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佐藤順一の昔から今まで (16)子育てとアシカ曲芸のゴムマリオくん

小黒 作品歴から話が外れますが、佐藤さんにお子さんができたのはいつぐらいですか。

佐藤 31歳の時ですね。『ユンカース(・カム・ヒア)』をやってる時に「シナリオの完成と長女の誕生とどっちが早いか競争ですね」みたいなことを言ってたんだよね。

小黒 ということは1991年ですね。前にもうかがいましたけど、「よいお父さん」になろうと思われたわけですよね。

佐藤 まあね。できる限りそうしたいなとは思ってた。

小黒 やっぱり、子供ができると生活パターンが変わりますか。

佐藤 変わるね。生まれたのが『ユンカース』の絵コンテ期間なんですよ。TVの仕事をスパッと止めて、絵コンテ作業の時間をもらってた。子供の世話をする時間があったから、公園に行って遊んだりしていて。そういうふうに遊びながら、コンテの内容を考えたりもしていましたね。

小黒 お子さんができたことが仕事にも影響しているわけですね。

佐藤 しているよね。実際に近所の子供達の様子を見ていたわけだし。机に張り付いてガリガリとやっていたんじゃなくって、外に出て色々考え、思索する時間がちゃんとあったな、というふうに思う。

小黒 これも以前にうかがいましたが、お子さんが生まれてからは、東映で仕事していても、晩ごはんの時間には車で自宅に帰って、家族と一緒にご飯を食べて、またスタジオに戻るような暮らしをしていたんですよね。

佐藤 そこまでじゃなかったかもしれない。でも、子供が小さい時は、なるべく生活を優先で考えてたね。小学校に上がってからもね、授業参観が何日かあったら必ず一日は行く、と決めていて。だから、例えばお父さんがアニメの仕事やってることで、子供が何かつらい思いをするんだったら辞めようと思ってたからね。

小黒 凄い。

佐藤 で、辞めた場合はどんな仕事ができるかなって考えてたからね。

小黒 そこまで。

佐藤 うん、そうそう。

小黒 実際にそういうことがあったんですか。

佐藤 ないです。そんなに気にされてなかった(笑)。

小黒 作品歴に沿った話に戻ります。まず『美少女戦士セーラームーンSuperS』(TV・1995年)と、『美少女戦士セーラームーン セーラースターズ』(TV・1996年)ですが、この2作品は『S』ほどは気負ってないですよね。

佐藤 『SuperS』は、タイガーズアイが出てくるやつですね。

小黒 そうですそうです。「アシカ曲芸のゴムマリオくん」が出てるやつですよ。

佐藤 そうそう。球体シリーズみたいなものを勝手にやってるやつだ。

小黒 読者に説明すると、佐藤さんが演出した回だけ、出てくる敵モンスターのレムレスが親戚なんですね。

佐藤 そうそうそう。

小黒 「玉乗りゾウ使い エレファン子さん」と「アシカ曲芸のゴムマリオくん」。あと「風船女 プー子ちゃん」とかね。ゴムマリオは「いつぞやは、僕のまたいとこの風船女プー子ちゃんがお世話になったぜ!」なんて言うんですよね(140話「ミニが大好き! おしゃれな戦士達」)。

佐藤 勝手にアドリブで作って楽しんでた頃だね。

小黒 『SuperS』の頃は、脚本打ち合わせには出られてるんですか。

佐藤 どうだったかなあ。出れてないんじゃないかなあ。

小黒 レムレスをどういうものにするかは、演出権限で決められたんですね。

佐藤 そこは自由度高かったんだろうね。だから、気負うっていうよりも、遊んだほうが勝ちみたいな感じでやってたのかもね。

小黒 なるほど。『SuperS』で、佐藤さんが最初にやられたのが132話「お似合いの2人! うさぎと衛の愛」という、衛の後輩が出てくる話なんですけど、覚えてないですか。

佐藤 覚えてないんすよ。

小黒 始まり方が斬新で、ファーストカットは歩いてる2人の後ろ姿を、30秒ぐらいの長回しで見せているんですよ。

佐藤 マジか(笑)。

小黒 後半の風船女プー子ちゃんのアクションで枚数を使うので、その分、止めたのかと思ったんですが、覚えてないですか。

佐藤 (笑)。覚えてないですが、当時だったらやっぱり枚数の意識はしてたんじゃないかな。

小黒 『メモル』の「忘れ草」の時でも、最後にメモルが自宅に帰ったところを、背景だけ見せていましたよね。

佐藤 そういう手はよく使っていますね。画で表情を動かすと、役者さんの芝居が縛られてしまうんだけど、ここは自由に演じてもらいたいというところもあるんです。そういう時に、画ではあんまり描かないようにして、キャストが演技を自由にできるようにすることは、よくあるよね。その場面だったら、画でコントロールする以外のやり方で、その2人の関係性みたいなものを出そうと思ってるんじゃないかな。

小黒 『セーラースターズ』の話になってしまうんですけど、「セイヤとうさぎのドキドキデート」(181話)という話があって、ムーンが決めゼリフを言っている間、ムーンでなくセーラーアイアンマウスをずっと見せているんです。これは単純にアイアンマウスを描きたくてそうしているのかと思うのですが、覚えていますか。

佐藤 覚えてはいないけど、そういう外しはやりそうだよね。

小黒 やりそうですね。

佐藤 『セーラームーン』もシリーズ長いから、色々外したくなるんだよね。

小黒 「ドキドキデート」自体は艶っぽくてよい話でした。

佐藤 うさぎとセイヤ君がいい感じになりそうなやつでしょ。ちゃんとロマンチックにやろうとした記憶があるなあ。もしかしたら、うさぎが浮気をしそうな感じもありつつみたいな。

小黒 そうです。観返すと「本当に衛はうさぎのことが好きなのか」「この2人、大丈夫か!?」とか、ハラハラしますね (笑)。

佐藤 その時じゃないかもしんないけど、少女マンガの編集をしてる人と、色々話す機会があったんだよね。その時に「少女マンガの鉄則」について聞いて、なるほど! と思ったんですよ。その鉄則とは「主人公のターゲットの男の子は、どんなことがあっても主人公を一途に好きでいなくてはいけないけれど、主人公は誰を好きになっても構わない」ということなんです(笑)。だから、主人公は浮気をし放題なのである、それが少女マンガである。そう思ってやってるかもしんないな。

小黒 『SuperS』に話を戻すと、フィッシュアイが、セーラームーンとちびムーンに「いつもそんな短いスカートで飛んだり跳ねたりして、恥ずかしいと思ったことないの?」って聞くんですよ(140話「ミニが大好き! おしゃれな戦士達」)。

佐藤 ああ、はいはい。

小黒 それに対して、2人が「ないわ!!」と自信満々に答えるんです。これは佐藤さんが入れたんですかね。

佐藤 いや、それはシナリオにあったと思う。シナリオのセリフを覚えてるよ。

小黒 なるほど。『セーラームーン』としては、きわどいとこを突いてますよね。

佐藤 そうだよね。『セーラームーン』で、そのセリフを言うのは面白いなと思って入れた記憶があるかな。

小黒 マーキュリーがいたらきっとショックを受けるとこですよ。「みんなも恥ずかしいと思っていたのに」みたいな。

佐藤 「え、恥ずかしくなかったんだ」って(笑)。

小黒 そんなこんなで、『セーラームーン』は少しずつお付き合いが薄くなっていくわけですね。

佐藤 そうだね。

小黒 なぜかというと、ひとつには同時期に『ゲゲゲの鬼太郎』(4期)(TV・1996年)があると。

佐藤 そっか、『鬼太郎』がその頃か。

小黒 『セーラースターズ』と同じ年なんですよ。

佐藤 確かに。もらってるリストがすげえ役に立つね。

小黒 『鬼太郎』はどのような意気込みで取り組まれたのでしょうか。

佐藤 やりたくてやったんだよね。「やりたい」と言って入れてもらったのか、やりたいと思ってたら呼んでもらえたのかは覚えてないけど。『鬼太郎』は、多くの演出さんがそうだと思うけど、やってみたいんだよね、やっぱり。

小黒 なるほど。

佐藤 歴史の中で何度も作られていくんだけど「自分の『鬼太郎』」をちょっとやってみたいんだよね。

小黒 細田(守)さんも「同じ原作を色んな演出家がやっているから、作り甲斐がある」と言ってましたね。

佐藤 それもそうだし、やっぱり水木先生の作品の独特な空気感をトレースしたい。原作からアレンジされてアニメっぽくなってはいるんだけど、「『鬼太郎』はこうではないか。水木作品はこうではないか」という試みが、それぞれのシリーズにある。4期は特に水木しげるテイストが強めに出てるシリーズでもあったしね。

小黒 3期が原作から離れたので、今度は原作に近いところに戻ろうという意識があったんでしょうね。

佐藤 (シリーズディレクターの)西尾大介の意志もでかいと思うし、東映の清水(慎治)さんも『鬼太郎』が好きで、なんなら最初の「墓場鬼太郎」をやりたい、ぐらいのことをその頃から話してたから。自分も水木さんのテイストを活かしてやりたいな、とは思っていたので、そういう意味では前のめりになって取り組んでいるシリーズかな。


●佐藤順一の昔から今まで(17) 『ゲゲゲの鬼太郎(4期)』と『地獄堂霊界通信』に続く


●イントロダクション&目次