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佐藤順一の昔から今まで(10)『もーれつア太郎』と「五月はじめ、日曜の朝」

小黒 『悪魔くん』についてはオープニングについてもうかがわないと。

佐藤 よく褒められるやつね。未だに褒められる(笑)。

小黒 確か佐藤さんは原画も描いてましたよね。

佐藤 原画も描いてましたっけ?

小黒 画面の手前から奥に灯りが消えていくBG ONLYのカットは、佐藤さんの担当ですよね。

佐藤 消えていくやつか、やりましたね。凄くBOOKが多いのに暗いカットだから、大変だったはずです。あんまりやらないタイプのカットですね。

小黒 その他にはどこをやられたんでしたっけ?

佐藤 他はどれだったかなあ。東嶽大帝が水平線の向こうから立ち上がるカットは自分でレイアウトを切ったかもしれないですけど(編注:他のBG ONLYのカットにも佐藤さんの原画担当があると思われる)。作画をしたカットは巧い人が入ってくれたので、ほぼおまかせで、手を入れてもいないですね。

小黒 なるほど。

佐藤 作画が誰だったかって知っているんでしたっけ?

小黒 当時、佐藤さんからうかがいました。十二使徒が次々と技を繰り出す長いカットが羽山淳一さんでしたね。羽山さんはあの1カットだけのはずですよ。

佐藤 冒頭で火が踊るところ、火のエフェクトが人の形のようになって踊るっていうところは谷口守泰さん? 違うかな。あそこも凄くいいんですよね。『悪魔くん』のオープニング、原画はとても勉強になった記憶があります。巧い人が描くとやっぱ違うなあと思ったんですよ。

小黒 作画は混成軍なんですね。

佐藤 そうですね。製作担当が懇意にしてる人を連れて来てくれていたんだと思いますね。僕から「この人にやってくれ」ってお願いしてはいないです。

小黒 『悪魔くん』の後番組が『もーれつア太郎』(TV・1990年)。『ア太郎』ではシリーズ通して満遍なく演出をされていますね。この作品はどういう取り組みだったんですか。

佐藤 当時、赤塚不二夫アニメをフジテレビでやってたんですよね。『おそ松くん』だったかな。

小黒 先に『おそ松くん』(TV・1988年)をやっていて、次が『平成天才バカボン』(TV・1990年)ですね。

佐藤 その数字がよかったのでテレ朝の企画が通り、『もーれつア太郎』をやることになりました。プロデューサーの旗野さんから「『もーれつア太郎』は下町人情ドラマでいくのだ」という方針が出ました。やっぱり、東映はハイパーギャグよりも日常ドラマが得意だろという判断だったと思います。

小黒 手応え的にはいかがだったでしょうか。

佐藤 やっぱり、赤塚不二夫さんの作品が自分の原点にあるんですね。だから、赤塚マンガを映像にしていく楽しさがずっとありましたよね。よく赤塚マンガで見ていたポーズをふんだんに取り入れたりして、そういったことが楽しい作品でした。

小黒 構えもせずに作ることができたという感じでしょうか。

佐藤 そうです。重圧感はそんなになかった。TV局にはフジテレビの『平成天才バカボン』『おそ松くん』に負けないようなものを作ってほしいという要望が出ていて、それが、プレッシャーといえばプレッシャーだったんですが、トータルでは割とリラックスできたというか。例えば視聴率に関してなんとかしてほしいみたいな話も、やってる間に必ず出てくるんですけども、「じゃあ、アバンでニャロメのショート劇場みたいのやりましょう!」とアイデア出して。

小黒 ああ、ありましたね!

佐藤 そういうことを提案するのも楽しかったですね。「誰がやるんだ?」「僕がやります! やりますから!」って言ってね。

小黒 あのショート劇場は佐藤さんが全話をやったわけではないんですよね。

佐藤 全話はやっていないと思いますが、自分の演出担当回でない話数もやっています。ゴレンジャーパロみたいなやつも、多分やってるんじゃないかな(笑)。

小黒 で、『ア太郎』と『きんぎょ注意報!』の間に「TOKUMAアニメビデオえほん はないちもんめ」(OVA・1990年)があるわけですよ!

佐藤 これは営業事業部と徳間書店の作品ですね。

小黒 佐藤さんの隠れた代表作ですよ。

佐藤 「五月はじめ」がタイトルになっているやつですね(笑)。(編注:佐藤順一が「TOKUMAアニメビデオえほん はないちもんめ」で手掛けた2本の内の1本のタイトルが『五月はじめ、日曜日の朝』。偶然にもインタビュアーである小黒のペンネームが「五月はじめ」だった)

小黒 東映でタイトルのところに「五月はじめ」と書かれているカット袋が置いてあるのを見て、何が起きたのかと思いました(笑)。これは創作童話の映像化ですね。

佐藤 そうですね。企業が一般から募集した童話の受賞作をアニメにするという企画だったはずですね。

小黒 演出する作品は自分で選べたんですか。

佐藤 選べたはずです。いくつかある中で、これをやりたいと手を挙げてやった気がします。

小黒 「はないちもんめ」で佐藤さんが演出を担当した2本の内の1本が『峠についた赤い郵便受け』。これはスタンダードな童話でしたね。

佐藤 はい、そうですね。ちょっと年齢低めの原作を選んで、その年齢に合わせて作るみたいな感じだったかなあ。

小黒 「はないちもんめ」も久々に研修生集結作品だったんですよね。

佐藤 そうですね。研修生の大久保(唯男)が映像事業部に行って、それで立ち上げた企画だったはずです。年配の人がいない現場でしたよ。たまに徳間の偉い感じの人がちょっと言ってくるぐらいの感じで。それも自由といえば自由でしたね。

小黒 もう1本の『五月はじめ、日曜の朝』は入魂の作品だったのではないかと思うのですが。

佐藤 そうですね。気合入ってましたね。

小黒 佐藤順一ファンを名乗るならこれを観ろ! というぐらいの作品ですよね。

佐藤 その後の原点な感じありますよね。あれで色んなことを試してますよね。

小黒 脚本はあったんですか。

佐藤 シナリオライターが書いた脚本はありませんでした。自分で凄く短いシナリオのようなものを書いたんだと思います。「え、この分量だと、尺が全然足りないんじゃないの?」「いや、これがちょうどいいんです」とやりとりした記憶があるので。

小黒 主人公は少年で、飼っていた犬が死んでしまうんでしたね。

佐藤 走ることで犬が死んだことから立ち直っていく。犬が死んで走れなくなった子がお父さんからもらった靴を履いて走ることができるようになった。それだけの話ですから。

小黒 事件らしい事件があるわけではなく、ひたすら走っているところを見せて、少年の気持ちを描いていく。

佐藤 あとは犬がいた時の記憶と、親達が普段と様子が違う自分の子供を見守っているシーンが続く。

小黒 のちの『魔法使いTai!』1話でもやることになる「お話がなくても作品は作れるのだ」ということを実践した作品ということですね。

佐藤 そうですね。その頃からそういう主義ではありましたから。画的なことで言うと、『ユンカース』もやってくださった美術の門野真理子さんにお願いしてたことがあるんです。「『1本まるまる思い出の中』みたいな作品ってありえるんだろうか」と、多分そういうオーダーをしたと思うんですよね。ディフュージョンかけるということではなく、もしかしてこれは記憶の中の出来事かなって、観ている人が思えるような世界観でやりたいな、と言っていて、そういうことも試しました。『ユンカース』もそうなんですけどね。

小黒 達成感はいかがでしたか。

佐藤 思っていたものが思っていたように仕上がった感はありましたよね。まあ、「観る人」を選ぶなとは思いましたけどね(笑)。

小黒 「TOKUMAアニメビデオえほん はないちもんめ」って、低価格の販売用童話アニメビデオが大ヒットした時に、その流れに乗って企画されたシリーズですよね。だけど、内容も凝っているし、価格も安くはない。ヒットしていたシリーズとは全然違うものが出来上がってしまった。

佐藤 そこに需要はないですが、みたいな(苦笑)。

小黒 僕らは嬉しかったですけどね。

佐藤 『草之丞の話』とかもね、新井浩一くんの画の世界観ががっつり出てるし。

小黒 僕の中だと『草之丞の話』は西尾大介さんの最高傑作ですよ。確かに新井さんの画も素晴らしいです。

佐藤 いいですよね。誰だったか、巧いアニメーターが 『草之丞の話』を誉めていたんですよ。『草之丞の話』をやった新井浩一さんを尊敬していると、熱を込めて語っていたのを覚えています。

小黒 僕も当時、「アニメージュ」でページを取って『五月はじめ、日曜日の朝』と 『草之丞の話』を取り上げましたよ。

佐藤 ありがとうございます。

小黒 Blu-rayにしてほしいアニメの1つですね。

佐藤 確かに何年かおきに観たいなと思う作品ですね。


●佐藤順一の昔から今まで(11)『きんぎょ注意報!』と『美少女戦士セーラームーン』 に続く


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