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アニメ音楽丸かじり(103)三澤紗千香「ポラリス」、小坂明子「懐想」を紹介!

 2月23日より公開が始まった『劇場版 とある魔術の禁書目録 エンデュミオンの奇蹟』は、23日・24日の週末興行成績ランキングで初登場3位のヒット。全国30スクリーンでのやや小規模な公開ながら、熱心なファンが多いことを改めて証明した。
 今回の劇場版で投入された新ヒロイン・鳴護アリサは歌手志望の少女ということで、劇中でなんと6曲もの挿入歌を任されている。映画のテーマは「歌」であり、このあたりは脚本の吉野弘幸の個性も影響しているのだろう。なにしろ彼は『マクロスF』のシリーズ構成・脚本を担当していたのだから。

 その鳴護アリサによる挿入歌6曲すべてを収録したミニアルバム「ポラリス/三澤紗千香」が2月20日にリリースされた。購入してじっくり聴いてみると、その粒ぞろいの楽曲クオリティにびっくり! である。
 特に川田まみ作詞・井内舞子作曲による「Telepath~光の塔」のドラマティックな構成と美しいコード進行は白眉。劇中でも大いにフィーチャーされており、劇場で耳にした方の印象にも残っているだろう。どの曲もバックのサウンドは今時のハイファイなソフトシンセで占められており、『禁書目録』本編のBGMともよく調和している。
 興味深いのは、鳴護アリサのキャラクターソング集ではなく、あくまで担当声優・三澤紗千香の作品としていることだ。このあたり、「新たな若手スターを生み出したい!」というワーナー・ホーム・ビデオとスタイルキューブの意気込みが感じられる。
 ちなみに作品はCDのほか、着うたフル、iTunes Storeでも配信中だ。

ポラリス/三澤紗千香

1000375611/2,625円/ワーナー・ホーム・ビデオ
発売中
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 小坂明子と言えば、1970年代~80年代に大勢のニューミュージック歌手が輩出したヤマハポピュラーソングコンテスト(ポプコン)出身で、16歳の時に書き上げて200万枚の大ヒットとなった「あなた」で知られるアーティストだ。ピアノの弾き語りスタイルが印象的な、日本の女性シンガーソングライターの先駆者でもある。
 その後は作曲家に転じ、1980年代中頃からアニメ音楽の分野にも進出していくのだが、主題歌とBGMの両方を書ける女性作曲家としても先駆的な1人だろう。BGMでは『メイプルタウン物語』『ふしぎ魔法ファンファンファーマシー』『貧乏姉妹物語』など主に東映アニメーション作品で活躍し、主題歌では『きんぎょ注意報!』OPの「わぴこ元気予報!」や、『美少女戦士セーラームーンS』のED「タキシード・ミラージュ」がよく知られているはずだ。『セーラームーン』については後にミュージカル版の音楽監督を務め、1993年から2005年までの全公演で音楽を担当するという、彼女にとってのライフワークとなった。

 かようにアニメ業界とも関係の深い小坂明子が、「あなた」でデビューしてから今年で40周年を迎えるのを期に、セルフカバーアルバム「懐想」を3月20日に発表することになった。全14曲収録で63分の内容だ。「わぴこ元気予報!」「タキシード・ミラージュ」は勿論のこと、『メイプルタウン物語』OP、『劇場版美少女戦士セーラームーンR』主題歌「Moon Revenge」、OVA『What’s Michael?』挿入歌「泣きまね」といったアニメ関連曲が収録されている。また、高橋真梨子に提供した「Liberty~渚にて」や、中森明菜に提供した「ありふれた風景」といった楽曲も収められているぞ。代表曲「あなた」については言うまでもない。

 楽器構成は小坂本人の歌・ピアノを中心に、アコースティックギター、ベースなどが加わるドラムレスの編成だ。音響的には地味だが、40周年を迎えた大ベテランのサウンドとしては相応しいものだろう。なによりこのサウンドが、アニソン、歌謡曲、アイドルソングと出自や年代がバラバラな楽曲を、ひとつの世界観にまとめ上げるのに寄与している。個人的には、「ありふれた風景」のピアノとアコギがユニゾンするパット・メセニー・グループ的な詩情のあるサウンドや、ボサノバ的な解釈を施された「メイプルタウン物語」のお洒落なアレンジが好みだ。

 年月の経過に伴い、小坂明子の声はオリジナルの「あなた」を歌った頃の直線的なハイトーンではなくなり、だいぶ低く渋いものになっているが、そこは2006年にピアノインストアルバムを発表した雄弁なピアノ演奏によってカバーしている。本盤には「あなた」「わぴこ元気予報!」「地球懐想」とインストも収録されているが、歌がないという不満を感じさせない。絶妙なタッチによってピアノが存分に「歌って」いるからだ。

 アニメ音楽の世界で作曲家の業績をまとめた商品というと、たまに作曲家名義のCD-BOXが出るケースがあるくらいで、そうそうお目にかかるものでもない。本盤は分かりやすく代表作がまとめられている上に、作曲者本人が歌手も兼ねているから、セルフカバーという企画が可能となった。なかなか珍しいケースであり、業績を概観して振り返るのにぴったり。ファンにとってはありがたい1枚と言えるだろう。
 なお、このアルバムを引っさげてのツアーが予定されている。残念ながら東京公演はすでに終了したが、これから新潟、大阪、神戸、広島、いわき、大分、熊本と回る予定だ。興味のある方はをチェックしてほしい。(和田穣)

懐想/小坂明子

DDCZ-1857/2,500円/ReBound Records
3月20日発売予定
Amazon