第898回 『沖ツラ』制作話~本編を初めから

 さて、

『沖ツラ』の制作話、何処までやったか忘れたので、取り敢えず駆け足で第1話から?

 実は、最初の方の数話分に色が付き始めた頃までは“作画監督”制はありました。ただ、仕上がりが良くなかったので、総ざらいで頭から直していったのです。どの辺りが良くなかったのか? は以前も説明したとおり、“表情・ポーズ・芝居”全てが硬く、レイアウトの締まりがなかったのです。それは決して、板垣の傲慢からくるモノではなく、委員会チェックレベルで、です。作画の覇気、芝居のテンポ、カット割り&カメラワーク、そしてテロップの出し方……それら全てが「コンテは面白く見えたのに、板垣さんこれで正解なんですか?」的な問い合わせだけでなく、正直リテイクとしていただきました。

これは、俺が責任取るしかない!

と。
 キャラの表情はできるだけ豊かに! 美術は実在する“沖縄”をもう一回見直してウソのないモノに! そして、イメージ背景やテロップの色数も増やし、撮影処理もやり直し多数! 久々に大暴れさせていただきました。今回『いせれべ』と違い、音響は選曲も含め全て納谷僚介さんにお任せできたので、その分こちらは画作り(直し)に集中することができ、本当に有り難かったです。
 音響監督の納谷さん始め、鬼頭明里さん、ファイルーズあいさん、大塚剛央さんらキャストの皆さん、方言指導の譜久村帆高さん、劇伴の石川智久さん・片山義美さん・金城綾乃さん、そして主題歌のHYさん——全て纏めて“音”面は本当に良かったと思います。納谷さんも「音段階は面白くできたから、あと“画”頑張ってください」とおっしゃってましたし、監督の立場からもアフレコ・ダビングの時点ですでに十分笑わせてもらいました。だから、ちゃんと画を直さなければ! と尚のこと思った次第です。
 1話冒頭うちなーぐち(沖縄方言)をまくし立てる喜屋武さんのテロップはオープニングのスタッフテロップと同様の出し方で、とV編にお願いしました。つまり、後で比嘉さんによって通訳されるうちなーぐちはOP同様に“台詞発音と同時になめ出しテロップ”で。それに対して翻訳テロップと同時にのせられるテロップはフォントのバリエーションを豊富に、且つ“ポン置き”にし、

テロップも画の一部として“楽しく視認してもらえる”ように!

と、ある程度のルールを指示しました。

 で、アフレコ後の芝居にのせて作画を直して行くにつれ、いつしか俺はこうスタッフ皆に言う様になっていたのです。

第238回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』12 千年前の文章からどれほどのものが読み取れるのか、やってみる 編

 片渕須直監督が制作中の次回作のタイトルは『つるばみ色のなぎ子たち』。平安時代を舞台にした作品のようです。
 『つるばみ色のなぎ子たち』の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に平安時代の生活などについての調査研究を進めています。その調査研究の結果を披露していただくのが、トークイベント「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」シリーズです(以前は「ここまで調べた片渕須直監督次回作」のタイトルで開催していました)。

 5月17日(土)昼に「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』12」を開催します。サブタイトルは「千年前の文章からどれほどのものが読み取れるのか、やってみる 編」です。今回は千年前に書かれた文章そのものがテーマです。例えば「何故ここにこのような一文があるのだろうか」、あるいは「どうしてここが尻切れとんぼなのだろうか」といったところをきっかけにし、そこから考察を進めるイベントになるようです。どんな話題が飛び出すのでしょうか。アニメタイル編集部も楽しみです。

 出演は今回も片渕監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回のイベントも「メインパート」の後に、短めの「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた~」イベントもアニメスタイルチャンネルで視聴できます。

 チケットは2025年4月16日(水)19時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
告知(LOFT)  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/315362
会場&配信チケット  https://t.livepocket.jp/e/qtjq1
配信チケット(ツイキャス)  https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/370013

 なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr

第238回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』12千年前の文章からどれほどのものが読み取れるのか、やってみる 編

開催日

2025年5月17日(土)昼
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,800円、当日 2000円(税込·飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,500円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

芝山努さんの仕事の話
第二回 もりたけし(演出家)[前編]

本郷 今日は芝山さんとの仕事の関わりを中心にお聞きしたいと思っています。もりさんが最初に絵コンテ・演出をやったのは1988年の『燃える!お兄さん』で。

もり そうです。

本郷 その1~2年前に亜細亜堂に入社ですか。

もり 1985年の12月に動画の研修で入って。初めて芝山さんにお会いしたのはその頃ですね。研修の課題の動画をやって、当時の重鎮にあいさつ代わりに見ていただくんです。それが、山田(みちしろ)さんから始まって、須田(裕美子)さん、小林(治)さん、河内(日出夫)さん、芝山さんだったかな。順番は違っているかもしれないですが。芝山さんと最初に会ったのがその時ですね。

本郷 その時の芝山さんの印象はどうでしたか。

もり やっぱ巧い。巧いのは当たり前ですけど、巧い上に飄々とされている。

本郷 そういうところはあるかもしれないですね。

もり その後、動画を1年やって原画。『きまぐれオレンジ★ロード』の12話で初めて原画になったんです。当時の亜細亜堂って動画部屋が3階だったじゃないですか。2階が芝山さんや小林さんのいらっしゃる原画部屋。それで1階が制作室だった。それとは別に2スタもありましたけど。僕が原画になったのは、多分87年の1月ぐらいで「君の席はここだ」と言われたのが、芝山さんの隣だったんです(笑)。
 芝山さんは映画『ドラえもん』をやっていたと思います。隣と言っても、机がL字型に配置されていて、僕の左側に芝山さんが半面見えるかたちで座ってらして。お顔は見えないんですけど、コンテを描くのに尺を計っている時に、ボソボソとジャイアンの声で喋ったりとか(笑)。

本郷 声色を変えて。

もり そうそう! それは聞いてましたね。あとは芝山さんって、当時ずっとそうでしたけど、朝10時に入られて6時に退社される。それを判で押したようにやってらしたので。で、芝山さんが帰られた後に、当然、我々は残って作業してるじゃないですか。飯田(宏儀)氏とかあの辺の連中と、芝山さんが帰った後の机を盗み見していました。芝山さんが出したゴミをみんなで漁ったり(笑)。

本郷 ゴミ箱を漁るのもアニメーターあるあるですね。

もり 芝山さんが描いたものをコピーしたりとかしてましたね。それから、芝山さんとの接点は、原画になって半年か1年くらいの頃に『オレンジ★ロード』がピンチだったんですよ。で、1人で原画を半パートやらされていた時期があった。それでご褒美として、芝山さんが、頑張った連中に『まんが日本昔ばなし』の原画を振ってくれたんですね。

本郷 ご褒美が仕事?(笑)

もり どういうご褒美かっていうと、僕らが『ど根性ガエル』とかが好きだから、『きまぐれオレンジ★ロード』でキャラクターの歯茎を描きたかったんですよ。大口開けて叫んでる時に『ど根性』の時みたいな歯茎を描こうとしていたんです。それは全部直されて「やめろ」と言われていた(笑)。『ど根性』みたいな動きを描こうとして、それも怒られて。で、その後で芝山さんが『まんが日本昔ばなし』をやらせてくれたんです。タイトルを覚えてます。「とんぼのやどり木」というタイトルでした(編注:芝山努が演出を担当。1987年放送)。その回だけ『ど根性ガエル』的なキャラクターだったんですよ。

本郷 そんな事があったんですね。

もり のんきな殿様が出てくるんですけど、そのキャラクターのモデルが齋藤卓(也)ちゃんなんです。
 芝山さんですから「コンテ=ラフ原」じゃないですか。コンテを拡大コピーすると、それがラフ原画になるんです。しかも渡されたコンテを見ると、タイムシートに挟んであって、そこに全部タイミングが打ってあるんですよ(笑)。

本郷 ご褒美ですね。

もり だから僕らはなぞるだけ。なぞるだけでも勉強になるんです。芝山さんから学ばせていただいたのは、その時ですね。
 仕事ではないんですが、シンエイとあにまる屋と亜細亜堂の合同の草野球チームに無理やり入れられた事はありました。

本郷 ボックスですね。

もり ボックスに無理やり入れられました。ボックスは芝山さんが監督だったんです。だから仕事の接点よりも、野球の接点のほうがあったかもしれないです。

本郷 芝山さんは試合で、監督として指示を出したりするんですか。

もり いや、ただいるんです。

本郷 ただいる?

もり しかもお忙しいから、来るのは5回に1回とか。だから、山田みちしろさんが……。

本郷 実質的なチームの監督だった?

もり 実質的な親分でしたね。仕事の話に戻ると、原画として教えていただいたのは「とんぼのやどり木」の時ぐらいで。僕は演出になって2スタに移動になって、芝山さんの隣から席が移りましたから。

本郷 もりさんは1989年の『らんま1/2』で絵コンテ、演出、原画をやっていますが、これは芝山さんが監督だった時期ですね。

もり そうです。その頃、既に僕はスタジオディーンに出向になっていました。

本郷 じゃあ、芝山さんと会う事はなかった?

もり アフレコとかダビングで会っています。それから、芝山さんが後半でコンテを描かれた時に僕が処理をやらせていただいたという事はありました。

本郷 じゃあその時には、何度か打ち合わせをしていますね。何か印象に残った事ってある?

もり 芝山さんって「こうだよ」とか「こうしなさい」って、一切言わないんですよ。

本郷 そうかもしれない。

もり (アフレコやダビングで)手を広げたりとか、横で変な動きをしてるんですよ。自分の処理とかに気になる部分があって、それをなんとなく間接的に伝えようとしているのかもしれない。それが分からないと、分からないまま終わってしまうから、気付けてよかったっていうのはあるんですけど。芝山さんって、直接具体的な指導をなかなかされないので。

本郷 これは記事に残していいのかどうか分からないけど、「言っても分からないんだろうなあ」と思っていた節があるような気がする。

もり ああ~。

本郷 元々芝山さんって、天才的なアニメーターじゃないですか。自分より巧い人間があまりいない世界で生きてきたから「これは言ってもダメなんだろう」という一種の諦観がある。
 宮崎駿さんって「これはこうで、これはこうで!」と言って、最終的には「そうじゃないんだ!」となって全部描き直すじゃない。芝山さんがそれを始めたら、あんなに沢山の仕事はできないわけだから、ダメな奴がいても仕方がないと思っていたのかもしれない。今思い出すと、それを感じるんだよね。その頃は生意気だから気付いてなかったんだけど。亜細亜堂を辞めてから何年も経って思い出すと、あの時、呆れてたんだろうなって。

もり 一緒ですよ。いまだに思い出すとゾッとしますよ。

本郷 「こいつはしょうがないなあ」って。同じような事を自分も思う時がありますからね。

もり 芝山さんは言葉では言わない。「背中を見ろ」的な感じですよね。本郷さんの声掛けで、十数年後に芝山さんを囲んで会食をしたじゃないですか。あの時からようやく、ボソッと本音を言ってくださるようになった。

本郷 そうね、本当にそういう事を言わないっていうかね。
 私は亜細亜堂にいる間も、芝山さんの事を凄いとは思ってたけど、同時に「そんなに凄くない」と思ってるところがあったんです。どういう事かと言うと「ちょっと手抜きっぽいところがあるんじゃない?」と思っていたんです。だけど、辞めてしばらく経ってから、芝山さんがどういうスタンスでやっていたのかが、凄くよく分かるようになった。つまり、1人じゃどうしようもないんですよね。芝山さんが大勢いれば解決するけど、1人では解決する事ができない。常にそういう問題に直面してたんだ。
 芝山さんを囲む会みたいなのを何回かやらせてもらったのは、芝山さんのおかげで、その後も仕事ができたんだという事に気付かされたというのもあったんです。もりさんもそうだと思うけど「沢山やる」というのを学ばせてくれたのは、芝山さんだけだったんですよね。

もり 本当にそこです。自分が芝山さんから受け継いだ唯一のものが、スピードですね。芝山さんの金言というか、もの凄く僕の心に響いたのが「オレはコンテを頭に浮かぶリアルタイムで描きたいんだよ」という言葉なんです。

本郷 (笑)。

もり 実際には手が追い付かないので、無理なんですけどね。俺も同じ事を思うんですよ。浮かんだ映像をそのまんま、浮かぶスピードのまま描きたい。芝山さんにはスピードを落としたらマズいという恐怖感もあったのかもしれないですね。

本郷 そうかもしれない。

もり 芝山さんはスピードも量も凄かった。朝10時に入って6時に帰られるまでの時間で『劇ドラ』のコンテを進める量とかね。「どうして、この人こんなにできるんだ」と思っていました。芝山さんが帰られる時に、埼京線の電車でご一緒させていただいた事があったんです。だけど、仕事についての話は一切してくれないですから。世間話しかしない。
 さっき言った芝山さんを囲む会の前後に、芝山さんのお宅にお邪魔した事があったじゃない?

本郷 あったあった。

もり その時に初めて、やっと本音を言ってくださったんです。6時に帰ってから何をしていたのかを聞いたら「何言ってるんだ、お前。うちに帰ってからも仕事していたに決まってるだろう」って(笑)。「お前らに苦労してるところ見せられるか」というのをボソッと言われて。帰られてもお仕事をされてたんですね。

本郷 そういう事だったんだね。

もり 半分は安心しましたよね。それから、そういうところで弱みを見せないのが、江戸っ子らしいというか。

本郷 江戸っ子だよね。苦労してるところを人に見せない、それをやるのは格好悪い。

もり そういう部分に感心しました。



取材日時/2024年6月14日 取材/本郷みつる 構成/アニメスタイル編集部

●プロフィール
もりたけし。監督、演出家。代表的な監督作品に『ヴァンドレッド』『ストラトス・フォー』『秘境探検ファム&イーリー』等がある。

第897回 もう忙しい!

『沖ツラ』が終わって、一息吐く間もなく『キミと越えて恋になる』——『キミ越え』の制作真っ只中に飛び込んだ感じで、もう忙しい!

 去年からこの連載で度々話題にしていた“次シリーズ”とは、もちろんこの『キミ越え』のこと。『沖ツラ』と同時に『キミ越え』の構成・脚本を俺の方で終わらせて、その間、木村(博美)さんはキャラクターデザインを進めて。その後、木村さんと共同監督でコンテを完成させた、が去年の主な仕事。
 今年、我々が『沖ツラ』追い込み中、設定類の開発をしつつ、コツコツ作画を進めた木村監督の成果があのPVです。
 そして、今『沖ツラ』終了後、もう既に『キミ越え』絶賛作画中に駆け付けた自分。木村監督と作業分担を決めて、後は手を動かすだけ!

 で、久々にレイアウトチェックだ、明日はダビングだ、早くもバッタバタ……。

と言いつつさらに次の『いせれべ』も準備中(これ発表されています)!!

 また短くてごめんなさい。来週にご期待いただきたいと思います。

第302回 桜の木の下で 〜日本へようこそ、エルフさん。〜

 腹巻猫です。4月12日(土)15時から蒲田studio80にてサントラDJイベント・Soundtrack Pub【Mission#47】を開催します。特集は「2024年劇伴大賞」と「Playback ガンダム1979」の2本立て。2024年劇伴大賞では、2024年に発表・発売されたサウンドトラック(映像音楽)から参加者推薦の名作・名曲を紹介します。Playback ガンダム1979では、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』公開&放映開始で再び注目される『機動戦士ガンダム』第1作(TV&劇場)の音楽をふり返ります!
 詳細は下記リンクを参照ください!
https://www.soundtrackpub.com/event/2025/04/20250412.html


 折しも桜の季節。筆者の仕事場付近の桜も見ごろになっている。今回はそんな時期にぴったりのサウンドトラックを紹介したい。2025年1月から3月まで放映されたTVアニメ『日本へようこそエルフさん。』の音楽である。

 『日本へようこそエルフさん。』は、まきしま鈴木によるライトノベルを原作に、監督・喜多幡徹、アニメーション制作・ゼロジーのスタッフで制作されたTVアニメ。
 平凡なサラリーマン・北瀬一廣は、子どもの頃から夢の中で異世界を訪問していた。そこは竜やエルフが棲むファンタジーのような世界。そこでは一廣は少年の姿のままで、カズヒホと呼ばれている。実はそれは夢ではなく、一廣は眠ることで異世界に転移していたのだ。
 ある日、異世界で魔導竜と遭遇したことをきっかけに、一廣はこちらの世界に異世界のエルフの少女・マリアーベル(マリー)を連れてきてしまう。突然、カズヒホ(一廣)の世界に転移したマリーは驚くが、日本の文化や食べものに触れるうちに、日本が大好きになっていった。一廣とマリーは互いの世界を行き来しながら、少しずつ心を通わせていく。
 流行りの異世界転生・転移もののようだが、基本は一廣とマリーの関係が接近していくようすをほほえましく描くラブコメである。見どころはマリーの日本紀行。マリーが日本の食べ物やアニメや温泉などを体験して感激し、どんどん日本が好きになっていくのが面白い。バトルやサスペンスの要素は控えめで、観ていてほっこりする作品になっているのがいい。

 音楽は、ピアニスト・作曲家のはらかなこが担当。はらかなこは、ドラマ、アニメ、CM等の音楽やアーティストへの楽曲提供で活躍し、アニメ作品ではTVアニメ『ぼくのとなりに暗黒破壊神がいます。』(2020)、『俺だけ入れる隠しダンジョン』(2021)などの音楽を手がけている。
 本作の音楽は、ピアノ、フルート、オーボエ、ギター、ストリングスなどの生楽器によるアコースティックなサウンドを基本に作られている。一廣とマリーの日常を彩る音楽は、あたたかく軽やかな楽曲が多く、聴いていてさわやかな気分になる。そこに民族音楽風の楽曲やアクション系、サスペンス系の曲が加わり、異世界冒険ものの雰囲気をかもしだす。日本での日常を彩る音楽と異世界を彩る音楽が乖離せず、自然に共存しているのが本作らしいところである。
 作曲のタイミングで全話のシナリオができており、いくつかの曲はシナリオの具体的なシーンを想定して発注・作曲されている。ただし、完成作品ではそのとおりに選曲されていない場合もある。
 筆者が気に入っているのは、ピアノを主体にしたリリカルな曲や愛らしい曲。特にマリーのテーマとして書かれた曲「マリーは気になるお年頃」やマリーが日本の食べ物や文化に感激する場面に流れる曲「ウキウキお弁当タイム」「興味津々」などがいい。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、2025年3月29日に「TVアニメ『日本へようこそエルフさん。』オリジナルサウンドトラック」のタイトルでバンダイナムコミュージックライブ/ランティスより配信開始された。CDでの発売はない。
 収録曲は以下のとおり。

  1. 桜の木の下で
  2. Palette Days (TV Size Ver.)(歌:佐々木李子)
  3. カズヒホ
  4. マリーは気になるお年頃
  5. ウキウキお弁当タイム
  6. いつもと違う風景
  7. ようこそエルフさん
  8. 夢に溺れて
  9. 冒険の始まり
  10. 一触即発
  11. 魔導竜ウリドラ
  12. カツ丼と竜
  13. アヤシイ挙動
  14. 興味津々
  15. もどかしい二人
  16. 見知らぬ明日
  17. 忍び寄る危機
  18. 疾風のごとく
  19. 悲しい思い出
  20. 異郷の月を見上げて
  21. 君がいないと
  22. アイキャッチA
  23. マリーのお気に入り
  24. マリーのお気に入り II
  25. アイキャッチB
  26. 世界は不思議に満ちている
  27. 魔導士ギルド
  28. 砂の国
  29. 異世界地図を広げて
  30. 地下迷宮
  31. 魔物との遭遇
  32. 思わぬ苦戦
  33. 夢幻剣士
  34. 夜の時代
  35. はずむ想いが止まらない
  36. 初めての体験
  37. 異世界でダンス
  38. 精霊が照らす道
  39. いつも二人で
  40. マリアーベル
  41. ふれた手のぬくもり
  42. 桜吹雪
  43. そのままの君で
  44. いっしょに歩いていこう
  45. Yummy Yummy (TV Size Ver.)(歌:樋口楓、叶)
  46. 夢の続き

 構成は筆者が担当した。本作のために制作された劇伴全44曲を余さず収録し、主題歌2曲もTVサイズで収録している。本作のファンもきっと納得していただける内容である。
 構成にあたっては、細かくストーリーを追うよりも、ゆったりした流れで本編の雰囲気を再現するように考えた。
 前半はメインキャラクターである一廣(カズヒホ)、マリー、魔導竜ウリドラの3人を紹介し、異世界での冒険を経て一廣とマリーの仲が接近していくまで。後半はふたたび異世界の冒険を経験したあと、日本に戻った一廣とマリーが互いの気持ちを確認するまで。そんなイメージで構成している。
 以下、聴きどころを紹介しよう。
 1曲目の「桜の木の下で」は本作のメインテーマとも呼べる曲。第1話のアバンタイトルで桜の花びらが舞い散る中にマリーが登場する場面に流れている。涼やかなピアノと箏の音色が満開の桜の美しさを表現し、優雅さとともに儚さも感じられる曲だ。実は最終回にも同じような桜吹雪の場面が登場する。その場面には「桜の木の下で」のロングバージョン「桜吹雪」(トラック42)が流れた。第1話に流れる「桜の木の下で」は、いわば最終回の予告、一廣とマリーの未来を予感させる音楽なのである。
 オープニング主題歌を挟んで、カズヒホのテーマ「カズヒホ」(トラック3)とマリーのテーマ「マリーは気になるお年頃」(トラック4)を続けた。2曲ともピアノの音色が耳に残るさわやかな曲だ。「マリーは気になるお年頃」は、日本に来たマリーが目を輝かせている場面などによく使われて印象深い。
 「ウキウキお弁当タイム」(トラック5)、「いつもと違う風景」(トラック6)、「ようこそエルフさん」(トラック7)の3曲は、一廣とマリーの日常シーンによく使用された。一廣にとってはあたりまえの日本の風景もマリーの目には新鮮に映る。マリーが体験する感動やわくわく感がうまく表現されていて、ずっと聴いていたくなる。こういう曲が本作の世界観を支えていると思う。
 トラック8「夢に溺れて」〜トラック12「カツ丼と竜」は、第1話、第2話でのカズヒホと魔道竜ウリドラの出会いをイメージした構成。「夢に溺れて」(トラック8)は異世界転移のテーマ。「冒険の始まり」(トラック9)はタイトル通り、異世界での冒険開始をイメージした曲だ。
 「魔導竜ウリドラ」(トラック11)と「カツ丼と竜」(トラック12)の2曲はともにウリドラのテーマ。「魔導竜ウリドラ」が巨大な竜の姿のウリドラ、「カツ丼と竜」が人間の女性の姿のウリドラを表現している。同じモチーフを使っているのだが、かたや重厚、かたやコミカルと、キャラクターの変化に合わせた曲調の落差が面白い。
 トラック14「興味津々」は、好奇心いっぱいのマリーのシーンによく使われたピアノソロによる軽快な曲。マリーが一廣の料理に感動する場面(第2話)や覚えたての日本語を話す場面(第3話)、ウリドラの魔法に感激する場面(第8話)、新幹線の中で駅弁を食べる場面(第11話)など、さまざまな場面が思い浮かぶ。はずむようなピアノの演奏が心地よい。
 トラック16「見知らぬ明日」〜トラック19「悲しい思い出」は第3話から第5話にかけての魔石をめぐる冒険をイメージした構成。哀愁を帯びた笛の音が素朴な旋律を奏でる「悲しい思い出」は、第5話で猫族の子どもミュイが過去を回想する場面に流れている。
 トラック20の「異郷の月を見上げて」は、ピアノのやさしいメロディがしみじみとした心情を伝える曲。第6話のラストで、一廣が「ありがとうね、日本へ来てくれて」と言ってマリーと手をつなぐシーンに流れた。2人の気持ちが通う名場面を彩った大切な曲である。
 次の「君がいないと」(トラック21)も一廣とマリーの心情を表現する曲。第7話のラストシーン、それぞれの世界で忙しくなった2人が、いっしょにいる時間が少なくなったことをさびしく思う場面に流れた。ピアノとクラリネットによるもの憂い調べが心細い想いを表現している。
 ここでアイキャッチ(トラック22)。それに続く「マリーのお気に入り」(トラック23)と「マリーのお気に入り II」(トラック24)の2曲は、マリーが一廣の家で観る日本のアニメのBGMとして流れた曲だ。某有名劇場アニメの音楽を思わせる曲調に作られているのが楽しい。もうひとつアイキャッチ(トラック25)が流れて、アルバム後半へ。
 トラック26「世界は不思議に満ちている」〜トラック34「夜の時代」は、物語後半の地下迷宮をめぐる冒険をイメージした構成。日常シーンが多い本作だが、異世界ものらしいファンタジックな曲やサスペンス系の曲もけっこう作られている。この中では、カズヒホのアクションテーマ「夢幻剣士」(トラック33)に注目。「夢幻剣士」とは、魔法で敵を翻弄しながら戦うカズヒホに付けられた別名である。トラック18に収録した「疾風のごとく」とともに、スピード感のあるアクション曲として楽しめる。本作は全体にバトルシーンは少ないので、あまり使われなかったのが残念。
 トラック35「はずむ想いが止まらない」〜トラック37「異世界でダンス」は、ユーモアのある明るい曲を続けた。こういうのほほんとした雰囲気が本作の味わいで、聴いていてほっとするのである。
 トラック38「精霊が照らす道」〜トラック44「いっしょに歩いていこう」は、第11話と第12話(最終回)をイメージした構成。
 「精霊が照らす道」(トラック38)は、第11話の終盤、光の精霊に照らされた道で一廣とマリーが語らう場面で使用。異世界ではなく日本の弘前(青森県)での幻想的なシーンだ。同じく第11話のラストで、一廣とマリーが月明りの中で見つめ合う場面に流れたのが「いつも二人で」(トラック39)。2人の気持ちをやさしく包み込む弦合奏の響きが胸にしみる。音楽メニューでは、ずばり「幸せ」と仮題が付けられていた。
 トラック40「マリアーベル」はピアノとフルートなどによるマリーのテーマ。第12話でマリーが満開の桜並木を見て歓声を上げる場面に使用された。次の「ふれた手のぬくもり」(トラック41)は最終回には使用されていないのだが、音楽的な流れを考えてここに収録。第8話でマリーが一廣の額にキスをするシーンなどに使われた、ピアノとオーボエによるやさしい曲である。
 トラック42の「桜吹雪」は先に紹介した「桜の木の下で」(トラック1)のロングバージョン。桜の木の下で一廣とマリーが、初めてマリーが日本に来たときのことを思い出し、寄り添う場面で流れる。2人の関係が一歩先に進む、全編のクライマックスと言ってもよいだろう。演奏時間は3分近く、収録曲の中でもっとも長い。美しさと儚さが同居する曲調にうっとりして、この時間が少しでも長く続くようにと思ってしまう。
 続く2曲は第12話のラストを締めくくるふたつのシーンで使用された。トラック43「そのままの君で」は、マリーがエルフであることを察した一廣の祖父が、マリーに「そのままの君でいいんだよ」と話す感動的な場面に、トラック44「いっしょに歩いていこう」は一廣とマリーが新幹線で東京へ帰っていくラストシーンに流れた。どちらもピアノを主体にした曲で、あらためて本作のサウンドイメージをピアノが担っていることがわかる。
 トラック45に収録したエンディング主題歌でいったん本編は終了。最後のトラック46「夢の続き」は、コンサートのアンコールみたいなつもりで収録した。この曲は本編用の音楽でなく、2024年3月に公開された本作のティザーPV用に作られた曲である。聴いていただくとわかるとおり、「桜の木の下で」「冒険の始まり」など、本編で流れる代表的な曲をメドレーにした構成になっている。アニメは最終回を迎えたけれど、2人の冒険はまだまだ続いていく。そんな気分でアルバムを聴き終えてもらいたいという願いを込めた。

 はじめに書いたように、本作は基本的にラブコメだと思う。はらかなこが作り上げた音楽は、未知の世界に触れるときめきや身近な人を大切に想う気持ちがさわやかな曲調で表現されていて、聴いているだけで楽しく、やさしい気分になる。
 しかし、本来は所属する世界が異なり、接触するはずのない2人が出会って始まるラブコメだ。ぎこちなくもほほえましい2人の関係には、いつ離れ離れになるかわからない儚さがつきまとう。だから、2人でいる時間がかけがえのない、尊いものになっていく。メインテーマである「桜の木の下で」「桜吹雪」には、そんな儚さゆえの美しさがすくいとられている。桜も儚いからこそ美しい。こんな音楽を聴きながら桜の木の下を歩くと、桜がよけい愛しくなりそうだ。

TVアニメ『日本へようこそエルフさん。』オリジナルサウンドトラック
Amazon

芝山努さんの仕事の話
第一回 大武正枝(アニメーター)

◇口上◇

 本郷みつるです。もう40年以上アニメーションの仕事をしています。そのキャリアの最初は亜細亜堂という会社からスタートしました。私はその会社でアニメーションの演出の仕事を始め、社長の芝山努さんと出会いました。私のいた頃、芝山さんは『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』『忍たま乱太郎』の監督を同時にこなしていました。『ドラえもん』に関しては毎年劇場の監督をやり、絵コンテも1人でやっていました。とにかく圧倒的な仕事の質と量です。現場から引退されてしばらく経ちましたが、後世に残した影響は計り知れません。でもご本人は前に出る事を好むタイプではなく、業界に関わった人間が「芝山さんは凄かった」と言うのを伝え聞く機会があるくらいです。そこで今回、私の知っているアニメーターや演出の方にインタビューをして芝山さんの凄さを後世に伝えたいと考えこの企画をスタートしました。何回続くか分かりませんが、よろしくお願いします。
 第一回としてお話をうかがったのは、大武正枝さん。アニメーター歴45年以上のベテランの方ですが、アニメーターとしての最初期のキャリアで、1978年に公開された劇場版『ルパン三世』に動画チェックとして関わっていた事を知り、インタビューをお願いしました。

アニメーション演出者 本郷みつる


本郷 それでは、よろしくお願いします。

大武 はい。

本郷 大武さんはスタジオ古留美で仕上げのアルバイトの仕事から、アニメーション業界に入ったという事でよろしいんでしょうか。

大武 そうです。

本郷 芝山さんとの仕事は劇場版『ルパン三世』(以下『マモー』と表記)が初めてだったんでしょうか。

大武 はい、その時が初めてです。

本郷 その時って、大武さんは業界に入られて何年目くらいだったんでしょうか。

大武 私自身は18歳で仕上げのバイトを始めて稼げないので一回辞めて一般職に入ったんですね、イトーヨーカドーに勤めて1年半。それを辞めてアニメーターになったんです。

本郷 最初がスタジオ古留美ですか。

大武 そうです。そしてアニメーターになったのが5月末なんですが、7月の頭から動画チェックをやってくれと言われて。

本郷 え、動画を始めて2ヶ月後に動画チェックの仕事を?

大武 ええ、劇場をやってくれって。

本郷 『マモー』の作画監督の椛島義夫さんに言われたのですか。椛島さんとはいつから一緒に仕事をされていたのですか。

大武 私のアニメの先生が椛島さんなんです。椛島さんはシンエイ動画を辞めて古留美に移籍して、作画部を作ったんです。私がアニメーターをやりたいと思ってスタジオを探していた時に、古留美が作画部を作るという事を知って試験を受けたんです。

本郷 へえ~、それで試験に受かって2ヶ月後には劇場の動画チェックを?

大武 仕上げを1年半やっていたから、シートを読むとかの最低限の知識があったので。

本郷 それで動画チェックを始められたのはおいくつからだったんですか。

大武 21歳でした。

本郷 そうでしたか。それで今回は当時の芝山努さんについてお聞きしたいのですが、『マモー』の時はスタッフルームがあったんでしょうか。

大武 『マモー』を作る為に阿佐ヶ谷に劇場専用の棟がありました。隣がテレコムだったかな。

本郷 そこには、芝山さん以外に監督の吉川惣司さん、作画監督の椛島さんがいらした?

大武 作画監督の青木悠三さんもいました。

本郷 大塚康生さんも?

大武 大塚さんはいませんでした。椛島さんが途中で体調を崩して休んだ時期があって、それでどうしよう、劇場は進めなきゃいけないしという事になった時に大塚さんが手伝ってくれて。

本郷 大武さんは芝山さんとは初対面だったんですね。芝山さんの事はご存じだったんですか。

大武 仕上げで『ガンバの冒険』をやっていたので、多少知っているくらいでした。

本郷 因みにスタッフルームは広い場所だったんですか。

大武 広かったですね。

本郷 スタッフルームに行ったら、芝山さんがレイアウトをやっていた?

大武 そうです。

本郷 当時、レイアウトだけをやっているポジションはそれまでの日本の劇場作品にはなかった?

大武 なかったですね。色んなスタジオに原画を出していたけど、公開が12月で時間もないし、上手いレイアウトが必要だという事で芝山さんが全部担当したんだと思います。

本郷 大武さんは椛島さんと一緒にスタッフルームに入ったんですか。

大武 私は古留美で動画をやっていて、7月から入りました。椛島さんは6月頭にスタッフルームに入っていましたね。

本郷 なるほど。

大武 私もどうなるのか想像が付かなかったんですが、とりあえずやってみようと。

本郷 では、最初に芝山さんとお会いになった時の印象とか覚えていますか。

大武 あの、とにかく机にずっと座って、まるで事務職のようにひたすら、朝10時にはもう机に向かって、ずうっと仕事をしていて、私は最初のうちはチェックする物が無かったので「動画チェックなんだから動画をやっていなさい」と言われて『マモー』の動画をやっていたんです。その間ずっとスタッフルームにいたのが、芝山さん、椛島さん、青木さん、私だったんですね。淡々と仕事をする芝山さんを見ていました。

本郷 芝山さんは椛島さんと話したりはしなかったんですか。

大武 していましたよ。椛島さんは来てもすぐには仕事をしなくてタバコを吸って、芝山さんを見て「芝さんは凄いなって」と言って。

本郷 芝山さんはずっと机に向かっていたんですね。何時間くらいやっていたんですか。

大武 最初の頃はそんなに遅くまでやっていなかった筈です。公開が迫った10月頃には朝までやって、朝ちょっと帰って、仮眠を取ってまた来て働くみたいな生活が1ヶ月ほど。

本郷 芝山さんは全カットのレイアウトを上げた後はお役御免だったのでしょうか。

大武 えっとね、あ、立ち会っていましたね。

本郷 原画をやったりとか?

大武 原画はやっていないですね。

本郷 でも1人で全カットのレイアウトをやったんですよね(編注:青木悠三が作監をしたパートのみ、青木自身がレイアウトを描いているとも言われている)。

大武 1000カット以上あって、6月から入って4ヶ月くらいで上げた筈ですよ。

本郷 4ヶ月!? 現存するレイアウトを見ると、清書すると原画で通用するレベルの、克明なレイアウトだったようですが。

大武 監督の吉川さんの絵コンテが出来たところから、どんどんレイアウトにしていました。

本郷 ああ、絵コンテは完成していたわけではなかったんですね。

大武 そうです。

本郷 仕事に入られて、芝山さんとお話して何か覚えている事はありますか。

大武 どうして、こんなに凄いレイアウトを描けるんですかって聞いたら「いやいやいや、映画を観なよ、黒澤(明)とか」。

本郷 やはり黒澤ですか!

大武 「あの黒澤の画面の収まり、手前になめて、山があって……」「観るといいよ、勉強になるよ」って。結構その後は黒澤作品を観ましたね。

本郷 芝山さんはずっと働いていたという話でしたが、雑談をする事もあったんですよね。雑談をしていたのはお昼の時間とかですか。

大武 お昼の時間はありましたね。あと夜の10時、11時になると制作が夜食用に吉野家の牛丼を買ってきて、それを食べていました。1ヶ月半くらい。

本郷 その時は芝山さんもいて。

大武 みんなで夜食を食べていました。

本郷 4人でいつも夜食を。

大武 他に背景さんが2人いたと思います。門野真理子さんとか。

本郷 アニメーターになって2ヶ月の時期に、大武さんが見た芝山さんのレイアウトってどうでしたか。

大武 もうね、鳥肌ものっていうか、プロはこういうものなのか! こうやれないとプロにはなれないのか……と思いました。

本郷 芝山さんは「巧い」というのもあるのですが、驚異的に「早い」んですよね。

大武 巧い、早い、またキャラがいいんですよね。

本郷 「いい画」ですよね。

大武 レイアウトのこの画があれば決まるという感じでしたね。芝山さんが自分で「1日何カット」と決めてやっていました。

本郷 『マモー』をやっていた時に思い出す印象的なエピソード等はありましたか。芝山さんはイタズラ好きな一面もあったりすると聞きますが。

大武 それはありましたね。『マモー』では制作の子がこの作品の為に雇われた人達だったのですが、芝山さんが、その子達に教えながらやっていましたね。みんな、仲よかったですね。「芝山さん、芝山さん」と言って、慕っていました。

本郷 吉川監督ではなく、芝山さんが。

大武 芝山さんはずうっとスタッフルームにいたので。青木さんはマイペースでふらっと現れて、さあっと帰っていきました。青木さんはパート作監だったので、大量にやっていたわけではないんです。それから、椛島さんは来ない時期があって、私はそもそも椛島さんに呼ばれて来た古留美からの派遣だったので、どうなるのかなと。

本郷 じゃあ、机が2つ空いていて、芝山さんと大武さんだけの時が。

大武 結構ありましたね。芝山さんが「椛島さんは結構ナイーブだから、今回プレッシャーかな?」と言って、一生懸命に場を和ませようとしていましたね。

本郷 凄い仕事量を飄々とこなしてなおかつ、余裕があるという。

大武 そう。「見てていいですか」って聞くと、「どうぞどうぞ」と言って、ふんふんふんって描いていました。

本郷 その時期の芝山さんは『ガンバの冒険』でシリーズを通じて画面設定、レイアウトをやった後で、アニメーターとして乗っている時期ですよね。大武さんが見ていた時にどう描くか迷っていたりとか。

大武 なかったですね。座ったら描き始めて、ずっと描いてる。

本郷 お休みとかあったんですか。

大武 最初のうちは日曜が休みで、途中からなくなりました。

本郷 昔のアニメ業界のお約束ですね。

大武 途中からやってきた大塚さんも飄々としていて、椛島さんがいなくて積まれたカットの中からシュッと修正前の原画を抜いて中を見て「はい! オッケー」って。

本郷 本当ですか!?

大武 「大丈夫、大丈夫」と言って。

本郷 以前もお聞きしましたが、椛島さんが全カットに修正を入れているわけではないんですね。

大武 青木さんもいたので、押さえるところは押さえていた筈です。

本郷 最終的に大武さんの動画チェックの仕事が終わったのはいつ頃だったんでしょうか。

大武 11月末だったと思います。

本郷 ギリギリですね。

大武 ギリギリです。

本郷 その頃、芝山さんは?

大武 いましたね。リテーク出しなんかもあったし。全部終わって解散するまでは。

本郷 私が芝山さんの仕事振りを見るのはそこから数年後からなんですが、アニメーターってこんなに巧くて早いんだって驚きました。しばらくして全員がそうではないと気付きましたが。大武さんと働いた頃の芝山さんはアニメーターとして最高の時期だったかもしれませんね。

大武 30代後半だったと思うけど、座ったら描いてる。悩んでる暇もないって様子でしたね。亜細亜堂の時も10時に来ていたのかしら。

本郷 9時に来ていました。誰よりも早く(笑)。他に当時の芝山さんに言われて覚えている事がありましたら聞かせてください。

大武 「君は椛島さんに付いていけば、間違いなく描いていけるよ」って。

本郷 間違いなかったわけですね。

大武 大塚さんにも言われましたよ。「とりあえず、この人って決めた人の画を盗めばいい」って。

本郷 アニメーターになったばかりの大武さんに、芝山さんの存在は大きな影響を与えたんですね。

大武 大きかったですね。量を描かないと上手くならないと言われましたね。言われた事を心に刻んでやってきました。

本郷 大武さんの「師」ですね。今日はどうもありがとうございました。

大武 ありがとうございました。



取材日時/2024年 取材・構成/本郷みつる

●プロフィール
大武 正枝(おおたけ まさえ)。アニメーター。キャラクターデザインを務めた『あたしンち』シリーズ、『黒魔女さんが通る!!』、『となりの関くん』をはじめ、様々な作品に参加。

第896回 『沖ツラ』制作話~指導方針と令和

 作画話の続き。前回、作画に関して厳しめな話をしましたが、もう少し正直に深堀を。

俺がテレコム・アニメーションフィルムで大塚康生さんや友永和秀師匠教わった“原画”とは、理屈&リアリティでがんじがらめの、大よそ“自由に楽しくお絵描き”とは程遠い仕事!!

でした。1枚1枚の原画を丁寧に捲られて「このポーズとこっちのポーズのシルエットの変化が~」とか「波の散り方は~、炎の動きは~」などといちいち“芝居”と物理法則の指導が入り「とにかく黙ってこう描くべき」と。せっかく試験に合格してハレて原画になれたのに「やっぱり難しい……」とまた動画に戻る人が何人もいたぐらい、その楽しさは厳しさに裏打ちされた真剣な仕事でした。が、個性・多様性は二の次な昭和教育を受けた自分らとは違い、時代は令和。それ故、自分がミルパンセで新人を指導する時、

「とやかく言わずこうしろ!」と強制的に言うより、「一応セオリーとしてはこうだけど、あとは自分なりのやり方を見つければよい!」 

的な言い回しを心掛けていました。で、今回はっきり言ってその自分の指導のし方が仇になっていたことが、如実に結果として現れた訳です。つまり、何年も前から繰り返し教えたハズのことが、皆大好き“多様性と人それぞれ”思考によって、俺が目の前で実演して見せても「あれは板垣さんのやり方~」と聞き流すだけで、その後ついてくるハズの“それぞれ自分なりのやり方”を見つけられていなかったのです。キャラのポーズだけでなく、海、水、炎、土煙他エフェクト——緩い。

別に俺の描き方を真似なくてもいいから、“好きに描いた”各々の研究結果を見せてくださいよ!

といった仕上がり。で、若手が元気な現場を作るという目論見は見事に外れて、緩い先輩が、只々優しく甘く根拠のない指導によって緩い後輩を育てる現場ができ上がりそうになっているのが分かって、「このままでは駄目な作品と駄目なアニメーターができ上がてしまう!」と、多様性総作監中止! 「取り敢えず今回は、俺のラフをトレスして!」と全編、責任を取って直し捲った訳です。  もちろん、俺の言ったことを自分なりに吸収して、上達している人達もいるし、今後もまた若手そして今年入社した新人らにも期待して、新たに更新版指導方法を模索中な毎日です。

第895回 『沖ツラ』制作話~設定発注・作画IN

 キャラクター・小物・美術・色彩設計など、設定類の発注は全面的に監督・田辺慎吾君に任せて、その上がりで気になったところにチェックをするという前作『いせれべ』と同じコンビネーション。前回話題にしたように、コンテ修正は全面的に板垣、設定発注は田辺。コンテを決定稿に持っていくにはキャリア的にまだちょっと……、だとしても監督の仕事の半分は“発注”ですから、そちらは全面お願いしました。
 キャラクターの開発も、メインキャラ(喜屋武・比嘉・てーるー・安慶名・下地・上間)に関してはラフの時点で俺の修正が入っています。あと、サブキャラも吉田(智裕)君だけでなく社内スタッフ数人に撒いて、監督と一緒にチェックする、といった感じでスタッフ皆で設定を描いた感じです。あ、アニメーターに美術設定を描いてもらったりもしました。

 で、いよいよ作画がまた大変!

先に謝っておきます。申し訳ありませんがここではスタッフ一同の将来の成長を願って、敢えて厳しくハッキリ言わせてもらいます。1話から「出来が良くなかった!」と。キャラが似てる似てないとかじゃなく、表情が硬い、ポーズが硬い、動きが硬い!!!
 コンテを出し切った俺は、早々に“総作画監督”制の廃止。全員“平”の作監(メインアニメーター)として、板垣(作画プロデューサー)の指示のないものを勝手に次工程へ回すのを禁止しました。そして、すでに上がっていた仕上げ素材に板垣のほうで、直接デジタル作画修正~動仕スタッフ総出でクリーンアップ&仕上げ! 部分的に原画から描き直し。

制作期間前半は脚本・コンテ~後半はスタッフの未熟な部分の補完・修正に走り回っていた!

 そんな毎日でした。まぁこーゆーのもまた楽しいものです。

 その『沖ツラ』制作中、次作の準備・プリプロを進めてくれていたのが、木村博美さん。前回発表しましたが、もう一度念押し。

木村博美キャラデザ、そして初監督『キミと越えて恋になる』のPV、是非見て下さい!

【新文芸坐×アニメスタイル vol.188】
『デジモンアドベンチャー』劇場版初期三作

 4月12日(土)に開催する【新文芸坐×アニメスタイル】の上映プログラムは「『デジモンアドベンチャー』劇場版初期三作」です。
 細田守監督による第1作『デジモンアドベンチャー』は本格怪獣映画の醍醐味を詰めこんだ短編。同じく細田監督の第2作『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』はスタイリッシュを極めた映像&タイムサスペンスの娯楽作。山内重保監督による第3作『デジモンアドベンチャー02 前編 デジモンハリケーン上陸!! 後編 超絶進化!!黄金のデジメンタル』は濃厚な空気が観客を圧倒する異色作。いずれも作家性が発揮された傑作です。
 トークのゲストは山内重保監督。【新文芸坐×アニメスタイル】での山内監督の登壇は2012年6月以来となります。

 今回は貴重な35ミリフィルムによる上映となります。チケットは4月5日(土)から発売。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。

●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

新文芸坐オフィシャルサイト(『デジモンアドベンチャー』劇場版初期三作 情報ページ)
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#d2025-04-12-1

【新文芸坐×アニメスタイル vol.188】
『デジモンアドベンチャー』劇場版初期三作

開催日

2025年4月12日(土)13時30分~16時50分予定(トーク込みの時間となります)

会場

新文芸坐

料金

一般3000円、各種割引2800円

上映タイトル

デジモンアドベンチャー(1999/20分/35mm)
デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!(2000/41分/35mm)
デジモンアドベンチャー02 前編 デジモンハリケーン上陸!! 後編 超絶進化!!黄金のデジメンタル(2000/65分/35mm)

トーク出演

山内重保(監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

第301回 きっと魔法のせい 〜魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜〜

 腹巻猫です。西武渋谷店で開催中の「宇宙戦艦ヤマト 全記録展」に行ってきました。膨大な数の資料がぎゅっと濃縮された展示。原画(複製含む)から伝わる作り手の熱気に打たれます。そして展示の背景にある、資料を散逸から救い、現在まで守り通したファンの熱意にも想像をめぐらせたい。筆者も50年前、同じ思いを胸にその活動を見守っていました。開催は3月31日までなので、気になる方はお早めに。
http://tfc-chara.net/yamato50th/exhibition/


 今回取り上げるのは、今年(2025年)1月から放映中のTVアニメ『魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜』の音楽。
 本作は2016年に放映されたTVアニメ『魔法つかいプリキュア!』(通称「まほプリ」)のストレートな続編である。
 『魔法つかいプリキュア!』は、中学2年生の朝比奈みらい(キュアミラクル)と魔法界から来た少女・十六夜リコ(キュアマジカル)、妖精の赤ちゃんから成長した花海ことは(キュアフェリーチェ)の3人が伝説の魔法つかい「プリキュア」に変身し、邪悪な闇の魔法使いや世界に災厄をもたらす「終わりなき混沌」と戦って世界を救う物語。
 続編となる『魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜』では、成長したみらいとリコが、刻の魔法をあやつる少年アイルの謎を追い、黒幕である刻の魔獣クロノウストと戦う姿が描かれる。
 前作(『魔法つかいプリキュア!』)の第49話、物語の後日談となるパートに、大学生になったみらいと魔法学校の先生になったリコが登場する。『MIRAI DAYS』はその時間線の延長で展開する作品だ。「2人のその後が知りたい」と思いながら待っていたファンにとって、まさに待望の続編である。

 音楽は前作も手がけた高木洋が担当。本作のために37曲の新曲を制作している。
 そのうちわけは、新たに登場するキャラクターの音楽、敵があやつる「刻の魔法」の音楽、プリキュアの戦いを描写するアクション曲、成長したみらいたちの日常や心情を描く音楽、といった構成だ。
 こうした新曲とともに前作の音楽も劇中ではふんだんに使われている。たとえばサブタイトル曲、プリキュアの変身BGMや浄化技の曲、心情描写曲や状況描写曲、アクション曲など。耳になじんだ音楽を聴いていると、放映当時の思い出がよみがえり、「あの世界に戻ってきた!」と思わせてくれる。
 本作のために新曲を作るにあたり、高木洋は、みらいやリコが「成長した感じ」を音楽で表現しようとは特に意識しなかったという。というのも、前作の放映は8年前。それから現在まで、高木自身も経験を積み、スキルアップしている。8年のあいだに自身が身につけたことを自然に音楽に落とし込めば、意識せずとも成長した2人にふさわしい音楽ができるはずだと考えたのだ。
 だから、本作のために書かれた音楽は、特に大人びた音楽にはなっていない。前作からシームレスにつながるような音楽である。それがいい。大学生になったみらいも先生になったリコも、「大人になった」という印象はなく、中学生の頃の無邪気さやノリを残している。筆者の経験から言っても、大学生って中学時代に思っていたほど大人ではないのだ。結果的に新作の音楽は前作の音楽と自然にまじりあい、ふたつの作品を隔てる時間を感じさせない。『まほプリ』という作品にとっては、それがよかったと思う。
 特筆すべきは、新曲の中に前作の曲をアレンジした曲やモチーフを引用した曲があること。音楽発注の段階でそうした指定がされた曲もあるが、高木洋が自らアイデアを出して作った曲もある。高木は、前作で自分の音楽がどのように使われたかを熱心な『まほプリ』ファン並みに把握しており、「こういうテーマの曲なら、前作のあのモチーフを引用したほうが効果的だろう」と判断して作曲に臨んだのである。
 また、前作の音楽制作のときに高木がこだわったのが、コーラスにプリキュア主題歌シンガーの五條真由美とうちやえゆかを起用することと、リズム(ドラム、ベース)に打ち込みを使わずに生楽器で録音することだった。本作でもそのふたつは継承され、『まほプリ』サウンドが再現されている。
 こうした仕事ぶりからは高木洋の熱い「まほプリ愛」が伝わってくる。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2025年3月5日に「魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜 オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで、マーベラスからCDと配信でリリースされた。
 収録曲は以下のとおり。

  1. ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!〈ピンクダイヤ〉
  2. Dokkin◇魔法つかいプリキュア!!Part3〜MIRAI DAYS〜(TVサイズ)
  3. 助けて!魔法つかい
  4. キャンパスライフはワクワクもんだぁ!
  5. ひすいのテーマ
  6. 刻の魔法
  7. フラッシュバック
  8. アイルのテーマ
  9. 大きくなってる!?
  10. みらいとリコの新生活
  11. 懐かしき思い出
  12. 不安な未来
  13. あやしい影
  14. 闇に潜む脅威
  15. 大切なものを守るために
  16. 巨大モンスター出現
  17. 襲い来る強敵
  18. 砂嵐の中に
  19. アイルの過去
  20. 悪夢の序章
  21. 刻の魔獣クロノウスト
  22. 魔獣との対決
  23. めざめる力
  24. K’s レポート
  25. 闇の魔法つかい集結!
  26. 永遠への誘惑
  27. あらがえない現実
  28. 猛攻迫る
  29. 魔法大激突
  30. 宇宙終焉の危機
  31. 未来をこの手で
  32. 止まる時間
  33. 刻の迷宮
  34. あなたがここにいてほしい —オルゴールversion—
  35. 魔法がつなぐ未来
  36. 四人の魔法
  37. プリキュア・エクストリーム・レインボー! —MIRAI DAYS version—
  38. 歩みゆく日々
  39. キセキラリンク(TVサイズ)

 収録曲はすべて本作のために制作された新曲。前作の曲は収録されていない。
 構成は筆者が担当した。本作では脚本をベースに「どこにどんな曲を流す」という音楽プランが練られ、それをもとに音楽発注が行われている。つまり、多くの曲が具体的なシーンを想定して書かれている。いくつかの曲では絵コンテをもとに絵に合わせたフィルムスコアリングが行われた。本アルバムはその音楽プランに沿った構成でまとめている。ただし、完成作品では音楽プランとは異なる曲が流れているケースもあり、必ずしも本アルバムどおりの順で曲が使われているわけではない。
 以下、ポイントとなる曲を紹介しよう。
 1曲目「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!〈ピンクダイヤ〉」はプリキュアの変身BGM。前作の変身BGM「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!〈ダイヤ〉」をアレンジした曲である。変身に使う宝石が「ダイヤ」から「ピンクダイヤ」に変わっているのが物語の上でも伏線になっている。
 実はもともと変身BGMを新録する予定はなく、前作の「ダイヤ」の曲を使う予定だったという。が、高木洋が第1話のアフレコを見学した際に「ダイヤ」ではなく「ピンクダイヤ」と言っているのを聴いて、「宝石が違うなら曲も新しくしたほうがよい」と考え、新曲を作ることを提案したそうだ。コーラスの歌詞も前作とは異なるものが作られ、五條真由美とうちやえゆかの歌唱で録音されている。
 トラック5「ひすいのテーマ」は、みらいとリコの前に現れる謎の少女ひすいのテーマ。ひすいは新キャラクターではあるが、本作の冒頭で行方不明になった花海ことは(キュアフェリーチェ)と深い縁があり、風貌も似ている。そのため、「ひすいのテーマ」は前作のことはのテーマ「はーちゃん」の音型を受け継いだ曲になっている。
 第8話ではひすいの秘密が明かされ、ことはが再登場する。そのときに流れる曲「めざめる力」(トラック23)も注目だ。前作のキュアフェリーチェの変身BGM「フェリーチェ・ファンファン・フラワーレ!」をアレンジした曲になっているのである。第8話では「めざめる力」と「フェリーチェ・ファンファン・フラワーレ!」の2曲が続けて流れ、新作・旧作の音楽リレーでキュアフェリーチェ復活シーンを演出していた。
 ほかに新キャラクターのテーマとしては、プリキュアの前に立ちふさがる新たな敵アイルとクロノウストの曲がある。
 「アイルのテーマ」(トラック8)は刻の魔法をあやつる少年アイルのテーマ。「刻の魔法」(トラック6)、「巨大モンスター出現」(トラック16)、「砂嵐の中に」(トラック18)、「アイルの過去」(トラック19)、「悪夢の序章」(トラック20)はそのヴァリエーションである。アイルは刻の魔法でみらいとリコを翻弄するが、実は心に悲しみを抱いたミステリアスなキャラクターだ。そのため、音楽も邪悪なイメージではなく、謎めいた面が強調されている。なかでも「アイルの過去」は哀感ただようリリカルなアレンジになっているのが聴きどころ。
 「刻の魔獣クロノウスト」(トラック21)は第6話で姿をあらわす刻の魔獣クロノウストのテーマ。「魔獣との対決」(トラック22)、「永遠への誘惑」(トラック26)、「宇宙終焉の危機」(トラック30)は、そのバリエーションだ。いずれも強敵らしい、重厚で威圧感のある曲調で作られている。
 バトル系の曲ではヒロイックな「未来をこの手で」(トラック31)のカッコよさにしびれる。いっぽう「闇の魔法つかい集結!」(トラック25)は変化球とも言えるユニークな曲だ。クロノウストの魔手が魔法界に迫ったとき、前作では悪役だった闇の魔法つかいたちも魔法界を守るために立ち上がる。第9話のそんなシーンに流れるのがこの曲。前作の闇の魔法つかいのテーマ曲「闇の魔法つかい」をロック調にリアレンジしたものだ。これも時をへだてた音楽リレーと呼べる、うれしい演出である。
 前作の第49話で、みらい、リコ、ことはの3人が離れ離れになっていく、涙なしに観られないシーンに流れたのが、ピアノとストリングスによる「あなたがここにいてほしい」という曲だった。本作ではその曲をオルゴール風にアレンジした「あなたがここにいてほしい —オルゴールversion—」(トラック34)が作られている。実はこの曲も当初の音楽発注になく、高木洋が「こんな曲もあるとよいのでは」と考えて自主的に追加した曲だ。本編では第8話の終盤に流れたほか、第11話のみらいとリコが離れ離れになるシーンに、オリジナルの「あなたがここにいてほしい」につながる形で使用されている。高木洋の「まほプリ愛」あふれる音楽作りと、それを受け止めた音楽演出が生んだ、新たな名シーンである。

 さて、この原稿を書いている現在、本作の放映は最終回(第12話)を残すのみ。「魔法がつなぐ未来」(トラック35)、「四人の魔法」(トラック36)、「プリキュア・エクストリーム・レインボー! —MIRAI DAYS version—」(トラック37)の3曲は、最終回用に、絵コンテに合わせたフィルムスコアリングで書かれた曲である。なので詳しく解説すると最終回の内容を明かしてしまう。それでは申し訳ないので、ここでは簡単な音楽解説にとどめることにしよう。
 「魔法がつなぐ未来」には前作の「月夜のめぐりあい」という曲が引用されている。「月夜のめぐりあい」は前作で印象深い、重要なシーンに流れた曲。それを引用する趣向は発注によるものではなく、高木洋のアイデアである。
 「四人の魔法」は最終決戦用の曲。ピアノ主体のやさしい曲調で始まり、後半からアップテンポに転じる。後半に引用されているのが2016年公開の劇場版『まほプリ』のために作られた挿入歌「キラメク誓い」(作曲・高木洋)のメロディ。これも高木のアイデアによるものだ。
 「プリキュア・エクストリーム・レインボー! —MIRAI DAYS version—」は前作の3人合体技の曲「プリキュア・エクストリーム・レインボー!」をアレンジした曲。シーンの長さに合わせてリアレンジされているが、高木はここでも独自のアイデアを盛り込んだ。曲の終盤に『魔法つかいプリキュア!』のメインテーマ「魔法がひらく未来」のモチーフが登場するのだ。新作にはメインテーマをそのままアレンジした曲はない。最終回に流れるこの曲にメインテーマのモティーフが登場すれば、『まほプリ』の音楽としても完成するし、ファンもぐっとくるだろう。そんな発想で高木が作り上げた曲である。
 『魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜』の音楽は、懐かしい『まほプリ』サウンドを継承した上で、8年間の音楽的な進化も感じさせてくれる、前作ファンも納得の作品である。単純に新曲として聴いても楽しめるが、前作のサントラを聴きこんでいる人なら、楽曲のそこここに、前作へのオマージュやリスペクトを感じ取ることができるだろう。
 特にアルバムの終盤にまとめられた最終回用の音楽を聴くと、前作にハマった人ほど、最終回がどうなるのか想像がふくらむと思う。想像と期待を胸に最終回を観れば、「こうくるか!」「やっぱりそうなるよね!」と楽しめるはず。そしてきっと、もう一度サントラ・アルバムを聴きたくなる。
 それを「音楽がかけた魔法のせい」と言うことはたやすい。しかし、その魔法はなんとなく発動したわけではない。前作モチーフの計算された引用、演奏・録音手法の再現など、ファンを感動させるだけの理由がある。それが魔法なのだ。

魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜 オリジナル・サウンドトラック
Amazon

第894回 『沖ツラ』制作話~納品完了、そして

 お陰様でつい先日、『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる(沖ツラ)』最終回まで納品完了。で、落ち着いて何を書(描)こうと考えたのですが——ま、『沖ツラ』本編話、頭からで……。
 取り敢えず「原作を1話21~22分×12本のTVシリーズにどう纏める?」、これに関して自分から提案したのは、

オリジナルを足して引き伸ばすのはNG! で、原作を“21~22分”集め1話分を作る(×12本)!

と決めて、田辺慎吾君(シリーズ構成・監督)へ渡しました。原作がマンガの場合、ページ数で尺を計りづらいもので、例えば“ラブコメ”は間を作れるけど、“コント”はテンポのために尺を削る。この『沖ツラ』の原作はどちらも面白いので、

“アニメ21~22分に収めるのに適正な本数”の原作を繋ぐ構成を!

と。結果、田辺案で出てきた構成も、1話に収める使用原作本数が2本のもあれば4本のもあります。それを「ここのエピソード順は~」とか「シーサーの指笛講座はCパートに回して~」などといろいろ調整。
 で、ホン読み(脚本打ち合わせ)で田辺君を始め社内の演出陣の上げた脚本に司令塔として修正指示を出し、委員会のOKをもらいます。今回、自分が脚本に入っていないのは、前作『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する(=いせれべ)』の作画リテイク作業と、スケジュール的に被っていたからです。ハッキリ言うと、

文字(テキスト)の修正(調整)より、作画の修正の方が時間が掛かるし人も選ぶから!

です(カチンときた人がいるかも知れませんが、本音の本音)。
 で、コンテ。これは前作『いせれべ』同様、全面的に修正・調整させてもらいました。半分以上描き直しはザラです。ウチはできるだけコンテは外に撒かない主義で、必然的にキャリアの浅いスタッフにコンテを切ら(描か)せるため、直しは全て俺が面倒を見ることになります。「コンテやりたい人~」と声を掛けて、挙手した人に「その代わり出来が悪かったら全修しますよ」と。
 『いせれべ』はある意味コンテ・デビューに対してのご祝儀代わりで、どれだけ直そうとスタッフ・クレジットでの連名は避けましたが、今回は本来の姿、身贔屓なしで全話連名。
 これは監督によって(もしくは会社によって?)違いはあると思いますが、自分は基本、

上げられたコンテがその担当者のモノとして独立した完成度に達していると判断し、必要最小限の監督修正で終わっていれば、連名にしません!

 だから、『いせれべ』のクレジットの方が異例で、今作の方が本物。これからはどうするか分かりませんが、いちばん早いのはスタッフが皆“一人前”になることでしょう。

 で、そろそろ次の打ち合わせの時間なので——って、あ、そうでした! 次の作品、

『キミと越えて恋になる』のPVが解禁になりましたので、是非観てください!

 以上。

第893回 『沖ツラ』制作話~現状報告

 『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる(沖ツラ)』のOP話は、前回巻きかけて終わらせたところで、「次EDの~」とも思ったのですが、それどころではない現状なので、今回はその“現状”の話。

ハッキリ言って、ラストの追い込み中でバッタバタ!!

です。この原稿を書いているデスクトップには、作画修正カットが並べられたクリスタ(CLIP STUDIO)が同時に開かれているくらい……。
 今作は総監督という一種総合的な監修職には到底止まらない仕事量です。まず当然、脚本・コンテのチェック、特にコンテは殆どの話数、半分以上直しています。あと、編集や音響対応も。
 そして何より作画! 今回役職名も“作画プロデューサー”とあるとおり、画直し(作監修正)の総指揮をとっています。コンテ時の演出意図に沿って作画スタッフ(メインアニメーター)に直しの指示をし、残ったカットは全部“俺が拾う”! それを基本一発で修正しまくり、先に振った作画スタッフが手持ち分を終わらせられたら、こちらに戻ってもらい、ササっと入れた俺のラフを拾って修正してもらう、と。
 よって、全話半分近く(話数によっては以上)、板垣の画が何某かのっていることになります。つまり、各話ひととおり修正をのせられるように、どうとでも対応可能な自分が構えているのです。
 正直言うと、今の若いスタッフは我々世代より平均的に描くスピードが落ちているんです。あ、俺自身は決して手が速いほうではありませんよ。それはテレコム時代の先輩方ならよ~くご存じのはずです。その速くない俺から見ても、今の若手は“手が遅い”と感じます。
 もちろん、若手でも量産できるアニメーターもいるし、遅い人はそれなりの理由があるのも分かります。例えば、

ハイビジョンに耐えられる作画や、それに付随して各キャラの増え続けるパーツやディティール、そしてデジタル作画ツールに神経を多く使う分遅くなる!

というくらいのことを考慮した上ででも“遅い人”が増えているのは確かかと思います。他社の社長や制作プロデューサーらに訊いても同様の返答が返ってくるからです。「今の若いアニメーターは(描くのが)遅い」と。
 まぁでもウチは皆、社員給なので「まずは良い原画を描く」のが第一、そして「その上で手が速ければ尚良し」くらいに考えるようにしています。
 と言う訳で、また作画修正に戻ります!

第237回アニメスタイルイベント
アニメ様イベント2025 作った本・これから作る本

 5月4日(日)に開催するのは「第237回アニメスタイルイベント アニメ様イベント2025 作った本・これから作る本」。アニメスタイル編集長小黒祐一郎(アニメ様は彼のニックネームです)のトークイベントです。

 今年で小黒はアニメ雑誌&書籍の作り手として40年目を迎えます。それをきっかけに今までの40年で作った本を振り返り、本作りのこだわり等について語ります。そして、これから作る本についてもお話する予定。なお、トークの内容は過去の小黒のイベントと重複する部分があるはずです。あらかじめご了承ください。
 トークの聞き手はプロデューサーであり、元アニメ雑誌編集者であった高橋望さん、脚本家の大河内一楼さんにお願いします。チケットは3月15日(土)正午12時から発売。購入方法については阿佐ヶ谷ロフトAのサイトをご覧になってください。

 今回のイベントもトークのメイン部分に関してネット配信を行います。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
 今回のイベントは配信しないパートが、普段のイベントよりも長めになるかもしれません。

■関連リンク
告知(LOFT)  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/311680
会場&配信チケット(LivePocket)  https://t.livepocket.jp/e/dozyy
配信チケット(ツイキャス)  https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/363627

第237回アニメスタイルイベント
アニメ様イベント2025 作った本・これから作る本

開催日

2025年5月4日(日)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

小黒祐一郎、高橋望、大河内一楼

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込·飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第300回 歌わないミュージカル 〜劇場アニメ ベルサイユのばら〜

 腹巻猫です。3月22日に神保町・ブックカフェ二十世紀で開催されるイベント「サウンドトラック☆スクエア」に出演します。サントラ専門店「ARK SOUNDTRACK SQUARE」が主催する音楽とトークのイベントです。今回は2020年から2025年のあいだに海外・国内でリリースされたサントラ盤の中から名盤・注目盤を厳選して紹介しようという企画。アニメ音楽が取り上げられるかどうかわかりませんが、サウンドトラック、特に映画サントラに興味のある方はぜひどうぞ。詳細は下記を参照ください。
https://arksquare.net/jp/news/2025/02/20250215.php


 劇場アニメ『ベルサイユのばら』の音楽について語ってみたい。
 今さら説明するまでもないと思うが、原作は池田理代子が1970年代に発表したマンガ史に残る名作。将軍家の娘として生まれた男装の麗人オスカルとフランス王妃マリー・アントワネットの2人を中心に、フランス革命に向かう激動の時代を生きた人々の愛と自立と戦いを描いた作品だ。70年代には宝塚歌劇、実写劇場作品、TVアニメになって人気を博した。それを現代の劇場アニメとしてリメイクしたのが本作である。なお、公式サイトでは「劇場アニメ『ベルサイユのばら』」の表記で統一されているので、本稿でもそう表記することにする。
 正直に言うと『ベルサイユのばら』をアニメでリメイクすると聞いたときは、あまり期待しなかった。筆者はTVアニメ版のファンで、2016年に「ベルサイユのばら 音楽集[完全版]」の企画をメーカーに持ち込んで、構成・解説を手がけたくらい(このアルバムは現在、配信で聴くことができる)。しかし、音楽を澤野弘之が担当すると聞いて、がぜん興味がわいた。
 『ベルばら』に澤野弘之の音楽! 激しいロック調の曲や『進撃の巨人』みたいなコーラス入りの重厚な曲が流れるのか? 絢爛豪華でパワフルなアニメになるかもしれないと想像がふくらんだ。
 結論から言えば、劇場アニメ『ベルサイユのばら』は筆者が期待していたものとは違っていた。絢爛豪華でパワフルというよりはポップでロマンティックな印象である。しかし、「こういうのもありだな」と思った。
 驚いたのは音楽の演出。劇中に15曲もの挿入歌が流れる。ユニークで大胆なアプローチの作品だった。
 あらかじめ言っておくと、本作はいわゆる「ミュージカル映画」ではない。ミュージカル映画では、登場人物が劇中で歌い始める。本作にはそういう場面もいくつかあるが、それはどちらかといえば例外で、歌が流れるシーンの大半は、ミュージックビデオのようなイメージ映像になっている。「ミュージカル映画」というより「音楽映画」だ。本作のユニークなところである。
 劇中に15曲もの挿入歌が流れることには、それなりの必然性がある。
 本作は約2時間の尺。そこに原作の物語を詰め込んでいるから、展開が駆け足になるし、省略されたエピソードも多い。キャラクターの秘めた心情や心境の変化などが観客に伝わりにくい。そこで効果を発揮するのが挿入歌だ。歌がキャラクターの心情を代弁し、映像で描ききれなかった想いを伝える。役割としてはミュージカル映画の劇中歌と同じである。
 では、なぜキャラクターが歌うミュージカル映画にしなかったのか? 監督の吉村愛はインタビューでこう語っている。
「曲を聴いてキャラクターが歌い出すミュージカル形式は苦手な人もいるので、アニメのオープニングやエンディングのような映像表現とともに曲が流れてくる形にしたかったんです」
 たしかに、登場人物が突然歌い出すミュージカル演出は、うまくやらないと不自然になり、コミカルにも見えてしまう。本作にも登場人物が歌っているように演出されている場面がいくつかあるが、「なんで歌ってるの?」と雑念がわいて作品に入りこめなかった。いっぽうミュージックビデオ的に演出されているシーンは、余計なことを考えずに雰囲気にひたることができる。歌とイメージ映像を心地よく楽しみながら、脳内でドラマを補完し、気分を盛り上げることができるのだ。
 本作における挿入歌は、映像的・音楽的な見せ場と作るとともに、映像で語り切れない情感とエピソードを補うしかけである。もしこの作品に歌がなかったら、ただ駆け足に物語をまとめただけの印象になっていただろう。

 音楽は澤野弘之とKOHTA YAMAMOTOの共作。澤野弘之が全体の音楽プロデュースと挿入歌の作・編曲を担当し、KOHTA YAMAMOTOがインストゥルメンタルの劇伴を担当している。劇伴の中に澤野が作曲した挿入歌のメロディがちりばめられた構成だ。
 澤野弘之のインタビューによれば、本作の音楽制作に取りかかったのは5年ほど前(つまり2020年頃)。挿入歌作りから先行して進めたという。澤野はインタビューの中で「クラシカルなアプローチの楽曲ではなく、POPS&ROCKを取り入れた現代的なサウンドにしてほしいというオーダーだったので、それぞれシーンごとに必要な楽曲の方向性やサウンドイメージなどが書かれた音楽メニューをもとに制作していきました」と語っている。
 いっぽうKOHTA YAMAMOTOは、2022年春に監督(吉村愛)、音響監督(長崎行男)、澤野弘之と打合せをし、劇伴制作を開始した。澤野弘之による挿入歌のデモがすでにできあがっていて、挿入歌のメロディを組み込んだ劇伴と、それとは別にオリジナルで制作する劇伴のオーダーを受けたという。作曲は絵コンテをベースに映像にタイミングを合わせたフィルムスコアリングのスタイルで進められた。澤野弘之の楽曲がポップス&ロック志向なのに対し、KOHTA YAMAMOTOはオーケストラ楽器を主体にしたクラシカルなアプローチの曲が多いのが特徴だ。
 結果的にポップス&ロック的な楽曲とクラシック的な楽曲が共存する、現代の『ベルばら』音楽と呼ぶにふさわしい音楽になったと思う。宝塚歌劇版とも実写版ともTVアニメ版とも異なる、新たな『ベルばら』サウンドの誕生である。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、挿入歌を収録した「Song Collection from The Rose of Versailles」と劇伴を収録した「The Rose of Versailles Original Soundtrack」の2タイトルが、2025年2月26日にエイベックス・ピクチャーズよりCDと配信で同時リリースされた。
 収録曲は下記商品紹介ページを参照。

「Song Collection from The Rose of Versailles」
https://verbara-movie.jp/discography/detail.php?id=1020677

「The Rose of Versailles Original Soundtrack」
https://verbara-movie.jp/discography/detail.php?id=1020676

 「Song Collection」には挿入歌15曲のフルサイズと10曲のMovie Edit版(劇中バージョン)を収録。15曲の挿入歌はすべて劇中で使用されている。
 「Original Soundtrack」は全31曲をストーリーに沿った曲順で収録。こちらには歌は収録されていない。「Song Collection」の曲と「Original Soundtrack」収録曲を組合せれば、本編で流れた音楽を再現することができる(ただし絢香が歌うエンディング主題歌「Versailles —ベルサイユ—」は別売)。
 以下、印象的な曲をピックアップして紹介しよう。
 オープニングに流れる挿入歌「The Rose of Versailles」は本作のメインテーマ。オスカル、マリー・アントワネット、フェルゼン、アンドレの4人が歌う曲だ。オープニングでこの曲が流れてきたとき、「うわー、こう来たか!」と思った。『ベルばら』の歌というとドラマティックに歌い上げるイメージがあるが、「The Rose of Versailles」は思い切ってポップで明るく華やかな曲調。4人のキャラクターが歌うことで「この作品は4人の物語」という宣言にもなっている。
 劇中にはこの曲をアレンジした曲がいくつも登場する。冒頭に流れる劇伴「The Rose of Versailles 〜Prologue〜」や新たな国王の誕生をパリ市民たちが祝福する場面の挿入歌「Our King and Queen」は、フランスの繁栄の象徴のように使用されている。
 いっぽう、同じメロディをアレンジした挿入歌「Anger and pain」は、王政に対する市民の怒りを表現する曲として流れる。そして、物語終盤に流れる劇伴「フランス革命」や「自由・平等・友愛」では、フランス革命の象徴として、このメロディが使用される。
 作品が展開するにつれて、同じメロディが異なる意味を持った曲に変化していく。実にみごとでドラマティックな音楽設計である。
 「Ma Vie en Rose」はマリー・アントワネットが歌う挿入歌。フランス王室に輿入れしたアントワネットの天真爛漫さを描写する曲として流れている。このメロディも劇伴に形を変えて登場する。ルイ16世とアントワネットの初対面の場面に流れる「花嫁・アントワネット」、フェルゼンが去ったさみしさを放蕩と贅沢でまぎわらすアントワネットの場面に流れる「放蕩の妃・アントワネット」などだ。
 アントワネットとフェルゼンが歌う「Resonance of Love」は、4年の時を経て再会した2人があふれ出る想いをこらえきれずに抱き合う場面に流れた挿入歌。アントワネットとフェルゼンの愛のテーマである。このシーンも華麗な(少女マンガ的な)ミュージックビデオ風に演出されていて、アニメならではの名場面になっていた。注目してほしいのは、挿入歌が流れる前に同じメロディを使った劇伴「フェルゼンの謁見」と「アントワネットとフェルゼン」がすでに劇中に使われていること。劇伴が挿入歌の予告もしくは伏線になっているのだ。
 オスカルが歌う挿入歌「心の在り処」は複雑な心情を歌った曲である。恋のよろこびを初めて知ったというアントワネットの想いを聞き、オスカルは自分が信じていた価値観(男として生きてきた生き方)がゆらぐように感じてショックを受ける。オスカルが父から結婚を奨められて動揺する場面に流れる挿入歌「Return to nothing」はこの曲の変奏だ。「悩めるオスカルのテーマ」とでも呼ぶべきモチーフである。
 自分がフェルゼンに惹かれていることに気づいたオスカルは、ドレスに身を包んだ美しい女性として舞踏会場に現れる。フェルゼンに声をかけられたオスカルはそれで満足し、自分の気持ちをふっきるのだが、本作ではその描写はない。代わりに流れるのが挿入歌「Believe in My Way」だ。歌はオスカルの独唱で始まり、劇中で描かれなかったオスカルの想いが語られる。続いてアントワネットが、フェルゼンが、アンドレが歌い継いで、それぞれが信じる「自分の道(My Way)」を語る。最後は4人がそろって歌う合唱となって終わる。中盤のハイライトと呼べる挿入歌である。
 数ある挿入歌の中でも4人が歌う歌は「The Rose of Versailles」とこの「Believe in My Way」だけ。「The Rose of Versailles」が作品全体のメインテーマだとすれば、「Believe in My Way」は4人の心を表現した愛のテーマと言えるだろう。
 また、この歌は物語の前半を締めくくる曲でもある。この歌が流れたあと、貧困に苦しむパリ市民たちが描写され、物語は革命に向けて急展開していくのだ。
 革命に向かってパリ市民やオスカルの心境が変化していく場面では、KOHTA YAMAMOTOがオリジナルで(挿入歌のメロディを使わずに)書いた劇伴が重要な役割を果たしている。重苦しい曲調でパリ市民の憤りを表現する「怒れる市民」、自由の尊さを知ったオスカルが市民に寄り添おうと決意する場面の「決意のオスカル」、合唱とオーケストラが崩壊寸前の王室とパリを描写する「絶望の都・パリ」など。前半とは対照的な暗く切迫した雰囲気で作品を彩っているのがKOHTA YAMAMOTOによる劇伴である。
 KOHTA YAMAMOTO自身が「気に入っている曲」と語るのが、「ルイ16世と真実」と「ジェローデル・愛の証」の2曲だ。「ルイ16世と真実」は、密告の手紙によってアントワネットとフェルゼンの仲を知ったルイ16世が自分の想いを王妃に語る場面に流れる曲。「ジェローデル・愛の証」はオスカルのアンドレへの想いに気づいたジェローデルがオスカルとの結婚をあきらめ身を引く場面に流れる曲。どちらもキャラクターの繊細な心情が描かれたシーンである。KOHTA YAMAMOTOはピアノやストリングスを使ったクラシカルな曲調で、それぞれの切ない気持ちを表現する。ルイ16世とジェローデルが歌う挿入歌は作られていないが、2人もまた愛に生きる登場人物なのだと思わせてくれる音楽だ。
 オスカルが歌う挿入歌「Child of Mars」は、オスカルが父に「私は軍神マルスの子として生きましょう」と宣言する場面に流れた曲。終盤でオスカルが市民とともに戦う場面には、この曲を変奏した挿入歌「Liberation」(歌唱は澤野弘之作品と縁の深いアーティスト・Tielleが担当)が流れる。「心の在り処」が「悩めるオスカルのテーマ」なら、こちらは「戦うオスカルのテーマ」である。
 オスカルとアンドレの愛のドラマのクライマックスは、2人が結ばれる場面。2人が歌う挿入歌「夜をこめて」が万感の思いを表現する。その直前の場面には同じメロディの断片を含んだ劇伴「アンドレ・グランディエの妻に」が流れていた。ドラマからスムーズに歌につなげていくミュージカル的な演出である。
 先に書いたように、ラストシーンに流れるのは「The Rose of Versailles」をアレンジした劇伴「自由・平等・友愛」だ。オープニングでは華やかに歌われたメロディが、ラストではピアノとストリングスによるしっとりとしたアレンジで演奏される。劇中にこのメロディがたびたび登場するから、観客の脳裏にはここに至るまでの物語の記憶が走馬灯のようにちらつく。この場面は観ていてぐっときてしまった。

 こんなふうに、本作の音楽は挿入歌と挿入歌、挿入歌と劇伴が密接に連携し、さらに劇伴が隙間を埋める形で構築されている。2時間の作品に15曲もの挿入歌が流れても散漫な印象を受けないのは、音楽全体が緻密に構成されているからだろう。
 劇場アニメ『ベルサイユのばら』は現在も映画館で上映が続いている。筆者の印象だが、気に入ったら2度、3度と劇場に足を運ぶリピーターが多い気がする。一度観ただけでは挿入歌の歌詞は頭に入らない。パンフレットに掲載された歌詞を読み、ソングアルバムやサウンドトラックを聴いて、また劇場に向かうファンが多いのではないか。そうすることで、よりキャラクターの心情に共感でき、作品で描かれなかったエピソードを想像で埋めることができるからだ。
 多彩なキャラクターが登場する『ベルサイユのばら』の物語を2時間にまとめることは難しく、説明不足だと思うところもあるし、細かい点で不満がないわけではない。が、歌を軸に構成する本作のアプローチは、予想以上にうまくいっている。『ベルばら』音楽史に新たな名曲が加わった。こういうアニメ版『ベルばら』もいいと思う。

Song Collection from The Rose of Versailles
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The Rose of Versailles Original Soundtrack
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第892回 『沖ツラ』制作話~OPひととおり

 第890回から続き、『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる(沖ツラ)』OP話。

c-023 手拍子、1つの素材を、肌色変えて3人に! こういう費用対効果をコンテ段階で考えるの好きです。篠(衿花)さん作監で締めてもらいました。
c-024 こちらのチョンダラー喜屋武さんも、委員会からは「素顔の方が~」と提案されましたがお断りしました。コンテにラフを足したものを森(亮太)君に原画化してもらい、俺の方で作監を。なぜか最後にシーサーに寄るの、個人的に気に入っています。
c-025 横アングル踊り、ラスト「あ、てーるーだ!」の比嘉さん。原画・市川(真琴)さん、作監・板垣。
c-026 これは篠さんによる直原画=作監不要。ただし、ラフ段階で俺の方から「手と腰の動き、大きく~」と参考ラフを入れてから清書に入ってもらいました。
c-027 下地・上間・鉄~これもただの歩きではなく、実はダンスの振り付け。同様に篠原画=作監不要。
c-028 比嘉姉妹。可愛いのはいいけど、やや頭身が低いかも。これも篠原画=作監不要。
c-029 ようやくすっぴんの喜屋武さんダンス~サブキャラ大集合。コンテを基にラフ足し~タイミング付けまでして、あと篠さん。この辺数カットは本当に助けてもらいました。
c-030 踊るてーるー、アオリ。原画・市川、作監・板垣。「アオリパースがうまく描けない~」とのことでたくさん修正入れました。
c-031 踊る比嘉さん、俯瞰。原画・市川、作監・板垣。コンテ時はもっとニコやかに。自分描いたのですが、委員会チェックより「比嘉さんなので、抑えて」と。
c-032 これも一応ダンスの振り付け。それを“誇張”させて飛ばしました! コンテでは靴を履かせてたのですが、こちらも「ベンチに土足は止めて」で、裸足に。「だったら、島ぞうり焼けは必須ですよね!」と俺。ラフ原・板垣、二原・市川、作監・板垣。
c-033・034・035 メインタイトル(c-036)に、てーるー・比嘉・喜屋武それぞれのダンスのインサート。全て、原画・市川、作監・板垣。特筆すべきはc-033の比嘉さんのハイビスカスポーズ(?)、市川さんが良い仕事しています! 動きはそのまま使って、自分はベタで作監修正のせただけ。
c-037 ラスト皆でシーサーポーズで締め! は板垣の一発原画! でしたが、委員会より「もう少し年齢上げて」とのリテイクで描き直したので、結局二発原画?

 時間なくて駆け足、且つ短くてすみません(汗)、また来週で……。

【新文芸坐×アニメスタイル vol.187】
アバンギャルドアニメーションの傑作 『傷物語 -こよみヴァンプ-』

 3月23日(日)に開催する上映プログラムは「【新文芸坐×アニメスタイル vol.187】アバンギャルドアニメーションの傑作 『傷物語 -こよみヴァンプ-』」です。

  西尾維新の小説「傷物語」を映像化したのが『傷物語〈I 鉄血篇〉』『同〈II 熱血篇〉』『同〈III 冷血篇〉』の三部作です。それを再構成して、1本の長編アニメーションにまとめたのが、この『傷物語 -こよみヴァンプ-』となります。
 『傷物語 -こよみヴァンプ-』は娯楽作でありつつ、全編に渡って作り手の美意識が貫かれた尖鋭的な作品です。映画館の大スクリーンと音響で楽しんでください。

 トークのゲストは尾石達也監督です。ご自身の創作に関するルーツやスタンス、「傷物語」映像化の狙いなどについてうかがいます。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が担当。

 なお、「傷物語」は〈物語〉シリーズの作品ですが、〈物語〉シリーズの第一作である「化物語」の前日譚となります。同シリーズを未見の方でも理解できるはずです。

 チケットは3月16日(日)から発売。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。

●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

新文芸坐オフィシャルサイト(『傷物語 -こよみヴァンプ-』情報ページ)
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#d2025-03-23-1

【新文芸坐×アニメスタイル vol.187】
アバンギャルドアニメーションの傑作 『傷物語 -こよみヴァンプ-』

開催日

2025年3月23日(日)14時45分~18時25分予定(トーク込みの時間となります)

会場

新文芸坐

料金

2200円均一

上映タイトル

『傷物語 -こよみヴァンプ-』(2024/144分/PG12)

トーク出演

尾石達也(監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

第891回 『バーチャファイター』とテレコム

YouTubeのTMSアニメ公式チャンネルで、『バーチャファイター』の全話配信中!

 で、自分がテレコム(・アニメーションフィルム)時代に動画を描いたところを見つけて遊んでいました(仕事の息抜きです)。

30年前の作品でも、結構憶えているモノです、自分の描いた動画は!

 動画の箇所を憶えているということは、原画担当者も憶えているということです。青山(浩行)さんの作監修正とかも。
 テレコムが担当したのは#08、#10、#13、#17の計4本。動画としては4本全て入っていたはずですが、スタッフロールに載せられる人数に制限があり、確か俺の名前は#10と#17で載っていたかと。その内#17は“坂垣伸”と誤植でガッカリ……(汗)。
 当時のテレコムは社内動画のカットが棚に並べられていて、好きに選べるシステムだったので、俺は好きなアクションシーンばかり狙って動画にしていました。前述の青山浩行さんだけでなく、八崎健二さん、川口隆さん、西見祥示郎さん、赤城博昭さん、そして田中敦子さん、今でも信じられないくらい巧い方々が、自分の先輩としてテレコムにはいっぱいいらっしゃいました。その巧い原画を動画にすることで様々な作画テクニックを学ばせていただいたのが『バーチャファイター』。想い出深い新人時代の作品で、ジブリ作品の動画と同じくらい貴重な時間でした。
 さらにTMS公式では

シリーズの『ベルサイユのばら』も全話配信中! 出﨑統監督作品!!

仕事中の息抜きで、こちらも駆け抜けています。ありがとう、TMS公式様! できたら『モンスターファーム』の全話もお願いします! こちらは自分が“原画”を楽しんだ作品で、昔VHSに録画していたものがもう観れなくなっています。久々に観たい~!

 短くてすみません(汗)、また来週で……。