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アニメ音楽丸かじり(111)今年最大級の話題作! 『進撃の巨人』サントラが人類に襲いかかる!

 Amazon.co.jpで今年上半期の各種ランキング発表があったのだが、これがなかなか面白い。あまりに面白いので、アニメ・ゲーム部門のランキングを以下に紹介してみたい。

  1. THE IDOLM@STER LIVE THE@TER PERFORMANCE 01 Thank You!765 MILLIONSTARS!!
  2. TV『ガールズ&パンツァー』オリジナルサウンドトラック
  3. BLOODY STREAM/Coda(TV『ジョジョの奇妙な冒険』OP主題歌)
  4. 『ラブライブ!』 μ’s Best Album Best Live! collection/μ’s
  5. ジョジョ~その血の運命(さだめ)~/富永TOMMY弘明(TV『ジョジョの奇妙な冒険』OP主題歌)
  6. THE IDOLM@STER ANIM@TION MASTER 生っすかSPECIAL カーテンコール
  7. THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 020 輿水幸子
  8. THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 013 十時愛梨
  9. THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 018 安部菜々
  10. K-ON! MUSIC HISTORY’S BOX

 というわけで、根強い固定ファンを抱える『アイマス』「モバマス」勢が圧倒的に強く、そこに『ジョジョ』『ラブライブ!』が食い込む構図となっている。2万円近い高額商品であるCD-BOXが10位にランクインした『けいおん!』の人気もさすがと言ったところ。個人的に嬉しいのは、サントラ盤で唯一ランクインした『ガールズ&パンツァー』の存在だ。
 特典をたっぷりつけたり、「主題歌全部入り」のようなサービス精神旺盛な構成ではないのに、2位という高い順位を占めたのは立派。これは純粋に作品の人気と、楽曲のパワーによるものだろう。このCDについては本連載の第105回で詳しく紹介しているので、まだ手にとっていないという方はチェックしてみて頂きたい。1960年代の戦争映画を思わせるマーチ風BGMが作品にフィットしており、聴いていて楽しくなる1枚だ。

 さて今回取り上げるのは、6月28日発売予定の『進撃の巨人』サントラ盤だ。言わずと知れた今年最大の注目作のひとつであり、毎回のように視聴者の予想を裏切る怒濤の展開で、いま話題沸騰中のTVアニメである。個人的にも毎回「次は一体どうなるの!?」という期待で1週間が長く感じられるほど。『新世紀エヴァンゲリオン』『涼宮ハルヒの憂鬱』『魔法少女まどかマギカ』などを観た時にも感じたことだが、「次回が待ちきれない!」というワクワク感こそ、週1回放映されるTVアニメという放映形態の醍醐味ではないだろうか。まだ放映中のため最終的な評価はできないが、本作は時代を代表するアニメになるポテンシャルを、十分に有していると思う。

 サントラはCD1枚にトータル77分で全16曲という仕様。曲数のわりに収録時間はたっぷりで、長尺で聴き応えのあるBGMが楽しめる。またオープニング主題歌、エンディング主題歌はいずれも収録されていないので注意してほしい。音楽担当は澤野弘之。『機動戦士ガンダムUC』のサントラがそのクオリティで話題となった事は記憶に新しい。『戦国BASARA』『戦国BASARA 弐』『青の祓魔師』『ギルティクラウン』と短期間で立て続けに優れたBGMを生み出しており、いま最も注目すべき作曲家の1人だろう。
 アニメスタイルの読者ならご存じかと思うが、『進撃の巨人』を制作するWIT STUDIOは、Production I.Gから独立してできたスタジオだ。中でも『戦国BASARA』『ギルティクラウン』を作ったスタッフが中心となっている。そのため監督の荒木哲郎を始め、作画監督の浅野恭司・門脇聡、美術監督の吉原俊一郎、編集の肥田文など、多くのスタッフが『進撃の巨人』と共通しているのだ。木下哲哉(ポニーキャニオン)、和田丈嗣(現WIT STUDIO社長)、前田俊博(毎日放送)といったプロデューサー陣も同じ。こういった人脈から、澤野弘之の起用もごく自然に決まったのではないかと思われる。

 本編第1話のハイライトは、超大型巨人が登場してシガンシナ区の城壁を破壊する場面。本作を象徴するような、圧倒的スケール感を見せてくれるシーンだ。ここで使用されるのが14曲目「XL-TT」という楽曲。オーケストラと混声合唱が大音響で鳴り響き、さらにグランカッサ(大太鼓)やチュブラーベルまで加わり、黙示録的な終末感たっぷりのサウンドを奏でる。この楽曲は超大型巨人のテーマ曲のようになっており、第4話で再登場する際にも使用されているのだ。「XL-TT」という曲名はeXtra-Large TiTanを意味するのだろうが、なんとなくユーモラス。そう、このサウンドトラック盤の曲名はどれも奇妙で個性的だ。『ギルティクラウン』サントラの曲名もギリシャ語をたっぷり使った独特なものだったが、『進撃の巨人』はそれ以上に凝っている。
 第3話でエレンたち第104期訓練兵団の訓練シーンで流れるのが10曲目「E・M・A」。合唱隊に「ウ!」「ヘイ!」といったかけ声を出させるという、面白い試みが行われている。まるで武道の訓練を思わせるような雰囲気が、使用シーンによく合っている。
 第5話におけるエレンたちの初陣、立体機動装置による初戦闘を描いたシーンの音楽が4曲目「立body機motion」だ。いかにも澤野弘之らしいホルンの勇壮なメロディに、エレキギターが絡んだパワフルなサウンド。本作のBGMはオーケストラが中心ではあるものの、必要に応じてロックやテクノの要素もどんどん導入しているのが特徴だ。

 さて、澤野弘之といえばオーケストラと並んで得意としているのが歌もの。本作でも『ガンダムUC』『ギルティクラウン』と同様に、歌ものがたっぷりと含まれている。歌うのは小林未郁、Cyua、mpi、Aimee Blackschlegerといった、これまでにも澤野楽曲に起用されてきたお馴染みの面々だ。
 リヴァイら調査兵団の初出撃となる第9話でフィーチャーされたのが2曲目「The Reluctant Heroes」で、男性ボーカルによるクールで爽やかなロック調の楽曲。曲名の意味は「不承不承のヒーローたち」といったところ。まさにリヴァイのキャラクター性にぴったりだ。
 第4話の雨中行軍シーンでは、Aimee Blackschlegerが歌う8曲目の「DOA」をフィーチャー。デジロック色の強いキャッチーな楽曲だ。悲劇的なシーンでよく用いられたのが7曲目の「Vogel im Käfig」で、ボーカルはCyuaが担当。タイトルの意味はズバリ「篭の中の鳥」で、本作での人類がおかれた状況を端的に表している。こちらはオペラや歌曲を思わせるドラマティックなオーケストラサウンドで、マイナー調のメロディが引き立っている。

 オーケストラと合唱隊との共演は、澤野弘之が『ガンダムUC』でも得意としていたところだが、本作ではそれがより先鋭化し、圧倒的な恐怖や終末感を描き出している。特に合唱隊の「声」は、人類の絶望感の象徴とも言えるような役回りを担っているようだ。一方でロック調の歌ものが要所で挿入され、重苦しくなりがちな作品の中で、一服の清涼剤となっている。このふたつのコントラストが、本作のBGMの骨子ではないだろうか。
 本盤はAmazon.co.jpのランキングでずっと上位につけており、僕が推奨するまでもなくヒットするだろう。しかしそれでも、やはりこのサントラは「買い」だと声を大にして言いたい。恐らくは2013年を代表する1枚になるだろう。

 最後にお知らせだが、澤野弘之が11月15日にSHIBUYA WWWで4年半ぶりに単独ライブを行う。チケットはすでに完売しているが、11月14日に追加公演が行われることが発表された。会場が小規模であり、バンド編成によるライブのため生のオーケストラは望めないが、小林未郁、Cyua、Aimee Blackschlegerといったボーカリストが参加予定。つまり『進撃の巨人』の楽曲も披露される可能性があるわけだ。詳しくは澤野弘之公式サイトでチェックしてみてほしい。(和田穣)

進撃の巨人 オリジナルサウンドトラック(音楽:澤野弘之)

PCCG-1351/3,150円/ポニーキャニオン
6月28日発売予定
Amazon