小黒 作品の話をすると、『ファイ・ブレイン』って登場人物も生真面目だし、作品としても生真面目に思えるんですが、これはどうしてなんでしょうか。
佐藤 生真面目? 最初に話をもらった時に「『パズルを使ったアニメ』って、どうやって作ればいいんだろう」と考えたんです。それが一番の悩みどころで。パズルデザインの郷内(邦義)先生が、物語作りのことも含めてパズルを考えてくれる方だったのでなんとかなったんですけど。例えば「迷路をネタにしたパズル」をやるとすると、主人公がそれを失敗させるのが難しいんです。
小黒 物語を作る上で、パズルに失敗する展開も必要になってくるわけですね。
佐藤 そうそう。1度目は上手くいかないけど、主人公の努力なり頑張りで切り抜けて解決するっていう流れが欲しいんですけど、迷路でそれをやろうとすると、その迷路がインチキか、主人公がなにか見落としとするぐらいしかなくて、それも1回ぐらいだったらなんとかなるんだけど。
小黒 ええ。
佐藤 毎週色んなパズルで必ずピンチと切り抜けを設定しなければいけないのを、どうやってクリアすればいいのかっていうのが分からなかった。シナリオを書いてからパズルを決めるのも変だし、パズルを決めてからシナリオを書くのも難しいし、どうすればいいんだろうねっていうところのスタート。だから、若干生真面目な感じになってるかもしれないですよね (笑)。弾けすぎて、パズルが成立してないのもダメだし、データ放送があるので、パズルをちゃんと見せる必要もあるから、途中を省略して「なんとかなりました」もダメ。パズルもパズルとして成立しなきゃいけない。
小黒 例えばマンガ原作で同じような作品だと、主人公達にもうちょっと遊びというか、崩してるところがあると思うんですけど、『ファイ・ブレイン』はきっちりと作られてる感じがするんですよね。
佐藤 そのテイストは脚本の関島(眞頼)さんかな。キャラクター造形をメインでやってくれたのは関島さんなんですよね。例えば主人公のカイトの両親が、パズルで死ぬっていう話が出てくるんですけど、本物の両親じゃないという展開を提案したのは僕なんですよ。悪者の組織がカイトを育てるために遣わした構成員だった可能性を提案して、それを元に先の展開がわーって変わっていったんです。関島さんはきちっと作っていくタイプだったので、僕がそれを散らかしていく役目だったことはありましたね。
小黒 放送が始まった頃に、佐藤さんは「自分が少年ものをやるのは珍しいから嬉しい」というようなことをおっしゃってたんですよ。やってみて新鮮でしたか。
佐藤 そうだね。ただ、想定していた少年ものって、もっと低学年向けだったんだよね。『どれみ』と同じぐらいの世代の男の子向け作品をやるという気分だったので、それよりは対象年齢が高いですよね。なので、思っていたのとは違うんですけど、主人公が男の子で、友情とかをちゃんと口に出しつつ戦うってアニメはわりと楽しかったです。
小黒 よしやるぞ、みたいなノリがありますもんね。
佐藤 そうそう。でも、結局、ルーク君がカイト大好きってなって (笑)。
小黒 1期の最後でちょっといい仲になりますよね。
佐藤 ラブラブ感が出ちゃったんだよね(笑)。あれは友情のつもりでやってるんですけど、なんとなくその。
小黒 大人アニメの雰囲気が。
佐藤 (笑)。どうしてもそんな感じになっちゃうんだなって思いましたね。
小黒 次が『わんおふ -one off-』(OVA・2012年)です。オリジナル作品ですが、お話も佐藤さんが作ったんですか。
佐藤 これはTYOアニメーションズと広告代理店で作った企画で、お話作りからやってほしいという依頼が来たんです。一応原案から作ったんですけど、色々と大変でしたね。
小黒 大変だったというのは?
佐藤 TYOは元々CMの会社で、HONDAがスポンサー的なかたちで関わることは決まっていたんですよ。僕は早い段階でHONDAの意見を聞いておきたいと言ったんだけど、TYOの山口(聰)社長によれば「内容はお任せする、好きにやってもらっていいと言われている」ということだったんです。それで書いたプロットは、女の子がバイクに乗って世界が広がるとか、バイクって素敵だなと感じるというものでした。だけど、そのプロットを持っていったら、HONDAさんから「バイクを高校生にお勧めするアニメにはしないでくれ」と言われて。
小黒 ああ。それで、いまひとつバイクの存在感がないんですね。
佐藤 そうです。「だから、最初に話を聞こうと言ったじゃない!」ということも含めて(笑)、色々と面白かったです。
小黒 実際の制作はどうだったんですか。
佐藤 最初はプロット、構成までやったら、現場は監督に任せることになっていたんだけど、色々あってコンテにもかなり手を入れることになりました。
小黒 さっきも話題になったように『わんおふ』では儀武さんが犬の役をやってるんですね。それに緒方(恵美)さんも出てますね。
佐藤 出てます。その辺のキャストに関しては『たまゆら』と同じで、「この役はこの人に」と思った分は、ほとんど決め打ちでお願いしてますね。
小黒 キャストに関しては、小林ゆうさんの弾けっぷりが印象に残りますね。
佐藤 小林ゆうさんはオーディションだったかと思います。苦労が多かった作品なので、キャストと音周りでは、やりたいことをきちんとやりたいと思ってやってましたね。
小黒 2013年は『宇宙戦艦ヤマト2199』(TV・2013年)の絵コンテがありますね。戦闘シーンの少ない回を希望されたんでしょうか。
佐藤 これは総監督の出渕(裕)さんから最初七色星団の話を振られていたんですが、スケジュールが合わなかったのか、やっていないです。
小黒 そうなんですね。
佐藤 それで、次に「これは是非」って言われたのが、イスカンダル到着の回(第24話「遥かなる約束の地」)でした。その時も、スケジュールがばっちり空いてるわけじゃなかったんだけども、これはやるしかないだろうと思って引き受けて。結局、打ち合わせしてからコンテが上がるまで、1年近くかかってるんです(笑)。なかなか手が付けられなかったんだけど、催促もなかった。
小黒 でも、公開には間に合ってますよね(笑)。
佐藤 そう(笑)。もう何ヶ月も経ってるのに催促がないとおかしい、これ誰か別の人がやったのかなと思ったけど、お仕事として受けているのでコンテをまとめて「遅くなりましたけども一応終わりました」と言ったら、「前の話数がまだ上がってません」って。だから、意外と早かったそうです。
小黒 前半で女子の水着シーンがあるじゃないですか。佐藤さんのコンテでもあんなにたっぷりした分量があるんですか。
佐藤 ありますあります。でも、やっぱりSFは向いてないなと思った。飛び込んだ子達が第三艦橋の窓から見えるというかたちなんだけど、実際に寸法を測ると相当な深度だから、素潜りで行けねえだろって(笑)。そういうことに気づかないっていうね。
小黒 あー。
佐藤 第三艦橋まで素潜りで行くって相当なスキルで、スキューバでもないと行けないだろうし、光も届かないから見えないかもしれないということに、後で気づく。SFは向いてないなって思うんですよ (笑)。
小黒 なるほど。コンテに出渕さんの直しは入ってるんですか。
佐藤 そんなに入ってないですね。まんまに近い感じだったと思います。
小黒 結論としては『ヤマト』に参加できてよかったと。
佐藤 よかったですね。最初のTVシリーズを観返して、沖田艦長が「ありがとう、以上だ」って言うところでは、アングルをなるべく合わせるようにして(笑)。他にもイスカンダルから出発するシーンは、沖田艦長が「帰ろう、故郷へ」と言った後、真田さんが「錨を上げーい」って言ったところで音楽が始まるようにコンテで指定してる。
小黒 なるほど。
佐藤 完成したら違う音楽が付けられていて、「ええっ」となった (笑)。その後のバージョンでは直っていたから「そう、これこれ」と満足しました 。
小黒 『2199』はベテランのお歴々が参加しましたよね。
佐藤 そうですね。みんな思い出を、思いの丈を語る感じが面白かったですね。「俺もヤマトをやれる」っていうね。それ程の作品ですよね、僕らにとっては。