COLUMN

第81回 薔薇は美しく散る 〜ベルサイユのばら(1)〜

 腹巻猫です。劇場作品『ズートピア』吹替え版で観ました。2本脚で立って喋る動物キャラの不自然さを逆手にとった内容に脱帽。主題歌の「やるのよー 何度でも」が耳に残る。歌詞としてどうなの? の声もあるけど、耳に残るだけで勝ち!


 TVアニメ『ベルサイユのばら』の音楽を集大成した3枚組CDアルバムが6月22日に発売される。タイトルは「ベルサイユのばら 音楽集[完全版]」。発売元はユニバーサルミュージック。既発アルバムに未収録のBGMなどを補完した待望の「完全版」である。
 このアルバムには企画から構成・解説、マスタリングまで全面的に関わらせていただいた。そこで、以前(2014年9月)『おにいさまへ…』を取り上げたときと同様に「番外編」という形で本アルバム制作の背景と聴きどころを紹介したいと思う。紙数の都合でブックレットに盛り込めなかったことも書き留めておきたい。

 そもそもは2015年9月末、別の企画のプレゼンでユニバーサルミュージックを訪問したときのこと。
 プレゼンのあと雑談になり、「ユニバーサルミュージックにはキティレコードの音源もあるんですよね。『ベルサイユのばら』とか」と筆者がぽつりと口にしたことが始まりだった。ユニバーサルミュージックは、旧ポリドールと旧東芝EMIの原盤を引き継いでいる会社で、キティレコードはポリドール系のレーベルである。
 現在でも、TVアニメ『ベルサイユのばら』の音楽はCDで聴くことができる。「ベルサイユのばら 薔薇は美しく散る オリジナル・サウンドトラック&名場面音楽集」というアルバムだ。
 しかし、『ベルサイユのばら』の熱心なファンにとって、このCDは満足のいく内容ではなかった。劇中で流れる印象深い楽曲の多くが収録されていなかったからである。
 そのときは、「未収録曲を補完した『ベルサイユのばら』の完全版音楽集を出したら、ファンはよろこぶと思いますよ」と話をしたくらいで終わったと思う。
 それから3ヶ月が過ぎた今年の1月。『ベルサイユのばら』の話が急に具体的になってきた。あらためて打ち合せを行い、旧CDの内容に未収録音源を追加した3枚組という方向性が決まった(2015年9月に日本コロムビアから発売された『キャンディ・キャンディ』の3枚組サントラがお手本になった)。企画は一気に動き出した。

 『ベルサイユのばら』は1979年10月から1980年9月まで放送されたTVアニメ作品である。原作は宝塚歌劇にもなって「ベルばら」ブームを巻き起こした池田理代子の大ヒット作。アニメーション制作は東京ムービー新社(現トムス・エンタテインメント)が担当した。
 キャラクターデザインと作画監督は美形キャラで人気を集めていた荒木伸吾と姫野美智、総監督に『巨人の星』『超電磁マシーン ボルテスV』などの長浜忠夫。華麗な画づくりとドラマティックな演出が話題になったが、長浜監督は1クールで降板。第19話から出崎統が監督(クレジットはチーフディレクター)を引き継いだ。そのため、前半と後半で印象の大きく異なる作品になっている。
 長浜監督による前半も見応えがあるが、印象が強烈なのは出崎監督の後半だ。劇場版『エースをねらえ!』(1979)を完成させた直後の作品だけに、映像も演出もセリフ回しも、すべてが身もだえするようなクオリティに仕上がっている。悲劇的な結末に向かって進むドラマの大人びた空気感は、それまでの出崎作品にないものだ。あらためて見直すと、本作があったから『あしたのジョー2』(1980)はああいう作品になり、『おにいさまへ…』(1991)も生まれたのではないか、という気がする。出崎アニメ・ファンにとって忘れられない1本だ。

 本作の音楽は、主題歌・挿入歌・BGMのすべてを馬飼野康二が担当した。馬飼野康二については、この連載の第36回『魔法の天使 クリィミーマミ』の回で一度取り上げた。歌謡界のヒットメーカーであり、現在もアイドル歌手に作品を提供している売れっ子作曲家。アニメ作品にはTVアニメ『新・エースをねらえ!』(1978)、『戦闘メカ ザブングル』(1982)、『忍たま乱太郎』(1993〜)などがある。『ベルサイユのばら』は、馬飼野康二が『新・エースをねらえ!』、劇場版『エースをねらえ!』に続いて担当したアニメ作品だった。
 ポップス路線の延長で作られた『新・エースをねらえ!』や劇場版『エースをねらえ!』の音楽と比べると、『ベルサイユのばら』の音楽は独特である。馬飼野康二が手がけた映像作品の中でも他に類のないサウンドに仕上がっている。
 その理由は、本作の舞台が18世紀のフランスだから。舞台設定にふさわしいヨーロッパのクラシック音楽の雰囲気をめざしたのだという。BGMは基本的にエレキギターやエレキベース、ドラムスなどの現代的なリズムセクションを入れないクラシックの楽器編成で作られている。チェンバロやダルシマーなどのヨーロッパの古楽器が使われているのが特色だ。
 そして、このクラシカルな音色が、TVアニメ『ベルサイユのばら』の世界を作り上げるのに大きな役割を果たしている。品格のある落ち着いたサウンド、切なさを帯びた美しい旋律、時代の空気を湛えた生楽器の響き。それでいて、現代的なポップスの香りも散りばめられている。馬飼野康二の新境地とも呼べるすばらしい音楽だ。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、放送当時、キティレコードからLP2枚が発売された。
 1枚目は1979年12月に発売された「ベルサイユのばら オリジナル・サウンドトラック 薔薇は美しく散る」。「オリジナル・サウンドトラック」というタイトルであるが、内容はいわゆる主題歌・挿入歌集である。ちなみにアルバム・タイトルを「ベルサイユのばら 薔薇は美しく散る オリジナル・サウンドトラック」と表記している例も見かけるが、発売当時のカタログや帯の表記から判断して、「薔薇は美しく散る」を最後に置くのが正しい表記だと思う。
 2枚目は1980年2月に発売された「ベルサイユのばら 名場面音楽集 薔薇は美しく散る」。「名場面音楽集」というタイトルから本編の「名場面」音声を収録したドラマ盤のように思われがちだが、実際は本編に流れるオリジナルBGMを収録した純然たるサウンドトラック・アルバムである。
 2枚のアルバムは、のちに2枚を1枚にまとめる形でCD化された。それが前述のアルバム「ベルサイユのばら 薔薇は美しく散る オリジナル・サウンドトラック&名場面音楽集」だ。初CD化は1989年10月。1994年に品番を変えて再発売された(収録内容は同じ)。このCDはロングセラーになり、今も現行商品として販売されている。
 古い作品だが、このCDが売れ続けていることが、今回の「完全版」の企画の後押しになった。

 さて、今回の企画のために、ユニバーサルミュージックとトムス・ミュージック(東京ムービー時代からのトムス・エンタテインメント作品の音楽を管理している会社)の倉庫から「ベルサイユのばら」とラベルのついたテープをすべて集めてもらった。
 集合したテープは6mmテープ、マルチトラックテープなど、あわせて25本以上(正確な本数は忘れてしまった)。中にはTVアニメ版とは関係のない実写劇場版「ベルサイユのばら」(音楽はミシェル・ルグラン)の音楽マスターとか、よくわからないイメージソングとかも含まれていて、実際に使用したのは18本くらいだったが、その中には初蔵出しとなる貴重な音源も多数含まれていた。
 発掘した音源は、演奏ミスなどによるNGテイクは除いて、今回のアルバムにすべて収録した。
 ただ、本アルバムは、あくまでTVアニメ『ベルサイユのばら』のために作られた音源を集大成した音楽集であり、他作品からの流用曲などは原則として収録していない(劇場版『エースをねらえ!』の曲を期待していたファンの方ごめんなさい)。逆に言えば、「ベルばら」の楽曲だけでCD3枚のボリュームになるだけの発掘音源があったということなので、期待していただきたい。
 「ベルサイユのばら 音楽集[完全版]」の各ディスク内容は次のとおり。

Disc1 〈ベルサイユのばら オリジナル・サウンドトラック 薔薇は美しく散る〉+カラオケ集
Disc2 〈オリジナルBGMコレクションI〉
Disc3 〈オリジナルBGMコレクションII〉

 Disc1はLPアルバム1枚目のリマスター復刻とカラオケなどのステレオ音源で構成。Disc2と3はTVサイズ主題歌と初商品化曲を含むオリジナルBGMで構成した。
 Disc2と3に収録したBGMは70曲以上。そのうち、およそ50曲が初商品化音源である。曲順は「名場面音楽集」とは一新した新構成とした。旧CDでは複数曲1トラックにまとめられていた曲も1曲1トラックで収録している。この2枚で『ベルサイユのばら』のために作られたオリジナルBGMは網羅されているはずである。
 さらに、各ディスクにボーナス・トラックを加えて、未発表音源や新ミックス音源を収録した。この中にはTVサイズ主題歌の別テイクや番宣用音楽、特定エピソードのために録音されたエキストラ音楽などが含まれている。
 近いうちに、ユニバーサルミュージックのサイトにも詳しい曲目が掲載されるはずである。
 ……というところで、具体的な内容については、また次回。

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