第9話 ヒトっていったい何ですか?
●カミナを喪い、荒れていくシモン。そんな時に出会った不思議な少女・ニア。彼女の正体はなんと敵将の娘……!? 傷心の主人公と新たなヒロインとの運命的な出会いを描いた、第2部の幕開けとなるエピソード。王都テッペリンを統べる敵の親玉・螺旋王と、個性豊かな配下達も登場する。アニメーション協力は動画工房。第1話の原画でも印象的な仕事を残した、向田隆が作画監督を務めている。
脚本/中島かずき|絵コンテ/大塚雅彦|演出/岩崎太郎|作画監督/向田隆|原画/上石恵美、狩野正志、河野稔、光田史亮、吉田優子、飯村真一、福元敬子、平川梨絵、本村晃一、貞方希久子、長谷川ひとみ、藤井辰己、向田隆|アニメーション協力/動画工房
取材日/2007年11月9日、2007年12月11日、2008年1月16日、2008年2月20日 | 取材場所/GAINAX | 取材/小黒祐一郎、岡本敦史 | 構成/岡本敦史
初出掲載/2008年1月17日
── ここから第2部に入っていくにあたって、監督の中での心構えみたいなものは?
今石 大雑把に言えば、当初考えていたのは80年代的なロボットアニメの世界ですね。定番の四天王とかが出てきたりして、「永井豪的な世界から、長浜忠夫路線へ」ぐらいのイメージでした。チミルフがいなくなってるので、すでに三天王なんですけど(笑)。
真鍋(広報) 劇中テロップも9話から入ります。
今石 それも『コン・バトラーV』っぽくしたいと思ってたんだけど、普通のゴシック体テロップにしたら、『コンV』でもなんでもない普通のテロップにしか見えなくて(苦笑)。
── 最初の数話はわりと90年代的な、深刻なトーンが続きますが。
今石 本当は、15話まではもっと幸せに終わりたかったんです。大グレン団の仲間達でワイワイやってる時間が延々続くといいなあ、と思ってたんですけど、シモンの復活にかなり時間がかかっちゃって……。
── 本当はもっと早く復活するはずだった?
今石 シリーズ構成を考えている時は、1本ぐらいで鬱展開を終わらせたかったんですよ。だけど8話までの流れを考えると、「それはない」という結論が出て(笑)。それでもシモンが鬱になっているだけの話にならないように、ニアの話と繋げたりして、なんとかうまく3本でまとめられたかな、と思います。
── 9話はいかがでしたか?
今石 今回もまた中島さんのホンですね。7、8、9話は他の人に振りようがない難しい回だったので、中島さんに書いてもらいました。9話はおそらくシリーズ中で最も暗く落ち込む回になるだろうから、コンテも大塚さんに任せて、僕はほとんど直してないです。アクションぐらいじゃないですか?
大塚 あと、ゲロ。
今石 ああ、ゲロね(笑)。あれって、シナリオの時から「こうしたいんだけど」とか言ってませんでしたっけ? コンテで足したんでしたっけ。
大塚 ゲロはコンテだったよ。
今石 そうか、結構忘れてるな……だから、僕はメカ戦のところしかいじってないと思います。
── ゲロはどういうこだわりで入れたんですか?
今石 これもいろんなところで言っちゃってますけど、とにかくロボットからゲロを出したいだけ(笑)。暴走して、あちこちからエネルギーが漏れるんだけど、それがたまたま口から吹き出してしまう。で、人型だからゲロに見えるよね、という。本当はコクピットの中でシモンも吐いてるつもりなんですけど。
大塚 さすがにそれはね(笑)。
今石 うん。Bパート明けでシモンが起き上がる時に口を拭うじゃないですか。あれは実は吐いたあとなんですね(笑)。コクピットの中で主人公がゲロ吐きまくってたら、さすがに笑っちゃうよな、と思って自重しました。
── 8話に続いて出崎統ネタをたたみかけるというのは、狙いだったんですか?
今石 いや、単に無自覚に(笑)。そんなに無理して出崎ネタを入れようとしていたわけじゃなくて、流れでそうすべきだと思ってやった気がする。
── 大塚さんは、コンテの方はいかがでしたか?
大塚 ニアとシモンの出会いのシーンは、ゴリ君(錦織敦史)が「こういうイメージはどうですか」という感じで、落書きみたいなものを描いていたんですよね。中島さんのホンもそれを元にした部分は大きいと思うんだけど、僕の方もゴリ君の描いた画のイメージが強かったので、それを元に前後を作ったみたいなところがあるんですよね。
今石 僕は最初、ニアに関しては髪が螺旋状にクルクルしてるのと、「箱入り娘」っていうネタしか考えてなかったんですよね(笑)。それくらいしかイメージがなくて。
── 錦織さんが描いたのは、イメージボード的な一枚画なんですか?
今石 マンガっぽい感じでした。コマ割りされてて、吹き出しがあって。シチュエーションを切り取ったような。
大塚 綺麗な一枚画というよりは、シーンをいろいろ切り取った感じだったね。
── ニアの立ち居振る舞いや、キャラクターの雰囲気も、そこから?
今石 そうですね。みんなそこでイメージが決定されたというか、それまでは単に「お姫様は必要でしょう」みたいな感じで、外枠的に配置していただけで、中身がまだ定まっていなかったんですよね。「こういう感じの子なんだ」というのが、そこで初めて分かった(笑)。浮世離れしていて、天然ボケな感じだけど、あまりイヤミじゃない。その辺の落としどころは、あの画で見えたかな。
大塚 そういう意味では、9話はニアに関しては登場のインパクトしかないので、あまり苦労はしなかったですね。前半では悶々とするシモン、後半はシモンとニアの出会いを描く話なので、シナリオもほとんどいじるところがなかった。ニア自身の話が動き出すのは、10話以降だから。
── 9話は動画工房のグロス回ですね。作監は1話の原画でも活躍している向田隆さん。
今石 そうですね。『電脳コイル』で平松(禎史)さんがコンテ・演出をやった回の作監だったので、その縁です。「若くて巧い人がいる」という事で、1話で原画を頼んで、どうせなら作監もやってもらいたいねと話していたら、ここで実現した。9話はなかなか、向田さんの画調と話の内容が合っていて、よかったですよね。
大塚 うんうん。
── どんな感じなんですか?
今石 リアルさとアニメ的ディフォルメとが両立していて、あまりベタつかずドライである。湯浅(政明)さんとか大平(晋也)さん的なニュアンスも入っていて、磯(光雄)さんっぽさも入っている。GAINAXで純正に育っていると、なかなか出ないマニアックさなんですよね。それをかなり高いレベルで昇華していて、なんでこんなに巧い人が埋もれているのだ? って不思議に思うくらい。
── おいくつぐらいの方なんですか。
大塚 まだ20代じゃないかな。
今石 だと思います。錦織と同じか、1コ上くらいだとか。
大塚 でも、ちょっと年齢不詳だよね。無口だし。
今石 そう。昔の吉成(曜)さんのように、ほとんど喋ってくれない(笑)。
── 前半のダイグレン内の場面で、魚眼レンズっぽい構図の中での動きとか、巧いなあと思いました。
今石 うん。動きに関してはだいぶ作監でコントロールしていたと思いますよ。レイアウトの時にラフ原を入れて、原画作監の時にまた直して。ちょっとよろめいて倒れるとか、そのあたりも全部細かくラフ原が入っていた気がする。そういう意味では、9話って全話数の中でいちばん芝居が多い回だと思うんですよね。ただ立ち上がるとか、座るとか、歩くとか、手を触れるとか。
大塚 ああー。
今石 そういう芝居が多い回だったので、凄く向田さん向きだったと思う。いつもだったら飛ばしちゃうような段取りとかも、延々とやってくれていて。シモンがニアの入ってるコンテナのそばまで行って、またコアドリルを持って戻ってくる芝居とかも、ずっと見せてる。『グレンラガン』全体の中でも、ちょっと特殊な感じになってよかったかな、と思いました。
大塚 Bパートでシモンがニアのところに行くまで、台詞は全然ないんですよね。地味な芝居を延々とやっているという、目立たないんだけど結構難しい事をコンテでは要求していたので、作監が向田さんで本当によかったと思います。ガイナ社内だとみんな嫌がるような場面だから(笑)。あのシーン、結構好きなんですよ。『グレン』にしては珍しく静かな場面で、しかも作画的にもクオリティが高い。
今石 あそこはよかったですね。
大塚 でも、ニアに関してはゴリ君がほとんど手を入れてる。まあ、初登場だったので。
今石 僕は意外と、向田さんの描くヨーコがエロくて好きなんですよ(笑)。錦織が描くヨーコは、マンガ的にデフォルメされてるナイスバディなんだけど、向田さんはやっぱりリアルに描くんですよ。生身の人間が水着を着たらこんな感じだよね、という。ちょっと寸胴で、丸みを帯びていて、胸もそんな綺麗にドーンと突き出してる感じじゃなくて、やや下がりめというか。
大塚 生々しい(笑)。
今石 そうそう。かえってエロいわこれ、みたいな。それがスゲエよかった(笑)。
●アニメスタイルの書籍
【アニメスタイルの新刊】「天元突破グレンラガン アーカイブス」を刊行します!
http://animestyle.jp/news/2021/06/30/19952/
●関連リンク
『天元突破グレンラガン』ポータルサイト
http://www.gurren-lagann.net/