COLUMN

第80回 いさましいちびの船乗り 〜どうぶつ宝島〜

 腹巻猫です。5月5日、『ジャングル大帝』『リボンの騎士』などを手がけた作曲家・冨田勲さんが亡くなりました。新作「ドクター・コッペリウス」を準備していると聞いていて、まだまだお元気と思っていたので茫然としています。心より哀悼の意を表します。
 「ジャングル黒べえ オリジナル・サウンドトラック」が、いよいよ5月18日に一般発売されます。音楽は三沢郷。直前に手がけた『デビルマン』や直後に担当した『エースをねらえ!』を思わせる楽曲もあり、バラエティに富んだ三沢サウンドが楽しめるアルバムです。主題歌を歌った大杉久美子さんの最新インタビューも掲載。ぜひお聴きください。
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 前回、『ちびっとレミと名犬カピ』のサントラはCD-BOX「東映動画長編アニメ音楽全集」に『どうぶつ宝島』とのカップリングで収録されていると書いた。
 今回はその『どうぶつ宝島』の話。
 『どうぶつ宝島』は1971年3月に東映まんがまつりの1本として公開された劇場アニメ。東映動画(現・東映アニメーション)の創立20周年記念作品である。監督は『空飛ぶゆうれい船』(1969)を手がけた池田宏。作画監督・森康二、美術監督・土田勇、アイデア構成・宮崎駿などのスタッフで作られた。
 スチーブンソンの『宝島』を原作に、主役側のメインキャラクター以外のキャラを動物に置き換えてアニメ化。絵本のような大胆で美しい色遣いと造形の美術、動きの面白さと魅力にあふれた躍動感いっぱいの作画、のちの『ルパン三世 カリオストロの城』などを予感させる宮崎駿らしい愉快なアイデアの数々。「漫画映画」の楽しさをたっぷり詰め込んで、ハラハラドキドキの物語を一気に見せる快作だ。
 公開当時、筆者は小学生。この作品は劇場では観ておらず、中学生か高校生のときに地元の大学の学園祭かなにかで上映されたのを観たと思う。前に取り上げた『太陽の王子 ホルスの大冒険』と同じパターンである。そのとき一緒に観に行ったアニメファンの友人が「どたから」(『どうぶつ宝島』の通称)と呼んでいたから、当時すでに地方のアニメファンの間にもこの作品の評判が伝わっていたのだろう。
 で、『どうぶつ宝島』といったら、なんといってもヒロインのキャシーですよ。2丁拳銃を手に海賊とやりあう男勝りのキャシーの姿は、同時期に出会ったアニメヒロインの中でもインパクト抜群でした。『太陽の王子 ホルスの大冒険』のヒルダ、『長靴をはいた猫』のローザ姫と並ぶ、東映長編3大ヒロインの1人と呼んで差し支えないでしょう(人によっては『わんぱく王子の大蛇退治』のクシナダ姫とか『サイボーグ009 怪獣戦争』のヘレナとか、異論はありましょうが、筆者にとってはこの3人なのだ)。キャシーの声がのちのQちゃん=天地総子なのは、ヒルダ=市原悦子に匹敵する驚きでありますが、劇中の歌のシーンでは美しい歌声を聴くことができるのでこれはあり。ジムと打ち解けるまでのツンツンした感じが特によく、爆弾を投げて「借りは返したわよ!」なんてたまりません。後半、もう少しキャシーの活躍場面があればと思うのだが……。

 はっ、サントラのコラムなのに、なぜわしはヒロインの話をしているのだ。とにかく、「漫画映画」の魅力がぎゅっと詰まったこの作品、音楽もすばらしい出来である。
 音楽を手がけたのは山本直純。メガネとヒゲがトレードマークの指揮者として親しまれ、「大きいことはいいことだ」(森永エールチョコレート)などのCM作品や「男はつらいよ」シリーズなどの音楽で知られる作曲家である。
 アニメ作品では本作のほかに『新オバケのQ太郎』(1971)、『0テスター』(1973)、劇場『妖精フローレンス』(1985、音楽監督)がある。また、「マグマ大使」(1966)、「怪奇大作戦」(1968)の主題歌・音楽監督を担当したことで特撮ファンにもなじみ深い。「天下御免」(1971)、「風と雲と虹と」(1976)などのTVドラマの音楽で記憶に残っている人も多いだろう。
 本人の印象そのままに、音楽も豪放磊落なイメージがある。「マグマ大使」の豪快な主題歌、『新オバケのQ太郎』主題歌のはじけっぷり、「風と雲と虹と」テーマ曲の心をゆさぶる勇壮さなど、聴くものをぐっととりこにするような力強さと魅力を持った音楽を作る作曲家である。
 山本直純の父・山本直忠はクラシックの作曲家・指揮者。直純は幼少時から音楽に親しみ、渡辺岳夫の父・渡辺浦人にも師事した。少年時代は渡辺岳夫と同窓で学んでいた時期もあり、渡辺岳夫は山本直純の才能とセンスに嫉妬していたという話も伝わっている。東京藝術大学に入学し、クラシックの指揮者をめざしたが、在学中から劇場作品・TVなどのポピュラー音楽の分野でも活躍を始めた。企画と音楽監督を務めたTBSの番組「オーケストラがやってきた」は1973年から10年続く人気番組になった。クラシックとポピュラー、ふたつの分野で精力的に活動し、音楽を多くの人に楽しんでもらうことに心血を注いだ音楽家だった。2002年に69歳で亡くなっている。
 『どうぶつ宝島』の音楽も山本直純らしい、ダイナミックで楽しさにあふれた音楽だ。
 画に合わせた音楽であるが、細かい動きにタイミングを合わせた、いわゆる「ミッキーマウシング」と呼ばれる手法ではなく、一連のシークエンスに音楽を乗せる実写劇場作品的な音楽設計をしている。代わりに山本直純が採用したのは、キャラクターに固有のメロディを付与するライトモチーフの手法。このあたり、クラシック出身で映画音楽も多く手がけた山本直純の映像音楽に対する考え方が垣間見えて興味深い。
 「東映動画長編アニメ音楽全集」に収録されたのは以下の曲。中島紳介による選曲・構成である。

  1. 「どうぶつ宝島」メインタイトル
  2. ベンボー亭の客
  3. 深夜の大乱闘
  4. 主題歌「ちっちゃい船だって」
  5. 海賊船ポークソテー号
  6. 挿入歌「海賊のうた」
  7. ここが噂の海賊島
  8. 脱出と反撃
  9. キャシーに油断なし
  10. 船上の歓迎パーティー
  11. シルバー船長てんやわんや
  12. 宝の地図は誰の手に?
  13. 挿入歌「夢をひろげよう」
  14. 嵐のあとに
  15. 断崖の決闘
  16. ジム大奮戦
  17. 湖のひみつ〜大団円

 1曲目のメインタイトルは主題歌「ちっちゃい船だって」のインストゥルメンタル版。軽快でわくわく感満載のすばらしい曲だ。
 「タッタカ タッタカ」とはねたリズムが小さいけれども元気いっぱいのジムの活躍をイメージさせる。加えて、上昇と下降を繰り返す音型が波のうねりを表現して、海の冒険を描く作品にぴったりだ。シンプルだがキャッチ—で一度聴いたら忘れられない名旋律。本作を観終わる頃には、このメロディが頭の中で繰り返し鳴り響いているはず。
 2曲目「ベンボー亭の客」は物語の始まりを演出する曲。前半はチェレスタをバックにしたオカリナのリリカルなメロディが船乗りに憧れるジムの心情を描写する。後半はクラリネットのミステリアスなメロディに変わり、ベンボー亭を訪れた不気味なネコ船員のテーマになる。
 続く3曲目「深夜の大乱闘」は、ネコ船員を追ってきた黒ずくめの一団とネコ船員の戦い、そして箱を預かったジムが屋根伝いに逃げ出す場面を描くスリリングな曲。乱闘場面は「漫画映画」らしく、ややコミカルな味つけで書かれている。
 4曲目が主題歌「ちっちゃい船だって」。ジムがタイトルどおりのちっちゃい船=パイオニア号で船出する場面の曲である。
 メインタイトルがインストゥルメンタルで、この場面が歌入りというのが面白い。ちょっと考えると、メインタイトル(=オープニング)に歌入りが流れたほうが「漫画映画」らしいし、子どもたちの心を開幕からつかみそうな気がする。が、作品としては、この場面に初めて歌入りが流れたほうがだんぜん盛り上がる。冒険に乗り出したジムの気持ちを歌が代弁しているからだ。このメロディはジムのテーマとして、このあともたびたび登場する。
 5曲目「海賊船ポークソテー号」はジムが遭遇した海賊船との戦いを描く曲。ここでまた主題歌のメロディが流れ、ジムの奮戦を描写する。後半は海賊につかまったジムが掃除や洗濯にこき使われる日々を点描する曲。
 6曲目は男声コーラスで歌われる海賊のテーマ「海賊のうた」。山本直純は「マグマ大使」や「怪奇大作戦」『0テスター』などでも男声合唱をフィーチャーした主題歌の名曲を残している。この曲も、その系列につながる魅力的な歌だ。バックはドラムス、ウッドベースにラテンパーカッション。ちょっとバーバリックでジャズ風味のアレンジにリズミカルなメロディが映える。
 海賊たちの本拠地を描写する7曲目「ここが噂の海賊島」、捕えられたジムの脱出をスリリングかつユーモラスに描く8曲目「脱出と反撃」(ここでも主題歌のメロディが登場)を経て、9曲目はいよいよキャシーのテーマだ。
 「キャシーに油断なし」はフリント船長の孫娘キャシーに当てられた曲。チェンバロなどが奏でるキュートなメロディは、一見ツンツンしているキャシーの女の子らしい一面をしっかり表現。「ほんとはいい子なのだよ」と音楽が語っているわけですよ。このテーマは、波止場の場面と海賊船でキャシーがシルバーとやりあう場面、宝島に着いてからキャシーがシルバーと交渉する場面の3回くらいしか流れない。が、本作の中では、ジムのテーマ(主題歌)、海賊のテーマ(「海賊のうた」)に続く、3番目の重要なライトモチーフである。
 山本直純の本領発揮とも呼べる楽しい10曲目「船上の歓迎パーティ」(躍動的な前半とムーディな後半との対比もみごと)でひと息ついたあと、海賊との大混戦の曲が2曲続く(「海賊のうた」の変奏が登場)。このあたりは音楽だけ聴いても楽しさ満点の展開だ。
 13曲目の「夢をひろげよう」はジムとキャシーが歌う挿入歌。前半は、夕陽を前にジムとキャシーが語らう場面に流れるインストゥルメンタル。ちょっとハワイアン風のバッキングが南洋ムードをかもし出し、マンドリンとアコーディオンが美しいメロディを奏でる。リンゴをかじって心が通う2人。後半は歌入りとなり、未知の世界への憧れが夢いっぱいに歌われる。山本直純のメロディメーカーとしての一面を示す名曲。土田勇のメルヘンティックな美術が生かされた、本編中随一の美しい場面である。
 海賊島を脱出したジムが嵐に襲われる場面の「嵐のあとに」は、ベートーベンの「田園」やムソルグスキーの「はげ山の一夜」などを思わせる表題音楽風の曲。宝島に上陸する場面で曲調はエキゾティックなボレロになる。
 いよいよクライマックス。14曲目「断崖の決闘」と15曲目「ジム大奮戦」は、キャシーを捕えて宝のありかを目指すシルバーとそれを追うジムとが激しい追いかけと戦いを繰り広げる場面の曲。「断崖の決闘」では「ちっちゃい船だって」と「海賊のうた」のメロディが交互に現れ、「ジム大奮戦」では中盤からのシンフォニック・ジャズ風の展開の中に主題歌のメロディの断片が挿入される。
 ここは『長靴をはいた猫』のラストの追っかけをほうふつさせる手に汗握るアクションシーン。作画的にも力の入った場面を見て、山本直純が「よーし、こっちもいっちょやったるか」とノッて書き上げたような雰囲気が伝わってくる曲である。
 そして、海賊の宝がいよいよ姿を現す場面の終曲「湖のひみつ〜大団円」(余談ですが、「湖のひみつ」ってタイトル、中島紳介さんのお遊びですよね)。東映長編の定番とも呼べる女声コーラスが美しく画面を彩ってエンドとなる。本編ではこのあと主題歌がふたたび流れるのだが、(おそらく尺の都合で)CDには入っていないのが惜しい。
 作品の印象そのままに「ああ、面白かったなあ」と心地よい余韻で聴き終ることのできる好サントラだ。
 山本直純は劇場・TV音楽史に残る名作をたくさん書いているのに、サウンドトラック・アルバムとして発売されているのは「男はつらいよ」シリーズなど一部の作品だけなのが残念だ。『新オバケのQ太郎』も『0テスター』も、テープがあればぜひ商品化してほしい。
 幸いにも、『どうぶつ宝島』は前回紹介した『ちびっ子レミと名犬カピ』と同様、DVDに音楽トラックが収録されている。音声選択メニューで「BGM」を選ぶと、本編に流れるBGMを全曲聴くことができる。本編をめいっぱい楽しんで、山本直純のダイナミックな音楽でもう一度お楽しみいただきたい。

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