COLUMN

第26回 キャラクター造形の苦心

●2013年3月13日水曜日(951日目)

 この1日前にV編がすんで、明日はわれわれが作った『花は咲く』がお披露目となるというこの日、『この世界の片隅に』のスチール画のセル(といってもデジタルデータ上のものなのだけど)に色を塗っていた。ちょっとした企画営業上の要望から、完成した画面の見本を見せてほしい、と某所からいわれていたことに応じようというものだった。今回の映画でどんな画面を作ろうとしているのかそのイメージを知りたい、ということだったので、仕上げの手を煩わせずに、自分で色を作りつつ塗っていた。思えば『マイマイ新子と千年の魔法』の、あれはなんというのかな、ティザービジュアル? 東京国際アニメフェア2009のブースで初お披露目となった麦畑の中で草笛を吹く新子と貴伊子の絵も、セルの部分は自分で塗って作ったものだった。
 『マイマイ新子と千年の魔法』のときも原画は浦谷さんに描いてもらった上でキャラクターデザインの辻繁人さんに修正を入れてもらったのだけれど、こんどのも浦谷さんの原画を描いてもらって、その上から今回のキャラクターデザイナーである金子志津枝さんに、単なる修正にとどまらないブラッシュアップを施してもらっている。
 金子さんにはここ数ヶ月にわたってキャラクター作りに挑んでもらっていた。「こうの史代の絵」とは何なのか、どのようなものであるべきなのか。こちらからも、こうなんじゃないかとか、この辺のニュアンスを拾うとそれっぽいのじゃないか、と口を出しつつ、金子さんはこうのさんのマンガを睨みつけては、「これこそこうの史代」というものを普遍化して導き出す努力を重ねてくれていた。
 こうのさんが描く人物は、くねったポーズであることもあり、あえて棒立ちっぽいときもある。金子さんははじめは、ポーズをくねらせることにひたすら挑んでいたのだが、どうもそれは初期のこうのさんの絵柄の特徴であるように見え、円熟期ともいうべき『この世界の片隅に』ではもうちょっと違うのではないか、と指摘させてもらったりもした。
 頭身も困った。こうのさんの絵はマンガ表現としての自由度を最大限に持った上で描かれているので、場合場合によって、頭が大きく寸づまりだったり、すらっとしていたりする。映画表現はまた違ったものであるわけで、この辺をもう少し狭い範囲に追い込んでやる必要がある。
 今どき8頭身以上あるアニメキャラクターだってザラなのだが、まずは逆を行って4頭身くらいからはじめてみた。4頭身のすずさん、5頭身のすずさん。あいだをとって4.5等身のすずさん。さらにあいだをとって「4.75等身くらいですかねえ」と微妙な話になっていった。
 さらに金子さんは、こうのさんのマンガがある時期以降、黒い髪の毛の部分でもブラックでベタ塗りせずに、埋め尽くすように細かい線のタッチで表されていることに目を注いだ。細かい線のタッチがたくさん入っているのが「こうの史代らしさ」なのだということは金子さんの主張だ。こういう部分を発見できるかどうかが、このような場合のアニメーション側スタッフのクリエイティビティだと思う。
 さて、共通したスタッフ編成で作りつつも、『花は咲く』は『この世界の片隅に』とは違う表現だと思っている。『花は咲く』は『この世界の片隅に』の完成見本でもなんでもなく、これはこれで独自の目的を持った作品なのだから。予備知識もなにもない全国の一般視聴者にあまねく観てもらわなければならないわけで、あまりクセをつけずにごくごく一般化した表現でゆくに限るように思う。なので、『花は咲く』では頭でっかち寸詰まりめでいってみた。この画面が上がってきたところで、『この世界の片隅に』の絵コンテをもう一度眺め直してみた。たしかに、これは別の内容をもつものだから、表現もちょっと違えてみたい。そうしたことを、色を塗りつつある『この世界の片隅に』のスチール画に少し反映させてみた。
 できあがった『この世界の片隅に』のスチールをそのままウェブ上にUPするのとかはまだ時期尚早なので、モニターに映したものを自分のスマホで撮ってTwitterで流してみた。幸か不幸か、自前のスマホはレンズのところがこすれて傷だらけなので、あまり細かいディテールが映し出せず、こんな感じでチラリ見せするにはちょうどよい。ということで、今回はこのコラムにスチールは載せないのだけど、いずれは、とも考えてもいる。
 おかげさまで、Twitterでスチールのチラ見せを見た方からは、期待を感じるという声をたくさんいただくことができた。

●2013年3月14日木曜日(952日目)

 NHK総合の20時からの特番で、われわれのアニメーション版『花は咲く』も披露してもらえる、と聞いてたのだが、なんと、自分自身は20時20分に寝落ちしてしまった。作品をはじめてひと目に晒すというのは、作り手からすれば結構な緊張感があるもので、できれば告知も何もせずにそっとしておいてほしい、という気分すら漂う。なんだかそういうものに負けて、睡魔のお世話になってしまったのかもしれない。
 夜中に目が覚めてTwitterをのぞいてみたら、放送ではどうもメイキング映像と、作品のごく一部しか流れなかったらしい。このへんは確認ミスのまま情報を垂れ流してしまったこちらの責任なので、ほんとうに申し訳ないことになってしまった。あらためてきちんと確認した放映スケジュールは、Twitterでも流したし、ここWEBアニメスタイルのAnime Newsにも載せていただいているので、そのあたりで確認していただけるとありがたい。ただ、やはり布団かぶって隠れていたい気は拭えない。
 しかし、『この世界の片隅に』スチールのことといい、『花は咲く』の放映スケジュールのことといい、失礼ながらこれまでこちらであまり名前を把握していなかった方々から多く声をいただいた。こうしたことで、震災復興支援プロジェクトの片隅で自分たちがなにか添えられるのだとしたらよいのだけれど。

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