小黒 96年頃はTVシリーズ各話の絵コンテが多いんですね。
佐藤 はいはい。
小黒 タイトルでいうと『セイバーマリオネットJ』(TV・1996年)、『少女革命ウテナ』(TV・1997年)、『カウボーイ ビバップ』(TV・1998年)、『セイバーマリオネットJtoX』(TV・1998年)、『彼氏彼女の事情』(TV・1998年)。これは何か事情があったんですか。
佐藤 いや、特に事情はないんだけど、基本的にもらったオファーは断らない主義でやっていたので、どんどん多くなった。今も基本はそうなんだけど。
小黒 『カウボーイ ビバップ』もそうですが、比較的泣ける話をやることが多かった。
佐藤 そうですね。
小黒 『セイバーマリオネットJ』なんか、いきなり最終回の前の回だから。
佐藤 そうだったんだよねえ(笑)。オファーを受けた時に「それまでの話を全然知らないのに大丈夫ですか」と言ったけど。しかも、最後が歌に合わせての音楽シーンだったし。
小黒 『元祖爆れつハンター』(OVA・1996年)も全3本の3本目ですよ。
佐藤 そうなんですよね。そういう話をもらうことが多かったんだけど、頑張りました、と。
小黒 『カウボーイ ビバップ』は、何かにつけて話題になる18話「スピーク・ライク・ア・チャイルド」ですね。いかがでしたか。
佐藤 どうだったかなあ。
小黒 脚本と全然違うわけじゃないんですよね。
佐藤 『ビバップ』はほぼ脚本どおりですよ。
小黒 終盤までは、アクションシーンがないとはいえ、普段の『カウボーイ ビバップ』なんですよ。
佐藤 はい。
小黒 やっぱり、最後の「フレー、フレー、私」で、全て持っていく。
佐藤 急にね(笑)。
小黒 急に『ビバップ』じゃなくて、女子高生ものになるっていう。
佐藤 でも、そういう話でしょ。「フェイがこんな女子だったの?」みたいな話だと思ったんで。
小黒 そうですそうです。
佐藤 凄い女子っぽくやって。「こんな女子っぽい部屋に住んでたの?」「こんな女友達とこんなキャッキャウフフやってたの?」という感じを出さなければと思いながらやってたはず。
小黒 佐藤さんにおけるリアルな女子描写の一環ですよね。
佐藤 そうそう。「こういうことでしょ、女子達って」というね。だから、競馬場のやさぐれた感じとの対比がどれぐらい出るかが勝負、といった感じでやってるんじゃない?
小黒 そういう意味では得意技が発揮されたということですね。
佐藤 そうだね。だから、そんなに悩んでやった感じじゃなかったかもしれない。自撮りしてるカメラの感じをどう出そうか、とかは結構工夫したかもしんないけど。
小黒 次の『彼氏彼女の事情』の18話「ACT18.0 シン・カ(朝雲暮雨)」は、初体験の話でした。
佐藤 そうですね。話には聞いてたけど、「今の少女マンガって本当にそういうところまでやるんだ」と思った。
小黒 これは絵コンテを2バージョン描いたんでしたっけ。
佐藤 えっ、そんなことがありましたっけ。
小黒 18話は放映版とビデオソフト版があるんです。後で修正版を作ったわけではなくて、同時に放映版とビデオソフト版を作ったらしいです。
佐藤 ちょっと記憶にないんだけど、もしかしたらそれは俺のコンテの後の作業だったりしない?
小黒 そうかもしれないですね。絵コンテの後で現場で対応したのかもしれない。
佐藤 『カレカノ』は原作の画をちゃんと使っていきたいっていう方針があったよね。縦長のコマは縦長で画面の中に入れるみたいな。
小黒 はい。
佐藤 そこまできっちり拾うのも面白いな、と思ってやった記憶があるよね、原作の画がそのまま拾えるところは拾っていく。これは(監督の)庵野さんの方針だったんだっけな。
小黒 庵野さんの方針でしょうね。あとは『ウテナ』も1回だけ絵コンテ描かれてますよ(34話「薔薇の刻印」)。
佐藤 これは「話が来たらやらねば!」と思っていた。
小黒 これは覚えてますよ。僕がオファーしたんです。
佐藤 ありがとうございます。
小黒 幾原さんから「佐藤さんに絵コンテを依頼してくれ」と言われてお願いしたんだと思います。それで、佐藤さんにメールを送ったら「いつそう言われるかと待ってました」という返事が来たんですよ。
佐藤 そうそう。言われたらやらねばと思っていた。もしやるんだったら、これに関してはペンネームじゃなくて本名でやる、ということも既に言ってたんじゃないかな。
小黒 それは、やっぱり後輩の作品だから。
佐藤 ちゃんとやんないとご祝儀になんないしねと思って。
小黒 お願いしたのは、どちらかというと難解な話でしたね。
佐藤 そうですね。意味が分からないところもあったけれど、分からないままやろうと思ってやりましたね。
小黒 手応えはいかがでしたか。
佐藤 手応えはね。コンテが上がってから、どのぐらい直しが入ったのが戻ってくるんだろうと思ってハラハラしてました。作品をちゃんと掴めてない可能性があるな、と思いながらやってたね(笑)。
小黒 修正は入っていましたっけ。
佐藤 割とそのままだったから「あ、よかったのかな?」と思いましたね。あの話で、小屋の中にFAXがあって、紙を吐き出していたよね。あのFAXはコンテチェックで足されたものだったかもしれない。
小黒 絵コンテを上げられて随分経ってからだと思いますけど、佐藤さんは「いや、ちょっと甘かった! もっと変わった追加してほしい!」と言ってましたよ。
佐藤 そうだっけ。『ウテナ』のコンテは「メタなのか、演劇なの? リアルなの? どこを目指せばいいんだ?」というのを掴みかねながらやっていて。その頃にやっと掴めてきたんじゃないかな。
小黒 ああ、なるほど。
佐藤 あるいは、もっと他にやり方があったと思ったのかもしれない。
小黒 どうもありがとうございました。
佐藤 いや、こちらこそ。自分もこういうのをやるとは全然思わなかったけど、勉強にはなりましたね。
小黒 そうですね。もっと普通の回、キャラクターを掘り下げる回とかを頼んだほうがよかったかもしれない。
佐藤 (笑)。いや、そういうのはやれる人がいっぱいいるんじゃない?
小黒 なるほど。
佐藤 だからあれですよ。『ビバップ』でもやり手のいなさそうな話が来る、とかね。それはそれで、自分にとっての勲章になるじゃない。
小黒 それでいうと、『(天空の)エスカフローネ』(TV・1996年) 15話「失われた楽園」は割と普通の話ですよね。
佐藤 亡者が黄泉の国へ行進していくような、「ロボットものなのこれ?」というシーンがあったから、やっぱりちょっと特殊な回かなとは思ったかな。
小黒 この頃、佐藤さんはそろそろフリーになるぞと思われていたんですか。
佐藤 どうだったかな。必要な時が来たら、東映を辞めてもいいという気が、あったはあったよね。『ユンカース』の時も「それを作るのは許さない」と言われたら、「辞めてやります」と言うつもりだったから。
小黒 なるほど。
佐藤 TVシリーズの『まほTai!(魔法使いTai!)』(TV・1999年)の時だったと思うけど、制作に「この作品をやりたい」と言ったら「辞めてから、やっていただかないと」ということだったので、「分かりました」と言って辞めたように記憶しています。