小黒 佐藤さんは『おジャ魔女どれみ♯』(TV・2000年) 15話(通算66話)「母の日とお母さんのにがお絵」でも、矢田君の話を演出されますが、矢田君担当だったんでしょうか。
佐藤 母の日の話でしょ。
小黒 そうです。関先生も母子家庭だったということが分かるんです。
佐藤 この話は、ちょっとデリケートなところもある話だったので「お前がやれ」っていうことで、やることになったんじゃないかな。
小黒 ご自分から立候補したわけではないんですね。
佐藤 うん。
小黒 ところで『どれみ』を、五十嵐(卓哉)さんと2人でシリーズディレクターをなさったのはどうしてなんですか。
佐藤 『魔法使いTai!』のTVシリーズが動いていたので、『どれみ』に張り付くことができないっていうこともあったけど、『どれみ』がオリジナルだから、アイデアを出す脳みそは1つでも多いほうがよいと。ディレクターを2人体制にしてほしいっていうのは制作にお願いしていたけど、なかなかOKが出なくって。「前例がないからダメだ」って言われたんだけど、説得に説得を重ねて、企画プロデューサーの関さんからも制作に言ってもらって、2人体制にすることができたんです。五十嵐を推したのは、現場をちゃんと仕切ってくれる人が欲しいということと、アイデアを出す人が自分より少し若い世代で欲しいっていうこともありましたね。
小黒 五十嵐さんは、現場のまとめ役でもあったんですね。
佐藤 うん。
小黒 佐藤さんは、『#』でシリーズディレクターから外れて、各話の演出として参加されていますが、シリーズ構成の打ち合わせには出てるんですね。
佐藤 最初だけバンダイに行って、「次のシリーズどうするの?」という段階で立ち会ったぐらいで、基本的な構成の話にはあんまり関わってない。
小黒 なるほど。1年目のシリーズは各話のレイアウトをチェックをしていたとうかがいましたが。
佐藤 7話ぐらいまでは全カットを回してもらってたと思う。「スルーするかどうかはこっちで判断してスルーするので、1回全部回して」というふうにしてもらったんじゃなかったかな。
小黒 『どれみ』らしい芝居の付け方とかキャラの崩し方を、そこで統一したわけですね。
佐藤 基本的にはそう。オリジナル作品で、ベースになるものが何もないので「このシリーズはこんな感じでいきますよ」っていうことを演出に分かってもらうためのチェック。
小黒 それが作品にプラスに働いたわけですね。
佐藤 演出するほうも迷い迷いやってるんだけど、1回監督の手が入れば、方向性が分かるじゃない。方向が分かったら次からもやりやすいので、必要なことかなと思ってやりました。
小黒 佐藤さんは『#』は途中で離脱し、『も~っと!おジャ魔女どれみ』(TV・2001年)で戻ってくるわけですね。
佐藤 そういえば、『(おジャ魔女どれみ)ドッカ~ン!』(TV・2002年)はやってないのか。
小黒 『ドッカ~ン!』はやってないですね。その『も~っと!』で絵コンテを担当したのが20話(通算120話)「はじめて会うクラスメイト」です。引きこもりの女の子の三部作の1本目ですよね。これも脚本のプランには参加してないんですか。
佐藤 してないですね。ちょっとデリケートな回だからという理由で、こちらに振ってきたんだと思うけどね。
小黒 じゃあ脚本をもらって、絵コンテを描いてと。
佐藤 そう。さっき話題になった「母の日とお母さんのにがお絵」は、ホン読みに出た記憶もうっすらあるけど、ちょっと覚えていないですね。
小黒 『どれみ』で離脱する理由は、『魔法使いTai!』のTVシリーズが始まったからですね。
佐藤 そうだね。
小黒 正式に東映の所属でもなくなると。
佐藤 2000年にハルフィルムメーカー所属になるので、その前に外れてるんだよね。
小黒 ということは、『魔法使いTai!』をやってる時の所属は東映なんですか。
佐藤 フリーですね。1年ぐらいフリーの時期があった。
小黒 なるほど。ここでアニメファンらしいことを聞きたいんですけど、『魔法使いTai!』の茜ちゃんって、おんぷちゃんのルーツじゃないですか。
佐藤 いや、それは思ったことはないですね。そう見えます?(笑)
小黒 魔法少女チームの中の小悪魔系で。
佐藤 小悪魔系だよね。
小黒 どちらも、学校に行きつつ芸能活動やっていて、いけない魔法を使おうとしてみんなに止められるポジションです。しかも、演じているのは、茜ちゃんがセイントフォーの岩男潤子さん、そして、おんぷちゃんが宍戸留美さんと、どちらもアイドル出身の方が声をやってるという。
佐藤 ああ、そんなに符合しましたか(笑)。
小黒 ええ。茜ちゃんを小学生にすると、おんぷちゃんになるぐらいの勢いですよ。
佐藤 (笑)。いや、そう思ってはやってないけれども、きっとキャラクターを作る時に選んだパーツが似てるんだよね。
小黒 おんぷちゃんって、出てきた途端に完成されてるんですよね。描いているうちに育っていった感じじゃないんです。それが不思議だなと思ってたんですけど、元があったんだ! と。
佐藤 ああ。
小黒 キャラが育っていったと言えば、はづきちゃんは初登場した時って毒舌キャラなんですよ。思ったことをズケズケと言ってどれみが傷ついたりして。
佐藤 はいはい。はづきのそのあたりこそどっかにベースありそうだけどね。
小黒 多分ね、はづきちゃんって『ちびまる子ちゃん』のたまちゃんだと思うんですよ。
佐藤 ああ、たまちゃんの方向かもしんないね。
小黒 たまちゃんは毒舌じゃないんだけど、言ったことがグサッとくることはありじゃないですか。
佐藤 あるある。
小黒 去年のイベントの前に『どれみ』を観直して、「これはたまちゃんだ!」「佐藤さんが『まる子』をやった成果が表れているんだ!」と思ったんですよ。
佐藤 (笑)。なんの悪意もなく言ったことが、ピンポイントでグサッといっちゃう人ってイメージが、最初の頃のはづきにはあったんだよね。そういうセリフを脚本に入れてもらっていた気がする。
小黒 おんぷちゃんに関しては、意識はしてないと。
佐藤 意識してないし、キャラクター造形は山田さんがやっていると思うんです。当然のように、学校で掃除をしないで帰ったりするじゃないですか。ああいうところも含めて、山田さんの中には、ちょっと自分勝手なアイドルというイメージがあったんじゃないかな。
小黒 何をやっても要領がよく、器用にこなしちゃうってところも、茜ちゃんとおんぷちゃんは、一緒なんですよ。
佐藤 主人公に対するカウンターパートな感じが、同じなんじゃない。主人公が成績がよくなかったり、ドジだったりするのに対して、できる子が1人欲しいよねっていうことで、立ってる場所が似てるんだろうね。おんぷちゃんに関しては、後半のシリーズを回すにあたって作られたキャラクターだしね。
小黒 最初は仲間になるかどうかも微妙な感じですよね。
佐藤 初期段階では、おんぷちゃんの「お」の字もないんだよね。
小黒 今や『魔女見習いをさがして』の劇中でも「やっぱりおんぷちゃんファンなんだ」と言われるぐらいの人気ですよ。
佐藤 そうそう。紫のキャラは強いのかな、とか色んなことを思ったりするね。