小黒 『ARIA The ANIMATION』(TV・2005年)にいきましょう。『ARIA』は今でも続いてますね(編注:この取材が行われた時点で『ARIA The CREPUSCOLO』が公開済み、『ARIA The BENEDIZIONE』が制作中だった)。
佐藤 そうですね。こんなに続くとは、思わなかったですけど。
小黒 継続中の作品なので、総括はしづらいと思うんですが、聞ける範囲でうかがいたいと思います。
佐藤 はい。
小黒 佐藤さんのところに話が来た時には、原作はどのぐらい進んでたんですか。
佐藤 はっきりとは覚えていないんですけれども、単行本でいうと5巻がまだ出てなかったんじゃないかな。6巻に収録されているエピソードは連載のほうで読んでます。
小黒 アニメの1話を観れば、原作が相当先まで進んでいるのが分かりますね。
佐藤 そう、キャラクターは全部出ていたね。アテナさんが出たのが、原作だと5巻ぐらいでしょ。
小黒 アニメ化はどういったプランで臨まれたんでしょうか。
佐藤 「大きな柱になる事件がない作品で1クールって、どういうふうに作ればいいんだろう?」というところが、スタートですよね。基本的には悪意とかがない、澄んだ水のような作品なので。
小黒 ええ。
佐藤 この作品を観て「あっ、こんな綺麗な作品が好きな自分も捨てたもんじゃないな」と思えるものにするのが、作るべき娯楽のかたちかな。その綺麗さが満足感に繋がるんじゃないかな、と思ったはずです。だから、とにかく余計なものは足さない。ただ、原作の1エピソードが短いので、1クールの中でなるべく消化するために、2つぐらいのお話を上手く繋げて1本の話にしていこうと思った。もう1つには、アクアっていう星を開拓して住むという要素を縦軸に使って、オリジナルの話を入れてまとめようと。そんなざっくりとしたプランからスタートしてます。
小黒 始まった時点で、第2期をやるのは決まってたんですか。
佐藤 いや、始まった時は全然。1クールで着地させる企画としてこちらに来てますね。
小黒 後々、別れや卒業のエピソードがある事は分かっていたわけですね。
佐藤 そうですね。原作に「オレンジな日々」というエピソードがあって、それが肝の話になるんだろうなと感じながらやっていたと思いますね(編注:そのエピソードでは回想でアリシア、晃、アテナの関係が描かれる。そして、彼女達がそうなったように、灯里、 藍華、 アリスも、それぞれが一人前の水先案内人になったら、今のように一緒にいるのが当たり前でなくなるのだろうという事が分かる)。成長して、壁を1つ越えると、なかなか会えなくなるのは切ない。それがシリーズ全体の軸になるな、と思っていました。意外と物語ではその後も度々会うんですけどね。
小黒 最初の3話ぐらいでメインキャラクターを揃えるじゃないですか。これは1クールでまとめるためですか。
佐藤 そうですね。1クールっていう短期勝負なのでそうしました。灯里がペアからシングルに昇格する流れも、原作では順番に描かれてるんだけど、そこをそのままやっていくと、あっという間に話数を食うので、構成の時点で「既にシングルに昇格したところからスタートしよう」と考えていますね。
小黒 あらためて原作を読むと、アニメの作り方がいくつか考えられると思うんですよ。例えば、もっと舞台中心の作り方をして、観光旅行アニメのような作品にもできると思うんです。
佐藤 はいはい。
小黒 でも、『ARIA』は、キャラクターの気持ちに寄った作りになっていますよね。これは狙いを絞り込んで作ったという事ですよね。
佐藤 どうだったかなあ? でも、「観光アニメにしよう」とは、多分一度も考えてないと思うんですよね。ただ、「ネオ・ヴェネツィアっていう街も、川や水の流れる音もキャラだよね」「音と画が1つになってる世界観だよな」というイメージがあったかな。だから、音楽を発注する時にも音と画がワンセットでイメージができるような音楽を依頼したと思いますね。
小黒 画が悪いというわけではないですが、画よりも音楽とドラマで押していく感じになっていますよね。
佐藤 そうですね。結果、そういう感じになってますね。とりあえず、本編が始まったらまず音楽を流すっていうやり方ですから。
小黒 佐藤さんの作品作りが、この辺りから変わっていくわけですよ。音重視になっていく。『カレイドスター』はコンテを沢山描いていましたが、ここではシリーズ構成と音響監督をやっていますからね。
佐藤 そうだね。
小黒 コンテはそんなに押してなくて、音と雰囲気とドラマで作っていく感じにシフトしていくわけですね。
佐藤 でも、実はどの作品も、コンテをガリガリとやるつもりはないので(笑)。『ARIA』だから特別に! という気分でもないんですけどね。ただ、音楽に関しては、『ふたご姫』のような子供向け作品だったら、基本的にドラマに付けるようにはしてるんだけどね。この時のトライとしては、音楽をドラマに付けるんじゃなくて、画に付けるっていうイメージはありますね。当時話していたんだけど、車に乗って運転してる時に音楽をかけるじゃないですか。雨の中を走ってても、音楽がロックだったら外がロックな風景に見えるし、ヒーリングミュージックになったら、そういう風景に見えるんですよ(笑)。
小黒 なるほど。
佐藤 「音楽によって風景の見方って、全然変わるんだな」っていう印象があったので、画を『ARIA』の世界にしてしまうような音楽をもらって、流しっぱなしにするプランで臨んでますね。逆に事件とか起こると、音楽を切るぐらいの気分でやってます。
小黒 『魔法使いTai!』の時におっしゃってた「お話やドラマがなくても成立する作品作り」は、続いているという事でしょうか。
佐藤 「キャラクターで観れるはずである」っていうやつですね。
小黒 そうです。
佐藤 切り替えたつもりもないので、基本はあんま変わってないかな。
小黒 アニメ界全体として、ドラマじゃない作りが当たり前になっていく過程に、佐藤さんのそれらの作品があると思うんですよね。
佐藤 『ARIA』とかは、確かにそうですね。「そもそもドラマを入れなくていいんだ」と。「小さな発見をした。幸せ。以上終了」という物語で大丈夫だと思えたんですよね。やっぱりキャラクターがよくできているので、そのキャラクターを追っかければ、1本の映像作品になるっていう確信があったから。灯里っていうキャラクターの設計が、凄く優れてるんですよね。迷いなく幸せを見つけていく視点を持っているので。
小黒 綺麗な佐藤さんですね。佐藤さんの清らかな面が一番出ている。
佐藤 そうだといいですね(笑)。
小黒 奥様(佐藤恭野)はどこから参加されてたんですか。
佐藤 これは、最初の音楽発注の時からずっといます。『ふたご姫』の時も、音楽の発注の時には、基本入ってもらっていますね。大昔だったらBGMの録りの時に、僕も立ち会ってるんですけど、BGM録りの時って現場のスケジュールとかち合って大変になっている場合が多いので、録りに関してはもう完全に任せていますね。
小黒 『ストレンジドーン』以降はずっと奥様が選曲をされてますね。
佐藤 そうですね。もしかしたら『ストレンジドーン』は、僕も録りに立ち会ったかもしれないけど、音楽の録りに関しては向こうにお願いして、こっちは現場のほうにかかりきりになるスタイルが多くなります(笑)。
小黒 『ARIA』では、佐藤さんのほうから「この場面でこの曲を使いたい」といった事を奥様に伝えるような事があったんですか。
佐藤 「この場面では、この音楽を使いたい」という方針を立てて、絵コンテを切る事もあるっちゃあるんだけど、基本的には東映のやり方と同じです。絵コンテにラインをバーッて引いて「ここにいい感じの曲ください」とお願いするやり方ですね。ラインと一緒に「朝のワクワクタイム」とか「お散歩」や「切ない夕暮れ」という感じの説明書きをつけて、そのイメージと尺に合わせて音楽を選曲してもらう流れは変わらないですね。「1話のこのシーンでこの曲を使ったから、後の関連する話数にもこの曲を使おう」といったプラン作りは、選曲のほうでやっています。最近だと、「音楽演出」というクレジットにしてるんですけど、東映でやっていた頃から演出的な視点で音楽を入れていく作業をしてもらってるんですよね。