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佐藤順一の昔から今まで(17)『ゲゲゲの鬼太郎(4期)』と『地獄堂霊界通信』

小黒 『鬼太郎』で佐藤さんが演出した「逆襲!妖怪さら小僧」(33話)で「水木ビンタ」をやっていますよね。あの「ビビビビビッ」と平手打ちをするやつ。あれを映像でやったのは初めてだと思います。

佐藤 はいはい。あれも「やりたいこと」だったんだよね。

小黒 他に『鬼太郎』で試したかったことはあったんですか。

佐藤 なんとなくですが、原作独特の抜けた感じのセリフがスポイルされていくので、そういうテイストは入れたいな、というのはあったよね。

小黒 具体的には?

佐藤 やっぱりねずみ男の描き方かな。「ねずみ男ならこうするかな」というイメージがそれぞれの人にあると思うんだけど、俺の持ってるねずみ男の感じを出そうとしてる。

小黒 佐藤さんが思うねずみ男っていうのは、あんまりキャラクターが濃くないんですか。

佐藤 えっとねえ、視点みたいなことかな。とにかくお金が欲しくていつも腹を減らしてる。その割になんか自由でしょ。今思い出したものだと「怪奇!人食い肖像画」(84話)の時に、若い妖怪連れてこいって言われるんだけど、子泣き爺にカツラをかぶせて子泣き小僧にしてみるか、なんて思った後で、本当にカツラをかぶせて連れていって、やっぱり無理あったかなあと言ったり。そんなテイストなんだけど、分かりづらいかな(笑)。

小黒 間抜けってことじゃないですよね。

佐藤 そうだね。説明が難しいけど、「ねずみ男らしさ」みたいなものだよね。ただの守銭奴になっちゃうと、ちょっと違うかなと思う。ダメ人間味というかね。

小黒 なるほどなるほど。

佐藤 鬼太郎もただのヒーローじゃなくって、どこかちょっとボヤッとしてる。それでいて、「あ、これはやっぱり人間とは感覚が違うな」っていう怖さがチラチラ見えるところだね。

小黒 この取材の前に佐藤さんの演出回を観返してきたんですが、「雪コンコン! 笠地蔵」(51話)が傑作ですよね。

佐藤 あ、あれはよいよね (笑)。

小黒 本放送の時は『鬼太郎』にしては食い足りないと思ったはずなんですけど、歳を重ねて観ると、このしみじみとした味わいがたまらんみたいな。

佐藤 爺さん婆さんのあの会話とかね。

小黒 だけど、どう見ても、平成のお爺さんお婆さんじゃない。

佐藤 違う(笑)。戦前だよね。

小黒 でも、山を下りてくると現代だっていうね(笑)。

佐藤 (笑)。土産物屋に行くと、その店が今風の観光地になってたりするんだよね。

小黒 そうそう。あんなお店では、昔風の笠は売れないだろうなあと思いますよね。

佐藤 普段どうやって暮らしてんだよ(笑)。『鬼太郎』の原作に昔話の「笠地蔵」をアレンジした話があって、それをさらに脚本で膨らましたんだったかな。「趣味」に合ってる話だったよね。なんにも起こらないし解決もしないっていう。

小黒 あの話は妖怪を倒してないですからね。一本ダタラという妖怪が出てくるんだけど、餅をあげたら「帰って寝るよ」と言って帰っていっちゃう(笑)。

佐藤 そう、あの妖怪の感じも、そうなのよ。子ぎつねとのやりとりも「許すよ。さてと、喰うか」「えー!?」「許すけど喰うよ」みたいな(笑)。

小黒 そうそう。許すことと食べることは関係なかった。

佐藤 あの辺のテイストは、もしかしたら、演出で足したのかもしれない。水木ワールドはこうである、っていう。

小黒 「雪コンコン! 笠地蔵」は、ちょっと大人向けのアニメでしたよ。

佐藤 そうだよね。細田守が頑張って雪を降らしてましたから(笑)。

小黒 この回とさっきも触れた「怪奇! 人食い肖像画」(84話)で、細田さんが演出助手だったんですよね。

佐藤 そうそう。

小黒 当時から見どころありましたか。

佐藤 その時点では、演出家としての見どころは分からなかったけど(笑)。相当大変な作業を「雪コンコン」ではさせちゃったな、とは思う。デジタルでは、雪はツールで降らせるけど、当時は雪セルを作っていたからね。そして、降り方によって動く速さを変えなきゃいけない。雪セルは兼用なんだけど、全カットに入れるから。自分でも経験あるけど、助手は素材作りが大変なんですよ。

小黒 どの話も面白いんですけれども「もち殺し! 妖怪火車」(45話)。

佐藤 ああ、火車。

小黒 妖怪が、親のお通夜にも来ない子供達を懲らしめようとする話ですね。脚本がこういった話だったんですか。

佐藤 あれは、脚本どおりに近いかな。

小黒 ご自身的にはどうだったんですか。

佐藤 ちょっと分からずにやってるとこはあるかもね。

小黒 つまり、この物語で妖怪側に肩入れしていいのかということですね。

佐藤 そうそう。普段はある程度、自分で演出のフォーカスを当ててやれてると思うんだけど、「もち殺し」はいまいちフォーカスが当てられなかった記憶がある。

小黒 問題意識のある話ですよね。だけど、死んだお母さんが「あんたらが頑張ってくれてるのが、私は嬉しいんだからいいのよ」と言ってしまうので「え! そんなに簡単に許しちゃうの!?」と思いました。

佐藤 そういう話だったね。ただ、それもある意味、水木さんテイストかなと思って。でも、脚本がどうなっていて、それを変えたのかどうかは覚えてないなあ。

小黒 少なくともシナリオ打ちで、意見をガンガン出したりはしてないんですね。

佐藤 多分、してないですね。

小黒 『鬼太郎』の時は話を選べたんですか。

佐藤 話は選ばないけど、シナリオ打ち合わせには基本出てたかな。「人食い肖像画」だけは、オリジナルでこういうのやりたいんだけど、って提案したやつですね。

小黒 「人食い肖像画」はどんなところがやりたかったんでしょうか。

佐藤 ねこ娘が四つ足でアクションするところがやりたかったんだけど、どちらかというとしっとりした話にした。ねこ娘が歌うところが山場になっているけど、ギリギリ四つ足アクションもやれてるのがね。

小黒 そこなんだ(笑)。

佐藤 四つ足アクションがやりたかったんですよ。貝澤(幸男)の回(3話)で、地下鉄の暗いところでバトルしてる時に、ねこ娘が四つ足で跳ねてるのがめっちゃかっこいいなと思って。「ねこ娘のこれやりたーい」と、ずっと思ってたんだけど、なかなかその機会がなかったので、自分から「ねこ娘の話がやりたいです」と言った。

小黒 なるほど。佐藤さんの回は、アクションよりは泣ける話が多かった印象なんです。「妖狐・白山坊の花嫁」(39話)もそうだし、「怪談! 妖怪陰摩羅鬼」(24話)もそうですね。これはたまたまそうなってるんですか。

佐藤 そのはずです。もしかしたら、プロデュースサイドで「こういう話が合っているんじゃないか」と組み合わせをしたかもしれないけど、こちらからのオーダーじゃないんだよね。

小黒 劇場版の『ゲゲゲの鬼太郎 おばけナイター』(映画・1997年)はいかがですか。

佐藤 『おばけナイター』をやりたいと言ったのは脚本の島田満さん。

小黒 そうなんですね。

佐藤 打ち合わせで、島田さんと意見が合わなかったのは最後の展開についてですね。メインのゲストの三太郎君が妖怪バットを使って、ついにホームランを打ってすっきりする、という話を島田さんが書いてきたんです。野球少年が夢を叶えた爽快感みたいなものを描きたいと言っていたんだけど、妖怪バットでホームラン打っても、多分すっきりしないので、僕が「ここはホームランを打てないほうがよいです」と主張して、結構バトルになったんです。

小黒 なるほど。

佐藤 「じゃあ、一回コンテでやってみるので、それでもし違うようだったらもう一回打ち合わせしましょう」となったんじゃなかったかな。

小黒 で、絵コンテの内容でOKだったんですか。

佐藤 それでダメ出しは来ていないので、一応はそうかな。

小黒 『鬼太郎』を総括すると、佐藤さんにとってはどんな作品でしたか。

佐藤 それまでは女児ものが多くて、少年ものもやりたいと言っても、なかなかできなかった。『鬼太郎』は少年ものとは言えないかもしれないけど、いつもと違うことができた。笑いのテイストも、いつもやってるのとはちょっと違うし、ホラーっぽいテイストも色々試せたんだよね。そういうことで、楽しかった印象はありましたね。4期の『鬼太郎』は何度も観直しているし、観直して面白いと思います。

小黒 他の研修生の方のお仕事はどうでした?

佐藤 それほど意識はしてなかったかもしんないね。ただ、シリーズディレクターが西尾大介なので、彼からダメ出しをもらったりはした。それについてはシリーズの方向性とか仕事の仕方がそうなんだ、ということは分かるので、別に揉めたりもしなかったし。

小黒 西尾さんと同じ作品に参加するのも珍しいですよね。

佐藤 そうなんです。珍しいんですよ。あんまりないもんね。

小黒 この頃の作品としては『地獄堂霊界通信』(OVA・1997年)もありますよね。

佐藤 はいはい。

小黒 佐藤さんにしては珍しいテイストですし、東映としてもちょっと珍しい感じですよね。

佐藤 そうね。これは東映ビデオから来た企画ですね。

小黒 どういうプランで臨まれたのでしょうか。

佐藤 東映ビデオからオファーが来て、やることになりました。それで原作を読んだら、ファンがどういうところを面白がっているかっていうことも分かってきて。原作の世界を活かして、怖いところはちゃんと怖く、楽しいところは楽しく。そして、少年達を愛らしいものとして描く、みたいな目標を定めているはずです。

小黒 なるほど。

佐藤 これは、実写の映画も同時に進んでたのかな。

小黒 そうなんですね。

佐藤 こちらはより原作に近い方向性にしようと思ってやっていました。

小黒 アニメ版のキャラクターデザインは原作に近いですが、画作りは原作とちょっと違いますよね。鉛筆でグリグリと描いていて、相当画が濃いですよね。

佐藤 そうそう。少し汚いくらいに、ゴチャゴチャと描いていく感じでいきたいと思ったんです。現場がトランス・アーツで、東映じゃないんですよ。スタッフが全然知らない人達なので、演出として細田雅弘君がついてくれてたんじゃなかったかな。方向だけ示して、現場のことは細田君にまとめてもらった記憶がありますね。

小黒 クレジットだと監督が佐藤さん、演出は佐藤さんと細田雅弘さんの連名ですね。これは2話構成の作品ですが、前半が佐藤さんで後半が細田さんとか、そういうわけではないんですね。

佐藤 絵コンテは、1本目が俺で、2本目を細田君がやってたはず。

小黒 演出処理は両方とも細田さんなんですね。

佐藤 確かそうですね。あ、一応両方ともレイアウトチェックまではやったかも。


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