COLUMN

第237回 そこにいる気分 〜ゆるキャン△〜

 腹巻猫です。劇場版『GのレコンギスタIV』と『同V』を続けて観てきました。映像もドラマも高密度で、ちょっと目を離すと置いていかれそう。エネルギッシュな演出に感嘆しました。劇場限定販売のサントラ盤もゲット。今後どうなるかわかりませんが、本当に劇場限定だとしたら、なかなか入手のハードルが高いサントラ盤です(購入には劇場の座席指定券か半券が必要)。菅野祐悟さんの音楽はすばらしく、大満足でした。


 もうすぐ夏休みも終わり。夏といえばキャンプだ。今回はキャンプをテーマにしたアニメ『ゆるキャン△』の音楽を聴いてみよう。もっとも『ゆるキャン△』で描かれるのは、もっぱらオフシーズンの冬キャンプなのだが。
 『ゆるキャン△』は2018年1月から3月まで放映されたTVアニメ。2020年にスピンオフのショートアニメ『へやキャン』が、2021年に第2期『ゆるキャン△ SEASON2』が放映され、2022年には劇場版が公開されている。
 原作はあfろのマンガ作品。志摩リン、各務原なでしこ、大垣千明、犬山あおいの4人を主人公に、キャンプを趣味にする女子高生たちの日常とアウトドアライフが描かれる。
 実在するキャンプ場が舞台になっているのが本作の大きな特徴。実際にスタッフが現地でキャンプを体験して制作の参考にしたというだけに、キャンプ場の風景やキャンプの段取りなどが丁寧に描かれていて、一緒にキャンプしているような臨場感が味わえる。キャンプ場で作る食事、いわゆるキャンプ飯(めし)がふんだんに登場するのが楽しいし、温泉やお風呂のシーンが多いのもうれしい。
 考えてみれば、旅とグルメと温泉はTV番組で人気の題材。2時間ドラマもバラエティもこの3つがそろえば視聴率が取れると言われている。それが全部入っているのだから、すごいアニメである。
 今でこそインドア派の権化のようになってしまった筆者であるが、実は20代から30代にかけて、何度か山に行ったことがある。3〜4日がかりで山に登ったり、山の尾根を歩く「縦走」をした。山で食べるご飯のおいしさや下山したあとの温泉の心地よさも味わった。だから、『ゆるキャン△』に描かれたキャンプの楽しさにすごく共感する。

 本作の音楽は『けものフレンズ』などを手がけた立山秋航が担当している。
 立山秋航は音楽づくりにあたり、キャンプ場に持ち込んで演奏できる楽器を中心に編成を考えたという。使用した楽器は、アコースティックギター、マンドリン、バンジョー、ブズーキ、ハーモニカ、カズー、ティン・ホイッスル、フルート、口笛、バイオリンなど。電気楽器やピアノなどは極力使っていない。キャンプ場に持っていけない、または持っていっても音が出せないからだ。ぬくもりのある素朴なサウンドが、自然に囲まれたキャンプ場の空気を感じさせてくれる。
 スタッフからは、「ケルト」「アイリッシュ」といったキーワードが提示されていた。それを反映して、バンジョー、ブズーキ、ティン・ホイッスルなどの民族楽器が使われている。が、民族音楽にはあまりこだわっていない。行きすぎると、日本のキャンプ場の雰囲気から離れてしまうからである。
 本作の音楽のもうひとつの特徴は、高寺たけし音響監督からのリクエストで「キャンプ場のテーマ」が作られたこと。どのキャンプ場にも使える汎用の曲ではなく、舞台となる実在のキャンプ場それぞれのテーマが作られたのだ。いわば、キャンプ場をキャラクターに見立てた音楽。ユニークなアプローチだ。その代わり、本作ではリンやなでしこら、人間のキャラクターのテーマ曲は作られていない。
 メインテーマとしては口笛とギターなどによる「ゆるキャン△のテーマ」が設定されている。また、なでしこたちが所属する野外活動サークル、通称・野クルのテーマ曲が作られ、いくつかの変奏が聴ける。大きく分けると、リンやなでしこたちの日常を描写するユーモラスな曲と、キャンプ場を描写する大らかな音楽の2種類が柱となっている。
 本作のサウンドトラック・アルバムは『TVアニメ「ゆるキャン△」オリジナル・サウンドトラック』のタイトルで、2018年3月に5pb.Records/MAGESから発売された。主題歌のTVサイズとBGM、ドラマを収録した2枚組である。
 ディスク1から聴いてみよう。収録曲は以下のとおり。

  1. ゆるキャン△のテーマ
  2. オリジナルドラマ その1
  3. SHINY DAYS(TVサイズ)(歌:亜咲花)
  4. オリジナルドラマ その2
  5. キャンプ場のテーマ〜本栖湖〜
  6. 野クルの時間(わちゃわちゃ!)
  7. ソロキャン△のすすめ
  8. ゆるやかな時間
  9. オリジナルドラマ その3
  10. キャンプ場のテーマ〜麓〜
  11. おしゃべりとマグカップ
  12. ごーいんぐマイウェイ
  13. 夜明けの深呼吸
  14. ワクパラ!
  15. オリジナルドラマ その4
  16. キャンプ場のテーマ〜高ボッチ、イーストウッド〜
  17. 野クルの時間(わちゃ、、、)
  18. ごーいんぐユアウェイ
  19. ゆるりの掟
  20. たじたじのた
  21. オリジナルドラマ その5
  22. ふゆびより(弾きがたりver.)(歌:佐々木恵梨)

 面白い構成のアルバムである。
 曲のあいだにドラマが収録されている。それも全部(ディスク2枚)で9本。
 サウンドトラックとドラマCDを合体したようなアルバムはたまに見るが、本作のように曲のあいだに1分半くらいの短いドラマがいくつも挿入されているものは珍しい。
 もっとも本作の場合はドラマといってもリンとなでしこ2人の会話である。テントの中でおしゃべりする2人の声が聞こえてくるような趣向だ。このアルバム全体が、そういう「臨場感」をテーマに作られているように思う。
 そう考える理由のひとつが1曲目の「ゆるキャン△のテーマ」。曲の前にライターで火をつけるSEが入り、焚火が燃える音が続く。曲が始まっても、しばらくは焚火の音がバックに聞こえている。
 この「SE入り」「ドラマ入り」には賛否があるだろう。純粋に音楽だけを聴きたいファンにはSEやドラマは余計なものだ。いっぽうで、アニメの雰囲気を楽しみたいファンにとっては、なかなか気が利いたアイデアだと言える。
 筆者はというと、これは「あり」だと思う。
 思えば劇場作品のサントラもかつては「ドラマ入り」「セリフ入り」が定番だった。「俺たちに明日はない」(1967)のサントラ盤は「オリジナル・ダイアローグ・サウンドトラック」と銘打って(日本版LPでの表記)、劇中のセリフを音楽とともに収録していた。また、大林宣彦監督の「時をかける少女」(1983)のサントラ盤は、原田知世の名セリフや劇中で歌う歌が聴けるアイドルムービーらしい構成。「セリフがなければ、もの足りない」とすら思える名盤だった。こういったアルバムは映像の代替というよりも、「耳で楽しむ映画」と呼ぶべき別ジャンルのメディアではなかったかと思う。
 『ゆるキャン△』のサントラも、そういう「セリフ入り」サントラの流れを継いでいる。リンとなでしこと一緒にキャンプに行った気分が味わえる、バーチャル・キャンプ・アルバムなのである。
 1曲目の「ゆるキャン△のテーマ」は本作のメインテーマ。アコースティックギター、口笛、ハーモニカなどのによるほのぼのサウンドは、『ゆるキャン△』の世界にぴったり。後半、「ゆ〜るゆるゆる」とコーラスが入ってくるのが楽しい。第1話のラスト、なでしこがリンに連絡先を渡す場面などに流れている。
 トラック2からは、ドラマ、オープニング主題歌、ドラマ、と続いて、トラック5が「キャンプ場のテーマ〜本栖湖〜」。リンとなでしこが出会う本栖湖のキャンプ場をテーマにした曲だ。
 5分を超える長い曲で、ひとつのモティーフ(メロディ)をさまざまにアレンジした曲が組曲のように1トラックにまとめられている。劇中ではドラマの展開に応じて分割して使用されている。キャンプ場の情景を描写するだけでなく、物語に沿った音楽として作られているのだ。立山秋航は原作や絵コンテを読み込んで作曲に臨んだそうだから、どう使われるかまで想定してのアレンジなのだろう。
 こうした作り方はほかのキャンプ場のテーマでも基本的に同じ。キャンプ場ごとに違うメロディが作られているのが肝で、曲と場所(キャンプ場)とが密接に結びついている。
 ある場所にいつも流れていた音楽を聴くと、その場所だけでなく、そこで出会った人やそこで起こった出来事を思い出すことがある。『ゆるキャン△』のキャンプ場のテーマもそれと同じ。音楽を聴くと、そのキャンプ場でのエピソードやセリフが思い出される。汎用的な曲では、この感じは出せなかった。キャンプ場という「場所」を大事にした作品にふさわしい、すぐれた音楽演出である。
 トラック6「野クルの時間(わちゃわちゃ!)」は野外活動サークル(野クル)のテーマ。軽快なリズムとヴァイオリンのメロディによる楽しい曲で、なでしこたちの日常やキャンプシーンを彩った。このテーマのバリエーションがトラック17「野クルの時間(わちゃ、、、)」とディスク2に収録された「野クルの時間 (わちゃわちゃわちゃっ!!)」。聴いていると、なでしこと千明とあおいの漫才のようなかけあいがよみがえる。
 トラック7「ソロキャン△のすすめ」はマンドリンをメインにした落ち着いた雰囲気の曲。リンがひとりキャンプ(ソロキャン)に出かける場面でよく流れていた。リンのテーマというわけではなく、ひとりでキャンプをするストイックな楽しさがテーマなのだろう。それにしても、マンドリンのちょっと寂しげな音色はリンによく合っている。
 この曲と対をなす曲が、ディスク2に収録された「キャンプ行こうよ!」。軽快なリズムと笛、バイオリンなどが奏でるにぎやかな曲だ。はずんだ曲調で、仲間とキャンプに行くわくわく感、高揚感が表現されている。「ソロキャン△のすすめ」と並べて聴くと、キャンプの楽しみ方も人それぞれ、いろいろな形があるなと自然に思えてくる。
 トラック8「ゆるやかな時間」は弦のピチカートやパーカッション、ギター、笛などを使ったユーモラスな曲。キャンプのシーンよりも、キャンプの準備やたわいない会話のシーンなどによく使われていた。
 トラック11「おしゃべりとマグカップ」も使用頻度の高い曲で、キャンプ場で料理をしたり、それを食べたりする場面にたびたび流れていた。冒頭から聴こえる口笛が印象的で、この曲が流れてくると「こんどのご飯はなに?」と思うくらい。「キャンプ飯のテーマ」とも呼べる曲である。
 トラック12の「ごーいんぐマイウェイ」とトラック18「ごーいんぐユアウェイ」は同じモティーフのバリエーション。この2曲をはじめ、あとのほうに登場する「ゆるりの掟」「たじたじのた」など、本アルバムにはユーモラスな曲、コミカルな曲がふんだんに収録されている。まったりした雰囲気のドラマと動きを感じさせるユーモラスな曲の対比がメリハリを生み、いい感じの流れを作っている。
 ユーモラスな曲と対照的に、キャンプ場の情景をしっとりと描く曲もある。トラック13「夜明けの深呼吸」はそのひとつ。第5話で、別々の場所でキャンプをしていたリンとなでしこが夜中にスマホで会話するシーンに流れ、ふたりの心のつながりを表現していた。
 同様の曲がディスク2に収録された「富士川賛歌」。こちらは第8話のラスト、なでしこたちが川辺のベンチでまんじゅうを食べながらくつろぐシーンで使用された。この曲では「禁じ手」のピアノが使われている。ピアノと低音の弦(チェロ?)の音がしみじみと響き、ちょっとセンチメンタルな気分になる。後半にはハーモニカも聞こえてくる。夕暮れのひとときに聴きたい、いい曲である。
 ディスク1のラストに置かれた「ふゆびより(弾きがたりver.)」はエンディング主題歌の弾き語りバージョン。第3話でキャンプ場に持ち込んだラジオから流れてくる歌として使用されていた。これもキャンプ気分を感じさせる演出になっている。なかなか味な構成である。
 ディスク2も基本的にはディスク1と同様の構成。「へろりんぱ」「踊ろよフォークダンス」「うんちくかんちく」「ハテナノナ?」など、曲名からしてユーモラスな曲が多いのが特徴だ。続けて聴いていると、だんだんキャンプがハチャメチャになっていくようにも思えるが、ねらいなのだろうか。それも「野クル」らしいし、楽しいからいいけど。

 効果音やミニドラマを挿入したことで、キャラクターと一緒にキャンプしている気分が味わえる本アルバム。『ゆるキャン△』だからこそできた秀逸なサントラだと思う。
 たとえば『けいおん!』のような、ほかの部活ものアニメでも同様のアルバムを作ることができるかもしれない。が、「そこにいる気分」になれるという点では本作に分がある。
 キャンプ場は、年齢も性別も関係性も異なるさまざまな人が集う場所。たまたま近くにテントを張ったことで、初めて会った人と知り合いになったりする。隣のテントでリンとなでしこの会話みたいな言葉が交わされているかもしれない。思い切って話しかけてみてもいい。
 そんなキャンプの楽しさが伝わるアルバムになっているところが、うまいなあと思う。部屋で聴いてるだけではもったいない。この音を持ってキャンプに行くのが、いちばんの楽しみ方だろう。

TVアニメ「ゆるキャン△」オリジナル・サウンドトラック
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