COLUMN

第720回 懐かしい動画

 先日、金曜ロードショーで懐かしい宮崎駿監督作品『もののけ姫』(1997年)が放送されていたようです。「ようです」と言うのは今回も自分、観ていませんでしたから。Blu-ray持ってるし。ただ、若い頃動画で参加している数少ないジブリ作品の1つ。他は『耳をすませば』と『On Your Mark』(1995年)、それぞれに少々の思い入れがあります。各作品、描いた動画枚数は何百枚ずつだったと思いますが、安藤雅司さんや近藤喜文さんら超絶巧い方々が描かれた生の原画や作監修正に自分の動画の線を載せて、劇場の大画面で公開される緊張感(汗)! 特に『耳をすませば』は自分が研修明けすぐのド新人での動画でかなり緊張しました(そのせいか最初のカットもはっきり覚えており、聖司が教室にやってきて「聖司君……」と呟く雫のアップがそれです)。

 そして、今回は『もののけ姫』話。

ずう~っと前(10年以上前?)にもここで『もののけ姫』の動画の話題をさせて頂きました(例の◯揺らしてみたって話)。で、ここからの話はその時も話題にしたかも知れません。確認しようにも現在700回以上あるこの連載の内の第何回かも憶えてないので、もし同じ話を繰り返していたらご容赦下さい。あれは、山犬の走りリピートの動画を描いていた時、大塚(康生)さんが通りかかり、俺の机に貼ってあった『もののけ姫』のキャラ表を見つつ、雑談開始。

大塚「板垣君、こーゆーのすきでしょう?」

当時、よく大塚さんに「画、観てください!」と言っては黒澤明監督作品の名場面を鉛筆画にして持って行ってた俺。その板垣の黒澤好きを意識した上での話の振りです。

板垣「ああ、はい。そうですね~」
大塚「(原画を覗き見て)犬の走り描いてんの?」
板垣「まあ、でも全部中割参考入ってますしね~、この通りやるだけですね」
大塚「ん~~、ちょっと貸してみて」


と、大塚さんは板垣の席を奪って、他所様の山犬の走り原画の上に自ら勝手に修正を載せ始めたのです!何しろ『太陽の王子 ホルスの大冒険』の冒頭でド迫力の狼の群れ対ホルスを描いた大塚さんが、俺の目の前でジブリの山犬にサラサラ~ッといつもの達筆な一発描きで修正を入れてるのです! そりゃ痺れました! 周りの先輩らも覗きに来てザワザワ。

つまり、大塚さんの説明は「俯瞰アングルでの山犬の走りの原画から原画へ中割り5枚、その全部で胸部が見えるのはおかしい!」と。要は、前脚が着くと腰部が上がるわけで、となるとその際俯瞰では胸部が見えないはず、との事でした。

 もちろん、その時の大塚修正は本番の動画に反映するわけにも行かず(ジブリ様の中割参考を無視するのはマナー違反ですから)、板垣の自宅に現在も大事に保管してあるのでご安心を。
 あと、完成後の打ち上げパーティーでは、動画チェックの舘野(仁美)さんより、

「板垣さんの動画は線が綺麗で中割も丁寧で助かりました。田中(敦子)さんから聞いた んですけど、原画になられたそうですね。今度は板垣さんの原画を私が動画にするかも 知れないので、その時は宜しくお願します」

とのお言葉を頂き(社交辞令でも嬉しい)、一緒に記念写真も撮っていただきました。その写真も、同じくその打ち上げパーティーに参加されていた高畑勲監督と板垣とのツーショットと一緒に、今でも板垣の宝物として保管してあるので、こちらもご安心を!
テレコム辞めて数年後、監督やらせてもらえるようになった際、『耳をすませば』~『もののけ姫』あたりでジブリに居らっしゃったスタッフさん——鶴岡耕次郎さん、桑名郁朗さん、有富興二さんらと仕事でご一緒出来たのも、更に嬉しかったです。