腹巻猫です。2月9日にライブを控え、バンドの練習に精出してます。演奏するのはロボットアニメと特撮ものの音楽ばかり約30曲。興味ある人は「G-Session」で検索してみてください。
今回は、1993年公開の映画『機動警察パトレイバー 2 the Movie』の音楽を紹介したい。音楽を担当したのは川井憲次。『GHOST IN THE SHELL』(1995)、『INOCCENSE』(2004)、『009 RE:CYBORG』(2012)といったアニメ作品をはじめ、ドラマや映画でも活躍する映画音楽作家である。
『機動警察パトレイバー』は1988年にOVAシリーズとしてスタートしたアニメ作品だ。近未来を舞台にした警察ドラマといった趣のユニークな内容がアニメファンの支持を集め、1989年7月には劇場版第1作『機動警察パトレイバー the Movie』の公開が実現する。同じ年の10月からはTVシリーズの放送が始まって、幅広いファンを持つ人気作品へと成長した。音楽は一貫して川井憲次が担当。OVA、劇場版、TVシリーズと続く『パトレイバー』の歴史は、川井憲次音楽の進化のあゆみと重なっている。
『機動警察パトレイバー 2 the Movie』の音楽は一見、とても地味だ。劇場版第1作『機動警察パトレイバー the Movie』では、スリリングなアクション曲「へヴィ・アーマー」や爽快感に満ちたエンディング曲「朝陽の中へ」がファンを楽しませてくれたが、4年後に制作・公開された本作の音楽は大きく雰囲気が異なっている。
風のうなりのようなシンセの響きに導びかれるオープニング曲「outset」、エスニカルなリズムにリリカルな旋律を乗せたタイトル曲「Theme of PATLABOR2」、「ドッドッドッドッ」と低音のリズムが延々と刻まれる長尺の曲「Wyvern」「Outbreak」、明確なメロディを持たない「Unnatural City」など、派手な展開はほとんどない。しかし、退屈ではない。聴いているうちに気持ちよくなってきて、10分もある「Outbreak」を少しも飽きずに聴き終えてしまう。多くの中毒者がいる川井憲次サウンドの魔力である。
そして、自分がある気分に満たされていることに気づく。それはこんな気分だ。
「この町にいるとちょっと不安な、ちょっと切ないような気分になる。でもそれが心地よい」
『機動警察パトレイバー 2 the Movie』の音楽がすごいと思うのは、ここである。前作『機動警察パトレイバー the Movie』にはなかった何かが、『2』の音楽には宿っている。
映画音楽というと、映像に合わせて書かれる音楽だと考える人が多いだろう。アクション場面には勇ましい曲、悲しい場面には悲しい曲。悲しい場面にあえてコミカルな曲をつけたり、アクション場面に叙情的な曲をつけたりする場合もあるが、いずれにしても特定の演出効果をねらった音楽である。川井憲次はそういう曲を「機能的な音楽」と呼んでいる。
『機動警察パトレイバー 2 the Movie』の音楽はそういう音楽ではない。その代わり、先に書いたような「ある気分」が音楽を満たしている。川井憲次の音楽が表現しているのは、「映画がどんなふうに世界をとらえているのか」、あるいは、「登場人物がどんなふうに世界を感じているのか」といった、この映画の世界観のようなものだ。それは、特定の場面に奉仕するというよりも、映画全体の中に空気のように、水のようにしみわたって、映画の雰囲気を決定づけている。
映画の世界観を内包した音楽、それが『機動警察パトレイバー 2 the Movie』の音楽なのである。
だから、ためしにiPodに『機動警察パトレイバー 2 the Movie』の音楽を入れて聴きながら町に出てみると、町の風景がまったく違ったものに見えてくる。川井憲次の音楽が流れてくることで、見慣れた景色や、車の窓外を流れる町並みが、自分が知っているのとは違う色を帯びてくる。まるで、『機動警察パトレイバー 2 the Movie』の世界に迷い込んだように。
すぐれたサウンドトラックとは、こういうものではないだろうか。個々の曲がすぐれていて映像に合っていることも重要だけれど、もっと大切なのは、音楽全体が、音色、メロディ、リズムなどすべて含めて、まるごと作品世界を表現していることだ。世界観を内包する音楽。そういう音楽を聴くと、具体的な映像が浮かぶよりも、作品世界の中に入って旅をしているような気持ちになる。ほかの音楽ジャンルにはない、サントラならではの楽しみである。
「ここではないどこか」へ連れて行ってくれる音楽——。サウンドトラックの魅力ってそれなのではないのかな、と筆者は最近考えている。『機動警察パトレイバー 2 the Movie』の音楽は、まさにそんな音楽なのだ。
本作の音楽には3種類のバリエーションがある。映画に先駆けて発表された『プレ・サウンドトラック』盤、映画で使用された曲を収録したオリジナル・サウンドトラック盤、音声を5.1chにリニューアルしたDVDのために制作された『サウンド・リニューアル』盤。どれもそれぞれに魅力があるが、まずはオリジナル・サウンドトラック盤から聴くのがよいだろう。合わせて、劇場版第1作のサントラも聴いてほしい。こちらも川井憲次の初期の仕事を代表する名盤である。
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