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螺巌篇 第4部 怒濤の天元突破リレー、吉田健一作画の衝撃

螺巌篇 第4部 怒濤の天元突破リレー、吉田健一作画の衝撃

取材日/2009年6月19日 | 取材場所/東京・東小金井 GAINAX | 取材/小黒祐一郎、岡本敦史 | 構成/岡本敦史
初出掲載/2010年1月18日

── では、ここからは主にクライマックスの作画についてお聞きします。吉田健一さんは、ガイナ社内に入って作業されてたんですか。

今石 ええ、入ってやってくれました。『トップ2!』の時もガイナに入ってたから、TVシリーズでも何かやってもらおうという話はありつつ、なかなかタイミングが合わなくて振れなかったんですよね。じゃあ、次は劇場版だ、という事で。

大塚 その前に、ガイナ社内で吉田君の仕事を手伝ったりしていて、そのお返しというか「代わりに何かやりますよ」と言ってくれていたので、じゃあ『グレンラガン』をお願いします、と。

今石 TVより時間が多く取れるわけでもないし、むしろ少なかったぐらいなんだけど。吉田さんほどの人に頼むのであれば、やはりいちばんの見せ場を御用意しなければ、と思いまして。それで天元突破ソルバーニアのシーンを振ったら、非常に恨まれました(笑)。

大塚 (笑)

── 吉田さん自身がやりたいところではなかったんですか?

今石 まあ、本人はもっと地味な日常芝居とかをやりたかったらしいです。確かに、それも最初は想定してたんですよね。具体的には、ニアがシモンのプロポーズの返事をする場面を頼もうと思っていた。あそこは実際にコンテを切るまで、実はもの凄く動くシーンを想定していたんですよね。自分の中で史上最高にこっぱずかしい告白シーンみたいなものを作ろうと考えていて(笑)。ニアが可愛い仕草で照れまくりながら、あっちこっち歩き回って、「こんな仕草でこう言われたら絶対落ちるよ!」みたいな感じをイメージしてたんです。だけど、いざ描いてみたら、ニアはキャラ的に全然そういう事をしないと気づいた。ああいう時でも、真っ直ぐ相手を見て話すだろうな、という画しか浮かばなかったんです。

── 可愛く動き回ったりするキャラではない、と。

今石 ええ。そんなわけで、そのシーンはわりと作画のカロリーが低めになってしまった。そうなると吉田さんにはもっと動くところを振りたいな、と思って。じゃあ『エウレカ(交響詩篇エウレカセブン)』でもメカを描いてたから、敢えてメカで(笑)。

── どうしてソルバーニアの場面を振ったんですか?

今石 やっぱり女性型のメカだから、よりキャラクターっぽく描いてほしいという思いがあったんですよね。そういうのは、吉田さんなら得意中の得意であろうと。

── ソルバーニアが出てきて、グランゼボーマにやられるまでのくだりは全部、吉田さんなんですか。

今石 ええ。天元突破まつりの出だしですね。あそこを10カットちょっとぐらい振ったんですけど、レイアウトが上がりだした時点で、これは終わらないという事が分かった(笑)。それで、アクションの後半はレイアウトの時点で、半分は僕と平松(禎史)さんとで分けたんです。ジャンプしてグサッと刺すぐらいまでを吉田さんがやって、その後、弾かれて倒れるみたいなところは、キャラを平松さん、メカは僕が1原をやるという分担で先に仕上げてしまった。吉田さんの原画は、絶対に2原に振りたくなかったんですよ。最後まで原画をやってほしかった……というか、あの人の画を2原に振るのは不可能ですから。

── それはスケジュール的な問題で?

今石 いや、質の問題です。なんとしても最後まで吉田さんの原画で見たいと思ったので、むしろ担当カットを減らしてでもいいから、そこだけはやってもらおうと。

── あのシーンもやっぱり「すわ、別のアニメが始まった!」と誰もが思う場面だと思うんですけど(笑)。ソルバーニアが『グレン』メカっぽくないのは、デザインというより、むしろ作画のせいなんですか?

今石 両方だと思います。あれはデザイン自体も吉成(曜)さんのオリジナルなので、あんまり僕の好みが入ってないんですよ。「天元突破グレンラガン ニア写真集」という本で描いたイラストをそのまま使ってるから。

── 今石色は薄いですよね。

今石 ええ。普通にカッコいいメカが出てきて、それを吉田さんが描いてるから。……いやあ、しかし、あんなにも違うとは思わなかったなあ。

一同 (笑)

今石 これ、なんの新番組ですか? って、みんなが思いましたからね(笑)。描き方からして、一から違う。それが凄く新鮮だった。ガイナックスの人間には全くいないタイプでしたね。

── 流派が違うというか。

今石 そうですね。吉田さんの原画を……特に生原画を見ると、もの凄く生々しいんです。もはやメカではなくて、人に見えるんですよ。着ぐるみを着ている状態ですらない。しかも「うーん、14歳半ぐらいかな……」とか、年齢のニュアンスまで想像できそうなくらい、匂い立つ感じがある。この人(メカ)はどういう人生を送ってきたんだろう、とか思いを馳せたくなるような(笑)。最初からキャラクターっぽく描いてほしいとは思っていたけれども、メカでここまで表現しようとするのか! って、驚きましたね。カルチャーショックでした。

── そこまでですか。

今石 吉田さんの原画を見てると、自分がアニメを描き始めた頃を思い出すんですよ。その頃って、描きたいものがあったら、それを表現するための近道を知らないじゃないですか。ただもう、一から全部描くしかない。最後まで描ききる以外に、目標まで到達する術がないんですよ。素人の頃はそれで上手く描けなかったりするんだけど、プロになるとちょっとズルできるようになるというか、効率的なやり方を覚えるじゃないですか。

── テクニックが身についてくる、という事ですね。

今石 ええ。それで一応見た目は上手くなっていく。だけど、それで失うものもいっぱいあるんですよ。例えばパターンで描いちゃうとか、覚えたやり方で描くようになっちゃうとか。そうやって、どんどん型にはまっていく。でも、吉田さんは全くその型を使わないふうに見える。

── ほおー。

今石 ただもう、一から全部描く以外にない。吉成さんですらそんな事はしないですよ。……ジブリ恐ろしいわ、と思って(笑)。だから、非常に後ろめたい気持ちになりましたね。「ああ、僕はこんなにズルいやり方ばかり覚えてしまって」みたいな(笑)。他にもズルをしない人たちはたくさんいるけど、今、眼の前に見た、って思いましたね。

── 『螺巌篇』全作画の中でも、吉田健一インパクトはずば抜けて大きかったという事ですか。

今石 作画的には、そうですね。

大塚 ガイナ的にはかなり新鮮だった。

今石 ええ。当たり前のようにデカい紙に描いてきましたから(笑)。

── カメラワークもないのに。

今石 そうそう。だから本当に、吉田さんの原画は直しようがないというか、手の入れようがないんです。こことここをポイントとして押さえれば、なんとかなるというものではない。全部がひと繋がりで描いてあるから。

── キメの画を繋いでいけば、それっぽく動いて見える、みたいな発想でもないわけですね。

今石 ないですね。しかも、形も一切省略しない。僕、メカ作監もやってましたから、なんとか修正しないで済むように、影の付け方とかも何回も前もって説明して(笑)。

── 「こういうふうに影をつけてください」と。

今石 初参加だから、やっぱり分からないじゃないですか。『グレン』最終回のメカの影は全部、BLなんですよ。普通に影をつけて、影の中までディテールが描いてあっても、潰れるから画面には全く映らない事になる。他の人でもそういう直しが結構多かったんですよね。吉田さんの場合も結局うまくいかなくて、BL影をやめたカットとかありました。

── ああ、特例として。

今石 そう。そのカットだけ、色の付け方が違う(笑)。1号影と、BL影がついてる吉田仕様のカットもありました。

── そして、ここから怒濤の天元突破祭りに突入するわけですね。

今石 あそこはとにかく演出的にもお祭りですから。1人ひとり出てくるので、理想としては1体につき1人の担当アニメーターというリレー形式で繋いでいって、最後に吉成さんで締める(笑)。これが達成できたら美しいぞ、と思ってやってましたね。

── 実際、1メカ=1アニメーターになってるんですか?

今石 概ねなってると思います。

── 具体的には、どのメカをどなたが?

今石 えーと、最初は吉田さんのソルバーニアで始まって、間を僕と平松さんでやったけど、その後の天元突破エンキドゥルガーが来るところは久保田(誓)ですね。「今回はミサイルないけど、手がいっぱいあるんで、よろしく!」つって。

一同 (笑)

今石 TVの最終回でも、ヴィラルが天元突破グレンラガンでチャンバラするところを『ドラゴンボール』的な殴り合いのように描いてもらったんで、今回もそういうところをやってくれと。もう『屍姫』が終わるか終わらないかの頃で、ヒイヒイ言ってるところに、グイッと突っ込んで(笑)。その後の天元突破ヨーコWタンクのところは、平田雄三さんにお願いしました。作打ちしてる時に「ああ、『(神魂合体)ゴーダンナー!!』とかでこういうの描きましたから、大丈夫です」と言っていたので、じゃあAIC的にやってくれればいいなと思って(笑)。

── 平田さんらしいところですよね。

今石 その次の天元突破ツインボークンのところは、小田裕康さんかな。TVでも、雨宮がメカ作監をやった回(第22話)とかで、数カットやってくれてます。続いて、天元突破キッドナックルと天元突破アインザウルスのくだりは、2体まとめて阿部(真吾)君。TVでもメカ作監をやってもらいましたね。で、そのキッドとアイラックの危機を、ゾーシィの乗る天元突破ソーゾーシンが助けるまでが阿部君。モーショーグンが出てきてからのキメポーズ、そしてグラパールは雨宮です。彼は基本的にグラパール担当だったので。やっぱり20代のアニメーターには、グラパールの人気が高いんですよね。まあ、雨宮と阿部君だけか。

大塚 阿部君も凄くやりたがってたよね、グラパール。

今石 やっぱり、あのふたりはちょっと90年代チックなものが好きなんだなあ。

── アインザウルスの元ネタは、やっぱりマシンザウラーなんですか?

今石 いやもう、ノリです。アインザーからアインザウルスという駄洒落を思いついた時点で、ああなってしまっただけ。ひとりだけ元のメカと名前が違うし(笑)。まあ、恐竜っぽいやつも出してなかったから、もうなんでもアリだという事で。

── 玩具展開的にはアリですよね(笑)。

今石 それで言うと、ヨーコWタンクも「アーマードバルキリーみたいなのをお願いします」って吉成さんに言ってたんです。で、装甲をパージしたら中に華奢なスタイルの女型メカが入ってるという画が落書きで描いてあって、それ見て即「採用!」。コンテに描き足しちゃいました(笑)。

── おっぱいミサイルはどの段階で?

今石 それはわりと初期の段階からありましたね。おっぱいミサイルを撃つまではあったんだけど、パージしたら中に人型メカが、というのは後から足してます。だから、ちょっと見せ場が足りないんですよね。もっとヨーコ単体になってからの活躍があったほうが本当はよかったんだけど……まあ、どっちにしろ尺が「もういいかげんにしろ」状態だったので。

一同 (笑)

今石 で、グラパールが出てきて、一斉攻撃をするところまでは雨宮がやって、その後で天元突破ダイグレンが出てくるところは、桑名さんです。

── ああー。

今石 やっぱり、ああいうデカいものは桑名さんだろうという事で。「俺の嫁〜」スイングして、ドシャーンまでが桑名さん。そこから超天元突破グレンラガンに合体するまでの、TVシリーズのカットの間に入る虫食いのところは、ずっと雨宮が細かくやってます。で、ラゼンガンの数カットの描き足しは、やっぱりすしおに頼みました。

── ロージェノム担当だから?

今石 ええ。ロージェノムが全裸で歩いてくるところもそうですね。「ちゃんと股間は炎で隠してくれ」って言ったのに、炎がちょろっと漏れてて肌色が見えてる(笑)。その辺がすしおのよく分からないところなんですけど。

── ラゼンガンを新作にするつもりはなかったんですか?

今石 なかったですね。あれを描き直す暇はなかった。

── 流れ的には、それまでもの凄いテンションで新メカ登場を畳み掛けておいて「えっ、ここでTVに戻るの?」と思った観客もいたと思うんですが。

今石 うん、そこで少しテンションを緩和したかったんです。その後に超天元が出てくるから、そこまで上がり過ぎちゃうと、戻れなくなりそうだと思って。流れ的にも、ロージェノムが入ってくるところで、テンポというか流れが変わる感じにはしたかったんです。まあ結局、最後の最後は同じですから(笑)。

── 何はともあれドツキ合い、という。

今石 あの最後の肉弾戦も、やっぱりすしおに描いてほしかったんです。

── あれもすしおさんなんですか?

今石 そうです。話を戻すと、超天元からは吉成さん。基本は1原で、また2原をみんなで寄ってたかってやるという感じでしたね。吉成さんが直接やった原画は4〜5カットくらいあったかな。

── 超天元突破グレンラガンのビジュアルもまた、いわゆるロボットアニメ的ではない有機的なデザインでしたね。

今石 超天元については、デザインが難航したまま雪崩れ込んでいるという感じですね。結局、ロボットだかなんだか分からない、緑の巨人になってしまったんですけど。最初のイメージでは、天元突破ガンメンたちが組体操みたいに合体して、クリスタルボーイの骨みたいに、体の中に骨組みとして入っているように見えている事にしたかったんです。いちばんてっぺんにグレンラガンの顔があって。

── ああ、なるほど。

今石 イメージ的にはそういうふうに作ってたんですけど、どうにもアイディアが出てこなくて。結局、設定らしい設定を作らずに、そのまま作画に入っちゃった。そこは吉成さんのパートだから、吉成さんが描きながら決めてください、ぐらいの感じで(笑)。「エフェクトだから大丈夫ですよね。最後は火炎龍ですから、よろしく!」って。

── それはそれで、80年代アニメらしい進化形態になったわけですね。最後はやっぱりエフェクトだ! という。

今石 そうですね。吉成さん、最後のカットで「やっと(超天元の)描き方が分かった」とか言ってましたけどね(笑)。もう二度と描く事はないと思うんですけど。でも、僕のほうからは何も言わないのに、ちゃんと鳥を飛ばしてくれたのが嬉しかったですね。

── それは『幻魔大戦』的な意味で?

今石 ええ、『幻魔大戦』的な意味で。グランゼボーマのほうも、超天元状態まで巨大化した時、ちゃんと小さく鳥がバタバタッと(笑)。

── エフェクトの一部がちぎれて鳥みたいに飛んでいくやつですよね。

今石 そうそう。やっぱりエフェクト巨人になったら鳥が飛んでいくだろう、と。そこは何も言わずに描いてくれたので、よかったですね。それが終わったと思ったら、最後にすしおの殴り合いがある。

── 殴り合いを足したのは、どうしてなんですか?

今石 あれは、TVシリーズの時も「やりたいけど、まあいいか」と思ってやらなかった事でもあるんです。そこはいつも、中島さんとは微妙に意見が割れるところで……別に喧嘩はしないですけどね(笑)。中島さんはあんまり、ああいう事は考えないんですよ。僕のほうが、わりと最後は肉弾戦で終わるのが好きなので。まあ、ロボットアニメとしてそれはいかがなものか、という話もあるんですけど。でも、それはそれとして、やっぱり嫌いじゃない。

── 今石さんがどうしても惹かれるクライマックスのかたちなんですね。

今石 うん。(TV第2部のクライマックスで)ロージェノムとやっちゃったから、そっちの韻も踏んでおきたかった、という事もあるし。最後にラガンがシモンを投げるのもいいな、と思ったし。いろいろ、やりたい事が重なってるんですよね。

── あのクライマックスを見ると、つまりシモン自身がグレンラガンなんだ、という事が分かりますよね。

今石 そうですね。

── メカも合体もいらない、体ひとつでいいんだ、と。

今石 どうしてもそうなっちゃうんですよね。やっぱり、シモン自身に力があるという話になっちゃったから。螺旋力というのはロボットから出ているんじゃなくて、シモンから出ているんだという話になった時点で、そういう落とし方にしかならない。ロボット自体は増幅器でしかないから。

── いわゆる鎧のような。

今石 ええ。乗っている人間があくまでただの人間でしかないなら、また別の結末になると思うんですけど。

── 「ロボのおかげで勝ちました」ではなく、人間が持っている力で勝つという結末でないと、テーマに沿わないし。

今石 そうなんです。

── すしおさんの担当パートは、その最後の殴り合いだけなんですか。

今石 いや、中盤でアークグレンが発進するシーンも、描き足してもらってます。アークグレンが街を壊しながら飛んでいって、地上が煙に飲み込まれるみたいなところも、追加でやってもらいました。

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●関連リンク
『天元突破グレンラガン』ポータルサイト
http://www.gurren-lagann.net/