紅蓮篇 第1部 最初は総集編1本にしようと思っていた
ファンの熱い要望に応え、スクリーンに蘇った『天元突破グレンラガン』。その第1部となる『劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇』が、9月6日から全国の劇場で公開されている。TVシリーズと同様、大きな反響を呼んだ劇場版の制作過程について、現在続けざまに第2部『螺巌篇』の準備に取りかかっている今石洋之監督と、大塚雅彦副監督にお話をうかがってきた。
取材日/2008年10月7日 | 取材場所/東京・東小金井 GAINAX | 取材/小黒祐一郎、岡本敦史 | 構成/岡本敦史
初出掲載/2008年11月04日
── いやあ、久しぶりですね。
今石 そうですねえ。なんか、WEBでは延々と前回のインタビューの再掲載が続いてましたけど。
── あれが終わると同時に、この『紅蓮篇』のインタビューが始まる予定だったんですけど、無理でした。スミマセン。
今石 ハハハハ。でも、14話か15話ぐらい再掲載して終わるのかと思ったら、「あ、最後まで行くんだ」と思って(笑)。
── ああ、そういう配慮はなかったですね。まあ、次回は次回で、また第1話からやり直しますから。
今石 (笑)
── それでは早速、始めます。まず、劇場版の企画はいつ頃に立ち上がったんですか?
今石 オンエアの最後の方には、もうチラホラとそういう話はあったんです。その時は、まだ考えたくなかったので保留にしてたんですけど(笑)。で、TVシリーズが終わって3ヶ月ぐらいして、いい加減やるような感じになってきた。
── 総集編で、というのは最初から決まってたんですか。
今石 まあ、いろいろと案はあったんですけど、最初に山賀(博之)さんが言ってたのは、「まずは総集編を作ろう」という話でしたね。
── 最初から2部作で?
今石 いや、最初は1本だったと思います。
── それは凄い(笑)。映画1本分に凝縮された『グレンラガン』も観たかった気がしますね。
今石 僕も最初は1本でやる方がいいと思ってたんです。「何本もやりたくないな」とか思ってて。だけど、いざ具体的に内容を考え始めてみると、「まあ無理だね」って事で(笑)。
── 冒頭10分ぐらいでカミナが死んじゃうようなペースですよね。それはそれでコンセプトの分かりやすい作品にはなりましたよね。
今石 ええ。多分、できない事はないんだろうけど、その代わり、目まぐるしいだけで何も感じない映画になるだろうと(笑)。なんの葛藤もなくポンポン話が進んでいくだけの作品になってしまうので、それはちょっとつらい。こんな事があって、あんな事があって、ひたすら起こっていく出来事を見続けていく面白さはあるけど、でも結局『グレンラガン』のお客さんが観たいのはそこじゃないよな、という現実的な問題があった。という事で「2本やらせてくれ」と。それで正式に総集編2本になったんです。
大塚 最初は「仁義なき戦い」みたいな、実録ものっぽい感じになるのかな、と思ってた。
今石 そうそう。(ドスを利かせた声で)「○月×日、キタン死亡」「○○殺傷事件」とかいうテロップが出るぐらいの気分でいいんじゃないかと(笑)。
── 『紅蓮篇』は、どこからどこまでの話にしようというのは、どの段階で決まったんですか。
今石 みんなで話し合っている中で、決まっていきました。
── 普通に考えると、螺旋王を倒すところまでが前編になるのかな、と思うんですが。
今石 そうですね。でも、それだとやっぱり、キリがよすぎるんですよね。それと最初は(劇場版独自の)いろんな構成を考えてたんだけど、なるべく新作部分が増えすぎないように、総集編パートをちゃんと活かして作るならば、ドラマのピークが映画の最後にくるのがベストであろうと。それで、シモンが復活する11話を、ドラマ上のラストに持ってきたんです。
── なるほど。
今石 ドラマとしては11話まで描いて、アクションとしては14話ぐらいまでを描く。で、ロージェノムとの決戦は次回に持ち越す。実は12〜15話の辺りは、そんなにドラマがないんですよ。シモンが復活した後は、それほど葛藤がないので。
── ただアクションがあるだけ。
今石 ええ。だから「シモンが復活した!」つって、そのままの勢いでロージェノムまで倒したら、それはそれで気持ちいいのかもしれんけど、なんだかよく分からんだろうという思いもあり(笑)。
── というか、それ以前に「カミナが死ぬところで終わりにすればいいのに」って、映画を観ながら思いましたよ。
今石 そういう意見もいくつかありましたね。でも、それじゃ何本作らなきゃいけないんだ(笑)。まあ、1本の中にでかいヤマがふたつぐらいあるのも、『グレンラガン』っぽくていいんじゃないかと。
── その前のヴィラルとの戦闘とか初めてのグレンラガン合体も、すでに若干クライマックスぽいですよね。
今石 そうですね。あそこでもう「フー」ってひと息つく感じですね。そこから間を無理やり飛ばして(笑)。だからまあ、劇場版を4本作れば、ほとんど新作がなくてすむんですよ。
── 第1部は、1話から8話までをつなぐだけでいい。
今石 ええ。それで作れるんです。それこそ別に僕がやらなくてもいい(笑)。誰かに任せてしまってもいいんだけど、でも、せっかくやるなら、それじゃ面白くないよねという事で。
── 今回、中島(かずき)さんは構成ができてから参加されたんですか。それとも、最初のプランニングの時から?
今石 構成をどうするか話し合っている段階から、中島さんは参加してましたね。まだシリーズのオンエア中に、劇場版をやるとかやらないとか言っている時にも、話し合いの場にいたような気がします。劇場版の制作が決まった段階で、(シナリオの)作業に入ってもらったというかたちなので。
ただ、新作以外の総集編パートの具体的な編集に関しては、まず大塚さんに1回組んでもらったんです。それを、TVシリーズでも編集をやってもらった植松(淳一)さんの方に持っていって、また細かくつなぎ直して、入れ替えたり外したりする作業を何日間かやってました。その時にも、中島さんに1日来てもらって、「ここの尺の分だけ、台詞を埋めてください」みたいな事を注文したりして。まず総集編パートを作って、それから新作の方に入ってもらったという感じですね。
── 大塚さんは、編集作業はいかがでしたか。
大塚 最初はもっとシャッフルしようかな、とか思ってたんですけどね。いざやってみると、TVシリーズでいう第1部のあたりは、ほとんど並べ替えができないようになっていた。それはやっぱり中島さんの罠だと思うんですけど(笑)、思いのほか緻密にシナリオが組まれてるから、変えようがないんですよね。ホントにもう、ただ単に圧縮するしかなくて。作りとして変化を持たせられたらいいな、とも思ったんですけど、それが非常に難しかった。とりあえず8話ぐらいまでをまとめていったんですけど、最初は80分ぐらいあったのかな。4〜6話のあたりも、ちゃんと話は分かるように入れていった感じで。
── 各キャラクターとの出会いも、キャラ説明もちゃんとあって。
大塚 ええ。その段階で一度監督に見せて、その時に「じゃあ、4〜6話はもう曲遊びみたいな感じで圧縮して、導入に新作も足して、旅っぽくPV風に編集しよう」と。それで8話あたりまでを1時間を切るぐらいまで短くできた。あとは9話以降を引き続き編集していったんですけど、そしたらやっぱり11話ぐらいがどうにもならなくなってきて(苦笑)。一応はつないでみたけども、これはもう「最後は新作するしかないか」という感じで、中島さんにお願いしたんです。
── なるほど。最初に編集している時は、どこを新作にするとは決めずに、とりあえずつないでいったんですね。
大塚 そうですね。やっぱり、途中でどうしてもつながらないところがあるので、「ここは何か新作を足さなきゃいけないよね」とか言いながら。でも、前半に関しては分量的にそれほどでもなくて、ちょこちょこ入るぐらいでしたね。まとまった部分を作らなきゃ、となったのは、後半部分の編集をやり始めてからです。
今石 最初は、10分ぐらい新作があればいいんじゃないか、とか言ってたんですけどね。
大塚 制作からも「そのぐらいじゃないと無理です」って言われてたんだけど(笑)。
今石 ま、薄々そうはならんだろうなとは思いつつも、「いや、10分で頑張ります」と。後半の新作パートに関しては、11話の途中までそのまま使って、そこから後の戦闘シーンだけ新作にすればいいんじゃないの? なんて、甘く考えてたんですよね。
大塚 うん。
今石 そしたら、やっぱり(作劇上の)段取りが何回かあったので、アディーネが2回来るところを1回にしたりとか。それと、ニアとシモンの話を休憩なしで進めるには、やっぱり重ねていくしかなくて。そうすると結局は新作になっていく……そんな感じでしたね。
── では、まず総集編パートの話から。結構、編集の妙というか、何ヶ所か「おお」と感心するところがありました。前半の、窮地に陥ったカミナが死んだ父親のガイコツを見て気合いが入るという場面は、劇場版では意味が違ってますよね。
今石 ええ。ああいう細かいところは、結局切るしかないというか、そこまで取り上げていたら本筋が見えなくなるだろうという事が分かっていたので。今回は、カミナとシモンの関係だけに絞ろうと思っていましたから。
── 親父のガイコツであるかどうかはともかく、人骨を見て“死”に直面したカミナが、獣人への怒りとか生への執着とかで奮起するようなニュアンスになってますよね。
今石 うん。そういう捉え方でいいと思ったんですよね。だから、多少分かりにくいですけど、その前のシーンでも道にガイコツが増えているとか、細かい事はしているんです。
── じゃあ、劇場版ではあのガイコツが誰なのかは分からなくていいんですね。
今石 そうですね。ただ、ひとつだけお墓の柱を消し忘れたカットがあるんですよ(苦笑)。最後、3話のラストについていた旅立ちのところで、カミナは親父の墓からマントをガバッと取るんですけど、劇場版ではその柱を消してるんです。でも、その前の2話でドタバタやってるところでは、1カット消し忘れてる(笑)。まあ、どうでもいい事ですけど。
── その他のシーンでは、キタンと再会するところはおかしかったですね。「もう忘れたのかよ!」っていう。
今石 うん、あれは上手くつながったと思います。
── その前に3カットぐらいしか会ってないんだから、無理もない。
今石 「ああ、そりゃあ覚えてねえわ」っていう(笑)。
── 板垣(伸)さんがやった温泉の話(6話)も忘れられずに入っているのにも、感動しました。カミナが死んだ後、シモンが兄貴の事を走馬灯のように思い出すところで、ちゃんと温泉で「俺の尻を突け!」という場面が入っているのが素晴らしかったですね。
今石 あの回想シーンは全部、編集の植松さんの仕事なんですよ。僕は一切、指示してないので(笑)。
── あれは普通「外せ」って言うところですよね(笑)。
今石 まあ、あれも含めてカミナである、と。
大塚 確か、あの回想シーンは編集の時に植松さんが伸ばしたんだよね。
今石 ええ。植松さんが「ここは長くていいよね!」と強硬な主張をしていた数少ないシーンです(笑)。あれ、何秒ぐらいあるんだろう? TVだと6、7秒ぐらいだったのが、十何秒とかあったんじゃないかな。
── あ、伸びてるんですね(笑)。
今石 すんごい伸ばしてましたね。TVの時も、ああいう回想シーンや、本編の抜粋みたいなところは、もう植松さんに丸投げで、カット選びからお任せしてました。
── アイキャッチを入れたのはどうしてなんですか。
今石 あれも編集している最中ですよね。
大塚 うん。どうしてもシーンを飛ばしたいという時、そのままつなぐとこれはやっぱりつながらないな、というところで「あ、アイキャッチ入れればいいや」と思いついて。入れたらやっぱりスムーズにいったので、これは入れた方がいいと。ちょっと総集編っぽい感じもするし。
── アイキャッチを入れなくてもつながるところもありましたよね。
今石 うん。そういうところは、「アイキャッチが入り続ける映画だ」というフォームを作るために入れてるかも(笑)。前半は入るけど、後半は全く入らないですから。
── そこは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』っぽいですよね。
今石 そうですね。編集やってる数ヶ月前に観て、「あっちにもアイキャッチ入ってたから、いいか」って、つい(笑)。
── これからの流行になるかもしれないですね、アイキャッチ。
今石 ええ。『ヱヴァ:序』でいちばんショックだったのは、アイキャッチと次回予告でしたからね。途中でアイキャッチが入って「え?」と思って、次回予告ではもう爆笑してましたけど(笑)。
── ああ、これは長いシリーズの1話だったのか! と。
今石 そうそう。
── そんなガイナックスの伝統を『紅蓮篇』でもしっかり踏まえているわけですね。
今石 最新の伝統でしたけどね(笑)。数ヶ月前に観たばっかりという。
── 総集編パートは、新たにどのぐらい手を入れてるんですか?
今石 結構、こまごまとやってますよ。2、3話あたりでは、タイミングを変えるのが多かったです。あそこは演出が僕とか大塚さんではなかったので、その回のテンポでやっているから、つなぐと変な間ができちゃったりして。だから、縮めたり伸ばしたりしてます。あと、台詞もちょこちょこ変えてるので、その分シートを打ち直して、口パクを足したりとか。つながり上、TBを足したりとか。まあ、見た目にはどうって事のないような部分ですけど、結構やってましたね。
── なるほど。主には作画以降の作業の手直しなんですか。
今石 基本的にはそうです。撮影処理を足したり、シートを調節して撮り直したり。作画にしても、ちょっと動きを1枚足すとか、表情をちょっとだけ変えるといったリテイク作業レベルの内容なので、大体、自分の方でやってしまいました。
大塚 結構やってなかった?
今石 そうですね、100カットぐらいやりましたよ。
── おお、凄い。
大塚 机に山積みにされてたもんね。
今石 うん。錦織(敦史)に分けても、まだ僕のところに100カット近く残ってたから。作監修正的なものが必要なところは錦織に回して。それが20〜30カットだったかな。基本的には技術的なところだけでいじっていて、最初はその作業がメインでしたね。
── キヤルが野菜の皮を延々と剥いているカットは、やけに長く感じられたんですけど、あそこも手を入れているんですか?
今石 いや、あれはTVと同じです。
大塚 伸ばしてないよね。
── それまでのテンポが速いせいか、凄く「時間」を感じるシーンになっていましたけど、錯覚なんですね。
大塚 だと思いますよ。テンポの落差で、長く感じるんだと思います。
今石 今回は全体的に早いんですよ。もう、とにかく尺がやべえ! って言いながら作ってたので。さっきも大塚さんが言ってましたけど、最初の段階では「8話までで80分」だったぐらいなので、とにかく詰め詰めでやってたら、案外、僕の悪い癖が出た(笑)。素でやると、どうしても早くなる。年々、早くなってますね。
── そうなんですか。
今石 『DEAD LEAVES』を作った時、『アベノ橋(魔法☆商店街)』を見返したら、「ああ、なんてトロいアニメなんだ」と思ったんだけど、最近『DEAD LEAVES』を見返したら、やっぱりトロいんですよね(笑)。年々せっかちになっていく。
── 全体にそれだけテンポが早くて、途中であんなに間を取るシーンがあると、逆に「映画っぽさ」を感じて不思議でした。
今石 まあ、それだけ間をもたせられるクオリティで9話を作っていたから、よかったですよね。
大塚 うん。
今石 作画的には、TVシリーズの画で充分もつ。
── 今回いちばん感銘を受けたのは、そこでしたね。TVシリーズの作画が、スクリーンの観賞に耐える! という。
今石 それはちょっとビックリしました。いろんな人から言われましたよ。「あんなに作画よかったんだ」って(笑)。
── むしろ、「今まで小さいモニターで観ててゴメンナサイ」と思ってしまうくらい。
今石 ハハハハ(笑)。「こんなところまで描いてたんだー!」とか、よく言われますね。
── ニアとの出会いのくだりなんかも凄いですよね。こんな地味なところで、あんなに丁寧に動いていたのか、とか。
今石 あそこも9話だから、向田(隆)さんですからね。あれは全然、大画面で観ても耐えうる動きなので。
── 劇場版になった事で、逆に、TVシリーズ時の頑張りがいい効果を上げている。
今石 そうですね(笑)。ただ、劇場版をやるとなった時にいちばん危惧していたのは、「劇場だからもっと頑張らなきゃ」みたいな感じになったら、多分エラい事になるなという事。「TVであれだけ頑張ったのに、これ以上どう頑張れというのだ?」という気分だったので、いかにTVシリーズの時のまんまで作ろうかというテーマがありました。
── それは特に、新作パートを?
今石 ええ。劇場だからといって劇場っぽくしすぎると、それはそれで面白いかもしれないけど、まず間に合わない。
── では、新作パートの話は次回に続くという事で。
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