ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(104)『けいおん!』12枚組CD-BOXが登場!

 昨年12月の記事でROUND TABLE featuring Ninoの活動休止についてお伝えした。僕も含め、残念に思っているファンも多いと思うが、そんな人々にひとつ朗報だ。2月20日にリリースされた花澤香菜のデビューアルバム「Claire」が、かなりの程度でROUND TABLEサウンドを継承しているのである。それだけでなく、楽曲や音作りのクオリティも実にハイレベルなのだ。

 僕もさっそく購入して愛聴しているのだが、ブックレットにあるクレジットを見ると、まずROUND TABLEの北川勝利が全14曲のうち「青い鳥」「Just The Way You Are」「Ring a Bell」「シグナルは恋ゴコロ」「おやすみ、また明日」と5曲に作詞・作曲・編曲で関わっており、さらにボーカルディレクションとしてもクレジットされている。彼がこのアルバムにおいて、主導的役割を担ったことが分かる(実際に彼は自作曲以外の歌入れにも立ち会ったそうだ)。
 さらに驚くべきはその他の作家陣で、まず渋谷系の大物・カジヒデキが「ライブラリーで恋をして!」を提供。そして宮川弾(元ラヴ・タンバリンズ)、沖井礼二・矢野博康(共に元Cymbals)、ミト(クラムボン)、中塚武(元QYPTHONE)など、渋谷系第2世代の重要人物たちが勢揃いしているのだ。

 サウンドは生楽器を主体にした軽妙なバンドサウンドの上に、ストリングスやホーンセクションでカラフルな彩りを施した、渋谷系らしさにあふれたポップなもの。昨今のJ-POPでは少数派となりつつある、オーガニックで耳に優しく、しかもお洒落な音楽だ。これなら女性リスナーにも安心しておすすめできる(イベントに行くと分かるが、花澤香菜には女性のファンも相当数いるのだ)。
 主役である花澤の歌声も、ラジオやキャラソンでのはっちゃけぶりとはまた違った、繊細で透明感のある個性を演出している。特に本人作詞の「おやすみ、また明日」は、等身大の素直な想いを、さすがは役者という確かな表現力で歌い上げていて新境地を見せてくれた。可愛らしさと爽やかさは以前からの持ち味だが、そこに一本太い芯が通ったような印象を受ける。

 ちなみにもうひとつ言うなら、本人を写したジャケットの写真が素晴らしい。アースカラーの気取らない服装に細い指先。白いヘッドフォンを被ったショートカットのヘアスタイルで、色白の肌にちょっと茶色っぽい瞳の女の子なんて、実に渋谷系男子のアイコンたるにふさわしいではないか。これを機会に長く継続的な音楽活動が行われ、渋谷系アーティストたちがこぞって「花澤香菜に曲を書きたい!」と言い出すようになったら、どんなに素晴らしいだろうか。

Claire/花澤香菜

SVWC-7929/3,150円/アニプレックス
発売中
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 今月注目のCDといえば、なんといってもこちら。TVシリーズ『けいおん!』『けいおん!!』および『映画 けいおん!』の使用楽曲を集めたCD-BOX「K-ON! MUSIC HISTORY’S BOX」が3月20日に登場だ。CD12枚組で705分を収録し、19800円というビッグなアイテム。オリコンチャートに何作もヒット曲を送り込んだ主題歌を筆頭に、劇中歌、イメージソング、サウンドトラックなど全258曲を収録している。注目の初CD化音源としては、PSP用ゲーム「けいおん! 放課後ライブ!!」の音源が23トラック含まれているぞ。
 CD-BOXといえば往年の名作が取り上げられるケースが多いが、2011年に劇場版が公開されたばかりのシリーズで、これだけ大規模なBOXセットは珍しい。しかも本作はTVシリーズが合計3クールに劇場1本という尺でしかないのに、BOXを組めるほどの楽曲数があることにまず驚かされる。それだけ音楽面に力を入れたタイトルであり、またファンからの支持も大きかったと言えるだろう。

 ざっと各ディスクの内容を見ていこう。まずDISC 1はシングル曲が収録され、「Cagayake!GIRLS」「Don’t say “lazy”」「GO! GO! MANIAC」「Listen!!」「Utauyo!!MIRACLE」「NO, Thank You!」「Unmei♪wa♪Endless!」といったお馴染みの主題歌と、そのカップリング曲がズラリと並ぶ。おそらくは購入者の再生頻度も高くなるディスクだろう。収録順は、まず最初に第1期OP主題歌「Cagayake!GIRLS」とそのカップリング曲「Happy!? Sorry!!」、つづいてED主題歌「Don’t say “lazy”」とそのカップリング曲「Sweet Bitter Beauty Song」という感じの時系列だ。
 「GO! GO! MANIAC」は、アニメキャラクター名義のシングルが、オリコン週間チャートで史上初めて1位を獲得したというエポックな楽曲だ。また「Utauyo!!MIRACLE」については2010年8月の記事にて紹介しているので、参考にしてほしい。

 DISC 2からDISC 5までは「ふわふわ時間」「U&I」「わたしの恋はホッチキス」など、作中で唯たちに軽音部よって演奏された劇中歌がメイン。初出はアルバム「放課後ティータイム」とその続編シリーズから。これらは使用された話数によって複数のミックスやバージョンがあるため、全てを集めたいというマニア心に訴えかけるコンテンツだ。
 DISC 6からDISC 8まではイメージソング集。唯の「ギー太に首ったけ」、澪の「Heart Goes Boom!!」、律の「Girly Storm 疾走 Stick」、紬の「Dear My Keys ~鍵盤の魔法~」、梓の「じゃじゃ馬Way To Go」といった楽曲と、そのカップリングとなった「レッツゴー」などを収録している。
 DISC 9はTVシリーズ第1期サントラ、DISC 10は第2期サントラ(元々は2枚に分売されていたもの)、そしてDISC 11が劇場版サントラとなっている。百石元によるサントラの内容については、2009年6月の記事で紹介している。

 そして注目の初CD化音源が、DISC 12に収められたPSP用ゲーム「けいおん! 放課後ライブ!!」に使用されたトラック。このゲームは軽音部5人になりきって各パートを演奏するリズムゲームがメインであり、そこで主題歌や劇中歌が多数使用されているのだ。ただしゲームの制作時期の都合から、使用されているのはTVシリーズ第1期の楽曲のみ。売上17万本以上のヒット作となったが、なぜか第2期をモチーフにした続編は制作されなかった。
 音ゲー用だけあって、聞き取りやすいように各パートが分離よく、エフェクト少なめで収録されているのが特徴だ。耳コピをしたい人にはおすすめ(とは言え『けいおん!』の楽曲は楽譜が出版されているものが多いのだが)。音楽マニア的な見地から言っても、Tom-H@ckの音作りの根幹がかなりはっきりと分かってしまうので、なかなかに興味深いところだ。
 実際のゲーム中では、例えば律パートをプレイする際にはドラムの音量が大きめ、という調整がなされているが、さすがにそれはCDでは再現されないだろう(5人それぞれのテイクが必要になり、トラック数が5倍になってしまう)。その他、DISC 12には各主題歌のTVサイズも収録されている。

 以上のようにかなりマニアックかつ重厚なコレクション性を持つCD-BOXであり、『けいおん!』シリーズの楽曲を網羅した圧倒的ボリュームのBOXセットだ。厳密に言うと、ゲーム用に新規制作されたBGMのように未収録の楽曲もあるのだが、そこまで求めるファンは少数派だろう。まずは膨大な歌もののバージョン違いを集めただけでも、おおむね納得の内容と言えるのではないだろうか。(和田穣)

K-ON! MUSIC HISTORY’S BOX

PCCG.01330/19,800円/ポニーキャニオン
3月20日発売予定
Amazon