COLUMN

第811回 次作・次次作の脚本中~『いせれべ』の話(3)

——という訳で、この後2シリーズ同時にシリーズ構成・脚本作業中!

 ずっと画を描く仕事をし続けていると、社内(ミルパンセ)でスタッフの皆が汗水垂らして画を描いている中、自分一人“PCに向かってテキストを打ち続けるだけの毎日”ってどこか罪悪感があるものです。しかし、これもアニメ(フィルム)を作るのに必要な仕事とあらば、しばらくの間は頑張ります。と、こう言うと本職のライター(脚本家)さんらに「我々だって苦労して書いてる!」と反論されそうですが、それはこちらも理解しているつもりです。その上で逆にご理解いただきたいのは、現状アニメ業界の“労働時間に対するその報酬”に関して、脚本とアニメーターでは“雲泥の差”だということです。これをなんとかしたくて、ウチは演出やアニメーター(極端に言うと、去年入った動画マンであろうとも)志願する者には脚本も書かせるようにしています。これは基本、ウチが時給換算の社員制だからできることで、役職の違いによる不公平な所得格差を作らない、というのが目的。ご想像のとおり板垣発の提案です。あ、前回も書きましたが、プロのライターさんが必要な場合は、当然業務委託で依頼させていただくようにはしています。
 で、前回の続きで『いせれべ』話。音響監督の続き。40数曲分のメニュー作り&発注は納谷(僚介)音響監督にお任せ。で、選曲は全て板垣がやり、時々納谷さんにアドバイスをいただき調整。自分は曲の編集はあまり好みません。逆にシーンをまたぐほど長く貼り続けるのが好きで、そうすると意外なシーンで曲の方も偶然、転調の部分が当たったりして、それが予想外の面白さを生み出します。アニメは所詮集団作業。どうせ何から何まで自分の思いのままにならないなら、選曲は“偶然”と“不可抗力”で予想外のモノを足すセクションだと俺は考えています。
 そして、前回予告したとおり、『いせれべ』の“総監督”について。よくある疑問として、

監督がいて、さらに総監督って何する人?

この説明は非常に難しいのです! ハッキリ結論から言うと、

各会社(スタジオ)、各作品毎によって違います!!

から。例えば自分の知るところで言うと、『キャプテン翼』(2001〜2002)でお世話になった大ベテランの杉井ギサブロー監督は『タッチ』『飛べ!イサミ』など、作品の多くで総監督を名乗られています。これに関して杉井監督ご自身に尋ねたところ、「僕は監督の監督なんだよ」と仰ってて、『キャプテン翼』の時もチーフディレクター・今掛勇さんを監督する、という姿勢だったようです。実際「今掛君、僕の下で監督やらない?」と声を掛けたと聞きました。ちなみに当時『キャプテン翼』が終わってから、2回ほど「板垣さんに監督(チーフディレクター)を」と杉井監督からのご指名があり、プロデューサーさんからお話をいただいていたのですが、企画自体が実現せずで残念でした。まだ初監督『BLACK CAT』をやる前だったので、もし実現していれば、色々勉強させていただけたはず、と今でも思うのです。
 じゃあ、富野由悠季監督が名乗る総監督は、伝え聞いたところでは文字どおり“総てを監督する”ということらしいです。実際どのシリーズも他の演出家よりコンテを描き、人一倍コンテを修正し、レイアウトのチェック、さらには編集までしているメイキングを見て感動したのを覚えています。出﨑統監督も『家なき子』で珍しく総監督クレジットになっていますが、こちらも富野監督の場合と近く、全話コンテ+レイアウトチェックと、やっぱり誰よりも仕事している監督です。
 で、今回の“総監督・板垣 伸”はと言うと……

 続きは次回ですみません。