小黒 『ロミオ×ジュリエット』(TV・2007年)についてうかがわせてください。これは音響監督ではなく、音響監修なんですね。
佐藤 そうです。音響監督は別の方がいらっしゃったんです。追ちゃん(追崎史敏)が監督で、「音まわりに関してちょっと面倒を見てほしいな」という話が来たので、立ち会いをやったんだと思いますね。だから、アフレコは全話立ち会っていて、音楽に関しては、僕のほうでライン引きしてて、うちの奥さんが選曲をやるという流れですね。
小黒 で、コンテも2本描いている(4幕「恥じらい~雨に打たれて~」と23幕 「芽吹き~死の接吻~」)。
佐藤 そうですね。お手伝いしました。
小黒 で、謎のお仕事に『スケッチブック~full color’s~』(TV・2007年)の「監修」がありますね。
佐藤 そうですねえ。でも、これはほとんど何もやってないんですよね。
小黒 そうなんですか。
佐藤 平池(芳正)が監督をやるので、サポートに付いてほしいという感じでオファーが来たんだと思います。まずは本人がやりたいようにやってもらって、上手くいかない事があったらサポートすればいいかな? ぐらいの感じだったので。
小黒 『しゅごキャラ!!どきっ』は『しゅごキャラ!』の2期ですが、スーパーバイザーとして参加されてますね。これは何をしたんですか。
佐藤 プロデュースをやっていたのが、『ARIA』でも一緒だった金子(文雄)で、「ちょっと助けてもらえませんか?」と相談されたので「金子が困っているんだったら、できる事は協力するよ」という事で、入りました。なので、現場のまとめ役というか何でも屋です。原作の先生や監督と話し合ったり、シナリオ打ち合わせとアフレコ、ダビングには、全部立ち会っていくという感じでしたね。
小黒 全体的に調整をした感じですね。
佐藤 そうなんですよ。
小黒 絵コンテで参加された『ナイトウィザードThe ANIMATION』(TV・2007年)も金子さんの作品ですね。
佐藤 そうですね。『うた∽かた』(TV・2004年)とか、ああいう作画がしっかりしてるやつは金子がやってたと思います。
小黒 なるほど。『キディ・ガーランド』(TV・2009年)で、佐藤さんは絵コンテと音響監督ですね。
佐藤 それも監督の後藤(圭二)さんにお返しをする意味でお引き受けをしましたね(編注:後藤圭二は『ARIA The ANIMATION』『ARIA The NATURAL』に絵コンテ、演出で参加)。
小黒 音響監督はどのようなかたちで?
佐藤 そうですね。後藤さんが監督をやられるに当たって、自分では音響まわりの事ができないのでと依頼された感じでしたね。後藤さんがやりたい事を実現するという立場でよければ、音響監督をしますと話をしましたね。なので、基本的には、後藤さんにアフレコに立ち会ってもらって、「これはこういう画になってますけど、今の芝居でいいですか?」と後藤さんの意図を確認して作っていく。そんな立場でしたね。
小黒 『おんたま!』(配信・2009年)の「スーパーバイザー」はどのような?
佐藤 『おんたま!』は、監督が追ちゃん(追崎史敏)だよね?
小黒 そうです。
佐藤 ですよね。音響監督を立てずに、音響まわりに関して追ちゃんをサポートするようなかたちでやっていましたね。
小黒 で、『墓場鬼太郎』(TV・2008年)の絵コンテがありますが、これはいかがでしたか。
佐藤 清水(慎治)さんからオファーをもらったのかな。誰からオファーもらったか、ちょっと忘れましたけど。
小黒 念願の『墓場鬼太郎』じゃないですか。
佐藤 「面白そうな企画をやってるな」って思ってたとこに話が来て、スケジュール的にもちょうどよかったんでしょうね。
小黒 手応えはいかがでしょう?
佐藤 いや、面白かったですよ。コンテをやったのは本編の映像を観る前だったと思うんだけれども、放映でオープニングを観て「電気グルーヴ!?」って驚いて。オープニングは原作の画を使っていて、それも面白いなと思いました。
小黒 内容に関しては、自分で選べたんですか。
佐藤 いや、シナリオができた状態で、普通にコンテの仕事を発注してもらってやっていますね。特にアレンジはしてないですね、ほとんど。
小黒 元々、ああいう話だった?
佐藤 そうですね。水木(しげる)テイスト満載にするっていう意図もあった企画なので、楽しかった。
小黒 他の方のコンテとか、見れたんですか。
佐藤 いや、見れてないかな。シリーズディレクターの地岡(公俊)君の1話は観たかもしれないけど。キャラ表を見ただけで「ああ! これですよね!」って感じあるじゃないですか(笑)。なので、迷わずできた気がしますね。
小黒 原作のコマをそのまま使ったりしているんですか。
佐藤 そこまではやっていないと思うけど、なるべく原作のテイストを出すようにしてやってたと思いますね。
小黒 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』は絵コンテを描いているんですか。
佐藤 あんまり記憶になくって。どれがどれだったのかも、ちょっと覚えていないんですよ。今日、その事を聞くと言われていたから、観直してるんですけど、『まごころを、君に(新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に)』と『新劇場版』って同じやつかと思ったら違うんだ、みたいな感じ(笑)。
小黒 違いますよ! 全然違いますよ(笑)。
佐藤 そんな状態だったりするので、うっかり何かを言うと間違った事を言いそうで。
小黒 かなり大勢の人がクレジットされていますからね。描いたとしても、使われていないのかもしれないですね。
佐藤 「過去のコンテの切り貼りで」と言われたので、その通りに切り貼りして渡した事があるんですよ。
小黒 それは、いつ頃の事ですか。
佐藤 いつのどの映画なのか、思い出せないんですよ。
小黒 なるほど。カラーに行った事はあるんですね。
佐藤 カラーに行きましたね。
小黒 じゃあ、『新劇場版』だ。佐藤さんがTVシリーズで絵コンテを描いたパートをなぞって作るプランがあったのかもしれないですね。
佐藤 切り貼りも、そんなに沢山はやってないです。その後は特に話をもらっていないし。
小黒 これはいつか解明しましょう。宿題とさせてください。『迷い猫オーバーラン!』(TV・2010年)という作品がありまして、各話で監督が違うんですよね。
佐藤 ありましたね。
小黒 脚本は既にあって、それを元にして、それぞれの監督が演出するんでしたね。どんなふうに言われたんですか。
佐藤 プロデュース側の意向としては「監督なのでどのようにやってもらってもいいです」「脚本からやってもいいし、こちらで用意する事もできます」だったと思います。それで、脚本は向こうにお願いしてやってもらったんですね。
小黒 佐藤さんが担当したのは最終回ですよ(12話「迷い猫、決めた」)。いや、その後に最終回あるんですけど、それは総集編なので。
佐藤 ああ、そうか。脚本は書いてもらって、コンテはやったけど演出はカサヰ(ケンイチ)さんだったかな。
小黒 かなり悩みながらやられたのではないかと思うのですが。
佐藤 ああ、悩んだかもしれないですね。この頃だとハルフィルムの体制が変わってて、TYOアニメーションズに変わっているんですよね。『うみものがたり(~あなたがいてくれたコト~)』(TV・2009年)もそうやって決めたところはあるんですけど、いつも色々な作品が動いてるので、TYOにはあまり余裕はなかったんです。他社作品のオファーをもらって作品をやってて、その時にTYOで作品制作が始まったら、自社の制作にブレーキがかかるかもしれない。それで、やるかどうかの判断をTYOに預けていた時期があったんです。『迷い猫』もそういう感じで、「やるかどうかは会社で決めて」と言ったら「やる事にしました」と言うので、やる事にしました。
小黒 各話監督制という事で「佐藤順一らしくやる」事が求められたと思うんですが、それについては悩まなかったんですか。
佐藤 どうだったかなあ(苦笑)。特にそれについては意識しなかったかもしれないね。
小黒 この時期だと、『シックスハートプリンセス』(PV・2010年)がありますね。
佐藤 ありましたね。
小黒 TVアニメのオープニング、エンディング風のPVですね。クレジットだと、PV全体の監修と、オープニング部分の絵コンテをやった事になっているようですね。
佐藤 そもそも「村上隆さんがアニメーションをアートとして作りたいと思っている。女児向けのアニメーションを考えている」と聞いていたんです。それで話を聞かせてほしいと言われて、向こうに行きました。自分の経験から「こういう作品の時は、これこれで」「こういう玩具があるんだったら、こんなプランニングをします」「キャラクターを作る時は、こういったかたちでシルエットを大事にしてやります」といったお話をしました。それで終わりかと思ってたら、その後、オープニングを作る流れになって、オープニングやるなら絵コンテもやれないですか、という感じで、気がつくと結構長く関わる事になったんですよね。そこで、小林治さんと仕事をする事になります(編注:『BECK』等の監督を務めた小林治。オープニングの絵コンテで佐藤順一と連名でクレジットされている。この取材の数日前に、自身のTwitterアカウントを通じて逝去された事が明らかにされた)。
小黒 若いほうの小林治さんですね。どういった仕事分担だったんですか。
佐藤 小林さんは、オープニングを実際に作る頃に入ってくれて、最終的なコンテのまとめをやってくれたと思います。僕がざっと描いたコンテを、1本のフィルムになるようにまとめたのが小林さんですね。
小黒 小林さんの印象はいかがでしたか。
佐藤 いや、やっぱり僕らとは違うじゃないですか。我々は、子供達に「何が食べたいの? こういうの食べたいの? こういうのも美味しいよ」という感じで料理して出すというか(笑)。小林さんは「こういうもの食べたほうがいいよ!」って出す感じというか。
小黒 (笑)。
佐藤 「俺、こういうの好きなんだよね。だからこういうの食べたほうがいいよ!」という感じで出すのが、やっぱり自分と違っていたなと。小林さんはアニメーションだけじゃなくて、映画も好きだからなあ。「好きなものが沢山あるんだな」という事と、それをエネルギーにして作っていくところが印象に残っていますね。そこは自分とは全然違うというかね。「何が好きか」に凄くまっすぐな人なんだなって思いましたね。
小黒 なるほど。小林さんとそういう話をしたんですね?
佐藤 それを言葉で小林さんに伝えたかどうかは、覚えてないんですけど、小林さんがやたらと褒めてくれるので、返すかたちでそんな話をしたかもしれないですね。
小黒 村上隆さんの印象は、どうでしたか。
佐藤 村上隆さんは、あんまり会った事のない人種なので……、分かんないですよ(笑)。アーティストなんだろうけども、プロデューサーであり、ビジネスマンでもあるし。その正体がなかなか掴めない感じはずっとありましたね。アーティストだからといって、「俺の作りたいものをやるんだ」っていう感じでもなかったんですよね。『シックスハートプリンセス』だったら、デザイナーをはじめ、周りのスタッフにやりたい事を聞いて、抽出して上げるようなところもあって、「不思議な人だなあ」と思ってましたけどね。
小黒 早く完成するといいですね。
佐藤 まだ完成してないんですかね。
小黒 完成しているのは全15話中の7話までです。
佐藤 そうなんですね。「ベルサイユ宮殿で上映する」って聞いた時、ひっくり返りましたけど(編注:佐藤順一が制作に参加したPVは2010年にベルサイユ宮殿で上映された)。