COLUMN

第721回 40代後半の色々

 たぶん誰でもそうだと思うのですが、20代の頃は「まさか自分が40歳になる」なんて夢にもおもわず、特に男に生まれたなら「将来、自分は何かの天才として世間から認められるはず!」と信じて疑わなかった10~20代があったという人は多いのでは?
 自分も幼少期から周りの人より少々絵を描くのが好きで、小・中・高と図画工作・美術の成績はそれなりに良かったし、今でもその延長で食えてるわけなので、それだけで十分幸せなんだと50歳を目の前にして更にそう思うようになりました。白状すると30代の頃までは自分も人並みに「何か人から評価される作品が必ず作れるはず」と張り切ってみたりもしたのですが、30代後半過ぎたあたりから、

はい、自分の才能はここまで!
てか、むしろ今まで良くやったよ……(ため息)

と、ある種の諦観みたいな気持ちになってきて、正直気が楽になりました。この連載を初期から読み続けている方——そんな人いないかも知れませんが、もしいたなら中には気づいて下さる方がいらっしゃるかも知れません。『てーきゅう』(2015年)以降、俺が知り合いや友人関係に仕事をお願いすることが極端に減っているということに。それは自分にとって当然の価値観(?)で、つまり、

皆、歳相応──それぞれの作品でメインを張ってるのにそれを置いて、現状の自分の作品を「手伝ってくれ!」なんて言えないし、言う資格がない!

と本気で思ったんです(今も思ってます)。そう言う意味で『てーきゅう』はそれまでの作品づくりのスタイルをリセットするつもりで取り組みました。キャラから音響監督までできる限り自分一人から再出発するつもりで。ミルパンセも知人を誘ってスタッフを引っ搔き集めるのではなく、自分に付き合ってくれるスタッフをド新人から自ら育てる。結果、いくら現場的に頑張って作った作品でも世間の評価が付いてこなかったら、それなりのところで辞めていくスタッフもいます。その際は止めもしないで、むしろ「今までありがとう!」——です。だって、自分も若い頃、数々の不義理を顧みずテレコムを辞めた身なので、俺に対する信頼値が無くなったなら、今度は逆に辞めていかれて当然。因果応報。また新人を育てればそれで良し。そんな考え。
 あと、良く自分、新人との面談で言うのですが、

誰でも数ある内の一つは必ず夢が叶うものだ!

と信じてます。そりゃあ全ての人が第一希望の夢が叶うわけありません。そういう意味ではなく、例えば板垣の場合「アニメ監督になりたい」夢は叶いました。それで本来十分幸せなはずなんです、普通の人なら。ただそこに身の程わきまえず「アニメ監督になった上で、評価もされたい!」と二つ目の夢(欲)を重ねるなら、年齢相応の努力が必要。更に「アニメ監督になった上、オリジナル劇場アニメを作らせてもらえて、世界中の賞を総なめし、ボロ儲け! そして褒め讃えられたい!!」と三つ以上になるとそれこそ天才な人。

なのです。だから自分は次のシリーズの準備をしつつ、社内の若手と一緒にグロスのお手伝いや原画描き&指導をする日々が何年も続いているし、監督やらせてもらえるだけで幸せな事なのでしょう。権威もお金も無く不自由することも多い——けどなぜか、最高の「自由」を感じています。