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第7回 作業の連携

 前回まではエフェクト周りの話でしたが、今回はそのエフェクトや撮影作業全般に関わる他部署との連携とその作業内容を紹介していこうと思います。アニメの作業は、撮影に限らずどの部署も他部署との連携が発生するのですが、撮影というのは全ての素材を集めて行うものですから、当然、他の工程との連携が最も多くなります。
 まずは連携の要点を部署ごとにざっとまとめると、以下のようになります。

作画:素材分け、フレーム確認、シミュレーション
美術:素材分け、フレーム確認、貼り込み素材
仕上げ:透過光マスク、組み素材
特効:質感素材
CG:3DCGセル素材、背景、エフェクト
モニターグラフィック:モニターデザイン、文字デザイン

 このように実際に撮影に必要な素材に関わるやりとりに加えて、シミュレーションでの事前確認といった作業もあります。個々に説明していきましょう。

 まず作画とのやり取りで考えられるのが素材分けです。撮影時に入る効果の関係でセル分けを求められる場合があり、作画に入る前に打ち合わせする必要があります。通常、何も指示がなければ、セル分けせずにそのまま作画されてしまいますので、撮影打ち合わせ時に演出としっかり確認することが必要です。
フレーム確認はズームやトラックバックで画面の拡縮が発生する場合に、画質劣化しないよう大きいサイズで描くため、フレームサイズの確認やサイズ出しなどの作業が必要になります。シミュレーションは、演出家や原画担当者が、カメラワークやスピード感などをあらかじめ確認したい場合に、レイアウトなどを用いて行います。
大判作画での動きの設計は、失敗すると修正も困難になるので、事前に確認するのが最善ですが、当然ながらシミュレーションを行うか否かはスケジュールによって左右されます。また、シミュレーションではフレームバレがおきない範囲も確認します。結果はプリントアウトして、作画、美術に回します。

 美術とのやりとりでも、素材分けやフレームサイズの確認については、作画と同様です。美術の場合、作画やカメラワークの都合から、bookがすでに指示されていることも多いのですが、それ以外に撮影からも要望を出すケースがあります。最近の注意点に、素材の合成の問題があります。現在はPhotoshopで組み立てられた背景がほとんどですが、複雑なレイヤー構成やマスク組みで合成モードを使っている場合に、AfterEffectsに読み込むとオリジナルの状態が再現されない、エフェクトが反映しないといった問題が発生することがあります。こうしたトラブルを防ぐために、あらかじめ注意事項を伝える必要があるのです。
また、最近は貼り込み素材の作成も多くなっています。これは作画されたセルに背景の質感を貼り込む作業ですが、そのための素材を用意してもらいます。たとえば、木製のドアや机の引き出しなどに使われます(本や新聞などの貼り込みは、セル素材で用意される事が多いです)。これもサイズや形状を指定できれば一番無駄がないのですがこちらもスケジュール次第です。

 続いて、仕上げとのやりとりです。特にやりとりするのが、セルの中でマスクとして使用する部分の色分けやセル分けです。撮影時に処理を加える部分は、色ごとに抜き出して作業をするために、他と区別しやすい特別な色で塗り分けてあります。代表的なのは落ち影と透過光のマスクですね。どちらも撮影時に処理のし忘れや取り違えのないよう、ピンクやグリーンなど明らかに違うと判別しやすい色で塗ってあります。これらは一般的な仕上げの決まり事として徹底されているので打ち合わせするまでもないのですが、その他にも特殊な処理でセル分けが必要な場合に、作画や美術同様、あらかじめ打ち合わせして素材分けをお願いする事になります。
加えて、「組み」も重要な作業です。組みというのは、セルの中で前後関係が同時に発生するような場合に用いる手法です。例えばキャラクターが机に座っているときに、体が机の向こう側にあって、手が机の上(机の手前)にあって動いているような場合に用います。この例では、素材として机と体を別に描いた上で、体の素材から腕の部分だけを仕上げの際に分離し、撮影時に重ねることになります。必要な組み分けの素材がなかった場合は、撮影時にマスクを作成して対応します。

 その他に、『かぐや姫の物語』のように鉛筆線を活かした表現の場合、どのような素材が必要なのか、あらかじめ綿密な打ち合わせが必要です。現場の作業効率や仕上がりに直結します。

 特効に関しては、前回に少し触れました。特効の段階で、特殊な質感を主にPhotoshopを使って描きます。撮影では、できあがったものを受け取ってそのまま使用します。なので、頻繁にやり取りする感じではありません。ただし、貼りこみ素材やパーティクルに使用する素材を描いてもらう場合には、必要なものを伝えて作業してもらう必要があります。また合成モードなどを使用している場合は、美術同様の注意が必要になります。

 次は3DCGです。CG部門との連携は現在特に多くなっています。全セルならぬ、全CGのカットなどもあり、今後もますます比重が増え、やりとりも増加していくと思われます。
基本的には作画とやりとりは似ています。ただ、色つきで完成してくるので、エフェクト絡みのセル分けや、必要なマスク素材出しなど、仕上げとのやりとりのような部分も発生します。
CGは要素ごとの分離が容易なため、オブジェクトの色や影、ハイライトや環境光などを別々に出力できます。これを利用して、必要な素材がある場合は、その素材の出力を依頼します。また、組みが発生する場合も、組むもの自体をCGで作成すれば、そのまま使用できます。
アニメは、CG素材もある程度AfterEffectsで組まれた状態で、撮影に渡されることが多いです。それをベースに撮影で必要な効果などを付加することになります。その場合、タイムシートをこちらで打ち込むといった作業は必要ありません。
なお、セルルック3DCG作品では、色々と工程が変わる部分もあるかと思われますが、まだ事例も多くなく、自身の経験も少ないので、このコラムでは省かせていただきますm(_ _;)m

 モニターグラフィックスは比較的新しい部署でしょう。前回も少し触れたとおり、呼び名も作品や会社ごとに様々です。
以前はモニターに絡んだ作業も撮影部署内で行われていましたが、内容が複雑化し、作業量も増えてきたため、専門職として分離したと思われます。特効などと兼任している場合もあります。
これらの作業は主にIllustratorやPhotoshopを使い、作品中に登場する、モーショングラフィックスと呼ばれる動きのあるグラフィック要素を作成しています。基本的には演出サイドからの発注により、デザインから動きまで作成します。
扱うものは、モニターやヘルメットのフードに表示されるUIデザインや文字情報、魔法陣や看板の文字など多岐にわたります。ただし、背景に貼られる文字はほとんどが美術セクションで作成されています。作品のカラーと担当者のセンスでデザインの方向性が決まるので、同じ作品であれば同じ人が担当することが望ましいのですが、担当する人もまだまだ少なく、負担は大きいようです。SF系の作品はモニター類の表現が特に多く、大変でしょう。
モニター表示の素材も基本的にはAfterEffectsのデータとして撮影に渡されることが多いのですが、連番画像やムービー形式の場合もあります。
なお、劇中で兼用される素材の場合、AfterEffectsのデータは中にはめ込む素材を入れ替えることで再利用可能になっています。インターフェースが同じで、内容が違うものなどに用いられます。汎用素材は正面から見た形で作成されているので、場面に応じて、撮影で、変形したり、光を足したり、色味を調整したりといった微調整を行います。

 ここまで触れた以外にデジタルエフェクトやビジュアルエフェクトという役職があります。会社によっては独立した部署となっている場合もあるようです。エンドクレジットに個人で名前が出ている方もいらっしゃいます。
作品内で使用される汎用的なエフェクトとは別に、特殊なエフェクトの作成や、作品中でも特別なシーンの作成を担当する場合に使われる役職名です。撮影の作業量は膨大なので、手のかかる特殊なエフェクトの作成や、演出家がつきっきりで行わねば作れないような画面に手を取られるとスケジュールに支障をきたしかねません。そこで登場する専門職です。シーンのデザインから関わるなど、通常の撮影セクションに比べ、特定のシーンやカットに対し、表現の面でより密接に関わる職分といった感じでしょうか。

 以上ざっくりと説明しましたが、実際には各部署がそれぞれ必要に応じて連携しながら作業を進めていきます。同じ敷地にない場合や、会社が違う場合も多いので、事前の決め事や作業中の連絡がとても重要です。そのために、ここでは説明しませんでしたが、制作の働きがとても重要になります。『SHIROBAKO』の中でも、制作担当者のあやふやな態度が現場に混乱をもたらす様子が描かれていました。オーバーに表現されてはいましたが、あながちない話ではありません。制作はいわば現場のハブなので、きちっと機能しないと大変面倒なことになります。時間がなさすぎて現場独自の判断で動くこともありますが、その場合も無用な混乱を避けるため、きっちりと制作に話を通しておく必要があります。

 今回はここまでです。このコラムも次回で最後になります。最終回では、ここまでに書ききれなかったことや補足的な内容について扱う予定です。