COLUMN

第3回 伝説のこだまを聴く 〜伝説巨神イデオン〜

 腹巻猫です。先日、2月17日よりスタートする東映スーパー戦隊シリーズ「獣電戦隊キョウリュウジャー」の音楽録音の現場におじゃましました。音楽担当は15年ぶりの戦隊シリーズ登板となる佐橋俊彦さん。でっかくて強くてかっこいい音楽に仕上がっています。乞うご期待!


 2月20日に『伝説巨神イデオン』TVシリーズのBry-ray BOXが発売される。これを記念して、今回は『伝説巨神イデオン』の音楽を取り上げたい。

 『伝説巨神イデオン』は1980年5月から1981年1月まで東京12チャンネル(現・テレビ東京)系で放映されたTVアニメ作品だ。富野由悠季監督が『機動戦ガンダム』の次に送り出したSFロボットアニメである。地球人と異星人(バッフクラン)との戦いを軸に、憎しみの連鎖から逃れられない人間の業を描いた意欲作であり異色作だった。
 音楽はすぎやまこういちが担当。近年はゲーム「ドラゴンクエスト」の作曲家として知られるすぎやまだが、もともとはGS黄金時代を支えた歌謡界のヒットメーカー。フジテレビのディレクターを経て作曲家に転向したという異色の経歴の持ち主でもある。アニメ作品のBGMを手がけるのは、劇場版『科学忍者隊ガッチャマン』(1978)、TVアニメ『サイボーグ009』(1979)に続いて『イデオン』が3作目だった。

 『伝説巨神イデオン』の音楽は多彩な魅力にあふれている。戸田恵子が歌うエンディング主題歌「コスモスに君と」の奥深い味わい、すぎやまこういちならではの洗練されたメロディとオーケストレーション、クラシック系の曲とフュージョン系の曲が融合したハイブリッド感、当時のトップクラスのスタジオミュージシャンが参加した演奏の質の高さ。
 その魅力を存分に味わえるのが、1981年7月にキングレコードから発売された音楽集第1弾『伝説巨神イデオン』だ(アルバムタイトルには「音楽集」も「サウンドトラック」もつかない)。発売当時、このアルバムを聴いた筆者は、音楽のすばらしさもさることながら、アルバム全体の構成(選曲、曲順、曲タイトル)に驚き、感銘を受けた。今回は、この「構成」という面に注目しながら、『イデオン』の音楽の魅力を紹介したい。

 アルバム『伝説巨神イデオン』はエンディング曲「コスモスに君と」から始まる。
 この「1曲目がエンディング」というのが衝撃的だった。
 「コスモスに君と」は『伝説巨神イデオン』のテーマを内包した歌である。この曲が1曲目にあるおかげで、音楽集を聴くファンの意識はロボットアニメとしての『イデオン』ではなく、宇宙と生命をめぐるドラマとしての『イデオン』の世界に入っていく。それは同時に、「このアルバムは単なるアニメサントラではなく、『イデオン』の世界を音楽で描いた独立した“作品”でもあるんですよ」という作り手の思いの表明にもなっている。
 アルバムの2曲目は、流麗なメロディで宇宙の広がりと星々の興亡を描く「星々たちの物語」。続いて、イデのテーマの変奏による「伝説のこだま」がイデという謎の存在を描写する。すぎやまこういちは各曲を最初から3分〜5分の長尺の曲として作曲し、ひとつの曲の中でさまざまな展開を作ることで『イデオン』の音楽世界を広げている。4曲目「闇からの手」は異星人バッフクランのテーマとして書かれれた曲。劇中では悲壮感のある曲調を生かして、運命に翻弄される登場人物たちを描写する場面などに効果的に使用された。『イデオン』を代表するメロディである。5曲目は「発動」と題され、イデの力によって暴走する巨神の姿が激しい曲調で描かれる。ここまでがレコードでのA面である。
 B面は、バッフクランの侵攻をイメージした「銀河の黒い流れ」からスタートする。劇中では緊迫感ある戦闘場面などに使用された曲だ。次の「ふれてごらん」は、エンディング主題歌「コスモスに君と」の変奏による美しい情感曲。そして、本アルバム最大の聴きどころともいえる「デス・ファイト」が登場。戦闘シーンやイデオンの合体シーンに多用された本曲は、ピアノの羽田健太郎をはじめとするトップ・ミュージシャンたちが参加した名セッションだ。BGMパートの最後は、子どもたちのイノセンス(無垢)を表現した「チルドレン」。この曲は、戦いに次ぐ戦いの中で子どもたちに託された一筋の希望・未来を象徴しているようである。優しい曲調でクールダウンしたのち、オープニング主題歌「復活のイデオン」で音楽集は幕を閉じる。
 アルバム1枚を聴き終えて残る印象は、TV画面に映る『イデオン』の映像ではなく、『イデオン』の世界をはるか宇宙の果てまでひとめぐりして帰ってきたような、深い満足感だ。あらためてアルバムの構成をふりかえると、A面では宇宙に伝わる「イデの伝説」が語られ、B面では地球人の視点で、異星人との衝突や人間同士の葛藤が描かれているような印象を受ける。A面とB面は対をなし、合わせてひとつの物語となっているのだ。

 絶妙の構成が、すぎやまこういちの音楽と一流ミュージシャンによる演奏を引き立て、アルバム『伝説巨神イデオン』を奇跡的な完成度を持つ1枚にしている。筆者はもはや、これ以外の曲順で『イデオン』の音楽を聴く気になれない。2009年に発売されたCD『伝説巨神イデオン 総音楽集』では、早川 優氏が『イデオン』のTVシリーズと劇場版の音楽、そして「交響詩イデオン」をまとめて4枚のCDに再構成しているが、DISC1は音楽集1枚目の構成がそのまま採用されている。それほどに本アルバムの構成は美しい。
 そして、1枚のアルバムをまるごと味わう楽しみと満足感こそ、楽曲単位のダウンロード販売で得られないものの筆頭ではないだろうか。曲の並び方にも意味があり、構成者の思い(コンセプト)が表現されている。それを意識しながら聴くと、サウンドトラックの楽しみ方はさらに広がると思う。

伝説巨神イデオン 総音楽集

KICA-938〜941/4800円/キングレコード
発売中
TVシリーズから発展した劇場版の音楽と「交響詩イデオン」もすばらしい。
Amazon

伝説巨神イデオン Blu-ray BOX

価格:57330円(税込)
仕様:カラー/7枚組
発売元:フライングドッグ
音楽を聴くと本編も観たくなる!
Amazon

伝説巨神イデオン 劇場版 Bru-ray (接触篇、発動篇)

価格:20790円(税込)
仕様:カラー/2枚組
発売元:ビクターエンタテインメント
TVシリーズで描かれなかったラストは劇場版で。
Amazon