多用など、これまでの石浜OP・EDにおける様々な技法が詰め込まれており、集大成的なフィルムとなっている。沢山の色を使いながらも、全体としてはお洒落かつ爽やかにまとめ上げる色彩感覚が見事だ。CDの発売は9月26日としばらく先になるが、本編で使用されたバージョンのほか、主演声優4人のソロバージョンもそれぞれ収録される予定。人気声優揃いということもあり、今からリリースが楽しみな1枚だ。
『ヤマノススメ セカンドシーズン』
オープニング主題歌「夏色プレゼント」/あおい・ひなた・かえで・ここな
ESER-013/1,300円/アース・スター レコード
9月26日発売予定
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今回紹介するのは、フジテレビ「ノイタミナ」枠で現在放映中のアニメ『残響のテロル』のサントラだ。放映を開始したばかりの7月9日にサントラ発売ということで、まずはその大胆なリリース計画に驚かされる。劇場作品の場合には公開当日のサントラ発売も珍しくはないが、長期戦となるTVシリーズで先に音楽の全貌を明らかにしてしまうというのは、ある種のネタバレとしてのリスクもあるだろう。それでもリリースに踏み切ったということは、監督が渡辺信一郎で音楽担当が菅野よう子であるという布陣、そして音楽内容への自信があるからだろうか。
サントラは全18曲収録で69分。Galileo Galileiのボーカル尾崎雄貴が歌うOP主題歌「Trigger」と、『機動戦士ガンダムUC』への参加も記憶に新しいAimerが歌うED主題歌「誰か、海を。」は収録されていない。2曲とも菅野よう子の作曲・プロデュースで、BGMともマッチした曲調だけに未収録は残念ではある。
本盤の大きな特徴は、アイスランドからの強い影響だ。実際に録音はアイスランドにて行われているし、アイスランド人ボーカルのアルノル・ダン(Agent Fresco)も3曲に参加している。そもそも『残響のテロル』の作品構想は、渡辺信一郎監督が現代アイスランドの音楽を聴いてインスピレーションを得たものだという。本盤はアイスランドでの録音を終えた後、イギリスのハンプシャーでミックス作業を行い、マスタリングはニューヨークにて行っている。
作品内容を交えながら、いくつか楽曲を紹介してみたい。ただし、この記事を書いた時点でアニメ本編は第2話までしか放映されておらず、しかも先の読めないオリジナル作品である。シーンの解釈や、キャラクターの人物像等はあくまで暫定のものだ。
1曲目「lolol」は歪んだギターの無機的な分散和音が延々と続く、怜悧で暴力的な雰囲気のナンバー。第1話では主人公・九重新のトラウマとなっている悪夢のシーンにて使用された。アイスランド録音が奏功したと思われる楽曲で、調性感が希薄で異界然としたムードは、現地の風景から受ける印象との共通性を感じさせる。キング・クリムゾンの「太陽と戦慄」「スラック」あたりの作風(いわゆるメタル・クリムゾン)を想起させる部分もある。
4曲目「saga」は菅野流ジャズの新作。ドラムスの素早いシンバルワークに乗って、ピアノとウッドベースがバッハの「無伴奏チェロ組曲」を思わせるバロック音楽風のラインをユニゾンしていく。ジャズベーシストのロン・カーターが1980年代の一時期、ジャズスタイルの演奏によるバッハの作品集を出していたが、そのあたりの影響もあるのかもしれない。
5曲目「fugl」は第1話にて、プールでヒロイン三島リサと、もう1人の主人公・久見冬二が出会うシーンで使用。曲名はおそらく、アイスランド語で「鳥」を意味する単語に由来する。淡々としたピアノの演奏に、弦楽が加わって盛り上げていく作風で、テーマ部分はミクソリディア旋法で書かれている。菅野よう子は通常の長調・短調の楽曲に時折教会旋法を混ぜ込み、独特の違和感や浮遊感を演出するのが上手い。前述のシーンは、リサの日常に新と冬二という異物が入り込むことで物語が動き出していくのだが、それを楽曲の上でも表現しているわけだ。
7曲目「walt」は第2話の冒頭で、テロによって破壊された東京都庁舎を映した場面にて使用。「fugl」と同じくピアノとストリングスによるナンバーで、こちらも教会旋法が印象的に用いられている。5/4拍子、4/4拍子、6/8拍子と目まぐるしく変化していくリズムが聴きものだ。シンプルで美しく、少し虚無的な旋律の流れや、変拍子と教会旋法の多用に、吉松隆のピアノ曲との近似性を感じる。他にも魅力的な楽曲はいくつもあるのだが、まだアニメ本編中に登場していないものも多く、今後の展開に期待したいところだ。
サントラ全体を通底する日常感の希薄な傾向や、過去の菅野サウンドと比べても湿度や温度を感じさせず、淡々としたメロディは、やはりアイスランド録音の成果と言えるのではないか。間違いなく菅野よう子の音ではあるのだが、過去にリリースしたサントラとは異質な手触りが感じられる。各曲の解説にあるように、その楽曲ジャンルの幅広さは以前にも増して広がっており、もはや「なんでもあり」の境地に至っているようだ。それでいて全体が散漫にならずに、ある種のカラーで統一されているのは、菅野よう子がプロデューサーとしても卓越した能力があることの証明になるだろう。
最後に余談となるが、「プルトニウム強奪」「爆弾テロによる国家への挑戦」という本作の骨子は、1979年の劇場作品「太陽を盗んだ男」を彷彿とさせる。第1話でも冬二による「どうせなら沢田研二と言ってほしいなあ」という台詞があり、オマージュの意図はあきらかだ。同作のサントラは井上堯之によるものだが、その中の「YAMASHITA」という楽曲が『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』にて引用されている。興味のある方はチェックしてみるといいだろう。(和田穣)
『残響のテロル』オリジナルサウンドトラック(音楽:菅野よう子)
SVWC-70009/3,240円/アニプレックス
発売中
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