音楽は澤野弘之とKOHTA YAMAMOTOの共作。澤野弘之が全体の音楽プロデュースと挿入歌の作・編曲を担当し、KOHTA YAMAMOTOがインストゥルメンタルの劇伴を担当している。劇伴の中に澤野が作曲した挿入歌のメロディがちりばめられた構成だ。
澤野弘之のインタビューによれば、本作の音楽制作に取りかかったのは5年ほど前(つまり2020年頃)。挿入歌作りから先行して進めたという。澤野はインタビューの中で「クラシカルなアプローチの楽曲ではなく、POPS&ROCKを取り入れた現代的なサウンドにしてほしいというオーダーだったので、それぞれシーンごとに必要な楽曲の方向性やサウンドイメージなどが書かれた音楽メニューをもとに制作していきました」と語っている。
いっぽうKOHTA YAMAMOTOは、2022年春に監督(吉村愛)、音響監督(長崎行男)、澤野弘之と打合せをし、劇伴制作を開始した。澤野弘之による挿入歌のデモがすでにできあがっていて、挿入歌のメロディを組み込んだ劇伴と、それとは別にオリジナルで制作する劇伴のオーダーを受けたという。作曲は絵コンテをベースに映像にタイミングを合わせたフィルムスコアリングのスタイルで進められた。澤野弘之の楽曲がポップス&ロック志向なのに対し、KOHTA YAMAMOTOはオーケストラ楽器を主体にしたクラシカルなアプローチの曲が多いのが特徴だ。
結果的にポップス&ロック的な楽曲とクラシック的な楽曲が共存する、現代の『ベルばら』音楽と呼ぶにふさわしい音楽になったと思う。宝塚歌劇版とも実写版ともTVアニメ版とも異なる、新たな『ベルばら』サウンドの誕生である。
本作のサウンドトラック・アルバムは、挿入歌を収録した「Song Collection from The Rose of Versailles」と劇伴を収録した「The Rose of Versailles Original Soundtrack」の2タイトルが、2025年2月26日にエイベックス・ピクチャーズよりCDと配信で同時リリースされた。
収録曲は下記商品紹介ページを参照。
「Song Collection」には挿入歌15曲のフルサイズと10曲のMovie Edit版(劇中バージョン)を収録。15曲の挿入歌はすべて劇中で使用されている。
「Original Soundtrack」は全31曲をストーリーに沿った曲順で収録。こちらには歌は収録されていない。「Song Collection」の曲と「Original Soundtrack」収録曲を組合せれば、本編で流れた音楽を再現することができる(ただし絢香が歌うエンディング主題歌「Versailles —ベルサイユ—」は別売)。
以下、印象的な曲をピックアップして紹介しよう。
オープニングに流れる挿入歌「The Rose of Versailles」は本作のメインテーマ。オスカル、マリー・アントワネット、フェルゼン、アンドレの4人が歌う曲だ。オープニングでこの曲が流れてきたとき、「うわー、こう来たか!」と思った。『ベルばら』の歌というとドラマティックに歌い上げるイメージがあるが、「The Rose of Versailles」は思い切ってポップで明るく華やかな曲調。4人のキャラクターが歌うことで「この作品は4人の物語」という宣言にもなっている。
劇中にはこの曲をアレンジした曲がいくつも登場する。冒頭に流れる劇伴「The Rose of Versailles 〜Prologue〜」や新たな国王の誕生をパリ市民たちが祝福する場面の挿入歌「Our King and Queen」は、フランスの繁栄の象徴のように使用されている。
いっぽう、同じメロディをアレンジした挿入歌「Anger and pain」は、王政に対する市民の怒りを表現する曲として流れる。そして、物語終盤に流れる劇伴「フランス革命」や「自由・平等・友愛」では、フランス革命の象徴として、このメロディが使用される。
作品が展開するにつれて、同じメロディが異なる意味を持った曲に変化していく。実にみごとでドラマティックな音楽設計である。
「Ma Vie en Rose」はマリー・アントワネットが歌う挿入歌。フランス王室に輿入れしたアントワネットの天真爛漫さを描写する曲として流れている。このメロディも劇伴に形を変えて登場する。ルイ16世とアントワネットの初対面の場面に流れる「花嫁・アントワネット」、フェルゼンが去ったさみしさを放蕩と贅沢でまぎわらすアントワネットの場面に流れる「放蕩の妃・アントワネット」などだ。
アントワネットとフェルゼンが歌う「Resonance of Love」は、4年の時を経て再会した2人があふれ出る想いをこらえきれずに抱き合う場面に流れた挿入歌。アントワネットとフェルゼンの愛のテーマである。このシーンも華麗な(少女マンガ的な)ミュージックビデオ風に演出されていて、アニメならではの名場面になっていた。注目してほしいのは、挿入歌が流れる前に同じメロディを使った劇伴「フェルゼンの謁見」と「アントワネットとフェルゼン」がすでに劇中に使われていること。劇伴が挿入歌の予告もしくは伏線になっているのだ。
オスカルが歌う挿入歌「心の在り処」は複雑な心情を歌った曲である。恋のよろこびを初めて知ったというアントワネットの想いを聞き、オスカルは自分が信じていた価値観(男として生きてきた生き方)がゆらぐように感じてショックを受ける。オスカルが父から結婚を奨められて動揺する場面に流れる挿入歌「Return to nothing」はこの曲の変奏だ。「悩めるオスカルのテーマ」とでも呼ぶべきモチーフである。
自分がフェルゼンに惹かれていることに気づいたオスカルは、ドレスに身を包んだ美しい女性として舞踏会場に現れる。フェルゼンに声をかけられたオスカルはそれで満足し、自分の気持ちをふっきるのだが、本作ではその描写はない。代わりに流れるのが挿入歌「Believe in My Way」だ。歌はオスカルの独唱で始まり、劇中で描かれなかったオスカルの想いが語られる。続いてアントワネットが、フェルゼンが、アンドレが歌い継いで、それぞれが信じる「自分の道(My Way)」を語る。最後は4人がそろって歌う合唱となって終わる。中盤のハイライトと呼べる挿入歌である。
数ある挿入歌の中でも4人が歌う歌は「The Rose of Versailles」とこの「Believe in My Way」だけ。「The Rose of Versailles」が作品全体のメインテーマだとすれば、「Believe in My Way」は4人の心を表現した愛のテーマと言えるだろう。
また、この歌は物語の前半を締めくくる曲でもある。この歌が流れたあと、貧困に苦しむパリ市民たちが描写され、物語は革命に向けて急展開していくのだ。
革命に向かってパリ市民やオスカルの心境が変化していく場面では、KOHTA YAMAMOTOがオリジナルで(挿入歌のメロディを使わずに)書いた劇伴が重要な役割を果たしている。重苦しい曲調でパリ市民の憤りを表現する「怒れる市民」、自由の尊さを知ったオスカルが市民に寄り添おうと決意する場面の「決意のオスカル」、合唱とオーケストラが崩壊寸前の王室とパリを描写する「絶望の都・パリ」など。前半とは対照的な暗く切迫した雰囲気で作品を彩っているのがKOHTA YAMAMOTOによる劇伴である。
KOHTA YAMAMOTO自身が「気に入っている曲」と語るのが、「ルイ16世と真実」と「ジェローデル・愛の証」の2曲だ。「ルイ16世と真実」は、密告の手紙によってアントワネットとフェルゼンの仲を知ったルイ16世が自分の想いを王妃に語る場面に流れる曲。「ジェローデル・愛の証」はオスカルのアンドレへの想いに気づいたジェローデルがオスカルとの結婚をあきらめ身を引く場面に流れる曲。どちらもキャラクターの繊細な心情が描かれたシーンである。KOHTA YAMAMOTOはピアノやストリングスを使ったクラシカルな曲調で、それぞれの切ない気持ちを表現する。ルイ16世とジェローデルが歌う挿入歌は作られていないが、2人もまた愛に生きる登場人物なのだと思わせてくれる音楽だ。
オスカルが歌う挿入歌「Child of Mars」は、オスカルが父に「私は軍神マルスの子として生きましょう」と宣言する場面に流れた曲。終盤でオスカルが市民とともに戦う場面には、この曲を変奏した挿入歌「Liberation」(歌唱は澤野弘之作品と縁の深いアーティスト・Tielleが担当)が流れる。「心の在り処」が「悩めるオスカルのテーマ」なら、こちらは「戦うオスカルのテーマ」である。
オスカルとアンドレの愛のドラマのクライマックスは、2人が結ばれる場面。2人が歌う挿入歌「夜をこめて」が万感の思いを表現する。その直前の場面には同じメロディの断片を含んだ劇伴「アンドレ・グランディエの妻に」が流れていた。ドラマからスムーズに歌につなげていくミュージカル的な演出である。
先に書いたように、ラストシーンに流れるのは「The Rose of Versailles」をアレンジした劇伴「自由・平等・友愛」だ。オープニングでは華やかに歌われたメロディが、ラストではピアノとストリングスによるしっとりとしたアレンジで演奏される。劇中にこのメロディがたびたび登場するから、観客の脳裏にはここに至るまでの物語の記憶が走馬灯のようにちらつく。この場面は観ていてぐっときてしまった。