5月28日よりタワーレコード各店で、Animelo Summer Live 2013とのコラボ企画によるポスターが掲示されているのをご覧になっただろうか。かの有名なキャッチコピーをもじった「NO ANISON, NO LIFE.」と大書された1枚だ。黄色地に赤文字というお馴染みのタワレコ配色で、視覚的インパクトも十分である。しかも5月29日にはタワーレコード主催による初のアニソンイベント「TOWER RECORDS presents アニ☆ソン!NO ANIME, NO LIFE.」が渋谷O-EASTが行われ、上坂すみれ、三澤紗千香の仲良し声優コンビや、南里侑香、ALTIMAが出演している。
今でこそタワーレコード(特に新宿店)のアニソン推しも定着してきたが、これは20年ほど前には考えられなかった現象だ。周知のとおり同店はもともと洋楽の輸入盤販売からスタートしており、1990年までは国内アーティストの取り扱い自体がなかった。バブル期には洋楽のロックやポップス、ユーロビートなどがよく売れていたし、マニアックな若者はエレクトロニカやサルサ、アヴァンギャルドなどのレア音源を求めて、試聴コーナーにたむろしていたものだ。
僕はこの頃のタワレコ新宿店へ頻繁に出向いていたが、当時のフロア割りは、7FがJ-POP、8Fが洋楽ロックとポップス、9Fがジャズとクラシック、10Fがサントラと映像ソフトが中心になっていたと記憶している。
現在はというと、7Fがアイドルとアニメ、8FがJ-POP、K-POPとサントラ、9Fがロック、ジャズなど洋楽全般、10Fがクラシック音楽専門という布陣。エスカレーターで店内に入る客が真っ先に目にする7Fが、アイドルとアニメのコーナーになるわけだ(300人収容のイベントスペースまで設置されている)。現在、CDを買い支えているのはこういったニッチなジャンルの、コアなファン層であるという事だろう。タワーレコードの商品構成は、時代を映す鏡なのだ。
さて、前回の記事では『PSYCHO-PASS』のサントラを紹介したのだが、同作の発売日である5月29日には、他にもいくつか注目のサントラがリリースされていた。今回はその中から『Courtesy of ZETTAI KAREN CHILDREN THE UNLIMITED 兵部京介』のサントラを紹介したい。ご存じ『絶対可憐チルドレン』のスピンオフ作品であり、今年1月から3月まで放映されていた番組だ。
本編の『絶対可憐チルドレン』アニメ化が2008年4月からなので、もう5年前ということになる。当時オープニング主題歌「Over The Future」を歌った小学生グループ、可憐Girl’sの中元すず香が、いまやBABYMETALのリードシンガーとしてメタルソングを熱唱、SUMMER SONIC 2012にまで出演してしまうなんて、5年前には誰も予測できなかった事だろう。
サントラの構成はSide A、Side Bと題された2枚組CDに45曲を収録しており、104分のボリュームを誇る。本作は1クールの作品でありながら、オープニング主題歌2バージョン、エンディング主題歌8バージョンが用意されていた事でも話題となった。これら全てのテイクと、最終話で披露されたユウギリの挿入歌「未来物語」が漏れなく収録されているのは嬉しいところだ。なお、尺はいずれもTVサイズとなっている。
音楽は『絶対可憐チルドレン』に引き続き、中川幸太郎が担当。『スクライド』『ΠΛΑΝΗΤΕΣ』『ガン×ソード』『コードギアス 反逆のルルーシュ』など、アニメ史上に残る劇伴を数多く手がけ、「仮面ライダーW」など平成ライダーシリーズの音楽でも知られる。2000年代を代表する作曲家の1人と言っていいだろう。中川の家系は父、叔父、弟と多くの管楽器奏者を生み出してきた音楽一家であり、『絶対可憐チルドレン』の音楽も家業のブラスセクションを派手に効かせたもの。往年のスパイ映画を思わせる洒脱なサウンドが魅力的だった。今回の『兵部京介』では一転して、オーケストラと合唱を主軸に据えたシリアスな作風を貫いており、『絶対可憐チルドレン』との差別化を図っている。
Side Aの1曲目「THE UNLIMITED」はタイトルどおりに、本作のメインテーマと言うべき楽曲だ。劇中でもシリーズの一番最初、つまり第1話のアバンタイトルから使用されている。兵部がリミッターを解除し、アンリミテッドモードに入る際のBGMとしてファンにはお馴染みの楽曲だろう。合唱とピアノからなる主旋律に、弦楽器のトレモロや管楽器のトリルが重なりあい、飽和状態になるほどに詰め込まれた強烈なサウンド。まるで人間の「叫び」を、何倍にも増幅して具現化したような音にも聞こえる。本シリーズのテーマである「超能力」を音で表現したものとして、ちょっとこれ以上は考えられないほどのサウンドだと思う。Side Bの6曲目「今、戦いの幕が開く」や10曲目「カタストロフ」でも同種のサウンドが用いられているので、この「合唱+α」という構造が本作のシグネチャーと言っていい。
その「今、戦いの幕が開く」は、第1話で兵部京介の初バトルで使用。低音弦のオスティナートがムソルグスキーの「展覧会の絵」を思わせ、バーバリズム的な魅力にあふれている。本作では弦楽器をたっぷりと使いながらも、それらを優美に歌わせた叙情的な楽曲はかなり控えめ。はっきりとメロディを奏するよりも、トレモロやトリルなどで効果音的なサウンドを生み出し、作品のスペクタクル感を増す事に重点が置かれている。Side Bの19曲目「刻よ永遠にとまれ」も、合唱を用いた壮大かつ終末感あふれる楽曲。最終話を観た人なら分かるとおり、楽曲タイトルがクライマックスの内容を象徴するものとなっている。
アニメのBGMを聴いていて「いい曲だ!」「作品に合っている!」と感じる事はよくあるが、その楽曲構造やオーケストレーションがクラシックの有名曲から着想を得ている(ように聞こえる)のも、またよくある。劇伴というものの性質を考えると、今までにない新たな音世界の創造よりも、作品の方向性や各シーンとのマッチングが優先されるのは当然であり、その事については一切不満もない。しかし、時にはこちらの常識を覆すような、未知のサウンドの出現を期待してしまうのも偽らざるところだ。本盤はそういった知的欲求に応えてくれるのではないかと思う。
僕がサントラを聴いて「あの音は一体どうやって出してるんだ!?」「この曲の楽譜がほしい! オーケストレーションを見たい!」と思ったのは、本盤が初めて。それほど『兵部京介』BGMのオーケストレーションは独特、かつ先鋭的なものだ。サントラの域を超え、純音楽としても通用しそうな高い技術と独創性を感じさせてくれる1枚である。(和田穣)
THE UNLIMITED 兵部京介Original Soundtrack(音楽:中川幸太郎)
GNCA-1368/3,360円/ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
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