螺巌篇 第5部 予想以上の結果、観客からの言葉
取材日/2009年6月19日 | 取材場所/東京・東小金井 GAINAX | 取材/小黒祐一郎、岡本敦史 | 構成/岡本敦史
初出掲載/2010年1月25日
── 今回どうしても外せない質問として、クライマックスのおっぱい問題があるんですが。
今石 ああ、おっぱいですか。『紅蓮篇』の時にも、誰かにうっかり描いてほしかったんですけど、描いてくれなかったんですよ。だから「もう分かったよ、俺がやるよ!」と(笑)。レイアウト修正で、自分でしっかりと乳首を描いて、それを錦織に「俺の画じゃ色気が足りないから、全修してくれ」と言って渡して。まあ、ああいう場面なので、いわゆるお色気という感じではないですけどね。
── でも、やっぱりあれこそがガイナックスの伝統ですよ。ひたすら真面目なクライマックスなのに、おっぱいぼよーん! みたいな。
今石 「うわっ、どこ見たらいいんだ!?」っていう(笑)。
── 『トップをねらえ!』最終回の、ふとストーリーを忘れてしまう瞬間を思い出しますね(笑)。それにしても、あの乳首のダイナミックな動きはなんなんですか。
今石 あれはまあ、直す時間がなかったから(苦笑)。あんな中割になっているとは知らなくて、僕も上がりを見てビックリしました。僕のラフがあるから、どうしても引っ張られてしまうんでしょうね。
── あれは中割が原因なんですか。
今石 いや、うーん……原画もちょっと、そんなケがあったんですかねえ(苦笑)。
── 今までのアニメで、あんなに豊かな動きの乳首は見た事なかったですよ。
今石 実際はそこまでじゃないと思うんだけど、観た人それぞれの脳内で凄く膨らんでしまうんですよね。「乳首がなびいてる!」とか言い出す人もいたし。
一同 (笑)
── 実際は2カットしかないのに、印象としては10カットぐらいあるような気もしますよね。
今石 いやいやいや!
大塚 なんでみんな増幅するんだ(笑)。
── おっぱいアニメ史的には『プラスチックリトル』以来の衝撃でした。
今石 でも、あっちはもっと乳輪のほうにこだわってるじゃないですか。
── いや、『プラスチックリトル』を観てしまった以上、今後おっぱいで感動する事はあるまいと思っていたのに、こんなところで衝撃を与えられるとは(笑)。まさか乳首でドリルを表現するとは思いませんでしたよ。
今石 あっはははは! 別に、渦は巻いてないですけどね(笑)。いろんな妄想を呼んでしまうというか、みんな解釈を拡げてくれるみたいですが。まあ、最後にああいう事はしたかったんですよ。もう、みんなの気持ちが高まりすぎて、衣服も邪魔であると。そういうものの存在も関係ないレベルまでいってる、という事がやりたかったんです。
── あの乳首は勃起してるわけですか、やっぱり。
今石 いや、そういうつもりはなかったけど、解釈は皆さんの自由ですよ(笑)。だからシモンのカットも、PANダウンしたら、体の一部が反応してる可能性がありますよね。感情的に最も昂っているシーンであろうから、体中のあらゆる部分がこう……この話、大丈夫なんですかね?
一同 (爆笑)
── この辺にしておきましょう(笑)。とにかく、服を着てるの着てないの、生きるも死ぬも関係ねえ! ぐらいの世界だという事ですね。
今石 そうですね。そのくらいハイな状態であってほしいな、とは思っていました。
── 今回、クライマックスもそうなんですが、ヨーコのおっぱいも全体的に目立っていた気がします。
今石 それはもう、映画ですから(笑)。やっぱりそういう事がないとイカンだろう、と。
── 要所要所で強調されてますよね。
今石 ええ。胸もそうだけど、コスモルックの太股を肌色に戻すというのも、今回の大命題でしたね。
── ああ、なるほど。TVではコスチュームとして白く塗られていたんでしたっけ。
今石 そうなんです。TV局的な事情で自粛を迫られたような経緯があって、「まあ白いのも、それはそれで変態っぽいよね」って、当時は錦織と納得し合ってた。だけど映画では、やっぱり肌色に戻したい。ヨーコの痴女っぷりをちゃんと確認したいなあ、と思って。
── 痴女なんですか?
今石 あの格好で平気な顔してるんですから、それはもう痴女じゃないですか。
── 単にワイルドなキャラクターだから、というわけではなくて?
今石 いや、ヨーコ本人の理屈としては「動きやすいから」みたいな事だとは思うんですよ。でも、傍から見たら、ただのおかしい人ですから(笑)。
── ああ、周りから見て、という事ですね。本人はともかく。
今石 そうそう。男から見たら完全に痴女。本人は「え、何言ってんの?」って感じだけど。だから今回、いかにヨーコをじっくり見られるアングルを探すか、という事に腐心しましたね。中盤、出撃前に初めてコスモルックで出てきて、みんなで話をする場面なんて、まさにそう。女の裸でもないと退屈で聞いてられんぞ、というシーンですから。
── あそこでキタンがヨーコの胸に見とれてるのも、ひとつの死亡フラグなんですか。
今石 まあ、そうですね(笑)。あの一連のシーンは丸々、益山(亮司)が原画を描いてます。
── 今回、メカ作監としての手応えはいかがでしたか。
今石 いやもう、いかにサボるか、楽をするかというのが命題でしたね。とにかく量が多すぎますから。普通に監督としてレイアウトチェックしているだけでも時間が過ぎていくし、アフレコやダビングも1日じゃ終わらないし。そんな事をやっていると、どんどん時間が無くなっていく。だから、いかに直さないで出すか、という事だけがテーマでしたね。でもまあ、『紅蓮篇』の時もそうでしたけど、原画マンがみんな巧いですから。作監クラスの人たちしかいないので、もうシルエットを直すだけですよね。特に、積極的に何かした記憶はないです。
── では、錦織さんの仕事ぶりは?
今石 錦織はもう、ヨーコPV(「天元突破グレンラガン キラメキ☆ヨーコBOX〜Pieces of sweet stars~」)を作るのが心のオアシスだったので(笑)。そのぐらい大変だったと思います。
── どういう事ですか、それ(笑)。
今石 要するに、今回の『螺巌篇』は男祭りじゃないですか。いくらヨーコのおっぱいが出てくるといったって、普通の会話シーンの中でしかないんで。
── ああ、なるほど。『紅蓮篇』みたいに、アクションシーンの中で派手に胸がボヨヨンみたいなところはないし。
今石 それもそうだし、劇場版は2本とも、新作パートではニアとヨーコの日常における可愛さみたいな、いわゆる萌え的なポイントってないじゃないですか。
── 錦織さん的には、TVの12話みたいに、ヨーコがニアの髪を切ってあげたりしたいわけですね。
今石 そう。髪を切るところとか、髪を切るに至る日常のあれやこれやみたいな事が描きたいわけですよ、どちらかというと。
── かろうじて最後に結婚式はあるけど、あそこはTVの最終回をベースにしてるから、ほとんどやる事がない。
今石 そうなんです。だから今回、メカはうんざりするくらい新しいのが出てくるんですけど、キャラに関してはひとりも新キャラが登場しないですからね。全体のキャラ芝居も、ほとんどTVシリーズの流用が多くて、新作があってもとにかくカロリーを下げてるんです。例外的に高いところは、まあ殴り合いとか、キノンが泣きじゃくるとか、原画マン頼みのところですから。そういう意味では、錦織が腕を振るうポイントはあんまりなくて、どちらかというと全体を綺麗にまとめるという普通の作監仕事になってしまった。ま、それはそれで大事なんですけど。そういうフラストレーションが、その直前に作っていたヨーコPVに集約されている、と(笑)。
── アフレコはいかがでしたか?
今石 相変わらず柿原(徹也)に「画面が白い、白い」と言われ……って、そんな話してもしょうがないか(笑)。
大塚 初っぱながいちばん大変だったよね。
今石 ああ、そうでしたね。これは結構あちこちで言ってる話ですけど、ニアがプロポーズの返事をするシーンで、福井(裕佳梨)さんと柿原のふたりだけの芝居を、何テイクも録る事になっちゃって。なかなか芝居が掴めなくて、あそこだけで1時間か、1時間半ぐらいやってましたね。順録りですから、他の方たちは出番を待ってる状態のまま。その辺でちょっと苦労しましたけれども、他は概ね……まあ、みんな上手い人ばっかりですからね。
大塚 熱がこもってるのが伝わってきた。
今石 うん。そういう意味では、やっぱり上川隆也と池田成志のパワーアップぶりは異常でしたね。TVをやって、何か見えたんでしょうか。キャラクターを掘り下げて、さらにパワーアップしてくる感じはさすがだなあと思いました。圧倒されましたね。ロージェノムの場合は、最初からいい人になってたんで、それはちょっと変えてもらいましたけど(笑)。
── ああ、最後にはいい人になる事がもう分かってるから。
今石 そうそう。ロージェノム・ヘッドになって復活したあたりから、今にも味方になりそうで(笑)。そこはもうちょっと、感情がない感じで言ってください、とお願いしました。
── では、そろそろまとめに……。劇場での反応はいかがでしたか?
今石 まあ、よかったんじゃないですかね。舞台挨拶を何度もしたんですけど、もの凄い回数を観てる人がいるんですよ。「23回観た」とか言っていて、僕だってそんなに観てないのに(笑)。
── 制作中も、そういうファンの反応は気にしてましたか。
今石 最初のほうでも言いましたけど、確かに作っている最中は、これが作品としてどういう見え方をするのか、初号の日まで分からなかった。そういう若干の不安はありましたけど、ただまあ『紅蓮篇』と違って、一見さんお断りの映画になるのは分かっていたというか、そのつもりで作っていましたから。TVの『グレンラガン』が好きだったら楽しめる作品だろうとは、なんとなく感じていましたけどね。逆に、TVシリーズが好きな人に楽しんでもらうために、どこを端折ってどこを足したらいいのか考えながら作ったところもあるので、結果的にそういうふうに楽しんでもらえたのは、よかったと思います。
── 思ったとおりに受け入れてもらえた、と。
今石 これもどこかで話したかもしれないけど、『紅蓮篇』は初号の時、すげえ不安だったんですよ。何を言われるか分からないというか、何を言われても仕方ないというか、そんなナーバスな気持ちになっていた。でも『螺巌篇』は特になんとも思わなかったというか、もう煮るなり焼くなり好きにしろや! という気分になっていたので(笑)。そういう意味では、やれる事とやりたい事は大体やったんだ、という実感があったんだと思います。
── 大塚さんはいかがですか?
大塚 やっぱり『紅蓮篇』は、ちょっと手探りな感じが強かったんですよね。それに対して『螺巌篇』は、「こういうものを作る」という監督のビジョンが凄くハッキリしていて、僕らはそれに沿って作っていくだけみたいな感じだった。まあ、作業自体は大変なんですけど、『紅蓮篇』の時みたいに「どうなっちゃうんだろうな〜」みたいな感じはなくて。やる事はいっぱいあるけど、それを終えれば出来上がりはそんなに心配しなくても大丈夫。やり通しさえすれば、いいものができるんだ! みたいな感覚があったんですよね。それがみんなにも伝わったんじゃないかな。多分そういう確信があって、スタッフは凄く頑張ってくれた。「あの時間でこれができるんだ、凄いなあ」と、素直に思いますね。そういうものを最初に提示できるかどうかが、今回の勝負どころだった気がする。その意味では、中島さんも今石監督も、さすがだと思いました。
今石 ヘヘヘ(笑)。
── 素晴らしい。では、最後に皆さんからひと言ずついただいて、終わりにしましょう。では、真鍋さんからどうぞ。
真鍋 えっ、僕ですか? えーと、自分は最後まで作品の展開を見ていなくちゃいけない立場ですから、完全に終わったわけではないんですけど……。ただ、この作品に最初から関わって、こうして綺麗なかたちで終わる事ができて、自分にとっては凄くいい経験をさせてもらったな、と思っています。
── ありがとうございます。続いて大塚さん、どうぞ。
大塚 TVシリーズを最初に作り始めた時は、ガイナックス全体で盛り上がればいいよね、という感じでやっていたんですけど、結果的にその熱気や楽しさが観ているお客さんにも波及してくれた。スタッフも面白がれたし、お客さんにも面白がってもらえて、幸せな作品になれたかなあと思います。当初の想像以上に、いい結果になったんじゃないかな。やってよかった、と思いますね。
── ありがとうございました。それでは最後に、監督から総括をお願いします。
今石 まあ、確かに結果的には「予想以上」なんですよね。やればできるとは思っていたし、やったらもっといくだろうとか思いながら、スタッフや現場を信じてやっていたわけですけど。「ああ、こういう風になるんだ」という結果については、いい意味で意外でした。
……あの、よく「ありがとう」って言われるんですよ。お客さんに。「作ってくれてありがとう」みたいな事を。そんなの、今まで言われた事なかったですからね。それはそれで、いろいろ戸惑うんですけど(笑)。
── 『DEAD LEAVES』では言われないですよね。
今石 いやー、言われないよねー!
一同 (爆笑)
今石 ああいうものを作って喜んでたような奴なのに、「ありがとう」なんて言われると、非常に申し訳ない気持ちになってしまうんですが(笑)。まあ、真面目に作ってよかったなと思いつつ、これを活かして次のものが作れればいいな、と。あまりここで慢心してはいけないな、とも思いますし。自分にはもったいないくらいの経験でした。
── ありがとうございました!
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