前回の記事で少し触れた「あまちゃん」と並んで、今年のヒットドラマはと言えば「半沢直樹」の名前が挙がるのは確実だろう。その「半沢直樹」に続く堺雅人の主演ドラマ「リーガルハイ」(第2期)にも注目が集まっているようだ。個人的には、コメディやパロディ要素の強い「リーガルハイ」の方がより好みだ。特に音楽ネタが豊富なのが面白いところで、第1期では「水戸黄門」「木枯し紋次郎」「暴れん坊将軍」など往年の名作時代劇の主題歌を使ったり、「犬神家の一族」「卒業」からの楽曲引用もあった。普段ドラマを見ないアニメファンでも、『さよなら絶望先生』『ぱにぽにだっしゅ!』のような、パロディ満載のノリが好きな向きにはオススメできると思う。
また林ゆうきによるオリジナル劇伴も素晴らしく、特にファンキーなブラスロック風のメインテーマ「LEGAL-HIGH」は白眉。ブラスセクション中心の構成といい、英語の語りが入る点といい、どことなく『カウボーイビバップ』のOP主題曲「Tank!」を想起させる。
ちなみにその林ゆうきは新体操の元選手であり、自らの演技につけるBGMのために作曲を始めたという、かなり異色の経歴の持ち主だ。TVドラマの劇伴を担当するのは2009年からとキャリアはまだ浅いが、すでにいくつかのヒットドラマを手がけている。
リーガル・ハイ オリジナルサウンドトラック(音楽:林ゆうき)
PCCR.00539/2,625円/ポニーキャニオン
発売中
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2014年で放映開始から45周年を迎える国民的番組『サザエさん』の音楽集がリリースされる。もともと10月30日のリリース予定だったもので、一旦は発売中止のニュースも流れてファンを落胆させた。しかしその後紆余曲折があり、多少の収録曲の変更などもあって最終的に12月4日の発売が決まった。
『サザエさん』と言えば、ギネスブックに載るほどの長寿番組でありながら、番組のBGMをまとめたサウンドトラック盤はこれまで発売されていなかった。日本人の多くが生涯で最も多く耳にする劇伴のひとつだろうから、こうやってCDのかたちになるのは喜ばしい。
CDは1枚構成ながら57トラックを収録し、74分まで目一杯に詰め込んだ内容。うち33トラックが、1969年の放映開始当初から番組を支える、越部信義作曲のBGMからのセレクションだ。もちろん、膨大な制作本数を誇る番組であるから、すべてのBGMを網羅するなど不可能に近いし、途中から音楽担当に加わった河野土洋の楽曲が収録されていなかったりするのだが、今回のCDはまず人口に膾炙した定番の楽曲をまとめたという事だろう。
『サザエさん』BGMの作風と言えば、いずれも軽快なリズムに平易で覚えやすいメロディが乗っており、ストリングスや木管がメロディを奏でるケースが多い。つまり耳なじみがよく、分かりやすさを重視したサウンドだ。近年ではアニメ劇伴もどんどん込み入った構成や、新奇性のあるサウンドを導入する傾向にあるが、それらとは対極の古典的スタイルと言えるだろう。マニアのためではなく、あくまで一般層に向けた番組であるというスタンスだ。
そして、今回の記事作成に当たって改めて『サザエさん』を見直し、BGMを聞き直してみて驚いたことがひとつ。本作のBGMは、その大半がCメジャー(ハ長調)の調性なのだ。ご存じとおり、いわゆる「ド・ミ・ソ」の和音を中心とする、もっともベーシックな調性である。小学校の音楽の授業や、音楽教室の初級クラスではCメジャーを使う事が多いから、子供や音楽経験の少ない方でも、知らず知らずのうちに体験した事があるはずだ。このあたりに、耳なじみのよさの秘密の一端があるのではないか。またほとんどの楽曲が長調であるから、明るく健康的な番組の雰囲気にもよく合っている。
歌ものは、国民的愛唱歌と言えるOP主題歌「サザエさん」とED主題歌「サザエさん一家」を筆頭に、計10曲を収録している。CDの構成は、そのOP主題歌を冒頭に、ED主題歌をラス前に配置し、最後に予告用BGMを入れるという実際の番組構成を意識したものだ。この両主題歌は筒美京平の初期作品のひとつで、1968年の「ブルー・ライト・ヨコハマ」でブレイクした直後、気鋭の新進作家だった時代の作曲。45年近くも主題歌が変わっていないのだから、それだけ視聴者から愛された楽曲と言えるだろう。
そして1997年まで放映されていた『まんが名作劇場 サザエさん』(いわゆる火曜版)から、主題歌として長く親しまれた、堀江美都子・渡辺宙明コンビの「サザエさんのうた」「あかるいサザエさん」を収録。同じく火曜版から「ウンミィの歌」「天気予報」も収録している。こちらはコロムビアが1996年に出した10枚組コンピレーション「アニメ主題歌メモリアル2」に収録された事がある。そして松尾香の歌う「ハッピーデイ・サザエさん」「ひまわりみたいなサザエさん」の2曲は、同じくコロムビアが1998年に出した「永久保存盤 アニメ主題歌大全集」に収録されたものだ。火曜版には他に水森亜土、こおろぎ’73による「愛しすぎてるサザエさん」「サザエさん出発進行」という主題歌もあるのだが、残念ながら今回は収録が見送られる事になった。
それから挿入歌として、サザエ役の加藤みどりが歌う「レッツゴー・サザエさん」と、1999年の逝去直前までカツオ役を務めた高橋和枝による「カツオくん(星を見上げて)」を収録。この2曲も筒美京平によるものだ。加藤みどりの歌手活動はこの曲のほか1960年代の『ゲゲゲの鬼太郎』『夕焼け番長』の主題歌があるくらいで、現在ではその歌声を耳にする機会はほとんどないのだが、専業歌手でもやっていけそうなほどの歌唱力である事はあまり知られていない。
そして面白いのは、「タマの鳴き声」「タラちゃんの足音」という効果音が収録されていること。それも鳴き声は4パターン、足音は2パターンがある。近年ではアニメの音声や効果音をサンプリングするDJやリミキサーも増えたので、音ネタとして重宝されることだろう。誰もが耳にした事がある、番組のシグネチャー・サウンドであるから、その用途は色々と考えられる。
『サザエさん』は、過去に海賊版やキャラクター無断使用があった経緯などから、版権管理が非常に厳しい作品として知られる。DVDなどの映像ソフトは今日に至るまで発売されていないし、サントラは本盤が初めて。番組単独の主題歌集はいまだに実現されていない状況だ。本盤のリリースをきっかけに「雪解け」が始まり、そういった状況が徐々に変わっていくことに期待したい。
サザエさん 音楽大全(音楽:越部信義)
TYCN-60100/2,625円/ユニバーサルミュージック
12月4日発売予定
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