COLUMN

014 劇場版『花咲くいろは HOME SWEET HOME』の物語構成(2013年11月5日)

 Blu-rayソフトの発売から少し経ってしまったが、劇場版『花咲くいろは HOME SWEET HOME』について書いておきたい。僕はこの作品を観て、物語構成の巧みさに舌を巻いた。
 『HOME SWEET HOME』は、TVシリーズ『花咲くいろは』をベースにして作られている。『花咲くいろは』は喜翆荘という名前の旅館を舞台にしており、そこで働くことになった女子高校生の松前緒花が主人公だ。彼女と喜翆荘で働く人々を中心にして物語は展開する。「仕事」を題材にしており、緒花は「私は輝きたい」と思っている。
 『HOME SWEET HOME』はTVシリーズの後に制作されたものであるが、作品内の時系列で言うと、後日談ではなく、TVシリーズ途中のエピソードだ。問題はテーマである。僕の記憶が正しければ、緒花が自分の目標を見出すのはTVシリーズの終盤であるし、彼女が本当に輝くのはTVシリーズ最終回の後であるはずだ。だから、TVシリーズ途中のエピソードにあたる『HOME SWEET HOME』において、緒花がやりたいことを見出すわけにはいかないし、仕事を通じて大いに輝くわけにもいかない。
 そこで脚本の岡田麿里は巧妙に物語を構成した。登場人物の中から、緒花の母親である松前皐月と、なこちこと押水菜子をピックアップ。皐月については、過去の出来事を劇中に挟み込むかたちで、彼女が輝こうとしていた高校時代などを描いた。なこちは学校に行きつつ、喜翆荘で働き、さらに自宅では弟や妹の面倒までみている。緒花にとってはそんな彼女も「輝いている存在」であるようだ。
 緒花は、輝くために賢明だった皐月に胸をときめかせ、輝いているなこちを応援する。さらに同じ喜翆荘で働いている鶴来民子、輪島巴も描く。料理人になるために努力している民子は、輝くために頑張っている存在であり、恋愛に縁がないことに焦っている巴は輝くきっかけを求めている女性と言えよう(ライバル旅館の娘である和倉結名も登場する。彼女は、努力はしていないが、その奔放さゆえにそれなりに輝いている存在と受け止めればいいのだろうか)。輝いている女性、輝くために頑張っている女性達を描き、それについて緒花がどう感じたのかを重ねることで「緒花を主人公にして、仕事で輝いている女性を描いた作品」としているわけである。物語構成のウルトラCだ。また、『HOME SWEET HOME』では、家庭と自分の仕事を両立させることの大変さを描いており、その意味において、TVシリーズよりもテーマについてより踏み込んだ作品となっている。
 物語構成以外についても触れておこう。さっきも書いたように『HOME SWEET HOME』は作中の時系列的には「その後」の物語ではないのだが、作り手にとっては「TVシリーズの後で」作った先品である。それだけが理由ではないのかもしれないが、TVシリーズよりもキャラクターの描写が濃厚になっているのが面白い。性格描写については(特に輪島巴については)、デフォルメが効きすぎて二次創作的になっているともいえるが、それも楽しい。安藤真裕監督のテキパキした芝居づけも健在。松前緒花役の伊藤かな恵は、若き日の松前皐月も演じており、その芝居は聴き応えのあるものだった。

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