COLUMN

016 絵コンテ本の楽しみ――『有頂天家族』編(2013年11月11日)

 少し前に「この人に話を聞きたい」の取材で、富山のP.A.WORKS本社スタジオに行ってきた。『有頂天家族』の吉原正行監督へのインタビューである。監督としての仕事だけでなく、『幽★遊★白書』や『NINKU』など、暴れん坊アニメーター時代についてのお話もうかがった。その記事は、発売中のアニメージュ12月号に掲載されている。
 取材が終わった後で、P.A.WORKSの方から『有頂天家族』の絵コンテ集をいただいた。これはP.A.WORKS発行の書籍で、一般の書店では販売されていないようだ。お買い求めの方はP.A.WORKSの公式サイトをご覧になっていただきたい。その絵コンテ本を開いて驚いた。とんでもない密度で画が描きこまれているのだ。特に1話が凄い。建物も、人物も、モブシーンもきっちりと描かれている。キャラクターの芝居や表情も、完成映像に近い画になっている。弁天の色っぽさもバッチリだ。たとえば、狸の矢三郎が走りながらフレームインして、空中で身体を捻り、レンガの壁の奥に姿が消え、人間の姿になって着地というカットがあるのだが、人間になった直後に一瞬だけ尻尾が見えるが、すぐに消えるといったことも含めて、コンテ段階できっちり設計されている。
 同じP.A.WORKSの作品でありながら、前回話題にした『花咲くいろは HOME SWEET HOME』の絵コンテとは好対照だ。『HOME SWEET HOME』の絵コンテは、完成映像と見比べて「コンテのこの部分が、完成映像ではこうなったのか」とチェックする面白さがあり、『有頂天家族』1話の絵コンテはどのように映像が設計されたのかを読み込んでいく楽しみがある。絵コンテを読むことで描き手のクリエイティブな面に触れることができるのはどちらも同じだ。
 吉原監督は全13話中9本の絵コンテを担当しており、1話も監督自身によるものだ。絵コンテ集の序文は、吉原監督が書いており、どのようにして『有頂天家族』の絵コンテが作成されたのかが説明されている。1話の絵コンテが特に丁寧な理由も書かれているし、2話以降はラフコンテを原画マンがクリンナップする予定だったこと、さらに演出助手が絵コンテのト書きを担当していることも触れられている。他にはないスタイルであり、それも面白い。
 序文には、5話以降はラフコンテを清書せずに、そのまま現場で使ったともある。改めて5話以降を見直してみると、確かにクリンナップされているとはいえないし、背景が細部まで描かれているわけではない。ではあるが、キャラクターの芝居や表情はしっかり描かれている。ここは読者が突っ込みを入れるべきところだと思うので、突っ込ませていただく。「いやいや、5話以降も充分に丁寧ですよ、吉原監督!」。

[関連サイト]
P.A.WORKS公式サイト
http://www.pa-works.jp

[関連商品]
アニメージュ 2013年 12月号
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00G4T7V26/style0b-22/ref=nosim

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