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第6回 エフェクトを考える(2)

 引き続きエフェクトについてのお話です。前回のコラムでエフェクトの分類を「環境の再現」と「演出的創作」のふたつに分け、環境の再現について書きましたが、今回は演出的創作について説明していきたいと思います。演出的創作とは、現実にはない現象を表現として創り出すこと、とここでは定義して話を進めたいと思います。

 演出的創作に分類されるエフェクトとしてまず挙げられるものに、爆発や攻撃といった派手な表現があります。これらは、比較的初期の段階から用いられてきたこともあって、デジタルアニメ制作の中でも、表現方法が多様で、種類も豊富です。
ビームなどでは、作画されたものをベースに前回紹介した透過光の表現を使って光線の様に見せるというのが基本です。最近ではこれにプラグインのフレアやパーティクル、3Dの素材なども交え、複雑でインパクトのある表現が生み出されています。
魔法などは、発動までの詠唱のあいだに徐々に魔力が高まる様子などをエフェクトで見せるという表現も多いですね。従来作画で行われていた弾丸を連射する表現や、宇宙空間での遠くの戦闘を表す丸や三日月型の光の点滅なども現在ではパーティクルで表現することが可能になっています。
 攻撃を受けたときの爆発の表現にも、いろいろな効果が用いられています。爆発の瞬間の透過光や振動はもちろん、それにぼかしの効果を付加して爆発の衝撃や光の印象を補強します。炎上の熱による空気の屈折、重力による歪みといったものを感じさせるために、画面にゆらぎを付け加えることも多くあります。波ガラス効果と呼ばれるものです。これは画面にゆらぎを与えるプラグインや、前回も紹介したフラクタルノイズを参照画像に使用して、揺らす効果を付加しています。
煙も、作画やフラクタルノイズなどで作成したものをブラーでぼかし、それを多層に重ねて表現します。またこのときに動きや形状、透明度に変化を加えることで、さらに臨場感をプラスします。
爆発で注意が必要なのは、例のポケモンチェックです。チェックに引っかからないよう、明るい部分の輝度や面積、点滅のタイミングで注意が必要になります。
 他にも、煙や雲を突き抜けて何かが現れてくるような動きの場合によく使うのが、変形のエフェクトです。例えば何かの物体が煙を突き抜けてくるときは、登場するものを中心に、煙の素材が圧力で吹き飛ばされるイメージで、外側へと引っ張られるように変形させる必要があります。このときに、回転する動きを付加するとなお効果的に見えます。こういった味つけは撮影担当のセンスが問われる部分です。

 次に、電脳空間や異空間のような現実には存在しない場所の表現を取り上げましょう。
こうしたものは想像の空間ですから、前回取り上げたような環境の再現とは異なる理屈で、表現を組み立てることになります。現実空間であっても、宙に浮く形のモニター(ユーザーインターフェース)のような描写は、こうした表現のひとつに挙げていいでしょう。
特殊な空間では、前回説明した環境光も、影響があったりなかったりと様々です。電脳空間を表現する場合、空間内でデザインされた抽象的なエレメントが、空間内に3次元的に多数配置され、それぞれが独自に動いたり光ったりと制御されている――という描写がよく見受けられます。これらは、簡単なものならAfter Effects内の3Dレイヤーを利用して表現できます、複雑なものなら、3Dソフトで作成することになります。
なお、最近では、画面内のモニター上に文字情報が数多く表示される、という描写も少なくありません。そこで、これを専門とする役職が置かれることも多くなりました。モニターグラフィックやモニターデザイン、モーショングラフィックスなど呼称は様々ですが、作中のコンピューター画面や魔法陣のような様々なグラフィックを担当しています。これについては、また次回以降に触れることにしましょう。
電脳空間内でよくある表現に、デジタルノイズの描写があります。モニターの走査線様の表現、砂嵐ノイズ、攻防戦でのランダムノイズなど多岐にわたります。汎用のノイズ素材をあらかじめ用意しておく場合もあれば、ソフト上で生成する場合もあります。その上で、複数のエフェクトを重ねて、複雑な表現にするのです。モザイクなども、デジタルっぽさを表現するうえで欠かせませんが、何かしらの効果と併用することで、画面が単調にならないように気を配る必要があります。
デジタル空間の表現では、静止しているよりも、数値的なものが変化したり、画面のどこかしらにジリジリとしたノイズ様の変化があったりと、常に何かしらデータの変動を感じさせる要素があると、それらしくなります。

 異空間の場合は、おどろおどろしいもの、逆に神聖な雰囲気のものと、抽象的な表現が主になります。処理する要素は、電脳空間より少ないかもしれません。おどろおどろしいものでは、背景に波ガラスのような揺らしをかける、怪しげな霧を追加するといった処理を施します。神聖な空間であれば、虹色の柔らかなフレアを入れる、ディフューズを強めるといった光の処理を施します。パーティクルでぼやっとした光の玉を浮かせる、なんてことも。
 こうした処理は多分にイメージ的なものなので、多用する場合は、設定や美術も含めた事前の打ち合せで決め込む必要があります。ただ、その場限りのものについては、そのカットに求められる雰囲気を臨機応変に作る、ということになるでしょう。

 異空間とまで行かなくとも、ギャグ的に、背景に動きをつけて揺らす、光らせるというのも、多く見られる表現です。類するものに、感情や勢いを表現する集中線や、上下左右に流れる風様の描写といったものがあります。極めて記号的な効果ですが、動きのないカットに躍動感を与えたり、登場人物の(ひいては視聴者の)感情を補強したりする上では欠かせません。マンガ由来の表現と言えるでしょうか。動きのないマンガで動きを表現するために作られたものが、本来動いているアニメに取り入れられ、用いられているというのが面白いところです。こうした表現は、動きの少ないカットやスローモーションのカット等で多用される傾向にあり、そういう意味でもマンガ的です。
美術だけで表現することもあり、その場合、いわゆる「流パン」と呼ばれる背景を用意します。これは風景が高速で流れた感じに描いたものですが、撮影が通常の背景に横方向に大きくぼかしを加えることで、流パン的な背景を作ることもあります。

 レンズ効果についても触れましょう。
「アニメスタイル007」でも解説しましたが、アニメをいかにも現実のカメラで撮影しているかのように見せる効果全般が、これにあたります。具体的には、レンズを通して見たときに現れる様々な現象を、画面上で再現するものです。演出的な意味合いが強く現れる表現で、使い方によっては、非常に印象的な画面になります。
代表的なのは、ピントの表現でしょう。奥と手前に人物がいるときに、どちらか一方にピントが合い、一方がぼけているような表現です。よく見られる手法で、本来平面であるアニメの中で、比較的簡単に空間を演出することができます。ピン送りと言って、奥と手前の対象交互にピントを合わせることで、ワンカットで切返しのような効果を得る表現もあります。
 このピント表現がさらにエスカレートして、最近は非常に浅い被写界深度を取り入れる作品が出てきました。被写界深度とは、ピントを合わせた部分を中心に前後でどこまでピントが合っているか、その範囲のことです(ピントの合う範囲が狭いことを「被写界深度が浅い」と表現します)。最近は手前奥どころか人物の顔の中で目と鼻のてっぺんでさえもピントが違うような、非常に浅い被写界深度表現が現れてきました。実写の影響も大きいと思いますが、これを丁寧にやると雰囲気のある「いい感じ」の画になります。対象のなかで、強調したい部分を明示する効果も大きいのです。
 こうした表現は、基本的にレンズのピンぼけを再現するプラグインで行われます。ぼける範囲をグレーの階調で指定して、階調に応じてぼける範囲とぼけ具合を調整します。レンズぼけのプラグインには光学的なシミュレートも入るので、これを利用して、背景に対しパースに合わせた奥行感のあるリアルなぼかしをつけるといった使い方もあります。空間の強調表現のひとつとして広く行われています。


 他によく見かけるものとして、ビネットと呼ばれる画面の四隅を減光させる表現があります。これは古いレンズや広角レンズ、焦点距離の長い望遠レンズなどで顕著にみられる現象です。周囲を極端に暗くすることで、回想シーンなどによく用いられます。その場合、色をセピア調にしたり、フィルムノイズ様のものを付加したりすることもよくあります。他にも視野の狭さやノスタルジックな印象を演出するのに用いられたり、フレーム効果で対象を目立たせるのに使われたりすることもあります。撮影上は、四隅をぼかしたマスクを作り、露出を押さえたり色を加えたりします。


 色収差という色ズレを起こす現象もよく使われます。これには光学的なものと電気的なものの2種類があります。光学的なそれは、レンズを通過する光の屈折で起こるものです。度の強いレンズや品質の悪いレンズの表現として、画面の歪みや低い解像度といった処理と共に用いられます。電気的なものには、例えばダビングが繰り返され、色信号がずれた映像や、古くなったブラウン管に映る映像があります。そうした表現に用いられるほか、印刷の版ズレのようなポップな効果を狙って、オープニングやエンディングなど、スタイリッシュな映像にも用いられます。プラグインの使用やRGBチャンネルの操作によって、表現します。


 レンズの表面についた汚れやホコリによる乱反射の表現も見かけます。レンズに強い光があたった場合に汚れで光が拡散し、画面上に光のボケ玉として現れるものです。プラグインを使ったり、素材を作って重ねたりすることで表現します。強い光が来たときなど、画面に一瞬だけ入ると、光の印象がより強まり、臨場感が出ます。ただし、あまり多用すると、うるさい印象にもなりかねないので、使いどころに注意が必要です。
似たような表現に、オーブと呼ばれるものがあります。ピントからはずれた空間上にある雨やホコリなどが、同じく乱反射により光のボケ玉として現れるものです。レンズの汚れは表面に付着している(という想定な)ので画面上では同じ位置に固定されて動きませんが、オーブは空間上にあるので動いているという違いがあります。ただし、ファンタジックな表現として、そこまでリアルにとらわれず、イメージ的に画面に挿入される場合もあります。

 『響け!ユーフォニアム』の中では、こうした効果をまとめて用いることで、あたかも古いレンズで撮影しているかのような印象を醸していました。007号の記事では、説明の都合上、勝手に「オールドレンズ効果」と名づけていましたが、こういう名前の撮影効果があるわけではありません。状況に応じて色々な表現が作られ、重ねられるのです。

 続いて、質感表現について触れましょう。
これは、文字どおり、セル素材に対して質感を付加する作業です。最近のアニメでは、キャラクターの瞳の透明感や頬のぼやけた赤み、髪の毛や肌の表現などが、撮影で加えられています。
色をぼかすには、特定の色の境界のみを選択的にぼかすことのできるプラグインが用いられます。マスクと組み合わせることで、さらに複雑な表現も可能です。他にもテクスチャを使用してムラを載せることで、フラットなセルの表面に変化をつけることもあります。
 こうした作業は、以前は「特効」という質感表現専門のセクションが担っていました。しかし、最近では撮影時に、プラグインを用いたり、作画で用意した素材をベースに加工したりして、付与することが多くなっています。
 ただし、複雑でリアルな質感を加えたい場合や、版権絵と呼ばれる雑誌やポスターなどに効果をつける場合などは、現在も特効セクションの出番です。
 大雑把には、たくさん動くものは撮影が担い、動かないものや動きの少ないものは特効でという区分ですが、手でしかつけられない質感表現もあり、その場合は特効担当者が1コマずつ質感を描いていくことになります。
 最近はかなり質感を載せる作品もあり、シーンごとに質感の設定を換える場合もあるので、そういった場合、スクリプトなどで手順を自動化して作業の効率化を図ります。
質感表現を加えることで、ラノベなどイラストのある原作の場合、より原作にテイストを近づけることができるようになりました。他にも、昔のセル塗り調や水彩調、厚塗り調など多様な表現が可能になっています。ただ、それはまた、作業量の増加にも繋がっているのです。

 最後に、これは演出上の狙いという趣旨からは外れますが、他に取り上げる機会もないので触れておきましょう。呼び方が決まっているわけではないのですが、ここでは「隠し」と呼んでおきます。
読んで字のごとく、見せたくない部分を隠すことです。具体的には残酷描写やアダルトな表現の部分を隠してしまうものです。隠し方に関してはリアル路線の作品であれば、可能な限り自然な形で、画面上に影っぽいものを入れたり、強い光を置いたりします。お風呂の湯気を濃くしたり、お湯の透明度を下げてキャラクターの体のシルエットを目立たなくしたり、という表現は、かなりお馴染みではないでしょうか。
ギャグ的作品であれば、作品の象徴的なマークやNGと書かれた札のようなもので隠すというケースもあります。これは、上からかぶせるだけなので、撮影時ではなく編集時点で入れるものもあると思います。
言わずもがなですが、明らかにNGなものが映る場合は、演出設計の段階ですでに「隠し」がなされていますので、あしからず(バストトップの泡とか、裸の人物の手前の絶妙な位置に生えている葉っぱなどのことです)。

 さて2回にわたってエフェクトに関して色々と書いてきました。まだまだ書ききれない事例もたくさんあります。それだけデジタル撮影になって、多岐にわたる表現が可能になったということです。エフェクトの作成方法も多種多様で、説明しきることは不可能ですが、CG雑誌やセミナーなどで、具体的な事例に沿った紹介がされています。より詳しく知りたい方は、そうしたところに足を運んでみるのもよいでしょう。

 それでは今回はこのあたりで。次回は撮影と他部所との連携について触れましょう。