COLUMN

第761回 俺は信じない!

 以前というか、もう20数年前なのでハッキリ“昔”ですか。たまたま俺が、某大手アニメ会社の忘年会に出席した(その年1回だけ)際、あるアニメ作品の原作者先生による提案で、先生ご自身が“賞金”を出して会場の皆でジャンケン大会をすることになったのです。賞金は1・2・3等賞の3段階で、1等賞が新人アニメーターの1ヶ月分の給料くらいでした。その時、会場にはプロデューサー以下アニメ制作スタッフ、アニメーター、監督、声優、アーティストなどなど、数百人入る中勝ち残って1等賞を手にした若者はアニメーター(確か動画マン)で、その際、壇上にてMCを務められた声優の方との会話が、以下のように記憶しています。

MC「ご職業は?」
若者「あ、アニメーターです」
MC「そうですかぁ、良かったですね。普段大変でしょうから、——ねぇ、これで何か美味しいモノでも食べて下さい」 
若者「あ、はい──」(MCの先導で場内拍手~)

 そのMCさんとの他愛のない会話に、第三者の立場ながらも、同じアニメーターを生業にしている自分は、複雑な心境になったのを憶えています。別にそのMCさんは何も悪気なく「おめでとう」を言ったつもりだと思うのですが、自然とその方の口から発せられた言葉に当時自分も若かった故、「え?アニメーターって普段そんなに良いモノ食ってないと思われてるの?」と。一緒にいた先輩も「何か、嫌な感じ」と呟いていました。実際そのMCの声優さん自身が高額ギャラを要求することで有名な大御所だったのも“嫌な感じ”の要因ではあったのですが。
 今度は近年のアフレコ現場で、コ●ナ禍でどの作品も“打ち上げ”がなくなったとの話題を、某声優さんとしていたのですが、その際もその声優さんから「アニメーターさん達の労をねぎらうことができなくて~」との気遣いの言葉が。
 まあ、何が言いたいのか分かる人にはご理解いただけると思うのですが、単純に、

アニメって皆一緒に作っている仲間なはずなのに、アニメーター(作画マン)はそんなに貧困に喘いでいると思われること自体、何だか切なくて、残念!

なんです。別に俺自身はアニメーターとして同情も哀れみも受ける云われはなく、作画の仕事に誇りを持ってやっています。前述の大御所声優様のギャラ分を作画に回して~と言う気もさらさらありません。
 確かに、アニメ制作におけるあらゆるセクションの中で“デジタル化による作業の効率化”が実現しなかった(道具をPCに持ち替えても絵を描く速度自体は対して変わらなかった)セクションが“アニメーター(作画)”です。仕上げもデジタル化のお陰で、“セル・筆”時代より数倍枚数が上がるようになりました。何せクリック・ポンで一気に面が塗れるようになった訳ですから。撮影も“アナログカメラ&フィルム”時代より、1作にかかるスタッフの人数が段違いに減り、期間も圧縮できてデジタル化の恩恵を受けました。美術も素材のコピペやBANKがかなり作業効率を上げました。
 ところが作画はと言うと、想像に難しくないかと思いますが、道具がPCに変わってよくなったのは、せいぜい“消しゴムのカスが出なくなった”くらいです。もちろん、データとクラウド上で設定や素材のやり取りができるようになったのは、デジタル化の恩恵と言えなくもないと思います。でも、それはどちらかと言うと“制作進行の効率化”の成功と言うべきでしょう。むしろアニメーターにとっては、デジタル化により、

高解像度に耐えうる動画線に気を遣い、増え続ける情報量との戦いを余儀なくされた!

だけでした。さらに近年は働き方改革なる、労働時間制限で、もう挟み撃ち状態です。
 この話は次回に続かせて頂きたいのですが、今回の締めに取り敢えずは言いたいこと。

アニメーターじゃない人間が“アニメーターの労働環境を改善”とか言うのを、俺は信じません!

多分、その方達は「描いてくれる人がいなくなったら自分の作品が作れなくなるじゃないか!」と、その実、自分のことしか考えていない人達に板垣からは見えるから。そんなのに利用されるくらいなら、アニメーターが自分で営業・プロデュースができるようになった方が“アニメーターの高給化”には近道かと思います。