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アニメ音楽丸かじり(122)『京騒戯画』サントラは千変万化の万華鏡!

 今年の8月頃から、週2回ほどジムに通ってトレーニングに励んでいる。エアロバイク、クロストレーナー、ランニングマシンなど、有酸素運動をやる時に欲しくなってくるのが、自分好みのBGMだ。ジム館内に流れる有線放送やTV映像でも悪くはないのだが、30分を超えるような長丁場を飽きずにやり抜くには、やはり好みの音楽がある方がモチベーションは高まるものだ。
 そこで色々な音楽を試しているのだが、どうもアニメやゲームのサントラ・主題歌にマッチするものが少ない。一定のペースを維持することが重要な有酸素運動には、これらの音楽は起伏が激しすぎ、ドラマティック過ぎるのだ。いまのところ、最も感触がよかったのは「ユアシェイプ フィットネス・エボルブ」のサントラ。この連載でも2011年11月の記事で紹介しているXbox360のKinect用ゲームの音楽だ。なにしろ元々がフィットネスゲームのBGMだから、淡々とした曲調でノリやすく運動にはもってこい。同作の続編である「ユアシェイプ フィットネス・エボルブ2012」のサントラも当然ながらしっくりくる。その他に「このサントラは運動にぴったりだよ!」と一家言をお持ちの方は、ぜひ教えていただきたい。

 バンプレストと東映アニメーションによるオリジナル企画『京騒戯画』は、2011年に第1弾(全1話)、2012年に第2弾(全5話)がニコニコ動画、YouTube、バンダイチャンネルにてWEB配信された作品だ。ご存じのとおり、10月からTVアニメ版がスタートし、現在も放映中である。ダイナミックに動く作画から繰り出されるアクションと、複雑怪奇で視聴者を幻惑させる世界観が魅力の作品。本作のサントラが11月20日にリリースされ、僕も購入したのでさっそくこれを紹介してみたい。
 CDは40曲の収録曲数、73分の収録時間とぎっちり詰まった内容。1曲目にオープニング主題歌「ココ」のTVサイズ、ラストにエンディング主題歌「疾走銀河」のTVサイズを収録した構成だ。ブックレットには松本理恵監督と音楽の椎名豪による対談をたっぷりと掲載。取材・テキストはWEBアニメスタイルでもお馴染みの腹巻猫さんが担当している。
 椎名豪は現在もバンダイナムコゲームズに所属する作曲家。当然ながらその作曲活動はゲームが中心であり、特に「ミスタードリラー」「テイルズ オブ レジェンディア」「GOD EATER」はよく知られたタイトルだろう。また「THE IDOLM@STER」のファンには、「太陽のジェラシー」「蒼い鳥」「隣に…」の作者と言えばピンとくるだろうか。アニメでは『桜の温度』『ギョ』を手がけているが、TVシリーズの劇伴担当は本作が初めてとなる。

 いくつか収録曲を紹介しよう。第0話序盤6分間のめくるめくアクションシーンで用いられたのが、38曲目「世界の果てまでも」だ。5度音程を繰り返すオスティナートに、グランカッサ(大太鼓)の派手な打撃音が絡む刺激的なナンバー。男声コーラスやエレキギター、ストリングスまで詰め込んだ「全部入り」サウンドで、3分半の長尺も相まって本盤を代表する曲と言えよう。あまり明確なメロディラインを描かず、あくまで音響的に作り上げられているところがポイント。画面の派手な『京騒戯画』の中でも特に情報量の多いシーンなので、BGMによって情報過多になるのを避けているようだ。
 第1話の先代明恵登場シーンでたっぷりとフィーチャーされたのが3曲目「永遠の都」だ。星屑のようなピアノのフレーズに、リコーダーの素朴な主旋律が絡み合う。さらに美しいストリングスとコーラスが壮大に盛り上げ、本作の中でも美しさの際だった楽曲だ。
 第5話で使用されたのが、19曲目に収録の挿入歌「The Secret of My Life」。歌うは澤野弘之の劇伴担当作品でお馴染みのAimee Blackschlegerだ。彼女は『進撃の巨人』サントラへの参加も記憶に新しいところ。ブックレットにも書かれているが、この楽曲は「映像を長く見せるための、長く感じる音楽」という狙いがあるらしい。そこで英語詞の出番となったわけだ。「鏡都」を舞台にした作品で英語詞というのはなかなかに大胆だが、安易にベタな和風サウンドを用いないところに、本作ならではのこだわりを感じる。
 24曲目「終わりも始まりもなく」は、サントラに使われるのは珍しいコントラファゴットという楽器が活躍する楽曲。もともとユーモラスな場面に用いられることの多いファゴットだが、さらに音域の低いコントラファゴットによって、より一層気だるいムードを生み出している。
 他にもロック調あり、ブレイクビーツあり、テクノ風、バロック風、読経ありと驚くべき多彩さを誇る本盤だが、散漫にならないのは要所に重厚なオーケストラによる正統派劇伴があるから。各話のクライマックスでこれらの楽曲を使って盛り上げ、きちんとカタルシスが得られるよう配慮されている。それによって次回へと視聴者の興味が維持されるのだ。このあたり、大作RPGのBGMを手がけてきた椎名豪ならではのバランス感覚が光っているようだ。
 まだ放映の途中であり、設定や人物関係など分からないことが多い『京騒戯画』だが、その「分からなさ」に幻惑される感覚もまた本作の魅力。カラフルで魅惑的なビジュアルと、多彩で煌びやかな音楽に酔いしれる日々は、最終回まで続きそうである。

京騒戯画 音楽集(音楽:椎名豪)

COCX-38283/2,625円/日本コロムビア
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