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アニメ音楽丸かじり(109)『PSYCHO-PASS サイコパス』サントラは驚きの豪華特典!

 前回のこの記事で「オリコンデイリーチャートのトップ5のうち、4曲をアニメ関連が占めた」という話を書いたのだが、 その後「sister’s noise/fripSide」(TV『とある科学の超電磁砲S』OP主題歌)は4日連続の1位を獲得し、結局週間ランキング(5月20日付)でも1位を獲得してしまった。fripSideにとってこれが初めての週間1位である。やはりこのユニットは『超電磁砲』とのタイアップで最もポテンシャルを発揮するという事になるだろうか。
 さらに翌週5月27日付週間ランキングでは、話題のコラボT.M.Revolution × 水樹奈々による『革命機ヴァルヴレイヴ』OP主題歌「Preserved Roses」が初動11.5万枚という売上げ。これは過去10年に発売されたアニメ主題歌の中でもトップクラスの出足である。すでに2013年のアニソン界を代表する楽曲となるのは間違いないので、気の早い話ではあるがAnimelo Summer Live 2013で2人の共演があるのかどうかが気になる。デュエットソングというのは話題を集めやすいという利点がある反面、ライブで披露される機会が少ないために代表曲となりにくい。そのあたり今後2人がどう対処していくのか、注目していきたい。

TV『とある科学の超電磁砲S』オープニング主題歌 「sister’s noise」/fripSide

初回限定盤:GNCA-0280/1,890円/ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
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通常盤:GNCA-0281/1,260円/ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
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 5月29日は『PSYCHO-PASS サイコパス』『Courtesy of ZETTAI KAREN CHILDREN THE UNLIMITED 兵部京介』『八犬伝―東方八犬異聞―』『ドキドキ!プリキュア』と一挙に4作のTVアニメのサントラが発売となる嬉しい日だ。担当作家の点でも『PSYCHO-PASS』の菅野祐悟、『兵部京介』の中川幸太郎、『八犬伝』の黒石ひとみ、そして『プリキュア』を高梨康治から引き継いだ高木洋と、注目の面々が揃っていて目移りしてしまう。
 そんな中から今回は「PSYCHO-PASS サイコパス Complete Original Soundtrack」について紹介してみたい。ご存じのとおり、このアニメは昨年10月から今年3月までノイタミナ枠で放映されていたTVシリーズだ。「踊る大捜査線」の本広克行が総監督を務め、虚淵玄、Production I.Gと組んで近未来SF風の刑事ものを制作するという、放映前から注目度の高い作品だった。

 本作のサントラはもともとBD/DVDの初回盤特典として、第2巻、第5巻にそれぞれ15曲ずつを収録したCDが同梱されている。今回はその30曲に大幅な増補を加えて、なおかつ全曲リマスターを施したもの。5月29日にリリース予定だ。CD2枚に49曲を収録しており、オープニング・テーマ「abnormalize」(凛として時雨)、「Out of Control」(Nothing’s Carved In Stone)、およびエンディング・テーマ「名前のない怪物」「All Alone With You」(EGOIST)の4曲はそれぞれTVサイズで収められている。
 さらに限定盤ではノンクレジットOP/ED映像を6種類収録したBDが付属するので、合計ディスク3枚組のセットということになる。こういった映像特典は珍しいものではないが、DVDではなくBDに収録してくれるのは嬉しいもの。また、シングルCDや映像パッケージではなく、サントラCDに同梱するというのも面白い試みだ。

 僕はソニー・ミュージック担当者の方から限定盤のサンプルをお借りしたのだが、外観はトールサイズの紙箱に収納されているので、BD/DVDと同じくらいの大きさになっている。映像パッケージと一緒に書棚へ収納しておくのにピッタリで、コレクター心理に配慮がなされた作りだ。
 そして限定盤には最終話(第22話)の画コンテ本が同梱されているのもポイントが高い。これまたサントラの特典としては珍しい趣向だ。BD/DVD各巻の特典となっているシナリオ原稿ブックと併せて読めば、どのようにして本作が作られていったか、より理解が深まることだろう。
 考えてみると、BD/DVDには趣向を凝らした特典をつけるのが当たり前になっているのに対して、サントラのパッケージングは今までこの点で遅れをとってきた。映像と音楽という商品特性の違いはあるが、こういったやり方を他社・他作品でももっと取り入れていいのかもしれない。

 さて、それではサントラの内容面に目を向けていこう。音楽担当は上記のとおり菅野祐悟が務める。「踊る大捜査線」「SP 警視庁警備部警護課第四係」を担当したことで本広克行と縁があり、他にも「キイナ~不可能犯罪捜査官~」「MR.BRAIN」など刑事ドラマを多く手がけていて、なおかつ『図書館戦争』『鉄腕バーディー DECODE』などアニメ劇伴でも実績があるという、まさにピンポイントでこのアニメにピッタリの作曲家だ。

 本作のメインテーマと言えるのがDISC-1の1曲目「PSYCHO-PASS」。第1話の執行シーンで初登場したほか、各話の見せ場となるシーンで多用されている。出だしのシンセの分散和音からインパクト十分で、多くの視聴者の印象に残っている楽曲だろうと思う。バイオリンなどの独奏パートを挟んで、ストリングスと打ち込みのビート、エレキギターが渾然一体となって盛り上がる実に格好いい楽曲だ。
 注目していただきたいのがバイオリン、チェロ、ティン・ホイッスルといったソロ楽器だ。それぞれノンビブラートに近い演奏で、どこか怜悧で虚無的なサウンドを生み出している。ちなみにビブラートは深くかければかけるほど、リッチで情熱的な音色になる。しかしそれでは本作らしさが出ないから、このようなディレクションになったのだろう。

 執行官たちの出動シーンで多用されるのがDISC-1の4曲目「ドミネーター」。文字どおり特殊銃ドミネーターのテーマ曲である。鋭いブレイクビーツに乗った、アコースティックギターのパワフルなストロークが聴きどころ。左右のパンを目一杯使った処理が為されているので、ぜひヘッドホンで聴いてみてもらいたい楽曲だ。個人的には、劇中のシビュラシステム(≒極端な管理社会)をデジタルサウンドに、その中の異端児たる執行官たちを荒々しいアコギのサウンドに喩えているように思えた。

 本作は決してサスペンスとアクションだけの内容ではない。キャラクター同士の共感や反発など、人間の「情」に訴えかける部分が物語の骨子となっている。そのあたりを描写するBGMには、やはりピアノやストリングスといった楽器がふさわしい。DISC-1の15曲目「命の在り方」は、第2話の病室で咬噛と朱が会話を交わすシーンが初出だが、枯淡なピアノの響きとチェロの独奏が、朱の涙をいやが上にも盛り上げていた。楽曲の終盤では1曲目「PSYCHO-PASS」のメインテーマが、ピアノとストリングスの変奏によって感動的にリフレインされている。

 以上のように本作のサウンド傾向は実に明快だ。シビュラシステムを描写したシーンや、事件発生前の不穏な場面では、テクノ系の無機的な電子音を用いて緊迫感を伝える。狡噛ら執行官には、アコースティックギターやウッドベースの音色で生々しさ、荒々しさを与えている。叙情的なシーンはピアノとストリングスで視聴者を泣かせてくれる。そして各話のクライマックスとなる執行官と潜在犯の対決シーンでは、テクノ、ストリングス、ギターの3要素を融合したハイブリッドな音楽で、一気に畳みかけてくるのだ。
 本作の音楽は、口ずさめるような歌謡的メロディが多いわけではなく、音楽的には先鋭的でアーティスティックですらあるのだが、分かりにくさとは無縁であるところが素晴らしい。サウンド傾向だけでシーンの描き分けを行ってくれているから、BGMに注意深く耳を傾けなくても、各シーンにおける音楽の意図が明確に伝わってくるのだ。このあたりは菅野祐悟が、実写ドラマの現場で培ってきた技術だろう。ドラマはコア層だけでなく、ライト層にも伝わるような音作りをしないと通用しないのだから。(和田穣)

PSYCHO-PASS サイコパス Complete Original Soundtrack(音楽:菅野祐悟)

完全生産限定盤:SRCL-8291〜94/4,980円/ソニー・ミュージックレコーズ
5月29日発売予定
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通常盤:SRCL-8295〜96/3,059円/ソニー・ミュージックレコーズ
5月29日発売予定
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