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第15話 私は明日へ向かいます

第15話 私は明日へ向かいます

●雲を貫く巨大ガンメン、その玉座に待ち受ける宿敵・螺旋王。シモン達は敵の懐深くに殴り込み、最後の戦いを挑む! 人類の未来をかけた頂上決戦が描かれる、『グレンラガン』第2部最終章。前回に引き続き、今回も凄まじく密度の濃いアクションが怒濤のごとく展開する。作画監督すしお入魂のバトルシーン、ロボットアニメの常識を覆す終盤のドツキ合いには、思わず魂を持っていかれる事必至!

脚本/砂山蔵澄|演出/小竹歩、大塚雅彦|絵コンテ/摩砂雪、大塚雅彦、貞方希久子、小竹歩|作画監督/すしお|原画/馬越嘉彦、馬場充子、高橋裕一、江畑諒真、林祐己、佐々木啓吾、細田直人、川口隆、阿部厳一朗、小船井充、宮田与一、森久司、平松禎史、柴田由香、雨宮哲、西垣庄子、渡辺敬介、貞方希久子、長谷川ひとみ、横井将史、山口智、小島大和、本村晃一、芳垣祐介、小竹歩、今石洋之、吉成曜、すしお

取材日/2007年11月9日、2007年12月11日、2008年1月16日、2008年2月20日 | 取材場所/GAINAX | 取材/小黒祐一郎、岡本敦史 | 構成/岡本敦史
初出掲載/2008年1月25日

── 前から気になっていたんですが、15話はどうしてこんなに大勢でコンテを描いているんですか。

今石 最初は摩砂雪さんに全部頼んでたんです。でもシナリオのフィックスが遅れたりとかして、結局Aパートしかできなくなってしまった。それで、Bパートは早いうちからこちらで撒こうという話になったんだけど、僕も描けないから大塚さんにラフだけ描いてもらって、それをアニメーターの貞方(希久子)と小竹(歩)にクリンナップしてもらおうと。一部のアクションは、小竹がいちから考えて描いてますよね。

大塚 エンキドゥドゥ戦は小竹だね。意外と、自分が描いたところと似ている部分があったりして、「これ被ってる!」とか言ってた覚えがあります。

今石 ああ、大塚さんの担当パートと似ちゃったという事ですか?

大塚 うん。ラゼンガンと戦うシーンとかで、ちょっとジャンプして襲ってくる、みたいなカット割りが凄く似てたんだよね。確か小竹の方を変えたんですよ。

今石 そういう意味では、凄く混沌としてるんです。1人でコンテを描いてたら、エンキドゥドゥ戦とかラゼンガン戦とかは、もうちょっとカロリーが減ると思うんだけど(笑)。みんなが全開で描いてるから。

── それぞれ頑張っちゃうわけですね。みんながクライマックスを作ってくる。

今石 そう。1人だったら「Aパートはもうちょっと軽く抑えて、Bパートで弾けよう」とか、自然と計算するはずなんだけど。だから実はAパートも相当切ってるんですよね。3分の1ぐらいは落としてる。もったいない事をしてるんですけど。

大塚 まあ、しょうがないよ。そのままやったら、また10分オーバーとかになっちゃうから(笑)。

── それでもコンテ最終稿のカット数は異様に多かったそうですが。

今石 ええ。400越えですからね。オープニングの1分半を本編に入れているので、尺自体も長くしてあるとは言え……ねえ。要はアクションシーンで逃げてないんですよ。僕自身がコンテをきってたら、エンキドゥドゥの場面とラゼンガンの場面は、ちょっと逃げると思うんです。見せ場の全作画カット、そうじゃないカットみたいな感じで分けると思うんだけど、15話は全てがワンカット・ワンアクションなんです。パンチを出したらパンチを受けた、キックを出したらキックを受けた、ドリルを出したらドリルを避けた、というのを全部カットを割って見せている。それは絶対、その方が面白いんですよ。やっぱり映像作品なわけだから、カット割りでも見せて、個々のカットもちゃんと動いている方が絶対かっこいいし、面白い。だけど、作業的には絶対終わらない(笑)。

── 「逃げる」というのは、たとえば戦っているメカ同士の片方だけを映すとか。

今石 それとか、敢えてロングで格闘を見せるとか。1個のカットに力を入れて、全体的には少しカロリー低めにして帳尻を合わせるとか。もしくは、同じ内容のカットを編集で増やして、カッティングのテンポだけは出すとか。いろいろ逃げ方はあるんですけど、それはやらずに、ガチでやってる。この頃はだんだん時間がなくなってきてるから、「カロリー少なめの方にコンテを直してる間があったら、もう原画を描き始めちまえ!」というスタンスですよね。

大塚 ガイナでは意外と珍しいよね。逃げずにやる、というのは。だから逆にちょっとやってみたいという気持ちもあった。

今石 そうですね。あそこは絶対に逃げるはずなんですよ。庵野(秀明)さんや鶴巻(和哉)さんのやり方でやってたら、こうはしなかったはずです。「やったらできる」のは分かってるんだけど、「やったら終わらない」事も分かってるから、やらない。

大塚 でも、すしおなら多分やってくれるだろう、と。

今石 そう! すしおならやるだろう!(笑)

大塚 何の根拠もなく(笑)。

── すしおさん頼みだったんですね。

今石 ホントそうでしたよ。それもやっぱり計画していた事のひとつで、ドラマよりは画力で、どれだけ最終回っぽく盛り上げられるか試してみたい、という狙いはあったんですよね。あと、すしおの限界も見てみたかった(笑)。

一同 (爆笑)

今石 『トップをねらえ2!』でも、まだ不完全燃焼なんじゃないか、と僕は思っていて(笑)。「すしお、もっと(作業量)入るんじゃねえの? もっといけるんじゃねえの?」って。

── 鬼のようですね(笑)。

今石 15話は、カットごとのカロリーはそんなに多くないはずなんですよ。ワンアクションばっかりだから。ただ、その量が半端じゃなく多かった。いつものガイナのやり方だと、すっごい超絶作画のカットがひとつあって、それ以外はカロリーを落としていくというパターンが多いんだけど、敢えてそれはせずに突っ切った。だけど、さすがのすしおもこの時は「心が折れた」と言ってましたね(笑)。

── 作っている最中にですか?

今石 ええ。「これは終わんねえ」とか思ったらしいです。

── ロージェノムの顔の濃さも凄かったですね。思わず笑ってしまうほど濃い。

今石 あの真っ黒いタッチですか? あれはもう、すしおパワーです。

── 錦織さんの描いたキャラ表からして、すでに濃いですけれども。

今石 キャラ表も「この人だけ『北斗の拳』にして」と言って(笑)、劇画調に描いてもらいました。9話の作監の向田(隆)さんが凄くタッチを残して描いてくれて、それがいい感じだったんですよね。すしおの描いたロージェノムも、タッチだけは別セルで描いてるカットが多いはずです。手の毛とか、凄かったですよね。

大塚 あれは凄いよ。原画を見ると真っ黒になってて、「これ動画にできないよ」って(笑)。動画検査の村田(康人)さんも「こいつはしょうがねえな」みたいな感じで呆れてた。周りが「大変だよ」って言ってるのに、彼は描くんだよね。

今石 ええ。そうなってきた時の、すしおのパワーは計り知れないですよ(笑)。このスケジュールでよくこれだけ描いたよな、というぐらい、ノッてくると止まらない。そのエネルギーを有効利用しようと常々思ってたので、そういう意味で15話はなかなか巧くいけたんじゃないですかね。

── ロージェノムの頭が燃えてるビジュアルは、『フリクリ』最終話に出てきたイメージシーンの海賊王と重ねているんですか?

今石 ああー! たまたまですね(笑)。別に合わせようとはしてないですよ。

── あの頭の炎は何なんですか?

今石 あれは螺旋力が吹き出して漏れてるんです。企画の初期の頃から、「螺旋病」というネタをずっと考えていて。螺旋力が強まり過ぎると、螺旋病になって死んでしまう。でもその進化を止めてはいけない、みたいな設定を考えていたんです。

── それでロージェノムは螺旋力を出さないように、ダラーッとした生活をしてたんですね。

今石 そうです。燃えちゃうと螺旋力が高まりすぎて、螺旋病になる。頭から出てるエネルギーがクルクルしてるのは、螺旋病が進行してるから。最初はカミナも螺旋病で死ぬ話にしよう、とか言ってたんですよ。たとえばピッと(皮膚を)切って血が出ると、その血がシューッと螺旋を描くとか(笑)。髪の毛がだんだんカールし始めて、気がつくと胸毛までクルクルしてる。「ああ、俺は螺旋病なんだ!」みたいな。

── 赤塚不二夫のギャグマンガみたいですね(笑)。

今石 さすがにそれは不真面目だからやめようという話になりました(笑)。でも、中島さんとは相当盛り上がったんですよ。頭の炎もその名残ですね。だから、ロージェノムが服を脱ぐと、最初は普通の胸毛なんだけど、力が高まってくるとだんだん螺旋状の毛になっていく。ホントは毛もクルクル回ってほしかったんだけど、それも笑っちゃうからやめよう、と。

── DVDの6巻には、15話の制作途中映像が特典として入ってますよね。スタッフのオーディオコメンタリーつきで。

今石 コメンタリーでも、すしおが暴走してて面白いですよ。あのロージェノムの画は、線撮りでも笑えますから。真っ黒で(笑)。

大塚 より真っ黒だよね。僕は、今石君が足した部分のコンテ撮映像を観てほしい。あれは衝撃だから(笑)。

今石 あそこは、僕が15話でいちばんこだわってたところですね。何度も話してるけど。

大塚 完全に今石君が足したところだものね。

── 終盤のロージェノムとラガンのドツキ合いのところですか。

今石 うん。やっぱりドラマがない分、画力で盛り上げようとしていくと、だんだんネタが尽きてくるんですよ。そうなるともう、最後はガンメンを降りて生身で殴り合うぐらいの事をしないと、これ以上はエスカレートできないぞ、って。

大塚 あそこのコンテを描いてる時に、今石君にちょっと相談していたら、いきなり「えっ、生身で戦うんですか!?」みたいな事を言い出して。

今石 そこで僕、スゲエときめいちゃったんですよね(笑)。「これ、生身で戦うって事ですよね!?」とかって、急に惹き込まれた。

大塚 別にそんなつもりじゃなかったんだけど……。で、結局それは描かずに出したら、あとでやっぱり今石君が足してきた(笑)。

今石 エヘヘ。中島さんも、生身で戦っちゃうという展開には、あんまり乗り気じゃなかったんですよね。

── シナリオだと、どうなっていたんですか?

大塚 後半は、コンテの段階で大分変えていたと思います。わりとあっさりしていたので、「もうちょっと最終回っぽくしよう」とは思ってました。それでコンテを出したら、監督チェックでさらに激しく変わっていた。生身で戦ってるよ……みたいな。

── あれは最後に足したんですね。

今石 ええ、最後の最後です。もうカット数オーバーで一杯いっぱいだというのに、足してました。でもやっぱり、あれがないと終われないから。

大塚 直す前のコンテでは、ラガンとラゼンガンのドリル同士がぶつかってるところが、最後の激突みたいな感じになってたんです。シモンがドリルを砕いて、そのままラゼンガンがバラバラになって倒れるというところに繋がってたんですけど、そしたら間に殴り合いが入ってきて。

今石 ドリルで貫かれたラゼンガンの上を、ロージェノムがトントントンって歩いてくるコンテを思いついた時に、「よし、これでイケる!」と思ったんですよ。あれをやったおかげでロージェノムのキャラクターを立たせる事ができた。14話までは、ただ座って「むー」とか言っているだけで、何もしていない人ですからね。それをここで無理矢理キャラづけして、一気に立たせた。僕の中では大満足でした。

大塚 あの今石君のコンテを最初に見た時の衝撃といったら(笑)。あのコンテは、ファンの人にも見てもらいたい。

今石 「せっかくここまで真面目にやってきたのに」っていう(笑)。僕のコンテの画は、ギャグアニメの画ですからね。そのまま描いたら笑っちゃうようなところは、もう吉成さん頼み。吉成フィルターでかっこよくしてもらおうと(笑)。

大塚 そうするしかない。吉成君以外、考えられない。

今石 特典映像は大体コンテ撮なので、僕のヘナチョコな画が入ってますよ。……あれ、ロージェノムがラゼンガンの上を歩くところは、線撮りじゃなかったっけ?

大塚 ああ、そうか。歩くところは原画が上がってたんだよね。(実際はレイアウト撮でした)

── 映像特典では、そのカットは吉成さんの原画になっているんですね。では、その今石さんのコンテは、またいずれかの機会に。

── 15話で、他に目立って活躍された方は?

今石 なんだかんだ言って、平松(禎史)さんの原画量が多いんですよね。

大塚 うん。平松さんがいなかったら終わってない。心が折れてしまったすしお君を救ったのは……。

今石 平松さんですね。あの最後のフォローは凄かった。

── 平松さんは終盤になってから参加されたんですか?

今石 いや、最初はニアがグレンラガンに乗り込んでから、ぐるっと回り込んでグレンラガンとテッペリンを映すカットをやってもらったんです。

大塚 あそこだけでも十分助かるんですけど。

今石 それが終わった後、後半で撒ききれなかったり、上がらなかったりしたカットを、平松さんがどんどん拾ってくれた。それこそ、ロージェノムとラガンが殴り合ってる前後のあたりですよ。最後、シモンが「それが俺のドリルだっ!」とか言ってコアドリルを突き刺して、ロージェノムが吹っ飛ぶところもそうです。あの真っ黒い顔のシモンは、まんま平松さんの画ですね(笑)。

── あれはすしおさんの画じゃないんですか?

今石 違います。

── でも他のところには、作監は入ってるんですよね。

今石 いやいや、入れてないんじゃないですか。

大塚 グレンラガンのところは入れてた。でも、キャラに関しては全然入れてないですよ。

── すしおさんの画に合わせて描いたんでしょうか。

今石 いや、そうでもないんじゃないかなあ。まんま平松さんの画だと思います。濃い平松さん。

大塚 8話で、カミナがシモンを殴るところとかもそうだよね。

今石 そうですね。あれも平松劇画。平松さん曰く、「時間を15年巻き戻して原画を描いた」と。『ミスター味っ子』ぐらいまで遡って。

── それじゃ20年前ですよ(笑)。

今石 うん、そのぐらい気持ちを巻き戻して描いてくれたみたいです。

── 23話でシモンがロシウをぶん殴るところも平松さんですよね。今回はわりと「殴りメーター」だったんですね。

今石 そこは、物語的に韻を踏んでいく結果になってしまったので、やっぱり担当アニメーターも韻を踏んでいかないと、という事です。平松さんには相当救われましたよ。ひたすら原画マンとして平松さんを使い続けるというのも、贅沢な話ですよね。

── 監督クラスの人なのに。

今石 ええ。まあ、最後はコンテも振っちゃったけど(26話)。でも、平松さんにも楽しんでもらっている様子だったので、よかったのではないかと思います。あと、15話は小竹が初演出ですね。演出助手的なものかと思ったら、意外としっかり演出してた。

大塚 うん。レイアウトを直す作業は、ほとんど小竹に任せてたかな。結構、細かいんだよね(笑)。

今石 結構、合わせとか気にしますしね。

大塚 うん。こっちがいつも大雑把にやってるところを、きっちりと。

今石 僕らは「なんとなくそう見えてればいいや」という気分でやってしまうんだけど(笑)。

── やはり、いちばんの立役者はすしおさんですか。

今石 そうですね。当初の予定どおり、すしお祭りを実行できたし。『トップ2』が『グレン』の前半に被ってたので、なかなか入り込めなかったんですけど、15話ぐらいで完全に馴染んできましたね。

大塚 やっぱり、肩入れできるキャラとしてロージェノムがいた、というのが大きかったんだろうね。

今石 「ロージェノムは俺だ」とか言ってましたから(笑)。

── どのあたりに共感してるんですか?

今石 アニメスタイルのイベントでも言ってたような気がするんですけど、最終回でロージェノムが「千年の倦怠に身を置いていた私が、ここまで来れた」みたいな事を言うじゃないですか。静観していた人間が仲間に入ってアツくなるという、その流れが自分と重なってる! とか言ってえらく興奮してましたよ。

真鍋(広報) オーディオコメンタリーの時も、そんな事を言ってましたね。自分が『トップ2』をやっていた頃、みんなは先に『グレン』をやっていて、ちょっと疎外感みたいなものを感じていたんだけど、8話でギガドリルブレイクを描いて、次に15話があって、ようやく作品にがっつり入り込む事ができた、と。

今石 あそこでやっと、すしおもグレン団に入れた(笑)。こっちはもう使う気満々だったので、「早く来い、早く来い」って思ってたんですけどね。

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●関連リンク
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