COLUMN

015 絵コンテ本の楽しみ――『HOME SWEET HOME』編(2013年11月7日)

 前回の原稿を書くために、劇場版『花咲くいろは HOME SWEET HOME』のBlu-rayを購入した。せっかくなので、特典が山盛りの初回生産限定特別版を選んだのだが、特典としてついてきた絵コンテ本がかなり楽しめた。
 僕は安藤真裕監督の絵コンテを読むのはこれが初めてだった。彼はアニメーター出身の監督であるし、ましてや『HOME SWEET HOME』は劇場作品であるのだから、きっちりと画を描き込んだ絵コンテに違いない。今 敏監督の絵コンテのように、拡大コピーをとったらそのままレイアウトとして使えるようなものかもしれない。ページを開くまでそう思っていた。だが、あにはからんや、『HOME SWEET HOME』の絵コンテの画は予想したよりもずっとラフなものだった。
 個々のカットの構図のポイントはおさえてある。どのような芝居をやるべきかも芝居も描いてある。その意味では、しっかりと内容が指示された絵コンテである。だが、キャラクターの顔はマンガ的であり、大胆に誇張されている。どのくらいマンガ的かというと、たとえば、民子が怒るカットでは顔から口がはみ出しているし、結名がウインクするカットでは星マークが飛んでいる。いや、それ以前にキャラクターの顔が長方形に描かれていたり、少女たちの正面顔には基本的に鼻が描かれていなかったり。そのくらい仕上がった映像とはキャラクターの画が違うのだが、可愛らしくて、眺めているだけで楽しくなる。
 メイキング的な目線で見ると、この絵コンテの画は誇張されているだけに、キャラクターの喜怒哀楽がわかりやすく、しっかりと表現されている。作画を担当するアニメーターは、作画でその喜怒哀楽を描き出さなくてはいけないのだが、絵コンテの表情をそのまま描くわけにはいかない。マンガ的な画をキャラクター設定の画に変換し、なおかつ、絵コンテにある感情を表現しなくてはいけないのだ。
 緻密に描かれて、完成画面に近い仕上がりになっている絵コンテは、作画段階でそれ以上のものになる可能性が少ない。しかし、ポイントをおさえつつもラフに描かれた絵コンテは、そこにアニメーターや他のスタッフの創意工夫が加わり、絵コンテ段階で演出家がイメージしたものよりもよくなる可能性が期待できる。『HOME SWEET HOME』の絵コンテは後者だった。
 完成映像と見比べて「コンテのこの部分が、完成映像ではこうなったのか」とチェックするのも、絵コンテ本の楽しみ方のひとつだ。『HOME SWEET HOME』なら、絵コンテと完成画面を見比べて、作画スタッフが絵コンテの表情や芝居をどのように変換していったのかを確認しながら読むと、より楽しめはずだ。作画段階で色気などをぐっと増量しているところもあるし、逆に絵コンテのコミカルな表情が完成画面に残っているところもある。
 若き日の皐月(緒花の母親)が、カメラマンの松前綾人から唇を奪う場面がある。キスをした後で我に返った皐月が、やたらと派手なアクションを見せる(Cut319)。芝居にアクションアニメのテイストが入った『花咲くいろは』らしい描写で、印象に残るカットだった。あのカットは絵コンテではどう描かれているのか、気になってページをめくったところ、絵コンテの段階で、そのアクションのポイントになるポーズが描かれていた。おお、さすがは安藤監督。その後でBlu-rayで本編カットをチェックしてみたところ、同カットは、作画でさらに面白い芝居になっていた。こうやってコンテ本のページをめくりながら、完成映像と照らし合わせるのが楽しいのだ。ちょっと違う話になるが、皐月が唇を奪うカットは、ト書きが面白かった(Cut316)。「唇を重ねた」とか「キスした」などとは書かれていないのだ。安藤真裕監督のまじめな人柄がうかがえるト書きで、クスリと笑ってしまった

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