第300回 歌わないミュージカル 〜劇場アニメ ベルサイユのばら〜

 腹巻猫です。3月22日に神保町・ブックカフェ二十世紀で開催されるイベント「サウンドトラック☆スクエア」に出演します。サントラ専門店「ARK SOUNDTRACK SQUARE」が主催する音楽とトークのイベントです。今回は2020年から2025年のあいだに海外・国内でリリースされたサントラ盤の中から名盤・注目盤を厳選して紹介しようという企画。アニメ音楽が取り上げられるかどうかわかりませんが、サウンドトラック、特に映画サントラに興味のある方はぜひどうぞ。詳細は下記を参照ください。
https://arksquare.net/jp/news/2025/02/20250215.php


 劇場アニメ『ベルサイユのばら』の音楽について語ってみたい。
 今さら説明するまでもないと思うが、原作は池田理代子が1970年代に発表したマンガ史に残る名作。将軍家の娘として生まれた男装の麗人オスカルとフランス王妃マリー・アントワネットの2人を中心に、フランス革命に向かう激動の時代を生きた人々の愛と自立と戦いを描いた作品だ。70年代には宝塚歌劇、実写劇場作品、TVアニメになって人気を博した。それを現代の劇場アニメとしてリメイクしたのが本作である。なお、公式サイトでは「劇場アニメ『ベルサイユのばら』」の表記で統一されているので、本稿でもそう表記することにする。
 正直に言うと『ベルサイユのばら』をアニメでリメイクすると聞いたときは、あまり期待しなかった。筆者はTVアニメ版のファンで、2016年に「ベルサイユのばら 音楽集[完全版]」の企画をメーカーに持ち込んで、構成・解説を手がけたくらい(このアルバムは現在、配信で聴くことができる)。しかし、音楽を澤野弘之が担当すると聞いて、がぜん興味がわいた。
 『ベルばら』に澤野弘之の音楽! 激しいロック調の曲や『進撃の巨人』みたいなコーラス入りの重厚な曲が流れるのか? 絢爛豪華でパワフルなアニメになるかもしれないと想像がふくらんだ。
 結論から言えば、劇場アニメ『ベルサイユのばら』は筆者が期待していたものとは違っていた。絢爛豪華でパワフルというよりはポップでロマンティックな印象である。しかし、「こういうのもありだな」と思った。
 驚いたのは音楽の演出。劇中に15曲もの挿入歌が流れる。ユニークで大胆なアプローチの作品だった。
 あらかじめ言っておくと、本作はいわゆる「ミュージカル映画」ではない。ミュージカル映画では、登場人物が劇中で歌い始める。本作にはそういう場面もいくつかあるが、それはどちらかといえば例外で、歌が流れるシーンの大半は、ミュージックビデオのようなイメージ映像になっている。「ミュージカル映画」というより「音楽映画」だ。本作のユニークなところである。
 劇中に15曲もの挿入歌が流れることには、それなりの必然性がある。
 本作は約2時間の尺。そこに原作の物語を詰め込んでいるから、展開が駆け足になるし、省略されたエピソードも多い。キャラクターの秘めた心情や心境の変化などが観客に伝わりにくい。そこで効果を発揮するのが挿入歌だ。歌がキャラクターの心情を代弁し、映像で描ききれなかった想いを伝える。役割としてはミュージカル映画の劇中歌と同じである。
 では、なぜキャラクターが歌うミュージカル映画にしなかったのか? 監督の吉村愛はインタビューでこう語っている。
「曲を聴いてキャラクターが歌い出すミュージカル形式は苦手な人もいるので、アニメのオープニングやエンディングのような映像表現とともに曲が流れてくる形にしたかったんです」
 たしかに、登場人物が突然歌い出すミュージカル演出は、うまくやらないと不自然になり、コミカルにも見えてしまう。本作にも登場人物が歌っているように演出されている場面がいくつかあるが、「なんで歌ってるの?」と雑念がわいて作品に入りこめなかった。いっぽうミュージックビデオ的に演出されているシーンは、余計なことを考えずに雰囲気にひたることができる。歌とイメージ映像を心地よく楽しみながら、脳内でドラマを補完し、気分を盛り上げることができるのだ。
 本作における挿入歌は、映像的・音楽的な見せ場と作るとともに、映像で語り切れない情感とエピソードを補うしかけである。もしこの作品に歌がなかったら、ただ駆け足に物語をまとめただけの印象になっていただろう。

 音楽は澤野弘之とKOHTA YAMAMOTOの共作。澤野弘之が全体の音楽プロデュースと挿入歌の作・編曲を担当し、KOHTA YAMAMOTOがインストゥルメンタルの劇伴を担当している。劇伴の中に澤野が作曲した挿入歌のメロディがちりばめられた構成だ。
 澤野弘之のインタビューによれば、本作の音楽制作に取りかかったのは5年ほど前(つまり2020年頃)。挿入歌作りから先行して進めたという。澤野はインタビューの中で「クラシカルなアプローチの楽曲ではなく、POPS&ROCKを取り入れた現代的なサウンドにしてほしいというオーダーだったので、それぞれシーンごとに必要な楽曲の方向性やサウンドイメージなどが書かれた音楽メニューをもとに制作していきました」と語っている。
 いっぽうKOHTA YAMAMOTOは、2022年春に監督(吉村愛)、音響監督(長崎行男)、澤野弘之と打合せをし、劇伴制作を開始した。澤野弘之による挿入歌のデモがすでにできあがっていて、挿入歌のメロディを組み込んだ劇伴と、それとは別にオリジナルで制作する劇伴のオーダーを受けたという。作曲は絵コンテをベースに映像にタイミングを合わせたフィルムスコアリングのスタイルで進められた。澤野弘之の楽曲がポップス&ロック志向なのに対し、KOHTA YAMAMOTOはオーケストラ楽器を主体にしたクラシカルなアプローチの曲が多いのが特徴だ。
 結果的にポップス&ロック的な楽曲とクラシック的な楽曲が共存する、現代の『ベルばら』音楽と呼ぶにふさわしい音楽になったと思う。宝塚歌劇版とも実写版ともTVアニメ版とも異なる、新たな『ベルばら』サウンドの誕生である。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、挿入歌を収録した「Song Collection from The Rose of Versailles」と劇伴を収録した「The Rose of Versailles Original Soundtrack」の2タイトルが、2025年2月26日にエイベックス・ピクチャーズよりCDと配信で同時リリースされた。
 収録曲は下記商品紹介ページを参照。

「Song Collection from The Rose of Versailles」
https://verbara-movie.jp/discography/detail.php?id=1020677

「The Rose of Versailles Original Soundtrack」
https://verbara-movie.jp/discography/detail.php?id=1020676

 「Song Collection」には挿入歌15曲のフルサイズと10曲のMovie Edit版(劇中バージョン)を収録。15曲の挿入歌はすべて劇中で使用されている。
 「Original Soundtrack」は全31曲をストーリーに沿った曲順で収録。こちらには歌は収録されていない。「Song Collection」の曲と「Original Soundtrack」収録曲を組合せれば、本編で流れた音楽を再現することができる(ただし絢香が歌うエンディング主題歌「Versailles —ベルサイユ—」は別売)。
 以下、印象的な曲をピックアップして紹介しよう。
 オープニングに流れる挿入歌「The Rose of Versailles」は本作のメインテーマ。オスカル、マリー・アントワネット、フェルゼン、アンドレの4人が歌う曲だ。オープニングでこの曲が流れてきたとき、「うわー、こう来たか!」と思った。『ベルばら』の歌というとドラマティックに歌い上げるイメージがあるが、「The Rose of Versailles」は思い切ってポップで明るく華やかな曲調。4人のキャラクターが歌うことで「この作品は4人の物語」という宣言にもなっている。
 劇中にはこの曲をアレンジした曲がいくつも登場する。冒頭に流れる劇伴「The Rose of Versailles 〜Prologue〜」や新たな国王の誕生をパリ市民たちが祝福する場面の挿入歌「Our King and Queen」は、フランスの繁栄の象徴のように使用されている。
 いっぽう、同じメロディをアレンジした挿入歌「Anger and pain」は、王政に対する市民の怒りを表現する曲として流れる。そして、物語終盤に流れる劇伴「フランス革命」や「自由・平等・友愛」では、フランス革命の象徴として、このメロディが使用される。
 作品が展開するにつれて、同じメロディが異なる意味を持った曲に変化していく。実にみごとでドラマティックな音楽設計である。
 「Ma Vie en Rose」はマリー・アントワネットが歌う挿入歌。フランス王室に輿入れしたアントワネットの天真爛漫さを描写する曲として流れている。このメロディも劇伴に形を変えて登場する。ルイ16世とアントワネットの初対面の場面に流れる「花嫁・アントワネット」、フェルゼンが去ったさみしさを放蕩と贅沢でまぎわらすアントワネットの場面に流れる「放蕩の妃・アントワネット」などだ。
 アントワネットとフェルゼンが歌う「Resonance of Love」は、4年の時を経て再会した2人があふれ出る想いをこらえきれずに抱き合う場面に流れた挿入歌。アントワネットとフェルゼンの愛のテーマである。このシーンも華麗な(少女マンガ的な)ミュージックビデオ風に演出されていて、アニメならではの名場面になっていた。注目してほしいのは、挿入歌が流れる前に同じメロディを使った劇伴「フェルゼンの謁見」と「アントワネットとフェルゼン」がすでに劇中に使われていること。劇伴が挿入歌の予告もしくは伏線になっているのだ。
 オスカルが歌う挿入歌「心の在り処」は複雑な心情を歌った曲である。恋のよろこびを初めて知ったというアントワネットの想いを聞き、オスカルは自分が信じていた価値観(男として生きてきた生き方)がゆらぐように感じてショックを受ける。オスカルが父から結婚を奨められて動揺する場面に流れる挿入歌「Return to nothing」はこの曲の変奏だ。「悩めるオスカルのテーマ」とでも呼ぶべきモチーフである。
 自分がフェルゼンに惹かれていることに気づいたオスカルは、ドレスに身を包んだ美しい女性として舞踏会場に現れる。フェルゼンに声をかけられたオスカルはそれで満足し、自分の気持ちをふっきるのだが、本作ではその描写はない。代わりに流れるのが挿入歌「Believe in My Way」だ。歌はオスカルの独唱で始まり、劇中で描かれなかったオスカルの想いが語られる。続いてアントワネットが、フェルゼンが、アンドレが歌い継いで、それぞれが信じる「自分の道(My Way)」を語る。最後は4人がそろって歌う合唱となって終わる。中盤のハイライトと呼べる挿入歌である。
 数ある挿入歌の中でも4人が歌う歌は「The Rose of Versailles」とこの「Believe in My Way」だけ。「The Rose of Versailles」が作品全体のメインテーマだとすれば、「Believe in My Way」は4人の心を表現した愛のテーマと言えるだろう。
 また、この歌は物語の前半を締めくくる曲でもある。この歌が流れたあと、貧困に苦しむパリ市民たちが描写され、物語は革命に向けて急展開していくのだ。
 革命に向かってパリ市民やオスカルの心境が変化していく場面では、KOHTA YAMAMOTOがオリジナルで(挿入歌のメロディを使わずに)書いた劇伴が重要な役割を果たしている。重苦しい曲調でパリ市民の憤りを表現する「怒れる市民」、自由の尊さを知ったオスカルが市民に寄り添おうと決意する場面の「決意のオスカル」、合唱とオーケストラが崩壊寸前の王室とパリを描写する「絶望の都・パリ」など。前半とは対照的な暗く切迫した雰囲気で作品を彩っているのがKOHTA YAMAMOTOによる劇伴である。
 KOHTA YAMAMOTO自身が「気に入っている曲」と語るのが、「ルイ16世と真実」と「ジェローデル・愛の証」の2曲だ。「ルイ16世と真実」は、密告の手紙によってアントワネットとフェルゼンの仲を知ったルイ16世が自分の想いを王妃に語る場面に流れる曲。「ジェローデル・愛の証」はオスカルのアンドレへの想いに気づいたジェローデルがオスカルとの結婚をあきらめ身を引く場面に流れる曲。どちらもキャラクターの繊細な心情が描かれたシーンである。KOHTA YAMAMOTOはピアノやストリングスを使ったクラシカルな曲調で、それぞれの切ない気持ちを表現する。ルイ16世とジェローデルが歌う挿入歌は作られていないが、2人もまた愛に生きる登場人物なのだと思わせてくれる音楽だ。
 オスカルが歌う挿入歌「Child of Mars」は、オスカルが父に「私は軍神マルスの子として生きましょう」と宣言する場面に流れた曲。終盤でオスカルが市民とともに戦う場面には、この曲を変奏した挿入歌「Liberation」(歌唱は澤野弘之作品と縁の深いアーティスト・Tielleが担当)が流れる。「心の在り処」が「悩めるオスカルのテーマ」なら、こちらは「戦うオスカルのテーマ」である。
 オスカルとアンドレの愛のドラマのクライマックスは、2人が結ばれる場面。2人が歌う挿入歌「夜をこめて」が万感の思いを表現する。その直前の場面には同じメロディの断片を含んだ劇伴「アンドレ・グランディエの妻に」が流れていた。ドラマからスムーズに歌につなげていくミュージカル的な演出である。
 先に書いたように、ラストシーンに流れるのは「The Rose of Versailles」をアレンジした劇伴「自由・平等・友愛」だ。オープニングでは華やかに歌われたメロディが、ラストではピアノとストリングスによるしっとりとしたアレンジで演奏される。劇中にこのメロディがたびたび登場するから、観客の脳裏にはここに至るまでの物語の記憶が走馬灯のようにちらつく。この場面は観ていてぐっときてしまった。

 こんなふうに、本作の音楽は挿入歌と挿入歌、挿入歌と劇伴が密接に連携し、さらに劇伴が隙間を埋める形で構築されている。2時間の作品に15曲もの挿入歌が流れても散漫な印象を受けないのは、音楽全体が緻密に構成されているからだろう。
 劇場アニメ『ベルサイユのばら』は現在も映画館で上映が続いている。筆者の印象だが、気に入ったら2度、3度と劇場に足を運ぶリピーターが多い気がする。一度観ただけでは挿入歌の歌詞は頭に入らない。パンフレットに掲載された歌詞を読み、ソングアルバムやサウンドトラックを聴いて、また劇場に向かうファンが多いのではないか。そうすることで、よりキャラクターの心情に共感でき、作品で描かれなかったエピソードを想像で埋めることができるからだ。
 多彩なキャラクターが登場する『ベルサイユのばら』の物語を2時間にまとめることは難しく、説明不足だと思うところもあるし、細かい点で不満がないわけではない。が、歌を軸に構成する本作のアプローチは、予想以上にうまくいっている。『ベルばら』音楽史に新たな名曲が加わった。こういうアニメ版『ベルばら』もいいと思う。

Song Collection from The Rose of Versailles
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The Rose of Versailles Original Soundtrack
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第892回 『沖ツラ』制作話~OPひととおり

 第890回から続き、『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる(沖ツラ)』OP話。

c-023 手拍子、1つの素材を、肌色変えて3人に! こういう費用対効果をコンテ段階で考えるの好きです。篠(衿花)さん作監で締めてもらいました。
c-024 こちらのチョンダラー喜屋武さんも、委員会からは「素顔の方が~」と提案されましたがお断りしました。コンテにラフを足したものを森(亮太)君に原画化してもらい、俺の方で作監を。なぜか最後にシーサーに寄るの、個人的に気に入っています。
c-025 横アングル踊り、ラスト「あ、てーるーだ!」の比嘉さん。原画・市川(真琴)さん、作監・板垣。
c-026 これは篠さんによる直原画=作監不要。ただし、ラフ段階で俺の方から「手と腰の動き、大きく~」と参考ラフを入れてから清書に入ってもらいました。
c-027 下地・上間・鉄~これもただの歩きではなく、実はダンスの振り付け。同様に篠原画=作監不要。
c-028 比嘉姉妹。可愛いのはいいけど、やや頭身が低いかも。これも篠原画=作監不要。
c-029 ようやくすっぴんの喜屋武さんダンス~サブキャラ大集合。コンテを基にラフ足し~タイミング付けまでして、あと篠さん。この辺数カットは本当に助けてもらいました。
c-030 踊るてーるー、アオリ。原画・市川、作監・板垣。「アオリパースがうまく描けない~」とのことでたくさん修正入れました。
c-031 踊る比嘉さん、俯瞰。原画・市川、作監・板垣。コンテ時はもっとニコやかに。自分描いたのですが、委員会チェックより「比嘉さんなので、抑えて」と。
c-032 これも一応ダンスの振り付け。それを“誇張”させて飛ばしました! コンテでは靴を履かせてたのですが、こちらも「ベンチに土足は止めて」で、裸足に。「だったら、島ぞうり焼けは必須ですよね!」と俺。ラフ原・板垣、二原・市川、作監・板垣。
c-033・034・035 メインタイトル(c-036)に、てーるー・比嘉・喜屋武それぞれのダンスのインサート。全て、原画・市川、作監・板垣。特筆すべきはc-033の比嘉さんのハイビスカスポーズ(?)、市川さんが良い仕事しています! 動きはそのまま使って、自分はベタで作監修正のせただけ。
c-037 ラスト皆でシーサーポーズで締め! は板垣の一発原画! でしたが、委員会より「もう少し年齢上げて」とのリテイクで描き直したので、結局二発原画?

 時間なくて駆け足、且つ短くてすみません(汗)、また来週で……。

【新文芸坐×アニメスタイル vol.187】
アバンギャルドアニメーションの傑作 『傷物語 -こよみヴァンプ-』

 3月23日(日)に開催する上映プログラムは「【新文芸坐×アニメスタイル vol.187】アバンギャルドアニメーションの傑作 『傷物語 -こよみヴァンプ-』」です。

  西尾維新の小説「傷物語」を映像化したのが『傷物語〈I 鉄血篇〉』『同〈II 熱血篇〉』『同〈III 冷血篇〉』の三部作です。それを再構成して、1本の長編アニメーションにまとめたのが、この『傷物語 -こよみヴァンプ-』となります。
 『傷物語 -こよみヴァンプ-』は娯楽作でありつつ、全編に渡って作り手の美意識が貫かれた尖鋭的な作品です。映画館の大スクリーンと音響で楽しんでください。

 トークのゲストは尾石達也監督です。ご自身の創作に関するルーツやスタンス、「傷物語」映像化の狙いなどについてうかがいます。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が担当。

 なお、「傷物語」は〈物語〉シリーズの作品ですが、〈物語〉シリーズの第一作である「化物語」の前日譚となります。同シリーズを未見の方でも理解できるはずです。

 チケットは3月16日(日)から発売。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。

●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

新文芸坐オフィシャルサイト(『傷物語 -こよみヴァンプ-』情報ページ)
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#d2025-03-23-1

【新文芸坐×アニメスタイル vol.187】
アバンギャルドアニメーションの傑作 『傷物語 -こよみヴァンプ-』

開催日

2025年3月23日(日)14時45分~18時25分予定(トーク込みの時間となります)

会場

新文芸坐

料金

2200円均一

上映タイトル

『傷物語 -こよみヴァンプ-』(2024/144分/PG12)

トーク出演

尾石達也(監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

第891回 『バーチャファイター』とテレコム

YouTubeのTMSアニメ公式チャンネルで、『バーチャファイター』の全話配信中!

 で、自分がテレコム(・アニメーションフィルム)時代に動画を描いたところを見つけて遊んでいました(仕事の息抜きです)。

30年前の作品でも、結構憶えているモノです、自分の描いた動画は!

 動画の箇所を憶えているということは、原画担当者も憶えているということです。青山(浩行)さんの作監修正とかも。
 テレコムが担当したのは#08、#10、#13、#17の計4本。動画としては4本全て入っていたはずですが、スタッフロールに載せられる人数に制限があり、確か俺の名前は#10と#17で載っていたかと。その内#17は“坂垣伸”と誤植でガッカリ……(汗)。
 当時のテレコムは社内動画のカットが棚に並べられていて、好きに選べるシステムだったので、俺は好きなアクションシーンばかり狙って動画にしていました。前述の青山浩行さんだけでなく、八崎健二さん、川口隆さん、西見祥示郎さん、赤城博昭さん、そして田中敦子さん、今でも信じられないくらい巧い方々が、自分の先輩としてテレコムにはいっぱいいらっしゃいました。その巧い原画を動画にすることで様々な作画テクニックを学ばせていただいたのが『バーチャファイター』。想い出深い新人時代の作品で、ジブリ作品の動画と同じくらい貴重な時間でした。
 さらにTMS公式では

シリーズの『ベルサイユのばら』も全話配信中! 出﨑統監督作品!!

仕事中の息抜きで、こちらも駆け抜けています。ありがとう、TMS公式様! できたら『モンスターファーム』の全話もお願いします! こちらは自分が“原画”を楽しんだ作品で、昔VHSに録画していたものがもう観れなくなっています。久々に観たい~!

 短くてすみません(汗)、また来週で……。

第299回 新たなピース 〜交響組曲 宇宙戦艦ヤマト 2024mix〜

 腹巻猫です。『宇宙戦艦ヤマト』(1974)放送50周年を記念して、昨年から今年にかけてさまざまなイベントが開催され、新商品が発売されています。そのひとつに、昨年12月にリリースされたアルバム「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト 2024mix」がありました。1977年に発売された「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」をオリジナルマスターに遡ってニューミックスしたアルバムです。
 ポイントは「リマスター」ではなく「ニューミックス」である点。
 両者はどう違うのか? 完成したアルバムと旧盤の違いは? 結局どっちがいいの?
 そこを語ってみたいと思います。


 「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」は、TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』(1974)の音楽を作曲者の宮川泰自身がオーケストラ用にアレンジし、選りすぐりのミュージシャンの演奏によって録音したアルバムである。演奏・構成ともにすばらしい名盤で、アニメ音楽アルバムの金字塔として、当コラムの第1回でも取り上げた。このアルバムを聴いてアニメ音楽にのめり込んだという人も多いだろう。本作のヒットでアニメ音楽の商品化が一気に進んだことから、アニメ音楽ビジネスのターニングポイントとなった作品とも言える。
 それだけ人気があり重要なアルバムなので、CD時代になってもくり返し再発売が行われ、リマスターも何度かされている。
 しかし、今回の「2024mix」は過去のリマスター盤とは根本的に異なる商品である。それを理解してもらうためには、マスタリングとミックスの違いを説明しておく必要がある。
 マスタリングとは、レコードやCD、配信用音源等の制作時に必ず行われる工程で、ひとことで言えば、録音した音源を聴きやすいように、また、よりよく聞こえるように調整する作業である。音量の調整やノイズ取りを行い、ときには、エコーを加えたり、特定の楽器の音を目立つようにしたり、コンプレッサーで音を圧縮して音量差を整えたりする。マスタリングを行うエンジニアの手腕によっては、曲の印象は驚くほど変わり、それは曲の評判にも影響する。音楽を商品化する上で欠かせない重要な工程である。
 ただ、マスタリングでできることは基本的にマスターに含まれている情報を引き出すことで、まったく別の音源を作り出すことはできない。アニメーションにたとえると、フィルム(もしくは映像データ)に記録された映像の彩度やコントラストを調整したり、カラーバランスを整えたり、ゴミ取りをしたりし、お色直しを行うのがマスタリングにあたる。リマスタリング(リマスター)とは、このマスタリングをやり直して、新たなマスターを作り出すことである。
 いっぽうミックスとは、マルチトラックレコーディングされた音源を組み合わせて、ひとつのマスターを作り出す工程である。マルチトラックレコーディングとは、大ざっぱに言えば、楽器ごとにトラックを分けて録音すること。弦楽器、金管楽器、木管楽器、リズム、ボーカルなどを別々のトラックに記録しているので、個別に音量を変えたり、加工したり、演奏ミスのある部分をミュート(無音に)したり差し替えたりすることが可能だ。ミックス工程では、各トラックの音量や定位(音が聞こえてくる位置)を決め、2チャンネル、または5.1チャンネルなどにまとめてマスター音源を作成する。
 ニューミックスとは、マルチトラック音源にさかのぼってミックスをやり直すことである。トラックごとの音量や定位、採用する演奏のテイク、音を重ねるタイミングなど、根本的なサウンドデザインを変えることができる点がリマスターとの大きな違いだ。アニメーションにたとえると、キャラクターや背景などの素材を組み合わせて再撮影を行ったり、撮影した映像素材をもとに再編集を行ったりするのがニューミックスにあたると言ってよいだろう。
 なお、「ニューミックス」と同じ意味で「リミックス」という言葉が使われることがあるが、「リミックス」は既存の音源を加工・編集して新たな曲を作り出すことにも使われるので(ダンス用にリズムトラックを加えたり、曲をループさせたりした「ダンスミックス」など)、本稿では「ニューミックス」と呼ぶことにする。

 「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト 2024mix」は、日本コロムビアが保管していたオリジナルのマルチトラックテープをデジタル化し、ニューミックスを行ったアルバム。過去のリマスターアルバムとは異なる次元でのサウンドのリニューアルを実現している。
 とはいえ、その作業はなかなか大変だったそうだ(アルバムのライナーノーツなどからの情報)。というのも、今回のニューミックスの趣旨は、旧アルバムに忠実に、音質の向上を目指すこと。音を足したり引いたり、別テイクを採用したり、音のタイミングを変えたりして別バージョンを作るのではなく、基本的に音量や定位などは旧盤と大きく変えずに仕上げることが求められた。これがなかなか難しいのである。というのは、オリジナル盤のミックスを行ったときのトラックごとの音量・定位や採用するテイクなどの情報が残されているならよいが、それがない場合は、参考音源(今回の場合はオリジナル・レコードマスター)を再生して、人の耳で判断し、再現するしかない。筆者もかつて「ベルサイユのばら 音楽集[完全版]」の制作時に同様のニューミックス作業に立ち会ったことがあるが、職人的な技と耳のよさが必要な作業だった。
 今回は1977年に録音された16チャンネル磁気テープを使用してのニューミックス。まず、テープを再生できる状態にし、テープの劣化による歪みやノイズを除去するなどの手間がかかっている。さらに、本作はマルチトラックレコーディングとはいえ、楽器ごとに分けて録音するのではなく、スタジオにミュージシャンを集めて「せーの」で一斉に演奏して録音している。楽器セクションごとマイクを立てて録音しているのだが、防音のためのパーティションを置いたにしても、弦のトラックに木管の音がもれて小さく録音されているといったケースがしばしばある。その音もれをデジタルで可能な限り除き、さらに楽器ごとの周波数特性を利用して、1トラックにまとめられている音をさらに細分化してトラックを分けるといったことも行っているのだ。
 「2024mix」は、大変な手間をかけて作られた、こだわりの詰まったアルバムなのである。
 本アルバムは、オリジナルLPの発売日に合わせた2024年12月25日に、日本コロムビアからCDとアナログレコードと配信でリリースされた。配信は通常配信、ハイレゾ配信、空間オーディオの3種類。好みのメディアを選ぶこともできるし、複数購入して聴き比べることも可能だ。
 収録曲は以下のとおり。

  01. 序曲 2024mix
  02. 誕生 2024mix
  03. サーシャ 2024mix
  04. 試練 2024mix
  05. 出発 2024mix
  06. 追憶 2024mix
  07. 真赤なスカーフ 2024mix
  08. 決戦〜挑戦=出撃=勝利〜 2024mix
  09. イスカンダル 2024mix
  10. 回想 2024mix
  11. 明日への希望〜夢・ロマン・冒険心〜 2024mix
  12. スターシャ 2024mix

 LPレコードでは、オリジナル盤どおり01〜06がA面、07〜12がB面に収録されている。
 先に書いたとおり、本アルバムのオリジナル盤については当コラムで一度取り上げたことがある。そこで今回は、オリジナル盤と2024mixとの聴き比べをしてみたい。なるべく条件をそろえて聴き比べるために、ソースとして24bit/96kHzでマスタリングされたハイレゾ音源を使用する。2014年8月6日にリリースされた「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」のハイレゾ配信音源と今回の「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト 2024mix」ハイレゾ配信音源である。
 全曲を聴くと長くなるので、次の4曲を聴き比べてみよう。

  01. 序曲
  05. 出発
  07. 真赤なスカーフ
  09. イスカンダル

 まず「序曲」。タイトルどおり、アルバム全体の導入となる曲で、クラシック風の格調高いサウンドにアレンジされている。宇宙の神秘を描写するテーマから始まり、女声スキャット(川島和子)による「無限に広がる大宇宙」のメロディが登場。さまざまに変奏されたあと、最後に主題歌「宇宙戦艦ヤマト」のモチーフが短く奏されて終わる構成。
 演奏が始まると、木管と弦楽器が合奏する出だしの部分から印象が違うことに驚く。2024mixではバックのピアノとパーカッション、ベースの音がオリジナル盤よりはっきりと聞こえる。音の分離がよく、楽器それぞれの音が明瞭になっている。
 川島和子のスキャットが始まる部分では、オリジナル盤よりも音(声)の立ち上がりが鮮やかだ。音の広がりと音量もオリジナル盤より強調されている。オリジナル盤はスキャットとオーケストラが溶け合っていたが、2024mixはスキャットを前面に出した音作り。「この曲ではスキャットが主役」、そんな意図を感じる。
 終盤の主題歌のモチーフが現れる部分は、オリジナル盤よりリズムがはっきり聞こえ、ダイナミックな印象を受ける。
 「序曲」を聴いただけでも、2024mixは、全体にオリジナル盤よりもメリハリのあるクリアな音になっていることがわかる。
 続いて4曲目の「出発(たびだち)」。第3話ラストのヤマト発進シーンに流れたBGM「地球を飛び立つヤマト」をアレンジした曲である。
 オリジナル盤のライナーノーツで宮川泰が、この曲はポール・マッカートニーの曲「007 死ぬのは奴らだ」からヒントを得たと語っている。「007 死ぬのは奴らだ」は同名劇場作品の主題歌で、流麗なメロディとたたみかけるようなリズムを1曲の中に盛り込んだロックオーケストラ風のナンバーである。
 「出発」のオリジナル盤はオーケストラの演奏にロックのリズムが加わった印象だった。2024mixでは、よりロック色の強いサウンドになっている(気がする)。
 20秒ほどの序奏のあとに現れるロック的なリズムのパート。2024mixではリズムを刻むエレキギターとエレキベースがオリジナル盤よりしっかり聞こえる。続いて、木管と弦楽器がメロディを奏で始めるが、その後ろで鳴っているリズムも2024mixのほうが明瞭だ。オーケストラとリズムが絡みあい、しだいにテンポアップしていく中間部では、2024mixのほうが、ドラムの音がオーケストラに負けない音量で聞こえることに注目したい。オリジナル盤以上に「ロックオーケストラ」を感じさせるミックスになっている。原曲の「地球を飛び立つヤマト」はこんな音だったなあと思い出す。
 次は7曲目の「真赤なスカーフ」。エンディング主題歌「真赤なスカーフ」を大胆に料理した、宮川泰の名アレンジが味わえる1曲である。
 序盤は弦合奏による悲し気なアレンジ。一瞬の静寂ののち、ラテンミュージック風にアレンジされたテーマが始まり、空気が変わる。この部分はオリジナル盤より2024mixのほうが、リズムのはっきりした力強いサウンドになっている。金管やピアノの音がオリジナル盤より目立って聴こえるのも特徴。後半のトランペットソロとギターソロも、2024mixは、それぞれのソロ楽器が主役らしく前に出て演奏している印象だ。
 2024mixは、オリジナル盤よりリズムセクションやソロ楽器の音が立った、パンチのあるサウンドになった。「宮川泰が聴かせたかったのはこういう音だったのかな?」と思わせる。
 そして9曲目の「イスカンダル」。これも宮川泰らしいイージーリスニング風の1曲。イスカンダルのテーマとして使用されたBGM「美しい大海を渡る」のアレンジ曲である。
 序奏部はアルトフルートがテーマを奏でる。2024mixではバックのピアノやビブラフォンなどによるふわふわした音がオリジナル盤より大きく聞こえ、幻想的なイメージが強調されている。それに続く弦合奏主体のパートでは、やはりバックのビブラフォンやベースの音が明瞭に聞こえ、ポップスオーケストラ的なサウンドが堪能できる。
 ゴージャスなストリングスの音はオリジナル盤も2024mixも甲乙つけがたく、ふくよかなオリジナル盤か、輪郭のくっきりした2024mixか、好みが分かれるところかもしれない。オリジナル盤は柔らかく、温かみのあるサウンド。2024mixはポップス的なカラフルなサウンド。そんな違いが感じられる曲だ。

 全体として、オリジナル盤では背景に埋もれていた音が2024mixではくっきりと聞こえるようになり、クリアな音が楽しめるようになっている。何度も聴いているアルバムなのに、2024mixを聴きこむと「こんな音が鳴っていたのか」「こんなアレンジだったのか」と新たな発見がある。
 ミックスの方向性としては、基本的にオリジナル盤を踏襲しつつ、各楽器の音を粒立たせ、リズムをしっかり聞かせる音作りになっている。オリジナル盤と比べると、ベールが1枚とれたような、画像にたとえるなら彩度とコントラストが一段上がったような鮮明感がある。
 では、2024mixはオリジナル盤より音がよくなったと言ってよいのだろうか? そうも言えるが、そう単純ではない。そもそも「音がよい」というのは個人によって基準の違う主観的なものである。好みや聴覚の差や環境など、さまざまな要因に左右される。そしてもうひとつ、「音楽にとって音がよいとは何か?」という問題がある。
 オリジナル盤はさまざまな楽器の音が溶けあい、音の雲がふわっと飛んでくるような印象を受ける。それを「音の分離がよくない」ととらえる人もいるかもしれない。が、筆者はホールでオーケストラの生演奏を聴くのに近いサウンドだと思う。コンサートやライブで生演奏を聴くとき、われわれはまわりの空気も同時に感じ取っている。楽器から出た音は空間の中でまじりあい耳に届く。作曲家は、たとえばフルートとクラリネットを同時に鳴らして、楽器単体では出せない音を聞かせようとする。画家がパレットの上で絵の具をまぜるように。音が分離して聞こえないことが作曲家の意図に沿っていることもあるのである。また、オーケストラの生演奏を聴いていると、オーケストラ全体がまるでひとつの楽器として鳴っているように聴こえる瞬間がある。それが生演奏を聴く醍醐味のひとつだ。オリジナル盤のサウンドは、そんな生演奏の空気感を体験させてくれる。
 いっぽう2024mixは、スタジオ録音で作る現代のポピュラーミュージックのサウンドに近い。ひとつひとつの楽器の音をクリアにし、ソロの音は前に出し、リズムもしっかり聴かせる。そうすることで、目の前でミュージシャンが演奏しているような迫力と臨場感を味わえる。ミュージシャンのテクニックや個性も聴き取ることができる。どんなアレンジになっているか分析的に聴きたい人にとってもありがたい音作りである。
 オリジナル盤と2024mixのサウンドの違いは、技術的な進歩と同時に、クラシック志向かポップス志向かといった違いが反映されているようだ。それは、スピーカーで音楽を聴いていた時代とヘッドフォンやイヤフォンで音楽を聴く時代のサウンドの違いと言えるかもしれない。
 「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト 2024mix」はオリジナル盤に代わる新たなマスターになるのだろうか。
 そうではないと思う。2024mixは「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」のマスターに新たに加わったバリエーションのひとつと考えたほうがよいだろう。どちらがよいとか、すぐれているとか、言い切ることはできない。どちらを選ぶかは、好みの問題なのだ。筆者は、リラックスして聴きたいときはオリジナル盤、気分をアゲたいときは2024mixと、その日によって聴くバージョンを変えて楽しんでみたい。
 ひとつ言えることは、ニューミックスのためにマルチトラックテープを蔵出しし、アーカイブしたことは大きな意義があるということだ。今回保全された音源から、また新たなミックスが作られる可能性が広がった。音楽遺産を後世に残していく意味でも、すばらしい仕事であり、商品である。当コラムで「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」のオリジナル盤を取り上げたとき、「永遠のマスターピース」とタイトルをつけた。2024mixはそこに追加された新たなピースである。

交響組曲 宇宙戦艦ヤマト 2024mix
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第890回 『沖ツラ』制作話~OPに関して続き

 第886回からの続きで“OP”。

c-015 雨に濡れたてーるーと比嘉さんを覗き見る安慶名さん。ここからのカットは本作のラブコメ要素を立て続けに盛り込みました。
c-016 前カットの切り返しに喜屋武さんヒョッコリIN。真円の虹は出﨑(統)監督『家なき子』の影響でしょうか?
c-017 指ハート“デデンデンデン♪”の安慶名さん。中なしポンでハートを大きく~戻す際コマ打ち、作画1枚を拡大・縮小撮影——曲リズム合わせで、こちらもダンスの振り付け。
c-018 コンテと共に“残し”を効かせた指の動きを細かく指示しました。同じく振り付けカット。
c-019 かき氷を食べる喜屋武・てーるー・比嘉。比嘉さんを視認するには尺が短過ぎ? でも、音楽に合わせるとこの位が気持ち良かったので、スミマセン。
 以上c-015~019は塩澤(枢)さん他で原画、作監・篠衿花さん。篠さんは『沖ツラ』との相性が抜群で、視聴者の方々が“可愛い”と指差す比嘉さんは篠作監率高いです。#02冒頭とCパートや#05冒頭教室シーンなど、篠上りはほぼ板垣の手は入っていないし、それほど密な打ち合わせ・注文を出さなくても、大概間違いのないモノが上がってきます!
c-020 女子3人のスカート~足。コピペ増殖で費用対効果優先。こちらももちろん振り付けで、原画は市川真琴さんで作監修はなし。市川さんは不思議な画力で、キャラはあまり似せてこないのですが、身体のデッサン、手~指は巧くて、さらに俺のラフを淡々と原画にしてくれたりと、個人的には大変助けられてて、『沖ツラ』本編でも“困ったら市川さん”です。
c-021 同じく女子3人、こちらもダンス振り付けで市川原画ですが、前述のような理由でキャラは篠作監修正が入っています。
c-022 エイサー祭りの一同。こちらもそれぞれ一連+カメラワークで振り付けになるようにしています。後、こちらの“チョンダラー喜屋武さん”、委員会のコンテ・チェックで「オープニングは嘘でもメイクなしにしないと、喜屋武さんと分からないのでは~」と言ってきたのですが「そんな嘘ついたら原作と沖縄に申し訳ないでしょう! これは喜屋武さんのもう一つの顔です!」と返して現状。

 で、また短くてすみません。最終話の納品が終わり次第、もう少し落ち着いて制作話書きます(汗)。また来週で……。

第298回 シカが世界を作る 〜しかのこのこのここしたんたん〜

 腹巻猫です。サウンドトラック・アルバムがCDで発売されることが少なくなり、配信のみでリリースされることが増えてきました。そこで困るのが「知らないうちにリリースされていた」という場合がよくあること。特にTVアニメのサントラが放映終了後、しばらくしてからリリースされると、ネットニュースにも取り上げられず、気がつかないことがあるのです。
 今回取り上げる作品もそのひとつ。TVアニメ『しかのこのこのここしたんたん』です。「サントラ出ないのかな」と思っていたら、放送終了後1ヵ月以上経ってからリリース。しばらくしてから気づきました。「出るなら早く教えてよー!」。いや、うれしいけど。


 『しかのこのこのここしたんたん』は2024年7月から9月まで放映されたTVアニメ。おしおしおによる同名マンガを原作に、監督・太田雅彦、アニメーション制作・WIT STUDIOのスタッフで映像化された。
 元ヤンであることを隠して生徒会長を務める女子高生・虎視虎子(こしたん)は、ある日、電線に引っかかっている少女に遭遇し、助けてやる。虎子が助けた少女は頭にシカの角が生えた鹿乃子のこ(のこたん)だった。虎子の高校に転校してきたのこは、シカ部を創設。虎子を部長に、自身はシカ部所属のシカとして活動を始める。シカ部には虎子の妹・餡子、のこにあこがれる新入生・馬車芽めめなど、個性の強いメンバーが集まり、虎子の人生をかき乱していく。
 インパクト抜群のギャグアニメである。原作を未読だった筆者は、タイトルに惹かれて第1話を観てドハマリしてしまった。シュールでアバンギャルドでカオス。1秒先も予測できない展開と爆発力のあるギャグにただ笑うしかない。しかし、こういう作品大好きなのだ。
 本作は放映開始前からネットで話題となり、オープニング主題歌のイントロ耐久動画が公開1ヵ月で500万再生を超えるなど、人気が上昇していった。12月に発表された「TikTokトレンド大賞2024」では「しかのこのこのここしたんたん」がホットワード部門を受賞。2024年を騒がせた作品のひとつなのである。

 音楽を担当したのは、アニメ『みなみけ』『ヒナまつり』『ビックリメン』などの音楽を手がける三澤康広。本作の監督・太田雅彦とは、『みなみけ』をはじめ、多くの作品でコンビを組んでいる。ちなみに筆者は『ヒナまつり』のサウンドトラックの仕事で三澤康広にインタビューする機会があった。ご本人は、ジョン・ウィリアムズやジェイムズ・ホーナーといった正統派の映画音楽作曲家が好きという映画音楽ファン。そういう作家がテンポの速いギャグアニメの音楽を手がけるところに妙味がある。「セリフのじゃまをしない」といった映像音楽の作法を守りつつ、遊び心のある、映像を生かす音楽を提供している。
 ギャグアニメの音楽は、大きく分けるとふたつのアプローチが考えられる。ギャグをやっていても音楽はふつうというパターンと、音楽もはちゃめちゃというパターンである。実際にはどちらかに特化することはあまりなく、両者がバランスよくブレンドされていることが多い。本作の場合も、日常を描写するのんびりした曲もあれば、ギャグを強調するはじけた曲やパロディ的な曲もある。しかし、それだけにとどまらないのが本作の工夫である。
 たとえば第1話の冒頭シーン。虎子が初めて登場する場面には少女アニメっぽい華やかな曲(「ここは乙女の園(共学)」)が流れるが、その虎子を見つめるシカが現れるや、男声コーラスが「シカ!シカシカシカ!」と歌う変な曲(「シカ!シカシカシカ!シカ!!!」)が流れて、一気に世界をシュールな空気で満たしてしまう。
 この「シカ」の2文字を歌うコーラス入りの曲が、本作の音楽の最大の特徴と言ってよいだろう。男声または女声コーラスによって、ときには「シーカー」と長く、ときには「シカシカシカ」とくり返して、「シカ」のフレーズが歌われる。日常曲でもなく、ギャグを強調する曲でもなく、作品世界を俯瞰する「天の声」のような、不思議な音楽である。
 本作には劇伴におけるメインテーマ——作品を象徴する曲はないが、代わりに「シカ」のコーラス曲がその役割を果たしている。「ターミネーター」で「ダダンダンダダン」というリズムが作品とターミネーターのキャラクターを象徴するモチーフになっているように、本作ではさまざまに変形されて登場する「シカ」のフレーズが、作品を象徴するモチーフとして機能しているのだ。
 「シカのアニメだから劇伴にも“シカ”のコーラスを入れよう」という発想も面白いが、それを具体化してしまうところが、もっと面白い。
 なお、三澤康広のXのポスト(投稿)によれば、女声コーラスは多くのサウンドトラック作品に参加している歌手のKOCHOが担当、男声コーラスは三澤自身が参加している。三澤は劇伴のすべての楽器の演奏も担当したそうで、それが音楽の絶妙な味わいを生み出していると想像できる。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、2024年11月7日に「TVアニメ『しかのこのこのここしたんたん』オリジナルサウンドトラック」のタイトルで配信開始された。レーベルは本作のプロデュース・製作を担当したツインエンジン。CDでの発売はない。
 収録曲は以下のとおり。

  1. ここは乙女の園(共学)
  2. シカ!シカシカシカ!シカ!!!
  3. シーーーカーーー♪
  4. 噂のパーフェクトGIRL
  5. 元ヤンであること
  6. 今日、この日までは…
  7. Girl Meets SHI-KA
  8. ヌ〜ン…
  9. のつ!鹿乃子のこです!
  10. シカッ♪シカッ♪
  11. 暗ガール
  12. 第1回日野南高校チキチキ虎視虎子王決定戦!
  13. やだ…こしたんてば【ハート】
  14. ん?は?
  15. 特別にツノをあげよう
  16. ツノが生えてる女の子なんて
  17. ぎゃああああああああああっ!
  18. シカー♪シカー♪シカー♪(陽)
  19. だって、こしたんと一緒だし!
  20. シカ部っていったいなんです!?
  21. よろしくぬん!
  22. シカ!シカシカシカ!シカ???
  23. ここは戦場だぞ!!
  24. かかって来いやぁっ!!
  25. あれは罠だ!!
  26. おねぇちゃぁん【ハート】
  27. なんでそうなる〜〜〜???
  28. 主よ御許に鹿づかん
  29. 私たち、良い友達になれそうじゃない?
  30. こうなったら武力行使だ!
  31. なんなのーッ!
  32. 家族になろうよ、日野で(歌:鹿乃子のこ[CV:潘めぐみ])
  33. 古き言い伝えはまことであった…(Cervus)
  34. シカー♪シカー♪シカー♪(陰)
  35. つちのこのこのこのこたんたん
  36. シカコレ
  37. 鹿乃子が見せた幻影だというのか……!?
  38. 喫茶ツバメ
  39. 日野になぜシカ!?
  40. 鹿神神社
  41. はんにゃ〜ほんにゃらふんにゃ〜シカシカ
  42. ソイヤ
  43. のーこたん♪こーっちこい♪
  44. なんだこの空気は!?
  45. 花が…生きている…!
  46. 伝説のマタギ
  47. TOSOKAISHI
  48. それが…シカの穴!!
  49. まさか日野市で会えるなんて
  50. 頂上対決
  51. 野生のシカ(歌:虎視虎子[CV:藤田咲])

 全51曲。総演奏時間は約70分。10秒前後の短い曲もたくさん収録されているのがうれしいところ。劇中で印象的な楽曲はほぼ網羅されている。
 曲順はおおむねストーリーの流れに沿っている。
 トラック1〜10までは第1話で使用された曲。制服姿の虎子が登場するシーンに流れる「ここは乙女の園(共学)」(トラック1)、虎子を見つめるシカを不穏に描写する「シカ!シカシカシカ!シカ!!!」(トラック2)、サブタイトル曲「シーーーカーーー♪」(トラック3)の3曲がいわば導入部。「シカ」のコーラス曲がさっそく2曲出てくるのが強烈だ。
 続いて愛らしい曲調の「噂のパーフェクトGIRL」(トラック4)と歪んだエレキギターによる「元ヤンであること」(トラック5)の2曲で、元ヤン虎子の2つの顔を描写。「元ヤンであること」は一発ギャグのような短い曲だが、虎子が感情をあらわにする場面などで効果的に使われている。
 ミステリアスな「今日、この日までは…」(トラック6)、トラブル発生! という雰囲気の「Girl Meets SHI-KA」(トラック7)、とぼけた「ヌ〜ン…」(トラック8)の3曲は、第1話の虎子とのこたんの出会いのシーンに流れた。変拍子を使った「Girl Meets SHI-KA」は『スパイ大作戦』みたいな緊張感のある軽快な曲。「ヌ〜ン…」は日常描写によく使われた曲で、木管とパーカッションのアンサンブルが微妙な空気感を表現している。トラック15「特別にツノをあげよう」、トラック21「よろしくぬん!」なども「ヌ〜ン…」と同じ系統の曲だ。こういう曲をバックにのこたんの奇妙な日常が描かれ、虎子が突っ込むのがおなじみのパターンだった。
 男声コーラスが「シーカ」とくり返す「のつ!鹿乃子のこです!」(トラック9)は、のこたんが転校生として教室に入ってくる場面で使用。のこたんのテーマというわけでもなく、「シカあらわる!」といった緊張感のあるシーンによく選曲されていた。「シカッ♪シカッ♪」(トラック10)は女声コーラスによるアイキャッチ曲。
 ここまでが主人公2人が出会い、物語が動き出す序盤パート。「シカ」のコーラス曲やとぼけた日常曲、パロディ風の曲など、本作の音楽の特徴(面白さ)がすでによく表れているし、本編のテンポ感も再現されている。
 トラック11〜21は第2話と第3話で使用された曲を中心にした構成。
 姉が好きなあまり闇落ちしてしまう虎子の妹・餡子のテーマ「暗ガール」(トラック11)、メロドラマ風の「やだ…こしたんてば【ハート】」(トラック13)、シリアスな曲調の悲しみの曲「ツノが生えてる女の子なんて」(トラック16)などが面白い。
 「シカー♪シカー♪シカー♪(陽)」(トラック18)は毎回のように使われた女声コーラスの曲。のこたんの突拍子もない行動やのこたんに振り回される虎子の場面などにアクセントを付けるように流れて、なんともいえない面白みをかもしだしている。サブタイトル曲やアイキャッチ曲と並んで印象深く、「『しかのこ』の劇伴といえばこの1曲」みたいな代表曲のひとつである。
 軽快な「シカ部っていったいなんです!?」(トラック20)と脱力系の「よろしくぬん!」(トラック21)も使用頻度の高い日常曲。ここまでで、餡子と馬車芽めめがシカ部に参加し、主要キャラクターがそろったイメージだ。
 トラック22〜31までは、シカ部をめぐるドタバタをイメージした選曲になっている。
 「ここは戦場だぞ!!」(トラック23)、「かかって来いやぁっ!!」(トラック24)、「あれは罠だ!!」(トラック25)の3曲はアクション映画風の緊迫感のある曲。第2話でのこたんが謎の敵に襲撃されるシーンや第5話のシカ部の特訓シーンなどに流れていた。トラック30の「こうなったら武力行使だ!」も同じ系統の曲で、こちらは第3話で虎子が水の入ったペットボトルを並べてシカを威嚇する場面に使用。曲だけだと面白さが伝わらないが、映像との相乗効果で破壊力を発揮する曲である。
 本作には特定のシーンを想定して書かれたと思われる曲もいくつかある。
 讃美歌風の「主よ御許に鹿づかん」(トラック28)はそのひとつで、第2話でシカの天使がのこたんを迎えに天から降りてくるイメージシーンに流れた。
 のこたんが歌う挿入歌「家族になろうよ、日野で」(トラック32)も第4話のみで使用された曲。突然画面がカラオケ映像風になってのこたんの歌が流れるシーンはなかなかシュールだった。
 トラック32以降は、こうした使用場面が限られた曲が多く収録されている。その曲調は多彩で、バラエティに富んでいるとも言えるし、カオス度が増しているとも言える。回を追うごとにギャグもパワーアップしていく本作らしい構成である。
 トラック33「古き言い伝えはまことであった…(Cervus)」は第5話のシカの大名行列の場面で老婆(犬養ミツ)がつぶやく言葉をタイトルにした曲。『風の谷のナウシカ』のパロディなのだが、曲は『ナウシカ』に雰囲気を寄せつつ、まったく違うものになっているのがすごい。「Cervus」はシカを意味するラテン語である。
 トラック34「シカー♪シカー♪シカー♪(陰)」とトラック35「つちのこのこのこのこたんたん」は謎の生物「つちのこ」が登場する第6話で使用。「つちのこのこのこのこたんたん」は「Girl Meets SHI-KA」(トラック7)と同系統の曲で、つちのこの摩訶不思議な生態を変拍子を使って表現している。
 トラック36「シカコレ」とトラック37「鹿乃子が見せた幻影だというのか……!?」は第7話のシカコレクションのエピソードで使用。次の「喫茶ツバメ」(トラック38)と「日野になぜシカ!?」(トラック39)は同じく第7話の後半の「喫茶ツバメ」のエピソードで使用された。テクノ風、ウィンナワルツ風、ジャズ風とさまざまな曲調が楽しめる。 第8話の新年の鹿神神社のシーンで流れた「鹿神神社」(トラック40)と「はんにゃ〜ほんにゃらふんにゃ〜シカシカ」(トラック41)、第9話の体育祭のエピソードで使われた「ソイヤ」(トラック42)と「のーこたん♪こーっちこい♪」(トラック43)、第10話の華道部のエピソードを彩る「なんだこの空気は!?」(トラック44)と「花が…生きている…!」(トラック45)。爆笑を誘うシュールな場面の曲が続く。
 いよいよ終盤は、最終2話で使用された曲である。
 トラック46「伝説のマタギ」とトラック47「TOSOKAISHI」は、伝説のマタギとのこたんとの死闘を描く第11話で使われた。和風マカロニウエスタン風の「伝説のマタギ」に、追う者と追われる者の対決を描写する「TOSOKAISHI」で緊迫感が盛り上がる。
 最終回(第12話)、秘密機関「シカの穴」が登場する場面で流れた「それが…シカの穴!!」(トラック48)も緊迫感のある曲。曲の後半に聴こえてくる「シカ、シカ」の男声コーラスが「シカの穴」の不気味さを強調する。いったい、このお話はどこへ向かっていくのか?
 クライマックスは、シカ系ゆるキャラとのこたんとの対決だ。トラック49「まさか日野市で会えるなんて」は、北海道のゆるキャラ、キュンちゃんがシカ部にやってくる場面で使われた。キュンちゃんのキャラに合わせた、ほのぼのした曲である。
 のこたん最後の活躍は、奈良県のマスコットキャラクター、せんとくんとの対決。トラック50「頂上対決」は、タイトルどおり、のこたんとせんとくんの対決場面に流れたマーチ風の曲。プロレス中継などでおなじみの「スポーツ行進曲」を思わせる曲調が楽しい。なお、せんとくん入場シーンに流れた曲は、せんとくんの公式テーマソング「せんとくんなら知っている」である。
 ラストに収録された「野生のシカ」(トラック51)は虎子が歌う挿入歌(イメージは「アイ・オブ・ザ・タイガー」か?)。第12話で虎子がのこたんを特訓するシーンに流れたほか、第12話のエンディングテーマとしても使用されている。本アルバムには主題歌は収録されていないが、最終回を締めくくった曲をラストに収録することで、アルバムがまとまった。

 以上、駆け足でサウンドトラック・アルバムを紹介したが、序盤、中盤、終盤と雰囲気を変えて作品イメージを再現した、巧みな構成だと思う。音楽自体もいい。印象的なエピソードやシーンに印象的な曲がつけられているのが、本作の強みであり魅力だ。多彩なアイデアを盛り込んだ音楽がシーンの面白さを何倍にもパワーアップし、同時に、音楽を聴くと名(迷)場面が思い浮かぶ。
 そして、耳に残るのはやはり、さまざまな形で歌われる「シカ」のコーラス曲である。本作の音楽イメージと世界観を決定づけているのは「シカ」のフレーズ。「シカ」が世界を作っているのだ。

TVアニメ『しかのこのこのここしたんたん』オリジナルサウンドトラック
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第888回 作画をプロデュースする?

前々回話題にした“作画プロデューサー”という役職は、自分が作った新しい仕事です!

 聞いてください。最近でもまだ俺宛てに大手アニメ会社から「作画監督の仕事をお願いしたいのですが~」との電話が掛かってくるんですよ! 「原画は海外も含めれば何とか撒ける! ただし、それを修正してくれる巧い作監さえいれば!」と。その他、知り合いの業界人からも「ミルパンセで作監お願いできる人いませんか?」とも。
 大手制作会社に限って何本も“良い仕事”を受けるだけ受けて独り占めする癖に、作監とかを俺なんかに振ってくるんです。業界全体の人手不足が囁かれるようになって久しい昨今、いまだに半分以上を外撒き(外注)して制作するのがアニメだとでも思っているのでしょうか?
 ハッキリ言います。

内製できない仕事を受けるのはもうやめません、大手制作会社さん?

 と言う訳で、作監に限らず作画スタッフの人材不足をどう解決するか? 今いる社員スタッフの能力(スキル)を適材適所に巧くパズルして、作画工程の交通整理をし、できるだけ全体の半分のカットは“テイク1”で一発OKにする。半分を効率よく作る代わりに、高難易度なカットはアドバイスと軽いラフを与えて描いた本人にテイク2・テイク3とテイクを重ねて完成に近づけて行く。早い話作監修正が入っていなくても“見れるカット”に仕上げればいい訳で、どんな手を使っても!
 スタッフ指導のために必要なラフやアタリを入れたり、カットによっては社内の別の人で作監を手配し、場合によっては自ら作監修正も入れる——それが総作画監督ではない、作画プロデューサーです。

 で、もっと詳しく説明しようと思っていたところで、時間! 仕事に戻らせていただきます(汗)!

【新文芸坐×アニメスタイル vol.186】
アニメーションの新しいかたち 『化け猫あんずちゃん』『きみの色』

 2月22日(土)に【新文芸坐×アニメスタイル】で『化け猫あんずちゃん』と『きみの色』を上映します。いずれも2024年に公開された劇場アニメーションであり、内容についても画作りについても意欲的な、新鮮な魅力に溢れた作品です。まだご覧になっていない方はこの機会にどうぞ。
 トークのゲストは『化け猫あんずちゃん』の久野遥子監督と『きみの色』の山田尚子監督。トークは2作品の上映後です。聞き手はアニメスタイル編集長の小黒祐一郎が務めます。興味深いお話を伺うことができるはず。

 チケットは2月15日(土)から発売。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトでご確認ください。

●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

新文芸坐オフィシャルサイト( 『化け猫あんずちゃん』『きみの色』情報ページ)
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#d2025-02-22-1

【新文芸坐×アニメスタイル vol.186】
アニメーションの新しいかたち 『化け猫あんずちゃん』『きみの色』

開催日

2025年2月22日(土)
13:00~14:40 『化け猫あんずちゃん』
15:00~16:40 『きみの色』
16:50~17:35 トーク

会場

新文芸坐

料金

3800円均一

上映タイトル

『化け猫あんずちゃん』(2024・日=仏/94分)
『きみの色』(2024/100分)

トーク出演

久野遥子(監督)、山田尚子(監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第235回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』11 片渕監督のハードディスクには何が入っているのかのぞいてみよう編《質問コーナーあり》

 片渕須直監督が制作中の次回作のタイトルは『つるばみ色のなぎ子たち』。平安時代を舞台にした作品のようです。
 『つるばみ色のなぎ子たち』の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に平安時代の生活などについての調査研究を進めています。その調査研究の結果を披露していただくのが、トークイベント「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」シリーズです(以前は「ここまで調べた片渕須直監督次回作」のタイトルで開催していました)。

 3月8日(土)昼に「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』11」を開催します。サブタイトルは「片渕監督のハードディスクには何が入っているのかのぞいてみよう編《質問コーナーあり》」。今までのイベントでも片渕監督のハードディスクにある様々な資料、Excelのデータ等を見せていただきました。今回はそのハードディスクがテーマです。果たしてどんなトークが展開されるのでしょうか。

 今回のイベントでは「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」で初めて、質問コーナーを設けます。会場にいらしたお客さんに紙を配り、聞きたいことのある方に質問を書いてもらいます。質問はイベント中に片渕監督に答えていただく予定です。質問に答えるコーナーの半分くらいが、配信のない「アフタートーク」になる予定。時間の関係などで全ての質問に答えられない場合があるかもしれません。あらかじめお断りしておきます。

 出演は片渕監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回のイベントも「メインパート」の後に、短めの「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた~」イベントもアニメスタイルチャンネルで視聴できます。

 チケットは2025年2月8日(土)正午12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
告知(LOFT)  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/308189
会場(LivePocket)  https://t.livepocket.jp/e/z7003
配信(ツイキャス)  https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/357967

 なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr

第235回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』11 片渕監督のハードディスクには何が入っているのかのぞいてみよう編《質問コーナーあり》

開催日

2025年3月8日(土)昼
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,800円、当日 2000円(税込·飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,500円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第236回アニメスタイルイベント
北久保弘之の仕事2

 監督やアニメーターとして活躍し、様々な作品を手がけてきた北久保弘之さん。1月26日(日)にその北久保さんのトークイベントを開催しました。
 続けて第2弾「北久保弘之の仕事2」を開催します。日時は4月13日(日)。会場は前回と同じ、阿佐ヶ谷ロフトAです。

 第2弾「北久保弘之の仕事2」では北久保さんのアニメーター時代の活躍、初監督作品である『くりいむレモン』シリーズの『POP CHASER』、さらにオムニバス作品『ロボットカーニバル』を中心にお話を伺います。今回もトークの聞き手は小黒編集長と沓名健一さんが務めます。

 前回のイベントで、トーク中に関係者席の方からコメントをいただきました。今回も同様のかたちで進めます。「北久保弘之の仕事2」では関係者席に座っていただく方として、井上俊之さんと毛利和昭さんを予定しています。
※関係者席に座っていただく方として、合田浩章さんにもご来場いただけることになりました。(2025年4月2日追記)

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。

 チケットは2025年2月8日(土)正午12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
告知(LOFT)  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/308191
会場(LivePocket)  https://t.livepocket.jp/e/9tsma
配信(ツイキャス)  https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/357976

第236回アニメスタイルイベント
北久保弘之の仕事2

開催日

2025年4月13日(日)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

北久保弘之、小黒祐一郎、沓名健一

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 2,300円、当日 2,500円(税込·飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,800円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第887回 誕生日のお茶濁し

 こないだ1月28日、毎年恒例の誕生日を迎えて無事51歳になりました。自分みたいな人間でも51歳になれるものなのですね……。
 子供の頃などは失礼な話、50代の伯父さんを指して“人生の終盤戦を迎えた人”とか思っていたものです。スミマセン……。が、いざ自分がその年代に突入してみると、意外や意外、20代の頃とは全然違った面白味や人付き合いもあり、十分楽しいです、50代!
 仕事も減るどころか増える一方。『沖ツラ』の後も、様々な仕事が目白押し! 発表できるタイミングでまたここで報告させていただきます。

 で、本日も忙しくて、仕事に戻らせて頂きます(汗)。次回は落ち着いて書きます!

第297回 それでも日常は続く 〜デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション〜

 腹巻猫です。話題の劇場先行上映『機動戦士Gundam ジークアクス Beginning』を観てきました。「こうくるか!」という驚きに満ちた快作です。観終わって思ったのは、劇中で使用された楽曲をそのまま収録したサウンドトラック・アルバムを出してほしいな、ということ。ガンダム音楽の過去と現在が出会う面白いサントラになると思うのです。


 今回は昨年(2024年)12月末に発売された『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』のサウンドトラックを紹介したい。

 『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』は、浅野いにおの同名マンガを原作にしたアニメ作品。アニメーションディレクター・黒川智之、脚本・吉田玲子、アニメーション制作・Production +h.のスタッフで映像化された。
 アニメ版は大きく分けると劇場版とシリーズ版の2種類がある。劇場版は2部構成で、2024年3月に「前章」が、同5月に「後章」が公開された。シリーズ版は全18話で構成され、2024年12月から各種配信サイトより配信されている。
 黒川アニメーションディレクターの話によれば、最初から劇場版とシリーズ版の2種類を作ることが決まっていて、シリーズ版18本を作ってから劇場版を作ったのだそうだ。劇場版はシリーズ版全体の約3分の2の長さ。劇場版に含まれないエピソードがシリーズ版に含まれているほか、一部のエピソードの順序や物語のラストも異なっている。が、基本的には同じ物語である。
 上空に直径5千メートルの巨大な宇宙船(母艦)が浮かんでいる東京。3年前に突如飛来した母艦は、米軍の攻撃により動きを止めたが、それ以来、渋谷上空を回遊し続けている。どこから、何のために来たのかも謎のままだ。
 変貌してしまった東京で、高校生の小山門出と中川凰蘭は、それまでと変わらない日常を続けていた。ある日、母艦から発進した中型宇宙船が自衛隊によって撃墜され、門出たちの友人の少女が巻きこまれて死亡する。2人の変わらないはずの日常が、少しずつ変わり始めていた。
 「頭上に巨大宇宙船が浮かぶ日常」という設定が魅力的。学園青春もの風に始まるけれど、物語はどんどん思わぬ方向に転がりだし、最後は大スペクタクルで終わる。しかし、中心となるのは門出と凰蘭の友情の物語。SF的な仕掛けが多いほか、現実の事件と重なるような描写もあり、多彩な読み取り方ができる作品である。

 音楽的なトピックとしては、主題歌をシンガーソングライターの幾田りらとあのの2人が歌い、主役2人の声も担当したことが大きな話題になった。
 劇中音楽(劇伴)は、アニメ『スペース☆ダンディ』『ユーリ!!! on ICE』『キャロル&チューズデイ』などに楽曲を提供している作曲家・梅林太郎と、yuma yamaguchi、犬養奏、清竹真奈美が共同で担当している。
 ただ、筆者の印象だが、本作は主題歌に比べて劇中音楽が語られる機会があまりに少ないように思える。劇場版パンフレットにもサントラCDのブックレットにも作曲家のコメントは掲載されていない。どのようなコンセプトで劇伴は制作されたのか? ここからは、本編の音楽演出とサントラに収録された楽曲から読み解いてみたい。
 筆者が聴いた限りでは、劇中音楽は映像に合わせたフィルムスコアリング的な楽曲とTVアニメ的な溜め録りの楽曲の組合せで作られているようである。シリーズ版が先行して制作されたそうだから、溜め録り方式を基本に、重要なシーンではフィルムスコアリングを採用したのだろう。
 サウンド的にはどうか? こうした作品であれば、オーケストラサウンドを基調とした、マーベル作品のようなスケールの大きな音楽がついてもおかしくない。が、実際にはシンセサイザーと生のストリングス(弦楽器)、ピアノ、ギター、ドラムスを組み合わせたサウンドで作られている。曲調は抑え気味で、アンビエントやミニマルとまではいかないまでも、淡々とした、メロディアスでないタイプの曲がほとんどだ。あえて、観客の感情を動かすことを避けたみたいに。
 この音楽のねらいはなんだろうか。ヒントは劇場版パンフレットに掲載された黒川アニメーションディレクターのコメントにある。
 それによれば、原作者の浅野いにおからは「作品のドライかつクールな目線を大切に、アニメで過度にドラマティックに、ウェットにはしたくない」という要望があったという。それを受けて、アニメもリアル感のある映像を作ることを意識した。別の言い方をすれば、いかにもSFアニメっぽい、ケレン味のある派手な演出は避けたということだろう。
 また同じく劇場版のパンフレットに掲載された、脚本の吉田玲子のコメントには、浅野いにおがアニメ『けいおん!』から触発されて原作を描いたという話が語られている。吉田はこう続ける。「なるほど、これは世紀末の『けいおん!』なんだな、と」。
 「頭上に巨大宇宙船が浮かぶ日常」を『けいおん!』のようにさりげなく、今を生きる少女たちの日常のように描く。これが本作のねらいなのだと思う。
 だから音楽も、ことさらにSFアニメ風にするのではなく、日常アニメで流れているような曲調をねらったのではないか。本作の劇伴は、日常シーンに流れる曲とSF的なサスペンスシーンに流れる曲とのあいだに、サウンド的な違いがほとんどない。どちらも、シンセサウンドを基調に、シンプルなフレーズのくり返しで構成された曲がほとんどだ。非日常と日常がシームレスにつながっている。それが『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』の音楽が描く世界である。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2024年12月25日に「『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで日本コロムビアからリリースされた。収録曲は以下のとおり。

  1. Chime
  2. Clock
  3. Chat
  4. Not here
  5. Crimson
  6. Almost late
  7. Japanese pancake
  8. On edge
  9. We
  10. Barricade
  11. Butterfly
  12. My Friends
  13. Flashback
  14. Discord
  15. gloom
  16. If
  17. Unanswered
  18. In Half a Year
  19. hello
  20. Mothership
  21. Genocide
  22. Operation
  23. Backyard
  24. Decision
  25. SHINSEKAIより(歌:ano×幾田りら)

 全25曲。最後に収録された「SHINSEKAIより」はシリーズ版の主題歌。劇場版主題歌は収録されていない。しかし、劇場版とシリーズ版では、ほとんどのシーンで選曲も共通しているから、これは劇場版とシリーズ版共通のサントラと考えてよいだろう。
 それにしても、収録曲25曲(うち劇伴は24曲)というのは少ないのではないだろうか。
 劇中に流れた曲を調べてみると、サントラに収録されていない曲も多い。おそらく全部で40〜50曲くらいの楽曲が用意されたはずである。
 話題の作品なのだから、サントラ盤は2枚組にして、なるべく多くの楽曲を入れたほうがよいのではないか。それでも売れるはずだ。どうしてこういう構成になったのか? もやもやするが、このことについては、あとでもう一度考えてみたい。

 以下、劇場版をベースに収録曲を紹介していこう。
 まず全体の構成であるが、トラック1〜18が劇場版の「前章」、トラック19〜24が「後章」に沿って選曲されているようだ。「前章」のボリュームが大きいのが特徴である。
 1曲目「Chime」は、学校の屋上で語らう門出と凰蘭の頭上に巨大な母艦が見える場面に流れる曲。この曲の終わりとともにメインタイトルが出る。本作の世界観を象徴する印象的なビジュアルのシーンである。チャイムのようなキラキラした音色と母艦の威容を表現する低音のサウンドが合体している。日常と非日常の融合を感じさせる音楽だ。
 トラック2「Clock」は、使用順は前後するが、劇場版が始まってまもなく描かれる、門出が授業を受けるシーンに流れた曲。ミニマル的な同じ音型のくり返しによる日常曲である。日常曲ではあるが、聴き続けていると、なんとなく不穏な気分になってくる。
 トラック3「Chat」は80年代っぽいシンセの音色とリズムを組み合わせた楽曲。タイトル通り、門出と凰蘭と友人たちとのたわいない語らいの場面に使用されている。トラック4「Not here」もシンセの音色とリズムによる日常曲。門出が学校の廊下で担任の渡良瀬に進路の相談をする場面に使用された。チップチューン的なサウンドの中から、門出のぎこちない心情が伝わってくる。
 トラック5「Crimson」はひと言で表現できない複雑な心情を描写する曲。シンプルなフレーズをくり返すピアノにストリングスのうねりが重なり、切実な想いを表現する。門出が車の中で母親と口論になるシーン、門出が凰蘭に「あなたは私の絶対なの」と告げるシーンなどで流れている。ウェットになりすぎない曲調で思春期の少女の気持ちを表現する、本作らしい1曲である。
 次のトラック6の「Almost late」は、学校に遅刻しそうになった門出が走って登校する場面に流れたハイテンションな曲。この曲はフィルムスコアリングで作曲されたようだ。
 トラック7「Japanese pancake」は門出たちがお好み焼き屋に集まる場面に流れていた80年代テクノポップ風の曲。
 アルバムのここまでが、いわば門出と凰蘭の日常を描写するパート。
 次のトラック8「On edge」から物語が動き出す。「On edge」はリズム主体のサスペンス系の曲だが、本編では使われていないようである。
 トラック9「We」は静かなピアノソロから始まる。シンセとストリングスが加わり、切ない心情があふれだす。「前章」「後章」を通して、門出と凰蘭、門出と渡良瀬の場面に選曲されていた。特に「後章」での門出と渡良瀬の別れのシーン、門出が凰蘭に「おんたんは絶対ですから」と言うシーンが印象深い。
 自衛隊が中型宇宙船を迎撃する場面に流れたトラック11「Barricade」を経て、ふたたびピアノ主体の曲が門出たちの心情を描写する。
 トラック11「Butterfly」は門出が友人のキホの死を知る場面に使用。淡々とした曲調ながら(いや、だからこそ)、胸がしめつけられる曲だ。劇中では途中から入るストリングスをカットして使用されている。
 それに続いて、キホの死を知らないかのようにふるまっていた凰蘭の悲しみを門出たちが知る場面に流れたのがトラック12「My Friends」。やさしい曲調が友人同士の楽しい思い出をよみがえらせ、かえって悲しみを増幅させる。一瞬の静寂をはさんでピアノのフレーズが変化する部分は場面展開にぴったり合っている。この曲もフィルムスコアリングで作られたのだろう。
 トラック13「Flashback」から、また物語が転換する。
 「Flashback」はタイトルどおり、過去に遡る場面に使用された曲。少年・大場圭太の姿を借りた宇宙人(めんどうなので以下「圭太」と表記)が、凰蘭の過去(正確には並行世界の凰蘭の過去)を見る場面に流れている。本作のカギとなる重要な場面の音楽だ。浮遊感のある幻想的なサウンドに効果音的なシンセのフレーズが挿入され、並行世界への旅に緊張感を与える。「後章」で圭太がマコトに凰蘭の過去を見せる場面にも使われた。
 次のトラック14「Discord」は過去の門出と凰蘭が海岸でヘルメット姿の宇宙人を助けるシーンに使用。シンセのリズムにキラキラした音色のメロディが重なる。哀しみと不安と焦燥感が入り混じったような、不安定な心情を描写する曲である。
 トラック15「gloom」は、ジュリア・ショートリードのボーカルをフィーチャーしたミステリアスで美しい楽曲。(たぶん)本編未使用曲である。この曲が流れるシーンを観てみたかった。
 それに続くのは、並行世界で門出が凰蘭を初めて「おんたん」と呼び、2人が親友になる場面のトラック16「If」、並行世界での門出と凰蘭の辛い別れのシーンを彩ったトラック17「Unanswered」。どちらも、門出と凰蘭の大切な場面に流れた曲だ。2曲ともアンビエント風の落ち着いた美しい曲調で作られているのが本作らしい。
 そして、トラック18「In Half a Year」は「前章」のラスト、自衛隊の攻撃によって破壊された中型宇宙船から、無数の宇宙人が空中に投げ出される場面に流れた曲。緊迫感のある前半から、崩れていく日常を惜しむかのようなゆったりしたストリングスの旋律に展開し、終盤はストリングスの刻みで危機感を盛り上げる。「人類終了まであと半年」の文字がドン!と出て「前章」は終わる。シリーズ版では、ここまでが第8話にあたる。
 トラック19「hello」からは「後章」で使われた曲。「hello」は凰蘭が大学のオカルト研の先輩の部屋で圭太と出会う場面に流れている。「前章」で流れた「Clock」「Chat」などと同じ系統の日常曲だ。
 いよいよアルバムも終盤。トラック20以降は人類と宇宙人とのあいだの葛藤、闘争を描く曲が続く。
 トラック20「Mothership」は「後章」の序盤、過激派グループに所属する小比類巻健一とその仲間が宇宙人を殺戮する場面に使用。アップテンポのリズムと不安なサウンドでサスペンスを盛り上げる正統的映画音楽風の曲だ。「後章」の終盤で、圭太が母艦内に入ろうとする場面にもこの曲が使用されている。
 トラック21「Genocide」は居酒屋に居合わせた門出とサラリーマンらが宇宙人との共存をめぐって論争する場面に流れた。低音のピアノの響きがわかりあえないやりきれなさを表現する。
 トラック22「Operation」は、大学構内に逃げ込んだ宇宙人を自衛隊員が掃討し、学生たちがショックを受ける場面に使用。スペーシーな導入から、リズム主体のドライな曲調に展開する。後半は効果音的な不気味なサウンドで不安感、威圧感を強調する。情感を抑え、冷酷で不条理な現実を表現した曲である。
 アルバムの終盤を締めくくる2曲は、凰蘭の心情に寄り添った音楽だ。
 トラック23「Backyard」は、オカルト研の合宿に参加した凰蘭と圭太が手をつないで海岸を歩き、語らうシーンに使用。凰蘭が圭太にキスする場面まで流れ続ける。ピアノのシンプルな旋律からストリングスが加わり、情感豊かに盛り上がる。アルバムに収録された音楽の中でも格別エモーショナルな、本作の音楽の中では異色とも呼べる曲調の楽曲である。しかし、凰蘭が珍しく素直な心情を見せるこのシーンには、本作の基調であるドライな音楽ではなく、ある程度ウェットな音楽が必要だったのだろう。この曲は、並行世界の凰蘭が門出を守るために過去に戻る場面にも使用された。
 トラック24「Decision」は、シンセが奏でる、ふわっとしたサウンドの曲。上記のシーンとは逆に、圭太が凰蘭に突然キスするシーンに使用されている。
 劇場版はこのあと母艦の爆発をくいとめようとする圭太を中心にしたスペクタクルになっていくが、その場面で流れたボレロ風の曲などは収録されていない。挿入歌「あした地球が粉々になっても」が流れたあと、空をただよう圭太を自衛隊のヘリが助けようとする場面に、アルバムの1曲目「Chime」がふたたび流れる。始まりと終わりを同じ曲が飾ることで、門出と凰蘭たちの非日常的な日常がこれからも続くことが予感される。考えさせられる音楽演出だ。そのあとの、門出と凰蘭の前に圭太が現れて「ただいま」と言う場面には、トラック16「If」の終盤の部分が使用された。

 本アルバムの構成を改めてふりかえると、SF的なドラマよりも門出と凰蘭の日常と友情のドラマに焦点を絞って選曲されていることがわかる。個人的には、ほかにも収録してほしかった曲があるが、そうすると全体の雰囲気というか、アルバムのコンセプトが崩れてしまうのだろう。このアルバムはサウンドトラックであると同時に、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』の世界を門出と凰蘭の主観から再構成したイメージアルバムのようなものになっている。先に「あとでもう一度考えてみたい」と書いた話に戻ると、「頭上に巨大宇宙船が浮かぶ日常」を音楽で表現したのが、この選曲と構成なのだろう。そういうコンセプトのアルバムなのだと筆者は解釈した。
 とはいえ、サントラファンとしては「もっと多くの曲を収録してほしかったなあ」というのが偽らざる心境だ。
 たとえば、「前章」で門出と凰蘭が夜道を歩く場面などに流れていたピアノのリリカルな曲や、門出と凰蘭がタケコプターのような宇宙人の道具で空を飛ぶ場面の軽快な曲(シリーズ版では第5話のエンディングに使用された)など、音楽単独で聴きたい曲がまだまだある。この連載では何度も同じことを書いているが、本作も、いつの日か未収録曲を補完した完全版(もしくは拡大版)サントラをリリースしてほしい。それだけの価値はある作品だと思うのである。

『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』オリジナル・サウンドトラック
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第886回 『沖ツラ』制作話~作画プロデューサーとは?

 前回の続き『沖ツラ』OP話。

c-005、006、007は森亮太君の原画で、作監を板垣。森君は我社随一の動かし系アニメーターで、今回も良い仕事をしてくれました。実はこの踊りバックの沖縄コラージュは指定が大変で、作画以外のスタッフからするといわゆる“ズルい1カット”というヤツ。各カットそれぞれBGは4枚ずつで、撮影指定も同じく4枚ずつ。ちなみに撮影指定&タイムシートはc-005のほうを俺が書き上げて、それを森君に「こんな感じで006、007はお願い~」とお任せ。仕上げ素材も結構な数。皆さんのお陰で密度の高いものになりました!
c-008 これは板垣担当、と言いうほどのことではなく、レイアウトと撮影指定・タイムシートを提出して終わり。ちなみにサブタイトルは全部原作者の空(えぐみ)先生が出してくださり、俺の方から“第○話~”ではなく、これも“沖縄の数え”でくださいと提案させていただき現在の形になりました。
c-009、010 新人の堤直哉君に原画を振り、作監を篠衿花さん。実はここの歩きはダンスの振り付けの一部。ダンスムービーをご披露できる機会がありましたら確認してみてください。c-010の方は堤君上り、一度ボツにさせて貰いました、元気がなかったから。で、自分の方でザーっとラフを描いてそれに合わせてもう一度原画を描き直し、篠作監へ。
c-011 篠さんの直原画(作監不要)。鉄さんのポーズもダンス振り付けより。
c-012、013 こちらは本作のキャラクターデザインを担当した吉田智裕君の原画。で、「もう一息“元気”に」と篠作監入れてフィニッシュ。実はここも振り付けの一部。以外にこのOP、そこそこダンスで埋まっているのです。
c-014 また山本(直幸)君の原画に、板垣作監。修正大変で、本人に色々注意しました。多くは語りません。

 てとこで、「何?」と思われたアニメ業界人の方、いらっしゃるのではないでしょうか? 作監はカット毎バラバラで、キャラデ担当が描いた原画を作監がさらに修正したり、実務上もクレジット上も総作画監督はなし。これが、今回の板垣——もう一つの役職“作画プロデューサー”です。つまり、全作画工程を、言わば交通整理する役割。

 ……時間です(汗)。詳しい事はまた次回。

第885回 『沖ツラ』制作話~始めてみます!

前回も言いましたが『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』放映中!!

 どこから語り始めていいか、考えている時間がないため、オープニングから!
 OPのダンスはアニメ化に際して、原作者・空えぐみ先生のリクエストだったと記憶しています。「OPは是非躍らせて欲しい」と。そしてさらに「“沖縄”を詰め込んだモノにして欲しい」とも。
 で、できたのが今作のOPです。コンテ・演出・作画監督と全カット分のレイアウトは自分でやりました。本編と同時進行からくる現場リソース的に、空いた時間に俺の方でコツコツと背景原図、それと同時にキャラのポーズ・動きのラフを積み上げていって、手の空いたスタッフを見つけては「このレイアウトでー」と原画を発注。で作監は部分的に、篠(衿花)さんに手伝ってもらって完成しました。キャラクターたちが皆可愛いので、描いてて何の苦もなく楽しいばかりの仕事で、概ね予定どおりの仕上がりになってると思います。
 主題歌はHYさんの「大大大好き」で、サビがとても耳に残る良い曲だと思いました。
 で、ファーストカットc-001は俺の一発原画。シーサーのキャラ、ゆるくって好きです。c-002,003,004もこちらでラフを入れて、山本(直幸)君に原画を振りました。

 で、すみません(汗)、仕事に戻ります故、続きは次回。